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北方航路(復路)

まず、墨子の説明から、墨子は春秋戦国時代に成立した戦闘的平和主義者とでもいうべき特異集団です。教義は兼愛非攻、侵略戦争を全否定しており防衛する側に対してのみ援軍を出すという行動をとっています。この援軍は兵というより指揮官、工兵、兵器製造の技術者、築城技師などで構成されていました。

この墨子の作った武器がどう見てもオーバースペックで、なんでこの時代に?っていうものが結構含まれています。

かなり前に墨攻という小説・漫画がありましたが・・・その背景に中華統一にかかわる方針転換が述べられていました。実際、中華統一後は墨子集団は溶けさって消えています。謎の一つです。

アーシアは気づいてないですが墨子はBC450の生まれなので当初から約1世紀後の武器を設計してます。

 一夜明けると、そのまま乗客と荷物を募集してコリントスへの帰路を準備する。

 募集期間は3日間、その間にデルフォイでできる用事を済ます。


 主な作業はコリントスに戻ってからになるので、その間に神殿の新しい料理人モーフィアスに料理の手ほどきをする。

 これで北航路に引き抜いてきたコック3名との共同作業でコース料理は出せるようになる。

 こうしてみると料理ができる人材が20名近くになっているし、いつレシピが流出してもおかしくない状況なのか……馬60頭なら妥当なのかも。

 そんなことを考えながらコース料理の料理本レシピを準備していた。


 合間に姫様の服と自分の服をシュッシュッ・チクチクと作り、縫っていた。

 (クエスト:アクセサリー作成終了・・・特殊技能(服飾)ランクDに昇格します。)


 港から荷物が来て、巫女長に羊皮紙代を渡すと驚かれた。まあそうだよな。

 開店前に資金調達が終わったようなものだから、あれ、だとすると、なんでアルゴスが鉄貨のこと知ってるんだ?

 まさか南航路……いやそれにしても準備が早すぎる。

 最低でも俺がデルフォイを出る時期には知っていないと計算が合わない。

 本当に鉄貨が原因なのか?


 「アーシアよくやってくれました。これで写本の方は心置きなく進められます」

 「それですが・・・アレティア様。なぜアルゴスの開戦の理由が鉄貨だとわかったんですか?まだ流通量はデルフォイでも、ごく僅かのはずですが?」

 「そこはデルフォイの神託所ですから、各国の情報は定期的に上がってきますし、協力者にも事欠きません。それらの情報を精査した結果、鉄貨を口実に開戦準備がされているのがわかりました。」

 「……もしかして開戦時期が先に決まっていた可能性は?」

 「ありますが……それでも時期が早めたのは間違いありません。鉄貨がなければ早くても再来年の開戦だったと思います」

 「……それって……」


 まずいかもしれない。


 BC490になれば、アテナイ、コリントスの介入も踏まえ大規模な戦闘はないのだろうが、今年中に闘いがあるとどうなるか予想ができない。

 いや史実でも実はあった動きなのかもしれないが、BC491はスパルタ王がクーデターで変えられるはずだし、そのときアルゴスはまだ中立を表明していたはず……まずい……歴史が変わってる可能性がある。


 「どうしました、アーシア?」

 「いえ、今回スパルタが勝った方がいいのでしょうか?」


 その質問を聞いて巫女長は難しい顔で考え込んだ。


 「難しい話ですね。ただいえるのは負ければスパルタは第3次メッセニア戦役に入ると思います」

 「メッセニア戦役?」

 「ヘイロイタイの反乱です。」

 「ああ今まで2回あったんですね。」

 「今回はアルゴスが扇動してますから、スパルタが余力がなくなればすぐに反乱がおきます。そうなると前回同様10年以上は鎮圧にかかるでしょう。場合によってはスパルタそのものが滅亡……」


