凸版印刷
やっとあと2話で第1章終結です。
第2章はアテナイあきんど修行編になりますが、これが終わって、ようやく改革対象が見えてきます。彼が来た理由もわかるのですが・・・真面目にもう一本の小説の第4章とどっち優先するかで決めかねてます。
2本同時はあまりに内容が違うので無理っぽい・・・
とりあえずこっちの第1章書き終えた時の気分で決めます。
聖域に戻る途中で神殿に寄りタールを回収していく。
入れ物はそこにあった灯火の皿だ。芯も一緒に回収させてもらう。
「アーシア様、何をなさるのですか?」
俺の行動に興味津々のコリーダからの質問だ。
ピュロスは先に戻してその他の材料を用意してもらっている。
「粘土板のままだと重すぎるから、紙に写し取ろうと思ってね」
「kamiですか?」
おっと、まだ紙伝来の前か。
「パピルスのことだよ。」
それを聞いたコリーダに理解の表情が浮かぶ。
「そうですか。それは興味深いです」
しかし次の一言が俺を考え込ませた。
「しかしパピルスは高価ですよ。写し取りを粘土板にしたのも、そのせいだと聞いています」
え?パピルスが高価……
そういわれて見れば、最初からパピルスにうつしておけば こんな余計な手間はなかったはず。
パピルスの値段か……
頭に45cm×45cmの大きさのパピルスも相場が思い浮かぶ。これが大体5オボロス……6枚で5ドラクマということはミスを考えて1枚当たり平均1ドラクマ掛かるとして2000ドラクマ……2千万円か……高いよな……実家はスパルタだし……パピルスは持ってないよな。
これに訳したギリシャ語を書き込む分のパピルスがプラスアルファか。
困った。
日本では紙がありふれていたから、忘れてたが本来、紙って高級品だったんだ。
だから石板&石墨や木板&炭の組み合わせが一般的だったわけで。
和紙が豊富だった江戸でも、反故紙を大事に使っていたんだよなー。
まあ先のことはあとで考えよう。
とりあえず写し取りの技術を伝えて、書類にしてもらわないと解読も危ないし。
クニドスの館に専用室を作り、材料を用意してもらって実験開始。
助手はピュロスである。コリーダは部屋の前で警備している。
版画の要領でやると鏡文字になってしまうため、単純な版画の方法は考えていなかった。
最初は拓本の方法でとろうかと思ったのだが、パピルスの目が粗く、粘土板も素焼きで表面がざらついていたので、パピルスを上に置いてタンポで墨をたたく方法は出来なかった。(やりかたは魚拓と一緒)
結局、一番面倒くさくてやりたくない凸版印刷の応用になった。
まずタールに芯を刺し温めながら火を灯し、大量のススを発生させそれを皿の内側に受けて貯める。これに少量の亜麻仁油を入れ練り上げる。歯磨き粉くらいの固さになったらOK。
次に羊皮紙の表側にワインの澱を塗り、日にさらす……乾いたら塗りまた乾かす、これを艶が出るまでくりかえす。
ワインの澱にはタンニン、ポリフェノール、少量のたんぱく質が含まれており羊皮紙の耐水性や強度を向上してくれる。
その二つができたところで粘土板にオリーブオイルを薄く塗り染みこませ練墨を薄く付ける。
次に加工した羊皮紙を、その上に置いて、軽く押して、練墨を皮に写し取る。
写し取った皮の上にパピルスを置き上から刷毛で撫でてパピルスに練墨を移す。
移したパピルスを天日干しで乾くまで置いて置く。
こうすると拓本と同じように文字の部分が白く抜けた文書が出来上がるはず。
部屋から出るのはトイレのみ……食事も睡眠も専用室でぶっ通しやるぞー!と気合をいれる。
長期戦覚悟であった。……なぜか試行錯誤をしてたら、翌日には試作品ができていた?
我ながら不思議だ。
何があったんだろう?
