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日本国世界大戦  作者: 一機当千
本編
66/68

再始動

3月20日 ジャワ海


 3月も終わりに近づき、春の暖かさが肌で感じられる時期となったが、そんなことに感動する暇も与えないほどに今この南国の海は戦火に彩られていた。

「この、ちょこまかと――邪魔よ!」

 空中で炸裂する爆炎の間を高速で飛翔しながら機動戦鬼のパイロットである佐川 由美隊長は同じく火箭を突破しようとしていた解放軍の機動戦鬼目掛けて装備した短刀を叩きつけるように刺す。刺された相手はそのまま機能を停止し、海中に没して大きな水柱をたてた。

『敵機、なおも接近中。各機動戦鬼小隊はそのまま駆逐隊への防空支援を続けられたし』

「無茶言ってくれるわねぇ、本当に。いくら烈火式でもそう長く戦えないわよ」

 新たな敵の接近の報を受け、佐川隊長はそう嘆息する。

 彼女が出撃してかれこれ既に2時間、いかに火力、継戦能力に優れている烈火式であっても流石に弾薬の底が見えてきた。彼女の指揮下に入っている3機の無人機動戦鬼も同様の状況であった。

(100mmはあと3発、50mmはマガジンが2つ、短刀はさっきのやつで最後だし、長刀に関しては1本折れてしまっているわね。いい加減後退して補給受けたいわよ)

 機体の状況を確認して改めて限界が近いことを認識した佐川隊長が弱気な表情を見せる。

 彼女の隊以外にも機動戦鬼小隊は他に7個ほど展開しているがどこも状況は変わらないだろう。この状況で直下を航行している8個駆逐隊32隻を守るにはかなり厳しい戦いを挑まざるを得ない。

 そんな間にも敵機との距離が縮んでいき彼我の距離100kmを切る。あと僅かで接敵を迎えるため佐川も迎撃の構えを取ったその瞬間――。

 機体のセンサーが高エネルギー反応を取られ警告音が鳴り響く。それと同時に佐川の機体は偽魂体の管制を受けている僚機によってはじかれ、代わりにはじいた僚機に超高熱の熱戦が貫き爆発する。

「クッ――このタイミングで熱線兵器を使う!?」

 慌てて耐熱処理の改良を受けたシールドを前面に出して回避行動を取る佐川、敵にビーム兵器があることは過去の戦闘で判明していたがやはりエネルギー効率が悪いのか多用されることはなく、ちょっとした注意だけでそこまでの警戒はしていなかった。

 また、高い破壊力を持つビーム兵器であっても高速で立体起動が出来る機動戦鬼に対して命中させるには遠距離からの先制攻撃以外では至難の業であるため、初撃を受け回避に移った今ではその脅威度は相当低下する。あくまで小型の機体にとってはという話だが――。

『駆逐艦「雪雨」及び「沼霧」に被弾、至急援護せよ』

「やはり、狙いは艦隊みたいね、2番機、4番機ついてきなさい! 艦隊の前へ出て迎撃するわよ」

 味方の被害報告を聞き残った僚機と共に迎撃へ向かう。他の小隊もそれぞれの判断で動きはじめ態勢を整えていく。

 小型で高速機動が出来る機動戦鬼とは違い、大型で早くても40ノットほどの速度しか出せない駆逐艦にとってはたとえ直線的な攻撃であっても大きな脅威となる。ましては対ビーム・レーザー攻撃を想定され装甲を強化されている宇宙艦とは異なりその防御力は脆弱も良いところで集中して狙われでもしたらとてもじゃないがたまったものではない。

