アポロ神殿の巫女
動くたびに視線が突き刺さる。
なんかそんな感じの言葉がぴったりくる。
実際、立ち止まって辺りを見回すたびに、誰かがじっと俺を見てる。
そんなことが巫女長の部屋に行くまで5回はおきた。
そのうち4回は女性、1回は男性だった。
そんなに警戒されなきゃいけないのだろうか?
「どうか、なされましたか?」
先導する神官長が尋ねてくる。
「いや、自分がそんなに警戒されなきゃいけない存在なのかと思いまして」
「警戒ですか?」
「さっきから監視の視線が痛いです」
「ふむ?」
神官長が不可思議な感じであたりを見渡した。
そのあとすぐ笑いそうな声で続けた。
「考えすぎでは?」
「いえ、間違いなく見られています」
あれだけ堂々と見られていると間違いようがない。
なにしろ見つけられても、気にせずこっちを見ているのだから。
「あれは監視ではなく……単にあなたに見惚れているだけですよ」
「え?」
ちょっと思考が止まった。そういえば自分もそうだった。
外観が変わってたんだ。
東山ではなくアーシアの外観。たしかに見惚れてじっと見つめられてもおかしくない。
まてよ、だとすると、あの男性は……
いや深くは考えまい。きっと彼は神官長の安全を考えての監視だったんだ。そうに違いない。
うん、そう決めた。
「着きました」
神官長がドアの前で声を張り上げる。
「神官の束ねアイオス。巫女の束ねアレティナに面談をお願い申し上げます」
この口調からすると巫女長のの方が位は上っぽいな。
「はいりなさい」
落ち着いた感じのおばさんの声。
「許可が出た。アレティナ殿は今まで3回アポロの神託が降りられた、稀代の巫女だ。粗相のないように」
神官長が小声で俺に注意してくる。
うん、たぶんヒステリーになりやすい人なんだな。腫れ物に触る感じでいこう。
「わかりました」
その返答を聞くと神官長はドアを横に引いた。
=ズズズ=
「失礼します」
(引き戸なんだ)
考えてみれば蝶番がなければ押戸はできない。
(木のふすまみたい)
ここら辺が日本人である。あっさり受け入れることができる。
「スパルタのビオス、神がかりによりアーシア・オレステス・アリキポスを名乗ります。いまだビオスに戻らず、巫女長のご判断をいただきたく同行いたしました」
「アーシアですか?男性に見えますが?」
「男性です。しかしアーシアと自己申告がありました」
「そうですか」
目を細めこちらを見る中年女性。たぶん40歳くらいなんだと思う。
すごく高そうな髪飾りをつけている。
いくらくらいするんだろう。
(鑑定開始 一般技能(鑑定)取得しました。)
えーと5000ドラクマくらいか……!?いや5000万円くらいか。
ドラクマってなによ!もう消えた通貨じゃないか。今はユーロだよね。
まあ、なんとなく高いってわかる、値段までわかるってのは奇妙な気もするけど。
「アーシア殿こちらへ」
巫女長が俺をベンチへと招いた。
座った俺をじっと見ている。
見惚れているはなしでお願いします。
「変なところはありませんね。神懸かりの最中とも思えませんが?」
まあそうだよな。俺も外観以外は異常なしだと思う。
「あなたはアーシアなのですか、ビオスではなく?」
「はい、アレティナ巫女長様。ビオスの記憶はありません」
あれ、アーシアでもなくて東山ですっていえばよかったのかな?
「嘘は言ってないようですね。……非常に興味深い事例です。アイオス殿、神託からどれぐらいたっています?」
「神託はジムナジアでしたのでメセンブリア近い今では、女神二人分かと」
「長いですね……」
午前10時に神託があってもうすぐ正午って言ってるのか。24時間制なのかな?
「今しばらく様子を見ましょう。巫女の控室に予備はありますか?」
「いや・・あそこは処女しか入れない場所ですので……」
「かまいません。アーシア殿はアポロが認めた巫女です。問題ないでしょう」
なんか巫女長の目つきが怖い。でも原因は神官長との駆け引きみたいだ。
色恋沙汰でないと思うけど、ちょっと心配。
「わかりました。では控室を準備させます」
神官長が折れたらしい。
「お願いします。あとアーシアは残ってもう少し質問に答えてください」
=ズズズ=
神官長が扉を閉める。
一息ついて巫女長が口を開く。
「さて、アーシア・オレステス・アリキポス殿、本当の名前は何ですか?」
え、気づいてたの?
現時点のスキル
一般技能(ギリシャ語)
一般技能(地理、ギリシャ)
一般技能(鑑定)
特殊技能(尋問)ランクF
特殊技能(神学)ランクF
一般スキルは対物で特殊スキルは対人スキルです。ランクはSABCDEFの7段階です