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日本国世界大戦  作者: 一機当千
本編
62/68

爆ぜる月面

 かぐやでの戦闘が始まって一体どれほどの時間が経っただろうか、月上空では依然として両陣営の部隊がお互いの命を削り合い、月面付近では戦い敗れたものたちの残骸が爆発の衝撃などによって激しく打ち付けられて辺りに散乱していた。

 そしてそんな残骸に身を隠すように静かに月面へと下降していく船団がいた。それぞれの大きさは10mにも満たないそれが月面へと着陸すると、まるでそれを待っていたかのように勢いよくドアが開かれ中から人を次々と掃き出していく。

『――各班、現在位置と状況を報せよ』

 月面に着陸した小型船の一つから出てきた一人が宇宙服に備え付けられた通信機を用いてそんな言葉を飛ばす。

『2班、間もなく予定地点に到着』

『3班も同じく』

『こちら5班、6班と合流完了、これより突入準備にかかる』

『7班、突入準備は終わっている。合図を待つ』

『9班、予定より少し遅れている。もう少し待たれたし』

『10班、所定の位置についた。これより合図を待つ』

 通信を飛ばして数秒も経たないうちに恐らく仲間と思われる者たちから返答が返ってくる。使われている言葉はいずれも英語であったがそのどれもが特徴の強い訛りが聞き取れる。

『……4班と8班からの応答がないな』

『識別ビーコンにも反応がありません。恐らく降下中に爆発とかに巻き込まれて落ちたものと考えられます』

 一連のやり取りに参加出来なかった者たちが居た事にほんの一瞬だけ残念に思ったがすぐに気持ちを入れ替える。もとより参加部隊全てが無事にたどり着く可能性は無きに等しかったのだ。そんな中で被害が2個班だけで済んだことの方を幸運であったと考えるべきであろう。

『9班の準備が出来次第決行する。それまで各班は待機せよ。以上』

 各班の状況を把握して作戦遂行のための指示を下す。そんな彼らの頭上では未だに戦火の炎が揺らめき続けていた。


かぐや基地内部


 戦場と化して喧騒が辺りを包み込んでいる『かぐや』であったが、それは何も外だけの現象ではなかった。

「おい急げよ。ここでちんたらしていたら高射部隊の奴らが弾切れを起こしちまうだろうが」

 幅広いトンネル状の通路で貨物輸送用の作業車に乗りながら支援群と思われる隊員が車輌後方で作業している隊員に向けてそう大声で話す。

「そういうのなら手伝ってくれって!こちとら低重力化しているとはいっても0が二つはつくような物を運搬しているのだぞ!」

 せかされたことに不満に思ったのか、作業をしていた隊員からそんな文句が飛んでくる。やがて作業が終わり積み込みをしていた隊員が低重力化された環境を利用してそのまま助手席の方にジャンプして飛び乗る。

 相方が戻ったのを確認した後、思いっきりアクセルをふかして車を走らせる。時たま他の作業車とすれ違ったがそれ以外はたまに襲ってくる振動以外は基本静かな状況が続く。

「――?おい、こっちは外部露出通路だろ。推奨ルートから外れているぞ」

 とある分岐点を右に進んだ所で助手席に座っていた隊員がそのような事を言う。

 外部露出通路と言うのは基地の特性上地下に埋まった状態で通っている一般の通路とは異なってトンネルの一部が地上に露出している通路の事であり、戦闘をはじめとした非常時には避けるように言い渡されている通路である。

「担当部隊の弾薬残量が4割を切っちまっているからな。正規ルートじゃ間に合いそうもねぇからショートカットするぞ。幸いこの辺は戦闘が激しくないから、まぁ、安全だろ」

 質問を受けて運転手の隊員が各部署の弾薬状況を表示しているタブレットを渡しながらそう説明する。

 タブレットを操作すると確かに自分たちの担当している部隊の弾薬残量が4割を切っている事が確認できる。寧ろもうそろそろ3割台に達しようとしていた。この調子で消耗していくと正規ルートでも間に合うとは思うが、かなりギリギリな状況となるだろう。

「つっても、ここが危険な事には変わりないのだろう?一応、防護服だけでも着といたほうが良くないか?」

「それもそうか、確か後ろに置いてあったとはず、悪いが取ってくれるか?」

 相棒に諭され後部座席に置いてある防護服を取ってもらえるように頼む。

 外部露出通路と言ってもその強度は地球に作られている一般の道路と比べれば尋常じゃないほどの強度を誇っているがそれでも戦闘艦の攻撃や零距離での爆発を受ければ大穴が空く、更に通路内は人が活動できるように地球と同様に大気を満たしているので穴が空けば物凄い勢いで外へと吸い出されてしまうだろう。

