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日本国世界大戦  作者: 一機当千
本編
61/68

輝く夜

日本国月開拓担当特区基地『かぐや』


「基地司令、出撃した各部隊からの定期報告が来ました。一部部隊ではすでに戦闘が発生している模様で被害も出ております」

 司令官室で本基地の総合的な管理を担っている偽魂体であるかぐやが現在進行中の作戦の状況を簡潔にまとめた報告書を『かぐや』の基地司令官に手渡しながら概要を話す。

「わざわざご苦労だったな。他に何か問題は無いか?」

 彼女から書類を受け取って目を通している基地司令がそうかぐやに問う。

 作戦を開始してそろそろ4時間は経とうとしている。決行にあたり考えられる限りの策を施したつもりではあるが相手は同じ人間である。こちらの予想を上回る手法を行使してくる可能性はいついかなる時だって存在しており、気を抜くことは出来ない。

「現状ではこちらの立てた作戦通りに事が進んでおりますが準備のために出撃していた支援艦隊に被害が集中している影響によって進展速度に若干の低下が見受けられます。また、独伊連合のゲリラ部隊の所在は未だに掴めておらず油断はできません。念のため基地周辺の警戒のために待機中の第5から第8星団及び支援艦隊がローテーションを組ませてあたらせておりますが万全とは言いきれません」

「そうか、とにかく前線で戦闘が始まっている以上彼らの帰る場所であるここに何かあってはならない。警戒はそのまま続けつつ動ける部隊には全ていつでも出撃できるように用意させておいてくれ」

「了解しました。司令」

 司令の指示に対して短く応えたかぐやはそのまま部屋を後にして自分の職務に戻る。一人残された司令はそのまま自分の席に腰を下ろしながらこのまま作戦が何事もなく進んでくれることを祈るがそんな都合よく事が進むなど彼を含め基地に居る全員誰一人として考えていなかった。


 かぐやでは戦闘に対して静かな警戒を続けている一方、前線に布陣して戦闘態勢を取っていた突撃部隊は基地の状況とは反対に激しい砲火と閃光に晒されながらも敵艦隊と相対して一進一退の攻防を繰り広げていた。

「敵の新たなミサイル群、2個確認!数それぞれ24、32!」

「取舵、長軸転舵!全武装一斉解放!」

 レーダー員の言葉を受けて秋山艦長がそう叫ぶ。彼女の言葉を受けて「若葉」の偽魂体であるわかばが指示通りに艦を操作して「若葉」に搭載されている全ての火器が起動して火を噴く。

「ミサイル群85%を撃墜も依然接近中!」

「回避!総員衝撃備え!」

 撃ち漏らしたミサイルに対して迎撃を続ける中で秋山艦長の指示が響く。迫ってきたミサイルは艦4km付近で辛うじて撃ち落としたが爆発によって飛ばされてきた破片が「若葉」本体に降り注いで喧しい音と揺れを引き起こす。

「被害報告!」

「右舷艦後部に軽度の破孔が発生、応急処置中!味方支援艦3隻が艦首に直撃を確認、該当艦の偽魂体より放棄判断が来ました」

 自身の共有システムを介してわかばがそう報告を告げる。直撃を免れたとはいっても宇宙空間では発生した加速力は殆どそのまま維持して飛んでくるのだから僅かな破片であっても油断は出来ない。それに加えて宇宙艦の気密性はある意味潜水艦以上に命に関わる為、報告した彼女自身も乗っている艦に穴が空いたことに若干の緊張がその表情に浮かんでいた。

「付近の支援艦に退艦した偽魂体の収容を要請。それと解放軍の対処に当たっている第3、第4星団の突撃部隊の所在を確認して流石にこれ以上は持ちこたえさせられないわよ」

 脱出した偽魂体の子の救助を指示しつつ秋山艦長が別行動を取っている味方の状況を問い合わせる。

 今、彼女たちが居るところはかぐやから数百km離れた宙域で本来ならここで解放軍を誘導する役目をおった部隊と合流して三つ巴戦を引き起こす予定であったのだが、誘導に手間取っているのか予定の時刻を過ぎても一向に現れずズルズルと消耗戦を強いられていた。

 事前に用意して置いたミサイルコンテナは既に4割がた使用してしまい、各艦に搭載しているミサイルなどの火器も半分以上消費している状況ではこれ以上独伊連合の足止めをしておくことは限界と言ってもおかしくなかった。

「別働隊は現在本宙域から150km離れた月面付近でこちらに向かっておりますが解放軍も中々こちらの誘いに乗ってくれずもう少し時間が掛かるそうです」

「冗談はよしてよ。もうこっちは戦力的にも限界よ?寧ろまだ突撃艦が1隻も沈んでいない事が奇跡に近いのにこれ以上待てって言われても無理があるわよ」

 わかばの言葉を受け艦長が顔をしかめてそう話す。

 戦闘が始まってそれなりの時間が経っているが独伊連合の相手をする「若葉」含む日本の突撃艦9隻は若干の損傷はあるものの全艦健在であった。だが、その反面補佐として徴用した支援艦隊が例に漏れず甚大な被害を受けており15個あった艦隊の内すでに4個近くがその姿を消していた。そんな状況でもうしばらく待たされるとなれば誰であっても似たような反応をするだろう。