 そんな訳でこれ以上の攻撃をさせない様に肉薄して戦闘を仕掛ける佐川であったが。

「この――ベースが55式のくせにすばしっこいわね、大人しくしなさいな!」

 50mm機関銃を撃ち続ける佐川機、だかその射線は敵機の後を追うばかりで中々捉えられない。

 マガジンを一つ消費してようやく敵機を粉砕するが、安堵する暇はなく次々と解放軍の機動戦鬼が佐川達へと攻撃を繰り出してくる。

 それでも機体性能差に物を言わして優勢、あるいは互角に近い戦いを広げるが3機目の敵機を落としたところで持っていた弾薬がすべて尽きる。

「クッ、弾薬が切れた。一度こうたい――『ガガガッ!!』被弾!?」

 一度後退して補給を受けようとした佐川の機体が揺さぶられ、各種センサーが異常を知らせる警告音がけたたましくコックピット内に鳴り響く。運が悪いことに機体のエンジン部分に当たったようで推力及び速力が一時的に低下してしまっている。

「この、ワラワラと群がって来ちゃってぇ!」

 追い打ちと言わんばかりの敵の攻撃に対して長刀とシールドで対応する佐川が額に汗を浮かべながら叫ぶ。どうにかして離脱を試みるがその度に近接による妨害を受けて引き戻される。

 そんなことが二度、三度と繰り返される。そして四度目の攻防に入った時。

「しまった!?」

 接近してきた敵を長刀で牽制した際に大振りとなってしまい機体の姿勢を崩して隙を生んでしまった。

 そしてその隙をつくように1機の敵機が背後から佐川に向けて照準を合わせて引き金を引こうとしたがそれと同時に敵機の背後が爆発した。爆発によって姿勢を崩した敵機はそのまま体勢を直すことが出来ずに落下、海面へと叩きつけられる。

『隊長、大丈夫ですか!?』

「白瀬隊員? あなた、何でここに?」

 何が起こったのかと佐川が呆然としていると同じ班で前回の戦闘で負傷して治療を受けていたはずの白瀬隊員から通信が入る。

 負傷と言ってもその内容は腹部裂傷とそれなりに重症に入るものだ。2週間かそこらで戦線復帰できるほど軽い怪我でははずなのにそれでも出てきた白瀬隊員に対する疑問が先ほどの佐川の言葉に含まれていた。

『最近の再生医療って凄いですね。まさか傷跡も残らずに治るとは』

「答えになっていないわよ……」

 はぐらかすような物言いの白瀬に佐川が呆れたように呟く。

 もう少し問い詰めたいところではあるが、依然として攻撃の手を緩める気のない敵機を見て後にすることにした。

『隊長、これを。出撃する時に余剰で持ってきました』

「あら、助かるわ。丁度困っていたのよ」

 白瀬から弾薬を融通してもらい礼を言う。

 弾薬不足も解消し、再度迎撃の態勢を整える。相手も長い戦闘で疲弊しているのか先ほどまでの苛烈さはなく徐々にだが日本の機動戦鬼の方が押し始めていた。

「艦隊に近い敵に集中する。白瀬隊員は後方から支援しなさい。行くわよ」

『はい!』

 佐川の指示に白瀬隊員がよく通る声で返す。

 空の戦いの大勢は一先ずの決着を終えようとしていた。


駆逐艦「夕立」CIC


「敵強襲部隊4割を撃破。勢いが落ちています」

「各艦の被害状況と弾薬の残量を確認しろ。警戒は緩めるなよ。特に対潜は厳重にしろ、以前のような失敗は許されないぞ」

 途切れることなく作業が続けられるCIC内で艦長の広瀬が檄を飛ばす。

 先の戦いの敗北によって失った戦力をどうにか立て直した日本は本作戦を対中華解放軍戦の最終決戦とするために僅か2週間弱という短い準備期間を経て電撃的な再戦を挑んでいた。

 だが、その代償としてシーレーン防衛に回していた駆逐隊や支援艦隊、国土防衛として残しておいた予備弾薬の殆どを引き抜いたため、もしこの作戦も失敗したとなるともう後がないに等しい。そのため作戦に参加している誰もがいつも以上に真剣な表情で臨んでいた。

