テゲアの聖域
ここまで書いてようやくスパルタの風習の異常さが際立ってきました。
アーシア大丈夫かな?
テゲアのアテナの聖域はトリポリス南6kmにある遺跡ですが、当時はそこにポリスがあったと考えられます。湿地帯については現在では干拓で農地になっています。
ずっと繁栄している数少ない都市です。
戦場からテゲアに向かう途中、夕方近くになると、目についた村に向かった。
その村は家が5戸という小さな村だったが、無人だった。
あわただしく物を持ち出した形跡があり、スパルタ軍の接近に慌てて逃げだしたのが丸見えだった。
たぶんテゲアに逃げたのだろう。
「アーシア殿は、そちらの小屋をお使いください。我々は他の小屋を使います」
クレオンプロトス軍司令官が当たり前のように村の小屋を使う人間を割り振りしていた。
それ以外の人間は村の空き地や道にテントを作り始めている。
そして警備兵を交代で決め、村の周囲を巡回しているようだ。
現在この家にいるのは俺、レイチェル、ピュロス、コリーダ、ホルスの4人と1匹である。
サルピズマ50騎はサンチョが率いてコリントスに戻った。
コリントスではちょうどアポロ神殿が10年ほど前に大改築されており、敷地が大きかったので、軍馬は競馬用の馬として、デルフォイからの依頼で預かってもらっている。
サルピズマ自体は北航路が黒のスート、南航路が赤のスートの警備兵を担当してもらうことで、常備兵のように使うことができるようにしている。
緊急時には航路の目的地を変更して、兵員を海路移動することができるようにしてある。
こうなってみると、もう一人指揮官がほしいが、なかなか難しいだろう。
「レイチェル、軍の宿営っていつもこんな感じなの?」
民家の竈でコリーダが煮炊きをしている間に年長者の姫様に確認する。
「そうねぇ、ヘレネスの領域では半日も歩けば必ず村があるから、その村を拠点に泊まるわね。村なら水も近くにあるし困ることは少ないから」
「なるほど、ピュロスがすごいだけか。」
「私ですか? 何でしょうか、アーシア様?」
「いや、なんでもない。」
エピロス王ピュロス、カルタゴのハンニバルがアレクサンダー大王の次に優秀な指揮官としてあげた人物である。
宿営地の重要性を認識したという点で彼の上に評価された。
その話を聞いた時はそんなもんかと思ったが、確かに宿営地をしっかりしておかないと夜襲や兵糧の保管でも問題があるのを今、実感している。
ポリス間戦争では問題にもならなかったであろうが、彼はいつの野営で重要性を気づいたのかちょっと気になる。
というのも、宿営地をしっかりと作り上げる軍隊を作り上げたのが、彼の前はアレクサンダー大王であり、後はローマ共和国・帝国だったからだ。
まあ今から200年以上後の人物だ。そっちもいまはまだいない。
夕飯はほうとうになった。
なんでって、時間がなかったんで、乾燥野菜と干きのことレンズマメを味噌で煮込んで小麦粉の麵を入れるだけ……問題はカボチャだが……幸い乾燥野菜のストックにあった。
東南アジア原産でよかった。クレイステネスさんに大感謝です。
はー……トマト、ジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ、何とかならないかな?
さすがに造船技術までは……手が出ない。
中南米原産種は、知らなければ知らないで済むんだけど、知ってるから欲が出る。
ともあれほうとうをすすっていると……周りから不思議な臭いのせいか覗きこまれた。
皆が作っているのは上下関係なく、塩味の豚汁とパン。
あー!そうだった、スパルタだった。
あわてて、「神兵を使った時の食事です」といってごまかしたけど……明日からどうしよう。
一晩を部屋の中で過ごし……ホルスに起こされ……朝ごはんはパン&水オンリー
朝のパンは焼き立てなのでまだ柔らかいが……昼以降はビスケット並みに固くなりそうだ……
アポロン神殿風にワインを使うしかないが……贅沢品にひっかからないかな……
レイチェルに確認したら、共同会食で持ち寄りできる食品ならOKなのでワインは大丈夫とのこと。
普段がパン、ワイン、チーズ、イチジク、肉・魚の組み合わせらしい。
なるほど、昨日は戦場だったので豚、猪肉?のはいったスープを作っていただけか。
肉は狩りで手に入れたものは共同会食に出せばOKなので気を付けないと昨日のようなことになる。
注意しよう。
しかし、野菜という言葉がどこにも見当たらないが?
