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デルフォイ・テーベ貞操の危機

割り込みで手直し投稿です。

次回作の指ならしみたいな感じです。

 薬草園やら薬品庫から薬種を分けてもらうと、小包を作ってロバに背負わせた。

 デルフォイから行商をしながら、まずは途中のテーベに立ち寄り標準的なポリスを知る予定である。

 コリーダは非常に楽しそうではしゃいでいる。狩なら任せておけと言っていた。……ただ以前狩った内容がライオンとか言っていたが……ヨーロッパにライオンっていたっけ?

 ピュロスは静かについてきている。

 ときおり街道沿いに薬草やハーブなどを見つけては講義してくれる。

 そうするように頼んだからだが、コリーダに比べると態度が固い気がする。・・・というかコリーダの方が砕けすぎなのかもしれない。


 この辺はこの旅でおいおい判断していこう。


 「それにしても、みごとに何もないなー」

 デルフォイからテーベへ行く道は野原の中にある、ごくまれに道標のある幅1mほど草のない地面が目印だった。


 「陸路って聞いたとき轍の跡ぐらいは想像したんだがな」

 デルフォイを出て3日この辺になると、もはや民家もなく大自然の中を一本の道が通っているだけだ。

 「この道はまだ人通りが多いのでしっかりした道がついています。中小のポリスに向かうには獣道のような道を見極めてすすむ必要があるので、目的ポリス出身の道案内を雇うのが普通です。」

 ピュロスの講義が始まった。

 「この道は雨が降ればぬかるむので荷馬車は使えません。轍の跡がないのは当然です。荷物が多い時にはロバに積んで移動します。私たちのように」

 西欧史において荷馬車で行商するのは古代ローマ帝国に始まり古代ローマ帝国終焉と共にいったん途切れる。 舗装という概念がないと馬車は運用できない。その辺は日本史でも一緒である。


 でもこの3日ですれ違ったのは4組、すべて商人ではなくデルフォイへの巡礼だった。

 「商人を見ないんだけど・・・?」

 「商人は普通海路で行き来します。詰める量も速度も船の方が上なので、運賃が割り安になります」

 ああ、そういえば地中海では下駄代わりに小舟を使うという話を聞いたことがある。

 ギリシア人やフェニキア人ならそっちの方が自然か。


 それにしても道以外何もない。昨晩は野宿だったし、これから先3日ほど野宿の予定だ。

 人のいる村が安全とは限らないのが難点だ。


 巡礼の人たちが山のよう荷物を背負って歩いていたのも納得できる。


 午後に入り、道のわきに泉が湧いている場所を見つけた。

 周囲には焚火の燃え跡など夜営の痕跡が残っている。

 この水は大丈夫そうだ。

 ちょっと早いが今日はここで夜営することにして、テントを用意する。


 「ご主人様、ちょっと夕食の材料を集めてきます」

 そういうとコリーダは弓矢を手に森の方に飛び込んでいった。

 昨日も鳥と兎と野草を持ってきてくれた。

 今日は水場もあるのでミートパイを焼いてもいいだろう。

 そう思って小麦粉とラード、塩を出してラードをバター代わりにパイ生地を練り始める。

 ピュロスが代わろうと声をかけてきたが、パイ生地はパン生地とは練り方が違う。

 今回は見て勉強してもらい次回からということにした。

 ラードをつぶさないように小麦粉をまぶす感じで徐々にざっくりと丸めていく。

 あとは革袋に入れて泉で冷やす。

 冷やしている間にピュロスと一緒に薪を拾いに行く。

 森の奥に行くと折れている木や朽ちている木があるので、焚き付け用の枯葉や小枝も大量に集める。

 オーク、イチイ、楓といた木がメインで常緑樹はほとんど見当たらない。

 それと高さが低く20mを超える木はほとんど見当たらない。

 山の上の方に生えているダグラス松は90m以上ある物もあるとは聞いているが、わざわざ見に行くほどの物でもない。近くに行ったら覗いてみよう程度のものだ。

 燃料を集めたらかまどを作り、二人がかりで動かせる石を上において、かまどに火を熾す。

 パチパチいう音と焦げ臭いにおいがあたりを漂う頃には十分に石も熱せられて、パン釜代わりに使えるようになっている。


 ほどなくコリーダが戻ってきた。

 期待に違わず、兎を2羽抱えている。

 腰の袋からは大量の香草が顔を出している。

 ぱっと見、タイム、ローズマリー、ディルといったところか?