 流石にそんな事になるのはごめんなので危機管理の点からも保護服を着用しようとしたその瞬間、彼らが乗っている車輌より50m程先で突如として天井が爆発して崩落する。

「なんだぁ!?」

 慌ててブレーキを踏んで急停止しながら驚きの声を上げる。目の前には爆発によって発生した黒煙が立ち込めていて視界が奪われそうになるがその刹那、充満していた煙が物凄い勢いで上に向かって吸い上げられていき、たちまちに消え失せたがそれと同時に車に乗っていた隊員二人もまるで台風の中に晒されているかような暴風に襲われる。

 必死になって車輌の淵に掴まる二人であったがそのあまりにも強すぎる吸引力の前には敵わず、どうする事も出来ないまま吹き飛ばされてしまう。

 悲鳴をあげながら真っ暗な外へと飛ばされる隊員が見たのはさっきまでいた通路に空いた大穴とその淵で身構えていた人の集団であった。


『第7Aブロックより敵兵侵入!!』

「はぁ!?」

 突如として司令部に届いた報告に偽魂体のかぐやはいつもの彼女であれば到底あげそうもないような声をあげてしまった。

 更に続けざまに別々の場所から同様の報告を受けて司令部全体が騒がしくなり始める。

「至急、各員に白兵戦の用意をさせろ!かぐや、敵の規模を知りたい。急いで基地内の状況を調べ上げてくれ!」

「了解しました」

 基地司令の命令を受けたおかげか、何とかいつもの平静を取り戻したがそれでも彼女の顔には驚きの色が残っていた。

「敵の規模が判明しました。総勢で約70、いずれも武装しております。位置は第1、第2格納庫付近にそれぞれ20人、基地基幹通路及びその分岐に30です。現在、治安部隊と交戦中!」

 状況を調べ上げ終えて基地に侵入した敵の情報を基地司令に伝える。

 すでに基地内にいた一部の部隊が対応しているようであったが、数では押しているはずなのにかなり劣勢気味であった。

「随分押されているな……」

 状況を見ていた基地司令がそう言葉を漏らす。

「敵はどうやら宇宙環境での戦闘を前提として組織された特殊部隊の様です。対してこちらは後方支援を主目的とする支援群と艦艇や基地勤務で対人戦闘など想定していない宇宙防衛隊、治安維持のために本国から引っ張ってきたSATをはじめとした部隊だけです。実力差がありすぎます」

 司令の漏らした言葉が聞えたのかかぐやがそう言葉を述べる。

 そもそも日本には宇宙空間での対人戦闘を想定している部隊がいない。宇宙で活動するだけでも物資をはじめとした膨大な労力を必要とするのだ。それに加えて地球と比べて補給も高い難易度を課せられるとなると戦略レベルで運用する戦力を用立てるのが如何に難しいか分かる。仮に作り上げたとしてもその規模は限りなく小さくなり運用する場面も限られてしまう。それなら宇宙艦の建造に力を入れた方がよっぽど建設的であるし運用の幅も広がるというのが日本、いや世界での主だった考えだった。

「しかし、特殊部隊となれば状況はガラリと変わるな。あれは少数で最大の効果を叩き出すための物だ。こういう時は恐ろしい程の力を発揮する」

 一本取られたともいうかのように基地司令がそう述べる。もっともだからと言ってこのまま好き勝手にさせるつもりはなく、すぐさま次の命令を下す。

「かぐや、各ブロックの隔壁を閉めろ。元々は基地内での災害対応用で防御力などないが時間稼ぎにはなる。その間にこちらの態勢を立て直すのだ。手段は問わない。最悪通路ごと敵を潰せ」

 かなり過激な事を言うがそうでもしないと対処しきれないという判断なのだろう。基地の外と内で挟撃を受けるような形に持っていかれてしまったが、まだこの時は取り返すことが出来る。少なくとも基地司令はそう考えていた。


 狭くはないが決して広くもない基地の基幹通路内で耳が痛くなりそうなほどの銃撃音がしつこいほどに反響してその場にいた者たちを苛立たせていた。

「ちっ、思ったより数が居るな。李軍曹!手榴弾!」

「了解!」

 銃撃が続く中で兵士の一人が持っていた手榴弾のピンを抜いて身を隠した状態で放り投げる。

 投げられた手榴弾は低重力化された通路内を落下せずに勢いよく進んで行き、起爆時間を迎えて日本側が陣取っている所より後ろの方で爆発する。

「Go、Go、Go!」

 爆発によって一瞬相手の動きが止まったのを見計らってすかさず前進を指示、そのまま反撃を許さずに無力化に成功する。

「ふぅ、突入して10分も経たずにこれか、先が思いやられる」

 あたりの敵を鎮圧して緊張でためていた息を吐きながら対宇宙白兵特化部隊隊長である(ペク)大尉はうんざりしたような表情で愚痴る。

 せっかく小型船を用いて強襲したというのにここまで素早い対応をされてしまうと強襲した意味がなくなってしまう。

「おまけに隔壁を閉じられて足止め喰らっちまうし、チャル上等兵!爆薬の設置はまだか!」

 戦闘中に下ろされた隔壁の方向を向きながら白大尉は隔壁の傍で爆破準備を行っていたアフリカ系の兵に向かって話しかける。システムをハックして開けられた方が労力的に楽なのだか日本の基地のシステム管理は全て偽魂体が掌握していてまず無理なので爆破するしかなかった。