 いっそのことこちらから動くかとも考えたがすぐに掻き消した。ただでさえ戦況が膠着状態な状況で無理に動きを見せればそれが原因で事態が二転三転と思わぬ方向に転がる可能性も否めないのだから結局今いる場所で待ち続けるという選択肢意外なかった。

「――――なんだと!?艦長!かぐやから撤退命令が来ています。奇襲を受けた模様です!」

「なんですって!?」

 予期せぬ報せを受け頭に電撃を受けたような衝撃を受ける。どうやら事態は彼女達が思っているよりも更に複雑に変容しようとしているようであった。


 そして戦場は日本の月面における最大拠点であるかぐやに移り変わる。半地下型の基地であるかぐやは5個の地下格納庫を頂点とした正五角形の形をしておりその至る所で閃光を伴った爆発が起きていた。そしてその上空でもまた、何十隻にも渡る艦艇群が光線とミサイルを放ち合い、ある艦は迎撃によって生まれた衝撃によって揺さぶられ、またある艦は実力及ばず餌食となり爆炎と共にその姿を消していくといった光景を繰り返していく。

「基地高射部隊及び機動戦鬼部隊は準備出来次第応戦を始めてください。新たに出撃した支援艦隊は警備部隊と合流を優先、その後の指揮は星団旗艦に移管します。とにかくこれ以上敵を近づけさせないで!!」

 基地司令部の中で基地の機能を司る偽魂体かぐやの指示が響き渡る。その彼女の指揮に従うように月面に備え付けられた高射装備から砲弾にミサイルやレーザー、ビームが弾幕を形成し、基地の各所に設けられた小型の格納庫から機動戦鬼が連続して出撃して行く。

「敵艦隊第1、第2防衛線を突破、突破艦「水瓶」含む多数の艦に被害!」

「第12高射群損耗率40%突破、ほか機動戦鬼13機ロスト」

「戦況はこちらが圧倒的に不利と言った所か」

 一連の戦況報告を受けてかぐやの横で椅子に腰かけていた基地司令が厳しい表情でそう短く述べる。

「可能な限り厳重な警備態勢を敷いてきたつもりでしたがやはり擬態装甲による隠ぺい性は恐ろしいものです。まんまと奇襲を許してしまいました。しかもその第一撃によって第1、第2格納庫のゲートにダメージを受けたせいで待機していた第5から第8星団も出撃することが出来ず艦艇戦力も現時点では劣勢です。幸いにも支援艦隊は民間用の第4、第5格納庫に配備していたので時間が経てば量的不利は緩和できますのでまだマシではありますが」

 悔しそうな顔を浮かべながらかぐやが端的に今の状況を話す。

 敵の奇襲を警戒していたかぐや陣営であったがそれでも敵の運用する擬態装甲の持つスペックの高さによって易々と基地への接近と攻撃を許してしまった。

 今でこそ多数の支援艦の投入と各種部隊の展開によって均衡を保ってはいるが依然として油断できない状況には変わりない。

「やはりここはどうにかして相手の艦艇戦力を削る必要がありますね。つきひめ!今の機動戦鬼戦力で敵戦闘艦を討つことは可能ですか?」

「かぐやさんそれもしかして冗談で言っていますか?だとしたら全然笑えないのですけど!?」

 かぐやの問いかけに彼女の前の席に座っていた少女が呆れ気味に問い返す。

「至って真面目に言っていますよ。現状では私たちの方の艦艇群では決定打を与えきれませんし、かと言って援軍の星団はもうしばらく動けそうにもありません。基地の高射部隊は防衛で手一杯ですし、他に残っている手段と言えば貴方の機動戦鬼部隊しかないではないですか」

 質問に質問で返されたかぐやはため息まじりに言葉を返す。

「いや~そう言われましても仮に機動戦鬼部隊が今よりあと2個大隊程多ければ余裕でしたけど流石に今の256機、1個連隊分だとちょっと自信は無いかなぁ、やれなくはないですが」

 そう言いいながらつきひめと呼ばれた少女は両手を挙げながら「タハハ……」と言う感じに軽く笑う。

「宇宙空間用の機動戦鬼は技術的難易度から高価になりやすいのよ。特に貴方の「月姫」は対光学兵器用の装甲を施してあるから尚更ね。けど、まぁいいわ。出来なくはないのよね?」

