コリントスにて
第3部スパルタ編、開始です。もっともスパルタ到着まであと2ー3話かかります。スパルタファンの皆さまお待たせしてすいません。
この第3部をもってアーシアの改革がいったん終了します。
まあギリシャ国内編終了ですね。
その後計画しているマケドニア編、リヴィア編、ローマ編は対外遠征の強い戦記物風になる予定です。改題するか別小説にするかはまだ決めてないんですけど
ではよろしくお願いします。
現在地ははコリントスである。
エストニアから一旦アテナイへ戻り、そしてメガラ、コリントスと乗客を入れ替えながら(中にはこの間連続で乗っている豪気な人もいたが)順調に進んできた船旅も、少々の課題とコリントス=デルフォイ直通船の改装のため首脳陣はここで下船し、イオニア号はアルゴスに向けて船出した。
「ここと、ここの部分を倉庫にしてあるのは?」
「その部分はどうやってもロープを入れないと強度が持たないので、客室には無理です」
船の構造を見ながら質問すると、コリントスの船大工が答えてくれる。
この頃のガレー船は竜骨に近い形状の芯材を元に板を張っていくのだが、板の強度を維持させるのに内部にロープを張り渡してその張力で外板を持たせる方法をとっていた。
イオニア号と違い中古の二層櫂船「雲雀号」は軍船として作られたので基本設計から強度を最重視で作られているため容積が小さかった。
「なんかスペースがもったいないな」
「なにかいいお考えがありますか?」
「ちょっと明日まで待ってくれ。考えてみる」
そういって、造船所を離れる。
「ご主人様、次はどこに向かいますか?」
「いったん神殿に戻ろう。ピュロスも苦労しているはずだしな」
それを聞くとコリーダは背後に下がり、護衛の定位置に戻った。
今回コリントスにきているのはアーシア、ピュロス、コリーダの3人とフタリ(スペード)、カルディア(ハート)隊の26人である。イオニア号はサンチョに率いられてクラブ・ダイヤ隊とアルゴスに向かった。
アルゴスにはペルシアを巡って少々きな臭いうわさが流れておる。
それが元で近々スパルタと小競り合いが起こりそうだということから、念のためサンチョに率いてもらった。
食堂はドロンが店長代理でやってくれているので問題ないだろう。
コリントスに残ったグループは雲雀号の試航海を兼ねてデルフォイに行くことになっている。
そこで、「諸世紀」の製本費用を渡し、今後の方針を相談する予定だ。
専用船自体はほぼ仕上がっているが、今は北風が強いので、風が収まり次第の出港予定にしている。
その間に手が入れられそうな部分はいれておこうと、船大工と相談していたわけだ。
アポロン神殿ではピュロスがデルフォイやアテナイ経由で送られてきた各地からの書類を分類処理していた。
「ピュロス、どうだい?」
「アーシア様、ほぼ終わりましたが……やはり専門の書記官がほしいです。……私だと各ポリスの法律が不安です」
「まあ、法律は俺が確認するから、この仕事に必要なのは信頼でき書類を扱える人物だ。君以上の適任者はいない」
「はい、ありがとうございます」
そう言いながらもピュロスはコリーダを見つめている。
コリーダは目線をそらし明後日の方向をみている・・・
「コリーダをつけてほしいのか?」
「いえ、アーシア様に護衛は絶対に必要です。私が護衛できればいいのですが……」
それを聞いた俺はピュロスの紅髪をクシャリとなでる。
「ありがとう、感謝しているよ」
その瞬間にピュロスが顔を下に向ける……が耳が赤い。照れてるのか。
後ろからやや不満げな気配も感じるが、強くはない。ふむ、この件はコリーダの方に何か弱みがあるのか。
「ご主人様、警備兵の訓練を見てきます」
そういうとコリーダはそそくさと神殿の裏庭に向かった。
「とりあえず、書類を見せてくれ。」
まず渡された書類の内容はアテナイからはラーメン専門店「イナダ トゥ アポローナ」(アポロの髭)亭の進捗状況と音楽堂の建築進捗の報告書だった。
ラーメン専門店はもうすぐ開店である。
この航海で鍛えた料理人を3名ほどコリントスで降ろしたので、彼らが中心になって開店準備を行ってくれる。
店舗の場所はアゴラ南端のアポロ神への音楽堂すぐ横、予定通りだ。
これは製法が知られても、醤等の材料がクレイステネスさん経由でしか、手に入らないためしばらく放置しても問題ないだろう。
次は音楽堂の建設。
このひと月でようやく下水溝が作られただけである。
用地の掘り返し、溝の石での補強など予想以上に手間がかかったらしいが、無事エリダヌス川からイリソス川へ用水路ができた。
こっちにとっては、これで半分以上は終わったようなものだが、これから本番の音楽堂の建設が始まる。あと半年はかかるらしい。