 それはまずい……ペロポネソス戦争やら、まだまだ歴史上残ってもらわないと……


 「わかりました。スパルタを勝たせましょう」

 我ながら大風呂敷を広げてるなぁとは思うが、巫女長からは感謝の言葉をもらった。


 コリントスへの帰路でいろいろ想い悩むことになった。

 それはどこまで自分がかかわっていいのかという問題だ。

 今更とは思うが、自分からヘレネスへの影響力がここまであるとは思ってなかった。

 歴史が変わっていく。

 これはもう怖いとしか言いようがない。

 知ってる世界が未知の世界に変わるといってもいい。

 予想ができない……いや今までも、予想なんかできなかったが。

 そもそも魔術なんて存在するとは思ってなかったし……あれ、何でここにいるんだ?っていう今まで目を逸らしてきた根本部分を考え込むことはめになった。


 そんな状況でも雲雀コーリデアス号は順調に出港できた。当たり前だが……

 この船には船長室のほかに個人用の私室がある。

 4畳半ほどの大きさの部屋には一緒に美少女3人が乗っていた。

 一人はストロベリーブロンドのビクトリアンメイドのハウスキーパー服。

 一人はプラチナブロンド、白の長袖に白の手袋、白い鍔広帽は壁にかけてある。

 そして室内でも薄い色をしたサングラスをかけている。

 (レンズは琥珀を削り出した薄い板、外用は色が濃い)

 最後の一人は黒髪にキトンなのだが、動きやすくするため腿までスリットが入っており一見チャイナドレスに見える。

 部屋の主は着流しである。時代を考えると異様であるが……もう開き直った。


 「木材の発注はおわったわ。次は鉄?」

 「レイチェル、まず大工と鍛冶を10人づつ手配してくれ。」

 「了解ね。コリントス出身でいい?」

 「ああ、アルゴス以外ならどこでも」

 「アーシア様、現在の収支状況です。」

 「了解、あと1タラントンは回せるな。ピュロスは資材の発注状況を表にしてくれ」

 「夕飯準備、行ってくるねー、ご主人様」

 「コリーダ、今日は警備たのむ、誰も近づかないようみはってて」

 「アーシア、大工8人鍛冶5人手配できたがそれ以上は時間かかりそう。奴隷でもいい?」


 =ミャー=

 ホルスが食事を要求してきた。


 美少女に囲まれている……しかし……色気ゼロである。


 いやドタバタしてるのは精神上楽であるから気にはならない。


 レイチェルはすでに一緒にきてよかったと思わせてくれている。

 いろんなポリスにアレティアがいるらしい。

 コリントスにもいるそうだ。

 ただ反スパルタの強いポリスにはいないということでアルゴスにもいない……残念。

 そのアレティア達を通じて物資をコリントスのアリキポス商会に集めている。

 すでにコリントス郊外に作業所を入手してあり、そこで色々なものを作ることになる。


 「イオニア号はどうなってる、ピュロス?」

 「アルゴスまでの往復と考えると、おそらく我々がついてから4日以内にコリントスに着くと思います」

 「じゃあ、そこでクラブ、ダイヤ隊と合流だな。警備兵の代わりを用意しないと。」

 「アーシア、コリントスの市民でよければ20名出せるわよ」

 「レイチェル、信用できる人物ならそれでお願い。」

 「OK、それにしても……アーシア、コリントスの市民権、押し付けられそうね。」


 そういえばそうである。これだけ資産をコリントスに集中すると……たぶん……要請という名の強制が来そうである。

 それはあとで考えよう。


 状況確認をひとまず終える頃には夜中になっていた。

 3人には眠ってもらい、俺は羊皮紙に図面を引いていた。

 なるべく問題がないようになるべく現時点である武器をベースに使っている。

 ただ中華にある武器なのが問題かもしれないが、サンチョもいるしギリセーフだろう。


 しかし書きながら中華の技術力のすごさには驚かされる。

 墨子って何者だ?完全にオーバースペックな武器作ってるよな。

 墨子集団と手を結んだことで秦が中華統一を果たしたって説があるけど頷ける。


 「アーシア様、まだ眠らないのですか?」

 「ああ、もう少し進めておく。ピュロスは寝ておけ。」

 「そうは言われても、主より先に寝るのは……」


 それもそうか・・・まあ眠くなったら寝ればいいか。


 「わかった。だが無理せず眠くなったら眠るんだぞ」


 「はい」

 