 めったに人が入ってこないせいで楽に採取できたそうだ。

 泉を使って兎をさばいて血抜きすると、タイムとタラゴンを刻んだ玉ねぎと一緒にお腹に入れ

 塩を全体にまぶしてから、パイ皮で包んで石焼にする。

 ほかに周辺から野蒜やコリアンダーが取れたので、ワインピネガーとオリーブオイル、塩でドレッシングを作り、サラダにする。

 ついでに兎の腸を使って内臓や血、タラゴン、セージ、野蒜を混ぜ合わせ、ソーセージを作ってみる・・・燻蒸は石で組み立てた窯に、砕いた朽木とどこにでもある月桂樹の葉を組み合わせてスモークした。

 これが、うまくいくようなら今回の旅で肉の手に入らない時でもおいしい食事が出せるようになるし獲物を捨てる部位が少なくなるので食糧事情も改善できる。

 うまく燻蒸が進みそうだったので、明日の朝まで燻すことにして、交代で休むことにする。

 夜間の見張りは二人が譲らないため、早めにテントに引っ込むことになる。

 二人の顔が緊張で怖かったのが気になった。


 その日の夜だった。

 森から狼が現れ、さらわれることになった。


 満月が中天に輝くころ、狼の遠吠えがやけに響いていた。

 テントの中のボクは念のため火を増やすように指示しようかと体を起こした時だった。

 外からキャーンという犬のような悲鳴が聞こえた。

 考えるまでもない、狼の襲撃だ。

 しまった!ソーセージの薫蒸臭のせいか!!


 「大丈夫か!」


 テントの外に飛び出そうとして、あわてて転がり出てしまった。

 外ではピュロスが弓を放ち、コリーダが次々と狼を切り付けていた。


 「彼女らはテントを背に戦っていたので、すぐボクに気が付いた」


 「ご主人様、中に」

 「アーシア様、中に」


 二人はテントに戻るように勧めるが、いったん見てしまうと中に入って見えなくなるのは余計に不安だ。


 あたりを獣臭い臭いと血の匂いが充満した。

 そんな中、すでに10匹以上に狼の死体が転がっていた。


 「満月ですので見つけやすくて楽です」

 弓を放ちながらピュロスが話かけてきた。

 余裕があるなと思った時だった。


 返事をしようとしたボクを誰かの手が塞いだ、小便のようなすえた臭いが鼻に潜り込んでくる。

 絶対風呂に入ってないと確信できる体臭だった。


 そのまま別の人物に足首をつかまれると、テントの裏側を通って運ばれていく。

 声を出そうとする前に無言でナイフを突きつけられた。


 「アーシア様、テントに戻られましたね」


 ピュロスが尋ねる声が聞こえる。

 そうじゃない、今さらわれてると言いたかったが、いえば命が終わる……


 当たり前だがパン屑も小石も持ってない。

 どうしようもないまま森に運びこまれていった。


 埃とすえた臭いのする袋を頭からかぶせられると、いよいよどこに進んでいるかわからなくなった。

 体に枝が当たり、ヒリヒリした感じがする。

 擦りむいたか切れたかは、わからないが剥き出しの腕は肩から手の平まで結構大変そうな状態になっているはずだ。

 頭の横からは弾むような息づかいで、

 「上玉、上玉」

 と呟いているのが聞こえる。

 上玉って……普通ピュロスやコリーダの方が上玉だと思うけど……違うみたいだ。

 10分も走ったろうか?

