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ヘイロイタイ

明日は新刊がいっぱい出るのでそれだけを楽しみにクリスマスイブを過ごしています。


 村までは2kmぐらいしかなさそうなので、のんびりと馬を歩ませた。

 アポロ神殿の旗のせいか、道行くヘイロイタイも挨拶してくれる。

 こちらも挨拶しながら村に向かって進んだ。

 「結局、この辺の人たちにとってはバルバロイよりクリプテイアの方が怖いってことだね」

 「確かに、そう見えますね」

 コリーダは近づいてくる人間すべてに警戒しているのをまるわかりにしていた。


 村に近づくと、村の中央の広場に人が集まっているのが見えた。

 誰か寝た人を中心にかけたり、さすったりしているようだ。


 「コリーダ!」

 「は」


 コリーダが馬を駆けさせ先行する。

 広場につき次第、デルフォイのアポロ神殿のものだ!という声が聞こえた。

 コリーダが旗を振って問題なしを示してきた。

 それを見て、俺も続いて馬を駆けさせる。


「ご主人様、けが人です。」


 到着した広場には、10才程度の女の子が右上腕に傷を負って倒れていた。

 傷は深く、骨まで達しているようだ。


 「コリーダ、薬箱!」

 「はい。」


 急ぎ薬箱を受け取ると、なかからオトギリ草で作った軟膏を取り出す。


「ちょっとしみるけど我慢して」

 少女にそう言い聞かせると、口に棒をかませと一気にワインで傷口を洗い、オトギリ草の軟膏で血止めする。

 布できつく締めた後は、マショラムとタラゴンで作った丸薬の鎮痛鎮静剤を飲ませる。

 (クエスト:重傷者の治療完了 専門知識(薬学)ランクDに昇格します。)


 「あとはゆっくり休めば大丈夫」

 まるでベテランの医者のようだが、内心はハラハラドキドキである。


 幸い、少女は薬が効いてきたのか、眠ってしまった。

 体を冷やしすぎないよう指示して家に帰した。


 「失礼ですがアポロの神官様でしょうか?」

 目の前に立ったのは四〇くらいの中年の男性である。

 「わたしはこの村の世話役のコイヌスと申します。村の娘のケガを治療していただき、誠にありがとうございます。」

そこで、目を伏せると声が湿り

 「しかしながらお礼するものがなにもありません。誠に申し訳ないのですが……」

 あわてて話にわってはいる。

 「いや、気にしないでください。アポロンは医術の神アスクレピオスの父でもあり、われわれも医術は修めています。勝手に治療しただけですのでお気遣いは無用です。」

 「しかし……」

「でしたら今夜、どこかの軒下をお借りできませんか。このまま野営もきついので。」

「そのようなことでしたら、もちろんどうぞ。私の家にお越しください。狭いですが歓迎いたします。」


 そのまま彼の家に案内された。

 彼の家は意外に広く、アテナイでの宿舎になった家屋ぐらいの大きさはあった。

 ただ壁の材料が日干し煉瓦だったが……

 屋根は麦わらと木の枝を組み合わせてあり、日本の茅葺の風情に似ていた。

 案外、落ち着くものである。


 壁は日干し煉瓦を積み上げただけだったので木の枝や竹を編み込み、刻んだ麦わらを混ぜた泥を表面に塗って固定することで強度と耐湿を上げる方法を教えた。

ようは左官の壁塗りである。

 コイヌスは驚いて聞いていたが……早速試してみましょうと前向きだった。


 夕食は我々の保存食料をだし、鍋を作り始めた。

 コイヌスも誘ったが、醤の匂いが苦手といって手を付けることはなかった。


 夕飯も済んで一息つくと、コイヌスにさっきの出来事を聞いた。


 「さっきの娘さんの容態はどうですか。」

 「おかげさまで安定してます。ありがとうございます。」

 「ところで、なんであんなケガを・・・」

 「決まってます!ドーリアの若造です!いつも老人子供を狙うのです……」

 「……臆病なのですか?」

 「いいえ、村人が反撃すれば大人でも殺されます。単に労働力を減らさないようにしているだけです。」


 やはり、予想通りの原因だった。


「あなた方はそれを我慢しているというわけですか。」


 「我慢もなにも、他にどうしろと……毎年にひとつはクリプテイアがどこかの村を滅ぼします。村のだれかが逃げた、あるいは単に気に食わなかったという理由で。」


 コイヌスは震える声で続けた。


 「なにをされても、目立たないように、静かに生きていくしかありません。さもなければ破滅です。」


 アポロの神官様もこのことは内密にと頼まれてしまった。


 その後、日常の様子をコイヌスに聞いてみた。

 信じられないが、やはり金属が与えられてない。それゆえ石造りの建物でないのだ。

 他にもいろいろ制約があった。

 

 その日寝藁に転がりながら、いろいろ考えてみた。

 ヘイロイタイの生活は悲惨だ。


 例えば、なぜフツウコムギが栽培されてないか……小麦の余剰を作らないように生産効率の低いものをわざと選んである。

 余剰ができると、わずかでも隠せ、やがて兵糧となって反乱のもとになると考えているのだ。

スパルタ小麦を選ぶのは、さらに脱穀に手間がかかり、より多くの時間農作業に引き留めるためだ。


 現状では種一粒に対し1.2~1.3倍程度の倍率の収穫だろう。

 それでも十分なのだ。生きるために、すべての時間を農作業に費やさせ、全小麦生産量の10%分をスパルタに持っていけばスパルタは十分なのである。

 重要なのはスパルタも搾取が目的でないことだ。

 スパルタも贅沢がないからそれ以上の欲求が生じない……


 メッセニアの現状は時々ヒツジをかみ殺す牧羊犬に世話されているヒツジの群れのようなものだ。

 このヒツジを救いたいが……現状では手がない。


 いずれヒツジがスタンピートを起こすだろうが、今年は起こさせるわけにはいかない。(史実ではBC464に第三次メッセニア戦役が10年にわたり繰り広げられ、イトメ山に籠城し勝ったヘイロイタイがナウパクトスに亡命する権利を勝ち取った。)

 なによりも、おそらく現時点では数万単位の犠牲がでて共倒れになるのが見えている。


 たださっきの話からすると目立つのを嫌いそうだ。

 指導層は深く潜航しているだろう。

 どうやって、その連中を見破って連れ出す1000人に入れるか。

 いろんな考えを浮かべては試し、また浮かべては試ししていた。


 背中側が突然暖かくなった。


 「ご主人さま、考え中?」

 「ああ、現状がひどすぎる。」

 「そうか……難しいことはわかんないけど……思うままに生きてね……背中は私が守るから。」

 「たのむ。」

 コリーダにそのまま後ろから、強く抱きしめられた。


 その温かさが心地よく、いつの間にか眠ってしまった。


=アーシアのスキル一覧表=

汎用知識(ギリシャ地域)

一般技能(鑑定)

一般技能(知識・メイド)

一般知識(公衆衛生)

専門技能(薬学)ランクD

専門技能(馬術)ランクD

特殊技能(尋問)ランクD

特殊技能(神学)ランクF

特殊技能(神聖文字)ランクF

特殊技能(法学)ランクF

特殊技能(料理)ランクD

特殊技能(詐欺)ランクD

特殊技能(弁論)ランクF

特殊技能(取引)ランクE

特殊技能(魔術)ランクB

特殊技能(演劇)ランクC

特殊技能(服飾)ランクD

特殊技能(知識・船舶)ランクE

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