 そういうと図面を覗き込んできた。

 「アーシア様、これは……何ですか?」


 今書いていたのは連弩である。

 信じられないが、すでに複数の箭を装填し発射するクロスボウがこの時代にはあった。

 「連弩というやつで複数の矢を同時に放つ武器だ」

 「えーと・・想像できないんですが」

 「まあ実物ができればわかるから」

 「こっちは何でしょう?」

 「槍の代わりみたいなものだな。呉鉤という曲刀に柄をつけて長くしてみた」

 青龍偃月刀の簡略版みたいなものだ。

 「なんでそのような物を?」

 「ああ、これらは馬の上から使うのが前提の武器なんだよ」


 この時代、欧州では騎馬専用の武器というのは恐ろしく少ない。

 それはあぶみがないため騎乗で踏ん張るということができないためだ。

 では、どのような攻撃をしたのか・・・簡単である。馬でぶつかる、蹄にかけるである。


 日本人にわかりやすいイメージなら、軽トラックの集団が時速30~40kmで突っ込んでくると思えばいい。これでも充分に怖い。もっとも所詮は軽トラ、動けなくなったら最後である。

 味方の死体、武器、なんでもいいので足止めさせてしまえば歩兵の勝ちである。

 しかしそこに武器が加わるとどうなるのか・・・軽トラに機関銃を一門でも乗せるとテクニカルとはいえ軍用車両である・・・一気に対応が難しくなる。


 武器それを扱えるのがあぶみの利点である。

 戦車で言えば砲塔みたいなものだ、実に重要なパーツなのである。



 「私も戦うのでしょうか?」

 「コリーダは戦うだろうがな。ピュロスは考えてない」

 「……私も戦いたいです……」


 え?それは予想外というか予定に入っていない。


 「まて、ピュロスは室内向けなのだろう。戦場は無理だ。」

 「確かに武器は使えませんが……我々奴隷の真価は負けた時にあります。」


 負けた時?


 「戦場で負けた時に、主人を逃がすために我々を犠牲にできます。私たち女奴隷なら主人と別方向に逃げることで、兵たちに凌辱されている間は、アーシア様を少しでも遠くに逃がすことができます。」


 ……


 「アーシア様を生き延びさせる。それが私の戦いです。」


 その言葉は俺から思慮リミッターを外す効果があったのに彼女は気付いたろうか?


 思わずピュロスを抱き寄せるとくちづけしていた。


 「……アーシア様。」


 「ピュロス、そんな悲しいことを言うな。」


 「でも……」


 「予言の巫女を信じろ。負けることはない!」


 「……はい」


 顔をふせ静かに震えるピュロスをみて、とてつもなく愛おしく思った。


 図面を見直し、削る取る。

 書き直しを始めた……絶対に負けられない約束ができた、時代・影響そんなものはクソくらえ。

 目の前の女を不幸にしないためにも持ってるものは全部放り込む。


 今、時代を変える覚悟をした。

=アーシアのスキル一覧表=

汎用知識(ギリシャ地域)

一般技能(鑑定)

一般技能(知識・メイド)

一般知識(公衆衛生)

専門技能(薬学)ランクE

特殊技能(尋問)ランクD

特殊技能(神学)ランクF

特殊技能(神聖文字)ランクF

特殊技能(法学)ランクF

特殊技能(料理)ランクD

特殊技能(詐欺)ランクE

特殊技能(弁論)ランクF

特殊技能(取引)ランクE

特殊技能(魔術)ランクB

特殊技能(乗馬)ランクD

特殊技能(演劇)ランクC

特殊技能(服飾)ランクD

特殊技能(知識・船舶)ランクE

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