朝食後テゲアに向かって出発。出発の号令でみんな黙々と歩く。
……
……
一言もしゃべらない1000人の集団って不気味です。
こんなに無口なのかスパルタ人は!
4列で歩いているのでだいたい長さ200m位の集団だが……捕虜のところ以外は無駄口がない。
今、集団の真ん中にいるが大声で話しかければ先頭と話ができそうである。
おかげで横のレイチェル達に話しかけるのも遠慮気味になる。
テゲアが午後三時に見えてきたときには、ほっとした。
寡黙が美徳はわかるが……元営業に喋るな!は、結構きつい。
テゲアでは捕虜と交渉員のみが街に入り、その他は城壁の外に宿営し始めた。
俺はテゲアのアポロ神殿に訪問という形で街に入る。
交渉員はテゲアの長老と話し合い、捕虜の引き渡しと金銭の授受について打ち合わせている。
普段だと小麦や干しイチジクにしてスパルタに送るのだが、今回はあくまで俺個人の捕虜という形になっているため身代金での引き渡しになった。80人で160ムナ、16000ドラクマである。
送り先はコリントスのアリキポス商会にしてある……個人で国に喧嘩ふっかけたのか……よく考えると恐ろしい事態である。
まあ師匠ならまきこまれても平気であろう、と思うことにする。
ともあれテゲアに向かう。
テゲアは半径1kmの円に近い形の城壁を持つポリスである。
サノビストラス川とサランダポタモス河の三角州上にできたポリスだが標高は670m程度で周囲を1000m級の山々が囲んだ盆地状になっている。
西側には湿地帯が広がり、城壁に沿って川が堀のように流れるため街の防御力は高い。
ここは現在はスパルタと同盟関係にあるはずだが……アルゴスがどの程度入り込んだのか、少し不安である。
史実だとテゲアは、この後もスパルタと2世紀わたる同盟を行い、ローマ時代を通じてぺロポネソス半島随一の拠点になり、東ゴート族に対抗するため整備された都市になる……スパルタは忘れられるが……21世紀でもトリポリ(ギリシャ)になっている。
ともあれ、ここで有名なのは南西に位置するアテナの聖域である。
そこを目指し俺たち4人と1匹は歩いていた。
建築家スコバスによって再建される前なので荒れてはいるが、聖域と名の付く場所である。
「はー、なんかなー」
目の前に広がるのは緑の丘にところどころ白い大理石の建物、それのいくつかは崩れている。
今から約半世紀前にテゲアとスパルタは激しい攻防をした。
その際に戦略的に使われたのがこの聖域である。
ヘレネスで最も重い罪は神域で血を流すことである。
それは個人にとどまらず子孫にまで及ぶ罪で、クレイステネスさんのアルクメオン家は先祖がそれをやったということで、アテナイ一の富豪であれだけの功績をあげても「穢れた血」という汚名は消えない。
実際にこの聖域では両軍が危なくなると逃げ込むことが多く……戦争が長引く原因にもなっていた。
北;川+城壁、東;河+城壁、西;湿地帯ということで南が主戦場になり、負けそうになった軍勢が西に逃げ、聖域に逃げ込む。
その時に荒れた軍勢が八つ当たりで重要でない建物をぶっ壊す。
それが現在の風景である。
「デルフォイも気を付けないと」
史実ではデルフォイは静かに衰退して消えていたようだが……いろいろ掻き回しているので……なんとも自信がない。
「あーあったあった」
レイチェルが目的のものを発見したようで、崩れかかった石塀の一つを指し示す。
そこには年月ですり減り、ほとんど読めないような文字が、塀一面に彫られていた。
「これが?」
「そう、奴隷解放の証文」
=アーシアのスキル一覧表=
汎用知識(ギリシャ地域)
一般技能(鑑定)
一般技能(知識・メイド)
一般知識(公衆衛生)
専門技能(薬学)ランクE
専門技能(馬術)ランクD
特殊技能(尋問)ランクD
特殊技能(神学)ランクF
特殊技能(神聖文字)ランクF
特殊技能(法学)ランクF
特殊技能(料理)ランクD
特殊技能(詐欺)ランクE
特殊技能(弁論)ランクF
特殊技能(取引)ランクE
特殊技能(魔術)ランクB
特殊技能(演劇)ランクC
特殊技能(服飾)ランクD
特殊技能(知識・船舶)ランクE




