狼(リュクルゴス)の改革
くどくどとすみません。
今回で設定回は終了です。
やっと序章に入れます。長かったー
(ところでアーシア、狼の改革ってしっていますか?)
そういえばどんな話だっけ?
学校で習ったのは、
リュクルゴスという伝説的な立法者が改革を行って、ヘイロイタイの反乱に備えスパルタの軍事力をあげた。
子供は生まれてすぐ長老が適性確認して適性がないのは洞窟に捨てる。
男は共同生活で戦士に鍛え上げられる。
女は戦士を生む母として健康管理される。
銀貨を廃止して鉄貨にすることにより奢侈を防ぐ。
装飾品等の贅沢品の禁止だったはず。
(学校?教育機関ですか。アーシアがいろんな料理を知っているのもそのせいなのですね)
まあ、家庭科で習ったけど、どちらかというと自炊の方が影響大きいです。
(しかし、よくスパルタ出身でないのに、そこまで知っていますね。文字にはしなかったはずなのですが?)
同時期のアテナイの哲学者が、珍しい風俗として文献を残してくれたおかげです。
(なるほど。それで・・・表面は正しく伝わっているのですね)
表面ですか?
(ええ、ではこれから狼の改革の本当の姿をごらんなさい)
風景がスパルタの市街にかわる。
第二次メッセニア戦争のあと、国土は荒れ果てても、スパルタの派閥争いはますます激化していた。
街中では至る所で小競り合いが起こり、統治力は地に落ち、奴隷のみならず半自由民にも不穏な空気が立ち上り始めていた。
(そんな中で、現状を改革しようとする超党派集団が結成されたの。もちろん見つかれば粛清されるのは目に見えていたので表に出ないように、静かにゆっくりと改革をすすめていったわ。)
石造りの部屋の中で声を潜めて相談をしている集団がいた。
中心にいるのは・・・あの少女・・・プラチナブロンドの少女にそっくりな女の子がいる。
ただ髪の色は黒だ。
(その少女がアレティア、私の曾祖母。いまはタラントへの植民に合わせて、貴族派を移住させる作戦を立てているの。)
タラントへの植民、それはスパルタ内部で問題になっていた、半ラダケイモンと呼ばれる人々への処遇だった。ようは、まとめて追い出そうとしたのである。
ぺリオイコイとラダケイモンの間に生まれた家系は世代を重ねても、似非スパルタニアンとして認めず自らを貴族とよぶ純血主義の人々が残っていた。
一方で半ラダケイモンの人々も純血主義のスパルタニアンに対し、似非貴族とよび対立を深めていた。
そして、この対立を利用し発生した革命組織が狼である。
半ラダケイモンはどの地区にも多数存在したので、純血主義の追放を第一にスパルタの国力回復を第二に動き始めた。
(狼の名前は、アポロンの聖獣からとったの)
改革の始まりは財政再建のための鉄貨鋳造から始まった。
当時のスパルタは普通のポリスであったために銀貨が流通していた。
しかし第二次メッセニア戦争で莫大な経費がかかり国庫は空に近かった。
そのため新たな貨幣の鋳造ができず、他のポリスからの食料、奢侈品の輸入代金として銀は流出していた。
不足がちな銀貨は国内売買には用いず、輸出入の決済のみに用いていた。
狼は銀貨を廃止して、鉄貨を鋳造し、これを流通させた。
(これが第一段階で最も困難な部分だったわ。)
この結果、奢侈品が不足し一部のスパルタ二アンの不満は高まった。
一方で鉄貨は重く、腕力上高価なものを買うことは不可能だったとはいえ、消耗品程度は買うことはできた。
武器を鋳つぶすことで、鋳造量も増やせたことから、流通量を増やし好景気を呼び込むことができた。
そのおかげで奴隷、半自由民の不穏な空気は和らいでいった。
(ただ、奢侈品に慣れた似非貴族は不満が爆発寸前になったけどね)
とりあえず、国内情勢を安定させた狼は次に純血一派の追い出しに入る。
もっともそれは追放ではなく自主的に望んでさせたのだが・・・
王族の中にいたアレティア達のネットワーク、そして、その息子達は狼の強力な推進力になっていた。