(クエスト:魔法書の作成完了…特殊技術(魔術)ランクDに昇格します。)
出来上がった拓本を見ていて思った……この変な文書ってまるで寿限無みたいにも見える。
寿限無の名前はこうだ。
寿限無、寿限無
五劫の擦り切れ
海砂利水魚の
水行末 雲来末 風来末
食う寝る処に住む処
藪ら柑子の藪柑子
パイポパイポ パイポのシューリンガン
シューリンガンのグーリンダイ
グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの
長久命の長助
これの漢字部分だけを抜き出すと
寿限無寿限無五劫
擦切海砂利水魚水
行末雲来末風来末
食寝処住処藪柑子
藪柑子長久命長助
こんな感じで書いてあると思っていい。
これを万葉仮名みたいに音を当てて読むと「諸世紀」の詩になる。そんな感じである。
「ふーできた。」
まあ、内容の解析はあとにして、とりあえずできたものをアレティア巫女長に報告することにした。
「しかし、すごい技術ですね。」
手伝っていたピュロスが目を丸くしている。
「あとは慣れで時間は短縮できると思う。さっそくアレティア様に見せに行こう」
乾いたパピルスは予想よりも丈夫な感じで保存性も高そうであった。
アレティア巫女長は自室で執務中だった。
相変わらずの引き戸の前の掛け合いのあと、中に入ると開口一番。
「アレティア様、試作品ができました」
そういいながらパピルスの文書をアレティナ巫女長に見せた。
「我ながらいい出来だと思うのですが……」
そういって文書を手渡すと、彼女はじっくりと時間をかけて確認している。
ようやく納得いったのか、顔を上げるまでに5分はかかった。
「これは何枚でも作れるのですか?」
いきなり本質ついてきた・・・切れるな、アレティア巫女長。
「はい、何枚でも作れます」
その言葉を聞いた後の、彼女の言葉はちょっと意外だった。
「では1枚作ったら、その粘土板は砕いてください」
……?
「予言書を世間に流布するわけにもいきませんから。それに粘土板と違ってパピルスですと盗難の可能性が出ます。よけい数を作るわけにはいきません」
そういえばそうか……たしかに原本は円形劇場にあるしギリシャ語版と一組あれば十分か。
「でもこれで粘土板より隠しやすくなります。ありがとうございます」
でも、そういったあとの巫女長の一言がやっぱりという感じだった。
「問題はパピルス代をどこから調達するかですね……」
その後もやはりという感じで続いた。
「一番手早いのは、あなたの料理を売り出すことなのですが、ご協力いただけますか。」
もうわかってます……深入りしましたしね。
「わかりました」
その言葉を聞くと、アレティア巫女長は満足そうに頷いた。
「ともあれ、ご苦労様でした。今日はもう休みなさい」
とりあえず自室に戻って完成した文書を見ていると何かが引っかかる。
「なんか、万葉仮名でひっかかるんだよな?」
しばらく考えていて、どこから思いついたのか「柿本人麻呂の暗号」という単語が出てきた。
万葉集に柿本人麻呂が暗号を仕込んだ話で、まあ日本にいた時はフィクションだと判断していた。
「一旦、線文字Bを神聖文字に置き換えて……母音は名前を示すカルトーシュや意味を決定する決定詞に変えてみて……」
周りから見れば不気味だと思うがブツブツと呟きながらいろんなパターンを試していた。
ヒエログリフで重要な文字として決定詞がある。これはその後の文字が動詞か名詞かだけでなく読む方向まで指示する文字である。
ヒエログリフは下から上の読み方がないだけで上から下、左から右、右から左の例が全てある。
これは書記官の好みで変わるので決定詞を見つけないと文書が読めない。
数十通りを試した後すっと当てはまったパターンがあった。
第一章の序章部分
「夜、座り、秘密の研究をした。
ブロンズ製の回転椅子で、一人きりで安らぐとき
人気のない場所から、小さい炎が出現する。
根拠の無い、誰もが信じることが出来ない事を語り出す。 」
を文書にしたのだが、ヒエログリフにして上から下に読むと次の文書が出てきたのだ。
「上下ナイルの王イクナートンより次代の王たるトゥトアンクアテンに対しファラオの英知マギを伝え る。この力なくナイルの民を統べることはできない。」
「 よし!」
まさか決定詞にファラオが使われるとは思ってなかったので、時間はかかったが、なんとか当てはめた。
1000ピースのジグソーパズルが完成したみたいな達成感がある。
「……でなんだろ、この文?」
改めて見てみると不思議な文である。
イクナートンはエジプトの宗教革命で有名な新王国期のファラオだよな。その子供というと……ツタンカーメンのことか、ファラオの英知マギって、やっぱりあれだよな。
まさか某遊戯とか出てこないだろうな……千年藍手無とか……石板にそっくりだし全然シャレになってない……
=アーシアのスキル一覧表=
汎用知識(ギリシャ地域)
一般技能(鑑定)
一般知識(公衆衛生)
特殊技能(尋問)ランクD
特殊技能(神学)ランクF
特殊技能(神聖文字)ランクF
特殊技能(法学)ランクF
特殊技能(料理)ランクD
特殊技能(詐欺)ランクF
特殊技能(薬草学)ランクE
特殊技能(弁論)ランクF
特殊技能(取引)ランクE
特殊技能(魔術)ランクD




