神兵吶喊
ようやくのスパルタン登場です。
史実ではこの人の子供がプラタウの戦いでペルシア軍を破る将軍になります。
でも、実際に予想してはいましたが・・・どうやってペルシア軍に勝ったんでしょう?
普通に考えて兵站や諸兵連合などペルシア軍の方が優れてるんですが・・・
12/20 兵制の資料発見、陣形を修正しました
戦場に向かう途中でのレイチェルからもらった情報を確認する。
戦闘の場所はテュレア地方、以前はアルゴスが領有していたが現在はスパルタが領有している。
スパルタの主力は全部で6師団あるが、そのうち3師団がアギス家のクレオメネス王に率いられてアイギナから撤退中である。
アイギナはアテナイと海を挟んだ島国であり、ここがペルシアに降伏したためアテナイからの制裁要請を受け、クレオメネス王が向かったが、エウリュポン家のデマラトス王の策謀でアイギナへの制裁はできなかった。
デマラトス王は対抗心からか、しばしばクレオメネス王の妨害をしていたので、この時もまたかと思うドーリア人は多かったが、今回ついにクレオメネス王の堪忍袋が切れた。
デマラトス王に婚約者を奪われたエウリュポン家のレオテュキダスを巻き込み、デマラトス王が先代の王の子供でないことを告発させ、現在審問中である。
(後に、この件は事実とされ、デマラトス王は廃嫡、レオテュキダスが王になる。その後デマラトスはペルシアに亡命することになる。)
その結果、正規軍は動かせず、予備軍とぺリオイコイの軍勢1000人がアルゴスの正規兵2000と対峙している状況が生まれた。
その戦場が見えてきた。
戦場というと一面に並ぶ兵士、無数に立つ旗、そしてハリネズミのような重装歩兵のファランクスが大地を埋めて行進するのを思い浮かべていたが……現実はまったく違った。
野原はそれなりの起伏があり、戦車の運用はできないであろう。
そこにスパルタ軍重装歩兵1師団と支援部隊がいた。
小学校の「前へならえ」を想像してほしい。
1縦隊が36人、4列×9人これが16組、これが1師団である。
1師団は定数で576人であるが今回は予備役なので定数を下回っているようだ。
500人ぐらい、それとぺリオイコイの歩兵が500人。これがヘレネスの雄スパルタの軍勢である。
対するアルゴスは重装歩兵が1000人支援の歩兵が1000人である。
アルゴスは縦隊を4×10人で組んでいるため、計25縦隊100列になる。
先頭は64人対100人……傷を負って戦闘不能になると、その場に伏せる。
味方が前進すれば救助され、敵が前進すれば捕虜になる。
捕虜は一人2ムナ(200ドラクマ)で解放される協定がペロポネソス半島ではあったので比較的死人は出にくい。
見たままの風景を言うと、幅60m長さ15mの「おしくらまんじゅう」にしか見えない……まあ槍は林立しているが……
もちろん生死のかかった戦闘ではあるが……アルゴスは同盟国の準備待ち、スパルタは予備兵とあって「決戦」という雰囲気まではいかないのである。
しかし、これでもヘレネスの戦いとしては段違いに大規模な戦争である。
通常は100から200が戦う紛争が普通なのである……それもポリスの生死をかけた決戦でだ。
「あー、サンチョ、どう思う?」
「呉だと将軍はいりませんな、千人長で十分蹴散らせるかと」
「だよねー。ところでサンチョは親衛隊みたいな話してたけど」
「ええ、百人長のあと親衛隊に移動しました」
「じゃあ、部隊は任せる。指揮にあわせてくれ」
「了解しました。殿」
そういうとにらみ合う二つの軍のアルゴス軍にとっては左側、スパルタ軍にとっては右側から俺とコリーダが騎馬で近づく。コリーダはいつものワイン色の長旗をまっすぐ、天に掲げている。さすがに両軍とも気が付いたらしく、いったん戦闘が中断する。
戦況はややアルゴス軍が前進気味といったところらしい。
俺は革で作ったメガホンを取り出すと、怒鳴りたてた。
「デルフォイ、アポロ神殿の神託を伝えに来た。巫女アーシアである。神託である。ヘレネスの諍いは終わりとし、直ちに東に備えよ。さすれば遠方よりくる暗雲は太陽によって払われることになろう」
それっぽい言葉はここまでくる間に考えていた。