 「あー俺もうたまんねー」

 という声とともに地面に放り出された。

 「グフ!」

 受け身がとれないので、もろに食らった。

 息が詰まって動けない。 

 そんなボクのまわりから上機嫌な声が聞こえてくる。

 「俺、一ばーん」

 「いや俺だ!」

 「じゃあ上は譲るから下をもらうぞ」

 ……これって……

 「オリーブ油はあったよな。裂けると売るときに値が下がる。ちゃんと塗りこめよ」

 ……マジでやばい。掘られそうだ……

 「さーて綺麗なお顔を見せてもらうか」

 そういいながら頭の袋をはがされた。

 「ご開帳ー」

 袋の中で暗闇になれたボクの目は、満月の明かりに照らされた盗賊達の顔がはっきり見えた。

 全部で5人。

 野卑な顔で笑っている。

 「オーオーいい顔だな。これがやめてくださいって懇願するかと思うと」

 「いい声で鳴いてもらおうか。もっともお口も使わせてもらうがな」

 余りにひどい体臭に吸い込んだ瞬間むせてせき込む。

 咳こんだせいで目元に涙が浮かんでしまったのが嗜虐心を駆り立てたらしい。

 いきなりお尻にヌルリとしたものがかけられる。

 「よーく馴染ませてと」

 手早くお尻の割れ目にオイルが塗りこまれてる。

 逃げようとしたが、手足をそれぞれに押さえられ、うつ伏せのまま身動きもできない。

 「こいつ腰振ってるぜ」

 「初物じゃないんだろう」

 逃げようと蠢いた結果がますますやばいことになる。

 「じゃあ、俺からいくぜ」

 「なるべく早くしろよ。後がつかえてるんだからな」

 「はいはい。」

 男がボクの腰を手でガッシリと固定すると、のしかかってきた。

 尻の割れ目に温かい何かが挟まれたような感じがする。

 何かは想像したくもないが・・・

 「いくぞー」

 ボクは身をこわばらせ激痛に備えた。

 「ゲハァ!」

 のしかかっていた男が横に転げ落ちた。

 ?

 あわてて見ると喉に矢がつきたっている。

 「助かった・・・?」

 まだ手足は押さえつけられているが、今度はその一人の背中に矢が突き立つ。

 右足が自由になった。

 とりあえず左足を押さえている男を蹴りつける。

 すぐに反撃されて顔を殴られた。

 「ご主人サマー!」

 大声とともにコリーダが飛び込んできた。

 彼女のキトンは真っ赤に染まっている。

 そのまま、流れるような挙動で3人の盗賊の首が切りつけられる。

 吹き出した血がボクにぶっかかる。

 血って温かくて生臭いもんなんだ。

 妙に冷静になってしまい、体が洗いたくてたまらなかった。

 「ご主人様、申し訳ございません」

 コリーダが手を貸して立たせてくれた。

 「怖い思いをさせましたが、もう大丈夫です」

 そういいきるコリーダが妙に頼もしくて、ボクは縋って泣いていた。

 コリーダはボクを軽く抱きしめるとお姫様だっこで歩き始めた。

 恥ずかしかったが、誘拐されたせいで素足である。

 首に手を回すとコリーダはにっこりほほえんでくれた。

 すぐにピュロスも合流すると謝罪がはじまった。

 それは延々と続いたので、途中で「もういいよ」といって中断させなければならなかった。

 二人に守られて泉に戻ると。キトンを脱され水浴びさせられた。前後に同じく全裸になった二人がいて体を洗ってくれたのだが、今起きたことの衝撃と泉の水の冷たさのせいでボクのは縮みあがっていた。