特に息子達はエウリュポン家の一員として、貨幣改革で国内情勢を安定させたという功績もあり、それなりの権力を有するようになっていた。
(新しく作るタラントにすべての金銀を移譲することを双王家で決定させたの)
タラントを統括するのはアギス家、その妻にエウリュポン家ということでアギス家を納得させて、本国には鉄貨しか残らないように動いた。
そうなるとスパルタでは当然奢侈品の輸入は不可能になる・・・自称貴族はタラントに行った方が豊かになると判断して植民メンバーの入れ替えを要求した。
狼はそれを受け入れる形で、国内の有力な貴族をすべてタラントへ植民させてしまった。
スパルタに残ったのは、貧しい土地、半分になった奴隷、鉄の貨幣、そして貧しさゆえの協和である。
ここで狼は第二段階の改革に入る。
自称貴族が抜け、空いた土地を含めて8000家のスパルタ人に土地を再分配したのである。
この結果、あちこちで住居の移動が起こり、以前の来歴はさほど重視されなくなっていた。
そして子供達の共通の教育である。
7歳から12人のグループを組んで共同生活を行うことで、核となる友人グループを作り、戦闘訓練を行い、成人後はこのグループを3つ集めることでファランクスの最小単位、縦隊を構成させる。
その結果、幼馴染と共に戦うために士気があがるという結果をもたらした。
もちろん、これも出身家の影響をなくし差別を消すのが主目的である。
奢侈品、装飾品の禁止は、この段階で法令化されたが特に問題は起きなかった。
実質できないのだから反対の起きようもない。
そして、狼は最後の改革に入った。
女性を家の外に出したのである。
優れた戦士を生ませるためということで、男性と同様にグループを作って裸での舞や体操競技、食事制限を行い、優れた体を作り上げることがスパルタのためになるという意識を与えたのである。
(アレティアが目指したのは、この女性の地位向上よ)
裸で踊って、男に見定められることがそうなるんですか?
(少なくとも、優れた体を作りあげ見事な踊りをすれば、結婚という結果がえられるわ。自分で努力すれば、それを男性から認めてもらえるの。それもスパルタの役に立つという大義名分もあたえたわ。)
いまいち納得できないけど?
(アテナイではいまだに女性は家の奥に住み、親が結婚相手を決め、嫁いだあとはその家の奥に住んで子供を産むだけ、外観も体型も知識も関係ないわ。自分で関与できる分だけ、スパルタの方が女性の地位は高いのよ。複数の男性から求婚され、女性が相手を選ぶなんてことはスパルタ以外では存在しないわ)
なるほど。そういわれるとそうかも。
(これらの話は植民先のタラントが貴族政をとり、リュクルゴス制を取り入れてない質実剛健とは無関係なポリスとして存在している理由でもあるの。ただ経済力ではタラントの方が今でも上なので表には出せない。よって文字で残すことはできないわ)
風景が室内に戻ってきた。
天井が回っている。確かにさっきの3分の2くらいのスピードだ。
……気持ち悪いのには変わりない……
また青汁と桶を差し出され……プラチナブロンドの少女が桶を部屋の運んでいく。
この子ほんとにアレティナ(曾祖母)そっくりだ。
「そういえば狼はいまはどうしてるんですか?」
連想ゲームみたいに思いついたことを、目の前のアレティナ巫女長に尋ねる。
その言葉を聞いた瞬間に巫女長の顔に驚愕が走る。
「アーシア、本当にするどいわね、もう少し後の予定だったけど……」
ためらいを捨て、決断した顔で巫女長が告げる。
「昼食の後にみせたいものがあるの、円形劇場に来てちょうだい」
=アーシアのスキル一覧表=
汎用知識(ギリシャ地域)
一般技能(鑑定)
一般知識(公衆衛生)
特殊技能(尋問)ランクD
特殊技能(神学)ランクF
特殊技能(神聖文字)ランクF
特殊技能(法学)ランクF
特殊技能(料理)ランクE
特殊技能(詐欺)ランクF
特殊技能(薬草学)ランクE
特殊技能(弁論)ランクF
特殊技能(取引)ランクF
特殊技能(魔術)ランクF
今回も変動はありません。