「これは?」
「……ヘタイラのセゾンテトラコレスからの手紙です。……来年以降……アーシア様と契約を結べないか打診してきました。……条件は破格に安いです……」
「それだけ結んでほしいということかな?」
「はい、アーシア様とそういう関係になれるなら、ということだと思います」
「そういう関係?……ああそういうことか。」
「たぶん色恋のほかに、子供の顔立ちも期待してると思います」
「うーん、まあわかるけどね」
ヘタイラは奴隷ではないメトイコイである。よってアテナイ市民との結婚にも制約はない。
もちろん子供も奴隷ではない。父親がアテナイ市民である場合にはアテナイ市民権を有することができる。
(これが両親ともアテナイ市民でないとNGになるのは、ペリクレスの改革以降なので現状はOKである。)
しかしその場合は彼女たちはヘタイラから、内縁の妻もしくは正妻になり屋敷の奥で静かに暮らすことになる。それを嫌うヘタイラも多い。
その場合に頼りになるのは子供である。
ただし契約上避妊を定められることも多いため(ちょっと驚きだがすでに、この時代にも避妊は存在している。飲み薬やペッサリーの原型!が存在した。)
うまく契約を結ぶ必要はあったが……子供達の結婚先で老後を過ごすのは最高の成功者になる。……まあ、子供がそこまで裕福な家に嫁げるのは稀である。
「それで、子供の親権が向こうで書いてあるのか……」
「はい、アーシア様の美貌を受け継ぐ子供の場合、ほぼ間違いなく意のままに結婚できるでしょうから……娘でも息子でも……」
「……自分の子供は自分で育てたいがな……」
「え、そうなのですか?」
ピュロスが驚いている?
なんでだろ……ああ……スパルタは7歳で集団生活か……
「とりあえず、この件は検討だな。南航路に歌姫が有効なのは、今回のパンドラさんが証明してくれたし。」
「はい……わかりました。」
あああ、機嫌が悪い……えーと
「心配するな。さっきも言ったように俺は子供は自分で育てたい。その時には、まずお前たちに協力してもらう」
「はい」
一気に顔があかるくなる。
「次はデルフォイか」
手早く話を切り替える。
「デルフォイは巫女長様から至急で来訪要請がきています」
「その件は、ついたらすぐに向かえばいいだろう」
「あとはタロスの市場だけでなくアテナイ人の店でもラーメン限定でいいから出せないか、神官長から書簡が来ていますが?」
「考えておく」
「次は貿易収支ですが……」
そのあとしばらくピュロスと打ち合わせしていた。
その途中でコリーダが夕飯の準備をしてくれたので、夕飯にはピザ風パンが食べられた……この神殿の皆さんも一緒にだが……おかげで待遇がすこぶるいい。
翌日、船大工との打ち合わせで、空いている倉庫にハンモックと吊りベットの設置をすることにした。これならば手間もかからないし、乗客がいないときは倉庫に戻せる。
「アリキポス商会」
改修の待ち時間を利用して、輸送専門業を設立である。
南航路も含めこの商会で統一運用していく。
コリントスに本社を置くため建物を購入した。
アテナイよりは安く1500ドラクマで充分な店舗用建物を得られた。
ただ、おかげでコリントスの市民権を押し付けられそうになっている……どうしたもんか。
その二日後、風が落ち着きそうだという水先案内人の判断でデルフォイに向け出港した。
当面は南航路と違い輸送船に近い客船だが、意外に利用客が多い。
やはりデルフォイに気軽に行き来できるのは大きいようだ。
同時に貨物の輸送依頼も多かったのでほぼ満載である。
これで順調に商会も運営できそうである。
運営用の人材はクレイステネスさんが引き受けてくれた。
到着後は会頭として頑張ってもらう予定だ。
コリントスからデルフォイのイテア港までは、いったん真北に向かい対岸のレウクトラ付近を目指し、その後変針、陸を右手に見ながら西走、約100km、3日をかけての移動である。
貿易と違って、安全第一で動くので、やや時間はかかるが、第1回航海も無事に終わり、夕方にはイテア港が見えてきた。
さてデルフォイである。どこから手を付けるか……問題は山積している。
=アーシアのスキル一覧表=
汎用知識(ギリシャ地域)
一般技能(鑑定)
一般技能(知識・メイド)
一般知識(公衆衛生)
専門技能(薬学)ランクE
特殊技能(尋問)ランクD
特殊技能(神学)ランクF
特殊技能(神聖文字)ランクF
特殊技能(法学)ランクF
特殊技能(料理)ランクD
特殊技能(詐欺)ランクF
特殊技能(弁論)ランクF
特殊技能(取引)ランクE
特殊技能(魔術)ランクB
特殊技能(乗馬)ランクD
特殊技能(演劇)ランクD
特殊技能(服飾)ランクE
特殊技能(知識・船舶)ランクE