「まぁ、若干の被害は覚悟しておいてもらわないといけないけど、出来なくはない」

 質問を受けたつきひめがそうはっきりと断言する。

「そう。なら出来るだけでいいですので相手の艦艇戦力を削ってください。このまま膠着状態を続けていては動けない私たちの方が不利です。早急に開始してください」

「了解っと、若干防衛線に穴が空くとは思うけどそこは支援艦の子達に埋めてもらってよ。少なくとも5隻は仕留めてあげるから」

 かぐやの命令を受けたつきひめがそう軽く言いながら自分の司る機体の操作を始める。

 そして基地司令部のモニターには彼女の操作を受けた「月姫」が一斉に月面から飛び上がり目標へ向けて編隊を組みながら加速して行く様子が映し出されていた。


 かぐや達が敵艦隊に対する機動戦鬼の投入を始めるのと時を同じくしてその上空では苛烈な砲撃戦があちらこちらで繰り広げられていた。

 突撃艦「鍾路(チョンノ)」もそんな戦いに参加していた艦の一隻であり、僚艦の「龍山(ヨンサン)」「道峰(トボン)」と共につい先ほど日本の艦を一隻沈めた所であった。

「敵艦の撃沈を確認。これで三隻目です。戦況は我々が圧倒的に有利の様ですね」

「うむ、どうやら最初の一撃が上手く作用したようだな。敵はまだ浮足立っているようだ。このままもう少し押し込みたいところではあるが」

 「鍾路」のCICで幹部と思わしき男二人がそんな話を交わす。

 独伊連合が作戦に躓きその補佐として後方作戦に従事していた韓国・中華遠征軍・アフリカ含む地球連合軍によって編成されている遊撃艦隊30隻は擬態装甲によってその身を隠してかぐやに接近を果たし、完全な奇襲によって日本側の対応を封じ込めて戦いを有利に進めていた。すでに艦隊全体で沈めた敵艦は十数隻にのぼり、警戒に出ていた日本の僅かな戦闘艦もすでに大多数が被害を受けて撤退を余儀なくされていた。

「この調子ならわざわざ作戦通りに進めなくてもこのまま力押しで制圧することも不可能ではないでしょうな」

 事が上手く進んで気を良くしたのか男の一人がそう勇ましい言葉を述べるがそれを聞いてもう片方の男の顔が厳しくなる。

「いや、それは夢を見過ぎだ。戦場と化しているここだけではかぐや全体から見ればほんの一部でしかない。何しろかぐやの面積は日本の総面積に匹敵するのだから我々だけで制圧したとしてもどのみち反撃によって奪いかえされるだけだろう。故に今回の作戦はあくまでも制圧を目的にしたものではなく、日本の宇宙での戦闘能力を削ぐことが一番の目標となっている。それを忘れてしまっては命に関わるぞ、いいな?」

 若干厳しめに窘めて作戦の目的を再認識させる。

 人類がその勢力圏を宇宙に確立して数十年が経つ、その間各国は程度に差はあれど互いに技術を高め合い、時には牽制しながらもその実力を伸ばしてきた。そしてその中でも特に突出してきたのが日本とロシアの二カ国でありどちらもその切っ掛けは宇宙より降りかかった災いによって引き起こされた突発的な紛争による不幸な出来事によるものだったが、それでもその実力は無視できないものであった。もし今ここで万全な状態で構えている日本を相手に正々堂々と戦いを挑んでいれば寄せ集めにしか過ぎない遊撃艦隊など瞬く間に打ち倒されていただろう。

 無論、こちらとしてもそんな事は分かり切っている。だからこそ策を施し、じわじわと力を削ぐという手段を取った。劣っている者には劣っているなりの戦い方の選択としては恐らくもっとも効果的なものと思われた。

「出過ぎた事を言いました。ですが、まだまだ日本の艦艇戦力は巨大、ここは一隻でも多くの艦を沈める事が後々の勝利につながると小管は考えます」

 窘められて認識を改めたのか男がそう意見を述べる。事実、戦闘に出ている日本艦は大半が支援艦とはいえ、その数はこちらを圧倒的に上回っている。ここで数を減らすことはプラスになることがあってもマイナスになることはないだろう。もう片方の男も同じ結論に達したのか頷きながら再び口を開く。

「確かにここで少しでも敵艦を沈めれば作戦の進行の為の良い攪乱にもなろう。ここはもう少し戦果を稼ぎたいところである……!?」

 途中まで言ったその言葉は突然襲った衝撃によって中断される。

「何事だ!?」

「突撃艦「道峰」右舷に被弾!いや、撃沈です!」

「レーダーに新たな反応を確認、日本の機動戦鬼と思われる」

 急変した事態に狼狽えることなくCIC内で整然とクルーたちが対応を始める。どうやら日本が新たな一手を打ってきたようであった。

「ふむ、あの兵器の存在を忘れていたか、対機動戦闘用意!」

「対機動戦闘用意、全門、てぇ!」

 その言葉と共に「鍾路」の砲からはレーザーが、前部の発射管からはミサイルが打ち放たれ接近してくる日本の機動戦鬼に向けて弾幕を張る。その攻撃に反応が遅れたのが一機の機動戦鬼が引き千切られるように爆発四散する様子がCICのモニターからでも見て取れた。

「作戦の進行状況はどうなっている?」

「間もなく第二段階へと移行すると各実行部隊より報告が来ています」

「承知した。ではもう少し暴れることとしようか」

 作戦の状況を聞いてそう述べて笑みを浮かべる。その様子はまるでこれから起こる事態に対しての日本の手腕を確かめようとしているように感じられた。

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