「被害状況確認取れました。「雪雨」が中破、「沼霧」が大破です。また直掩に当たっていた機動戦鬼部隊にも8機が被害を受けております」

「被害を受けた2隻は後退するように伝えろ。弾薬の残量の方はどうだ?」

「前衛部隊全体で作戦前の8割と言った所です。作戦に支障なし」

 大きな被害は受けていない事が分かり、軽く肺から空気を出す。初動から大きな反抗にあったことでそれなりの被害は覚悟してはいたものの直掩に当たっていた機動戦鬼部隊がうまく動いてくれたようだ。

 状況も把握し部隊の態勢を整えなおしている最中、「夕立」の船体が縦に大きく揺れる。

 艦隊より更に十数キロメートル先、そこでは幾本もの水柱が鈍い音と共に吹き上がり、そして消えていくという動作を繰り返していた。

「潜行している潜水部隊、掃海作業を開始した模様です」

「かなり強引な方法だが大丈夫なのか? これでまた被害を出したら笑えないぞ」

 依然続く現象とそれを引き起こしている海中に潜む者たちを考えた広瀬が少し不安そうな表情を浮かべて問いを投げる。

 先のインドネシア海戦で日本側に大きな傷を与えた機雷攻撃、同然ながら本作戦においても使ってくる可能性は高いと判断した日本は優先的に機雷掃海を行うことを今回の作戦に織り込んでいた。

 そこで問題となるのが掃海の手段だ。常道の手段であれば掃海艦艇といった専用の艦種を投入するのだが、場所が戦闘海域なこともあって武装の全くない後方支援艦を送り込むにはリスクが高い。

 次に考えられるのは航空機による掃討だが、これも航空優勢がお互い拮抗している状況では難しい。

 協議の末に採用されたのは潜水艦と無人機(有線誘導)を用いた強行進出による機雷の爆破処理と言う力業にも程がある手段だが、一先ず作戦中に限る即席案と言うことで決行される運びとなった。

 ちなみに無人機の管制自体は「夕立」をはじめとした駆逐艦群でも出来るのだが、対空対艦と複数の戦闘をこなしながらの管制は負担が大きいということで今回は見送られた。

「勇士、潜水隊の子から予定範囲の機雷掃討が終わったって来たよー」

 潜水艦の偽魂体から直接連絡を受けたゆうだちが機雷掃討終了の旨を伝える。

「ん? そうか分かった。ゆうだちはそのまま後ろに控えている揚陸部隊に伝えてくれ作戦を第二段階に移す。各駆逐隊に対地攻撃を開始するように通達、味方が上陸する前の露払いを始めるぞ」

 警戒態勢で静かだったCICが広瀬の言葉を受け瞬時に戦闘態勢へ再始動する。

 しばらくして「夕立」を含む駆逐艦数隻のVLSが開き、幾本もの白線を伴いながら対地攻撃用のミサイルが撃ち出される。

 撃ち出されたミサイルは海岸線に到達すると同時に複数の小弾子をばら撒き浜辺を激しく叩いた。

「対地ミサイル全弾着弾を確認」

「揚陸艦隊、予定海域に到着しました。揚陸開始します」

 ミサイルが弾着するのと時を同じくして後方から上がって来た上陸部隊を載せた支援艦隊が駆逐隊と合流する。

 支援艦隊はそのままジャワ島へと多数の機動戦鬼と共に上陸部隊を浜辺へと揚陸し始める。

「スマトラ島への先行強襲を予定している第37、38駆逐艦8隻を除く各艦は揚陸作業中の支援艦の護衛に専念しろ。ここからが本番だ、気を抜くなよ」

 上陸がはじまり今一度気を引き締める広瀬、「夕立」の艦首より先にある浜辺では日本の上陸部隊と中華解放軍の駐屯部隊による激しい攻防が始まろとしていた。

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