その言葉を聞いてほっとした感じがしたのはスパルタの方である。逆にアルゴスは怒気が見えた。
「神託に従わなければ神罰がくだるぞ」
続く俺の言葉にアルゴス側に激しい動揺が起こった。
当たり前である、今まで神託に従わなければ神罰、などという概念はない。
神託はただの未来予知であり、どう行動しても、そうなる結果を言っているだけだったのだから……神罰をたてに強制するものではなかった。
「面白い。神罰ってやつをみせてもらおうか」
アルゴス側の方から野次が飛んできた。
そうだ、そうだーと同調する声が高くなってきた。
「愚かな……、そーれ しーんばーつ、てーきめーん!」
俺の声にあわせ、コリーダが旗をアルゴス軍の方に振り下ろした。
それと同時に、後方からサンチョを先頭に50騎の騎兵が駆けだした。
全員がサルピズマ(トランプ)の布をトランプの兵隊のように前後ろにかけ渡している。
そして服は乗馬に向いた胡服にしてある。筒袖の上着に裾を縛ったズボン……俺もあっちにすればよかった。
俺は巫女という関係上キトンのままだが乗馬はきつい……尻が痛い……またずれが起きそう。
「アポロの息吹」
俺は瞬く間にアルゴス軍に近づいたサルピズマに指示をだす。
その声に従いアルゴス軍に10個のテラコッタの壺が投げつけられる。
壺はファランクスの中に落ち着火、爆発、延焼する。
壺の中身は導火線・グリークファイヤー・豚の膀胱に水を入れたもの、同じく膀胱に生石灰を入れたものが入っている。
落下の衝撃で生石灰と水が混合し高音の水蒸気が発生、一面にグリークファイヤーをばらまく仕掛けだ。
グリークファイヤーは、硫黄と松脂替わりのタールをデルフォイから持ってきて、硝石を加えると簡単に作れることがわかった。
「神兵サルピズマ!吶喊」
メガホンで指示を出す。
その指示に合わせサンチョが吠えたてる。騎馬兵が矛を振り回し突っ込んでいく。
本来ファランクスは盾が左側にある関係上、左側の防御力が強く、右側が薄い。
よって右から攻略していくのが基本である。
支援兵も右側に厚く布陣するのが一般的だ。
今回はわざと防御力の高い左側から襲わせた。
神兵の恐怖を打ち込むためである。
グリークファイヤーで混乱し陣形を崩した軍勢、その上に初見の長武器の騎兵である。
予想通りたやすく突破できた。このまま後ろに抜け、再突入して右側へ突進、打通、そこで支援部隊を連弩で蹴散らして再度右から左へ……
「殿、帰還しました」
「ご苦労、サンチョ」
「なるべく殺さないように矛の平でぶったたいたのですが……」
「まあ、仕方ない。こっちに犠牲が出ない方が優先だ」
すべて終わるまで15分もかかってないだろう。
呆然とするスパルタ兵、戦場に残ったアルゴス兵は地面に倒れた100ほど、そのほかの兵は逃げ散った。
「スパルタ軍の指揮官は誰だ?」
メガホンで尋ねる。
「アナクサンドリデス王が末子クレオンプロトスです」
40才前と思われる軍司令官が返答してきた。
アギス家の王族か、これは好都合。
「アポロの巫女アーシアである。メソアのプトレキスの子ビオスでもある。スパルタまで案内願いたい」
「これは、これは……アーシア殿、噂には聞いていました。神託をなさるスパルタンとは喜ばしい限りです」
スパルタ兵は生き残った敵兵を捕虜にして移動の準備を始めた。
ここからだと、テゲアまで2日、そこからスパルタまで4日というところか、捕虜と一緒にテゲアに入れば脅しにもなるだろう。
あとは残った課題は、奴隷の説得か。うまくいけばいいが……
=アーシアのスキル一覧表=
汎用知識(ギリシャ地域)
一般技能(鑑定)
一般技能(知識・メイド)
一般知識(公衆衛生)
専門技能(薬学)ランクE
専門技能(馬術)ランクD
特殊技能(尋問)ランクD
特殊技能(神学)ランクF
特殊技能(神聖文字)ランクF
特殊技能(法学)ランクF
特殊技能(料理)ランクD
特殊技能(詐欺)ランクE
特殊技能(弁論)ランクF
特殊技能(取引)ランクE
特殊技能(魔術)ランクB
特殊技能(演劇)ランクC
特殊技能(服飾)ランクD
特殊技能(知識・船舶)ランクE