 泉から上がるとちょっと離れた場所にテントを移動させた。

 すでに狼の血の臭いが染みついてしまったので、なにがくるかわからないとの話だった。

その原因を聞いたときに、もともとの原因を思い出してしまい凹んだ。

 「すっかり体が冷えてしまいましたね。」

 そういわれて二人に挟まれくっついて、暖めてもらったおかげで多少は落ち着いた。

 二人はボクを暖め終わると交代でテントの外で明け方まで見張りをしていた。

 ピリピリした怖い雰囲気をまとった彼女達はまるでアルテミスのように気高く美しかった。


 朝になり、盗賊達の死体を埋葬に向かった。

 手早く身につけていたものを剥ぎ取り素っ裸にした男達を

 掘った穴の中に埋めていく。

 布は高価であり、使わないなら神殿に寄付すればいいとの話だった。

 埋葬は野生動物に人間の味を覚えさせないための作業であり、冥府が云々ということはないようだった。


 それにしても、こういうことにも慣れていくのだろうか……

 時代が変わるということは別世界で暮らすのと差はない。

 美女より美少年が上玉とされる世界、かつての日本の常識は捨てないとここでは危険なだけだ。


 初めて強く日本に戻りたいと思い、いつのまにか涙が頬を濡らしていた。


 テーベについたときには軽い対人恐怖症をを起こしていたせいもあって、あまり目立つ記憶はない。

 せいぜいデルフォイと同じ規模のポリスだと感じだだけだ。

 宿泊もポリス内のアポロン神殿に泊まった。

 観光で市場ものぞいてないし名所・旧跡も訪れてない。

 印象に残っているのは宿泊した翌日南門からテーベを出た時だ。

 いきなり道が開けて明るく感じた。

 テーベからアテナイへの道路は街道沿いに村が目立つようになり、今までよりやや広くなった道で、一車線道路ぐらいの幅が有り比較的平坦でよく踏み固められていた。

 すれ違う人も多くなり、ロバに陶器を積んだ商人も見かけるようになった。

 「テーベをすぎたら急に人通りが多くなったんだけど?」

 ボクの疑問にピュロスが答えてくれた。

 「デルフォイからテーベは海路で直接いけますが、テーベからアテナイにはコリントス地峡を経由しないと行けません。このため陸路でのアテナイ直接貿易が残っています。」

挿絵(By みてみん)

 まあ、小規模な商人だけですが・・・と彼女は続けたが、確かにロバを2・3頭引き連れた規模の商人が多かった。

 彼らは得意先の確保や、こまめな対応で商売を続けているのだろう。ニッチ市場とか隙間産業というやつである。

 もう資本主義の論理が成立しかかっているのに驚かされたが、考えてみれば大市場のアテナイに向かっているのだから先端をいっていて当たり前といえば当たり前なのである。

 テーベをすぎて以降は道の近くに宿場というかキャンプ場のような施設も現れ、治安は格段に高くなっていた。

 おかげで野営の時も、他の商人と合同ということも起こり気は楽になっていた。

 意外だがコリーダは隊商の護衛を行ったことも有るらしくこのような時の礼儀とかルールに詳しかったおかげでよけいな摩擦を起こさずにすんだ。


 「明日はアテナイに入れます。」

 夜営の時にコリーダがそう教えてくれた。

 案外近いんだな、そう思ったが直線距離で50km程度しかないようである。


 都市国家の林立だと戦争が絶えない理由はよくわかった。

 アテナイもテーベも有力ポリスである。これが二日で行けるなら戦争を起こそうとすると、すぐに攻め込めるし兵站も問題ない。

 兵士が持っている分とロバの輸送で十分足りる。

 そして一旦起こった紛争の火種は延々と燃え続ける。

 オリンポス大祭の期間だけでも休戦したくなるわけだ。


 実際には古代ギリシア4大祭にはそれぞれ休戦期間があったから毎年休戦期間はあったわけだが・・・

 戦争をしなかった年の方が珍しいのでは?と思ってしまう。


 中小のポリスは大きなポリスが近くにないと成立しにくく、近すぎれば、いい餌になる。

 すごく難しい舵取りを迫られることになるのだろう。

 だからからかポリスは僭主(一代限りの王)が多い。

 王家になる前に断絶するせいもあるが、アテナイの直接民主政が例外的に感じるほどだ。

 貴族政でないのはポリスの大きさから、統治者=王で貴族と呼べるほど支配層が維持できないためであろう。

 そんなことを考えながら二日目も歩いていた。

 今日だけで二つの村で行商を行ったせいで昼近くなっているのにまだアテナイにはついていない。

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