「もう少し待ってください……よし、設置完了!」

「全員離れろ!」

 爆薬が設置しおわり離れるように指示を出す。すぐに各々が爆破の巻き添えにならないように身を隠し、それを確認してからチャル上等兵が起爆させる。

 爆発により轟音と煙が蔓延する中で隔壁の向こう側へと進む、白大尉が穴をくぐるのと同時に一発の発砲音が響き先に前進していたチャル上等兵がつけていたヘルメットから血を吹き出して後ろへと吹き飛ぶ。

「チャル上等兵!くそ!散開しろ!」

 瞬時に状況を把握して反撃に移る。宇宙空間での戦闘を得意とする部隊らしくその動きは実に三次元的だ。中には爆破によって生じた残骸を盾や足場にして突撃をかます者もいた。

「全員立ち止まるな!押し通せ!目標まであともう少しだ!」

 引き金を引き続けながら部下たちを鼓舞する。彼のヘルメットには彼らが目指している所までの経路が映し出されており、その距離はもう少しで600mを切ろうとしていた。


かぐや第2格納庫


「あーもう!好き勝手やりやがって!」

 格納庫に静置されている突撃艦の1隻の中で宇宙防衛隊の隊員が悪態をつく。

 格納庫外で何やら爆発したと思いきやいきなり訳の分からない集団が銃をぶっ放しながら突撃してくるは、爆弾を投げつけて来るはで格納庫にいた日本の者たちは皆近くの艦艇に閉じこもる事を余儀なくされていた。

「おまけに出入り口付近を陣取ってやがるし、なぁ本当にこの艦、対人用の銃火器積んでいないのか?」

 ガラス越しに敵の位置を確認しながらダメ元でそう聞いてみる。地球であれば海賊対策とかで自動小銃ぐらいは積んであるのだが宇宙での活動を目的としている宇宙艦艇ではそんな物はまず積んでいないだろう。それを肯定するように艦橋に待機している偽魂体から返って来た言葉はというと『積んでいませんよ。敵を吹き飛ばすだけなら甲板にある連装砲でも出来るでしょうけど』であった。

「いやそれ下手したら基地の一部が吹っ飛びかねねぇよ。てか、あいつらさっきからあの場所を占領しているだけで動かねえな。何しているのだ?」

 さっきから不気味なほどに動きがない敵兵の様子を見ながらそう呟く。いくらこちら側が丸腰のような状態だからと言ってもここは日本の基地である。いずれ応援が来れば補給の続かない小規模の特殊部隊など鎮圧されてしまうだろう。それなのに同じところに留まっているということは何か別の意図があるとしか考えられなかった。

『第1格納庫に向かっていた敵も似たような状況らしいですよ。派手に動き回っているのは基幹通路に侵入した一団だけで対応部隊もそちら側に集中投入されているみたいです』

「司令部でも占領するつもりか?」

 偽魂体からの情報を受けてそう考えたがその考えはすぐに偽魂体より否定される。

『いえ、敵はどうやら司令部とは逆方向に向かっているようです。おかげで司令部付近に配置していた部隊が後を追いかける形なってしまって敵を捉えきれていないようです』

 ますますわからない。

 基地の中枢部を目指していないのであれば一体どこに向かっているのか、艦艇や機動戦鬼を収めている格納庫系は規模もそれなりあるから少数部隊で潰せないし、武器弾薬庫は補給の関係から基地各所に分散配置されているから一つや二つ潰したところで焼け石に無図だろう。高射部隊を目標と仮定しても外から砲撃した方が簡単であまり効率的とは言えない。

「もしかして道に迷ったとか?いや、流石にないよな……」

 どの考えも腑に落ちずそんな冗談めいた事を言ってみるが流石にそんな阿保みたいな事は無いだろう。むしろ本当にそうだったら別の意味で笑えない。

 その後も動こうにも動けない状況が続いて思考を巡らせていると突然、ズズン――、くぐもった音と鈍い振動が格納庫内を襲う。

 余りにも突然すぎる出来事に誰もが戸惑いを隠せずに騒がしくなる。音と振動の感じからかなりの距離があるようであった。

「方角の感じからだと基地の外、民間区域の方か?まさか!」

 震源地の位置の推測を立てると同時にその事実に驚愕の表情を浮かべる。そしてすぐにその推測は当たっていると悟る。それは日本の宇宙戦力全てに致命傷を与えることが出来るものであった……。

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