一般市民
「名前ですか?」
「ええ、名前です」
いい笑顔でアレティナ巫女長が答える。
「アーシアが偽名だと?」
「ちょっと違いますね。本当は本当なのだけど使い慣れてないみたいな感じでしょうか?」
頬に手を添え小首をかしげる彼女は、不思議なことに可愛らしく見えた。
「普通、アーシアと呼ばれたときには無意識でも体が反応するはずなのに、その兆候が見られませんでした。」
びっくりした、そんなことよく見てるな。
「この神殿の人って、みんな、そんなに鋭いんですか!」
「まあ、こういう地位になりますと、それなりに。」
まったく目線を動かさず、こちらを見ている、いや観察しているのか。
「東山優馬、日本人です」
「ヒガシヤマユーマ ニホン人ですか。 なぜアーシアと?」
「それが私にもわからないのですが、東山優馬の漢字の説明をしてしまったところ・・・」
「カンジですか?」
「ああ、母国語です。アルファベットと違って意味を持つ表意文字……わかります?」
「表意文字?ああエジプトの神聖文字と同じですね。わかりました」
ヒエログリフって表意文字なんだ……知らなかった。
(ヒエログリフ認識・・・特殊技能(神聖文字)ランクF取得しました。)
「で、文字の説明で東の山の優れた馬と言ったら」
「その時点で、たしかにアーシア・オレステス・アリキポスと聞こえますね」
「ということです」
「なるほど」
すこし考え込んでいる。
何か決めたらしい。
「アーシア殿、お腹はすいてませんか?」
そういわれればもうすぐお昼か。確かに空腹感がある。
「そうですね。お腹がすきました」
「では準備させましょう」
そういうと天井から釣り下がった板を木槌で叩いた。
すぐに見事なストロベリーブロンドの女性が扉を開けて入ってきた。
俺のすぐ横のところで跪くと顔を伏せた。
「アレティナ様、ご用命を」
「今日の昼食ですがアーシア殿と一緒にとります。彼の分も準備しなさい」
「畏まりました」
そういうと、背中をみせないように後ずさりして部屋を出て行った。
初めて見る赤毛にちょっと興味をひかれたが、すぐに巫女長の質問が聞こえてきた。
「それではアーシア殿。あなたはどのような身分でしたか?」
「ただの一般市民ですよ」
ほんと学校出たばっかのサラリーマンだし。
「選挙権のある?」
「ええ24才ですので」
なんでそんなことを聞くんだろう?
たしかに選挙に行ったのは2回で、他は棄権だったけどさ。
しかしその答えを聞いた瞬間にアレティア巫女長は考え込んだ。
「むずかしいですね。たしかにあなたの振る舞いは成人市民そのものです。しかしスパルタのビオスは15才で未成年です。選挙権を持っていません。」
そうなのか。まあ大した問題とも思えないが。
「スパルタですか……厳しいですね」
え?スパルタだから厳しいの?
スパルタ式ああやばいかも……気がくるってるって判断されたら死刑とか……ありそう。うん否定できない。
「命が危ないのでしょうか?」
「え?」
真剣な俺の質問に、巫女長が気の抜けた返事を返してよこす。
「失礼。なぜそんなことを?」
「スパルタだと厳しいと」
納得したような感じで巫女長がうなずいた。
「神の依代を殺すことはドーリア人でもしませんよ。私が言っていたのは市民権です」
なんだ、そんなことか。
「市民権がないと選挙権が行使できないので親の従属物と判断されます。ただ、あなたの場合どうなるのかと」
ん?
「プトレキス殿が生殺与奪権をもっている状態なのか、どうかを考えていたのです」
(判例提示・・・特殊技能(法学)ランクF取得しました。)
うん、またなんかチカッとした。
あああ、それどこじゃない。
ここは古代ギリシャだとするとスパルタは圧倒的に父権が強い。死ねって言われたら本当に殺される。
それを逃れるには自分が市民であること……成人でないと人権がないんだった。
「アレティナ様、どうなりますか?」
「少し考えてみます。まあ、とりあえず昼食にしましょう」
でもいい人にぶつかったぽい、これでうらぎられたら泣くなー。
「天気もいいですし、外で食べますか。お腹が一杯になればなにか思いうかぶかもしれません」
なんか巫女長様、楽しんでません?気のせいかなー?
現時点のスキル
一般技能(ギリシャ語)
一般技能(地理、ギリシャ)
一般技能(鑑定)
特殊技能(尋問)ランクF
特殊技能(神学)ランクF
特殊技能(神聖文字)ランクF
特殊技能(法学)ランクF
ヒエログリフは書記官により同じ内容でも文字が異なるため特殊技能に分類しました。