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日本国世界大戦  作者: 一機当千
本編
60/68

瞬く星々

3月10日 月上空


 見渡す限りの星々が煌めくこの宇宙の中で星の輝きとは違う数十にものぼる光点を引き連れるように進む艦隊があった。

 その大艦隊の丁度中央に位置する場所で他の艦艇よりもひと際大きい存在感を発している宇宙戦艦「アドルフ・ヒトラー」の艦橋では艦隊司令と思われる男が艦長席の近くに設けられた艦隊司令官用の椅子に腰を下ろして艦橋から見える艦隊を見回していた。

「艦隊前衛部隊、間もなく日本開発区域に接近します」

「了解した。艦隊全艦へ通達、第一種戦闘態勢用意。ここからは日本のホームグラウンドだ。いつ戦闘が始まってもおかしくはない。各員気を引き締めつつ警戒を厳とせよ」

 クルーの報告を聞き、全艦に向けて艦隊司令が命令と訓示を同時に述べる。約1か月前に起こった戦闘によって日本に痛手を与えた独伊連合であったがそれでも日本の戦力から見れば25%に留まっており依然としてその実力は健在であった。

 それに比べて自分たち連合はやっとの思いで整えた新たな宇宙戦力の内、実に半分に匹敵する数を失ってしまい味方によっては劣勢と言っても良かった。無論、連合も戦いが終わった後ただじっとしていたわけではなく、戦力の補充を進めつつ主に宇宙艇を中心とした遊撃部隊を編成し日本の資源供給を担っている資源収集船などに対する破壊作戦を行うなどして日本の戦闘能力を削る方針を取っていた。効果は微々たるものではあったがそれでも資源供給面から日本に対して圧力をかける事によって向こうの行動選択権を牽制することは戦力を立て直す連合にとっては最善の判断と言えた。

 そんな中で行われる今回の作戦だがこれは本来であれば予定されていなかった物だが本土の方で新たな作戦を開始するにあたって敵の宇宙戦力を釘付けにするための牽制を目的として急遽発動されたものであった。

「―――――!!レーダーに感有り!日本の艦隊と思われる。数20!」

 レーダーによる警戒を行っていたクルーによって敵艦発見の報が舞い込んでくる。

「来たか、しかし予想よりも敵の数が少ないな、向こうの戦力からすればこちらと同等の数は出してくると思っていたが……」

「敵艦発砲!」

 艦隊司令が予想よりも少ない敵の数に疑問を抱くのとほぼ同時に日本艦から放たれたビームが独伊連合艦隊へと降り注ぎ辺り一面を眩しく照らす。

「敵の攻撃が多数直撃!突撃艦以下の艦種に多数の被害!」

「全艦、反撃!突撃部隊に突撃戦の準備をさせろ!」

 被害報告を受けてすぐさま反撃命令を下す。

 命令を受けて艦隊は各々の艦が持つ砲塔を旋回させ日本艦隊に向けて標準が合わさり間を置かずに何本もの光線が放たれた。

 放たれた光線はそのまま直進して行き日本の艦隊がいた辺りの場所をいくつもの花火が彩っていく。

「敵艦隊に複数の直撃弾を確認、敵艦隊距離を取り始めました」

「突撃部隊の一部に追撃させろ。このまま逃がしてはならん」

 やけに早い敵艦隊の反転を不審に思い追撃を命令する。

 こうも早く撤退を始めたとなると考えられるのは相手にとって突発的な接触であったがもしくは偵察を目的とした前哨部隊辺りが最優先で考えられる。どっちにしろこのままみすみす見逃す道理はない。

 少しでも相手の戦力を削るために突撃部隊が追撃を始め艦隊から離れたその時――。

「レーダーに新たな反応、ミサイルです!全方位から大量に飛んできています!」

「なに!?」

 不意に飛び込んできた新たな報せに艦隊司令が驚きの表情を浮かべる。

 宇宙を舞台にした新たな戦いが今この時幕を開けたのであった。


 独伊連合がミサイル攻撃に晒されている最中、不幸な事に連合と鉢合わせをしてしまった「仁21」率いる2個臨時支援艦隊は連合がミサイルの対応に追われている隙を狙って全速力で当宙域から離脱を図っていた。

「後方100kmに突撃艦を中心とした追撃部隊、更に100km後方に敵本隊かー、ミサイルコンテナをばら撒きに来ただけなのにどうしてこうなるのよー」

 支援艦「仁21」の艦橋内で偽魂体と思われる女性がレーダーに映し出されている敵の反応を見ながらそんな泣き言を言う。

 独伊連合、解放軍両方の対応に追われることになった日本は自分たちが地理的に有利な場所で漸減作戦を行う事になり、その前段階として支援艦によるミサイルコンテナの散布を各宙域で進められていた。

 ミサイルコンテナと言うのはコンテナを改造したミサイルランチャーの一種でミサイルの運用に必要となる探査・照準・発射・誘導といった各操作を全自動で行えるようにしたもので主に民間船や支援艦といった自衛用の武装を必要とされる艦種で運用される使い捨て型の兵器である。また、システム自体が完全に独立しているため今回のように無作為にばら撒いて多方向から攻撃するという芸当も出来るので量的劣勢に置かれている宇宙防衛隊としてはこれでどうにか敵の数を削ろうと画策していた。

「だからってこっち側の存在がばれていたら意味がないと思うのですがそれは……って、きゃあ!!」

 追撃部隊によって放たれた攻撃によって「仁21」の船体が大きく揺さぶられ、たまらず悲鳴を上げる。

 他の僚艦も似たような状況で中には攻撃が直撃して激しく炎上して沈んだものもあった。

「全艦、残っているコンテナ全部ばら撒いて!この際、逃げ切ることだけを考えるわ!」

 敵の追撃が激しく残りのコンテナを撒いて離脱を図る。出来る事なら広範囲にばら撒いて置きたいところだがこのままやられてしまっては元も子もない。ここは少しでも攻撃の手段を作っておくことを優先したようである。

 旗艦の命令を受けて生き残っていた艦から次々とコンテナが宇宙に掃き出される。そして積まれたレーダーで敵艦を捉えたコンテナから五月雨式に内部に搭載していたミサイルが放たれ追撃部隊は対応に追われてその行き足を止めざるを得なくなった。

 そしてその隙をついて支援艦隊は二手に分かれつつ別々の方向へ進路を進み追撃の手から逃れようと始める。

「敵艦の反応3隻消失、残りは反転……な、なんとか諦めてくれたみたいね。命令だから仕方ないとは言え、もうこんな事は勘弁してほしいわよ」

 追撃から逃れて安堵した拍子にそんな事を言う。もっともこの後基地に戻った彼女達にはまた別の任務を課せられることになるのだが、それはまだもう少し後の話である。


「S48、S50、ほか宇宙艇3隻大破!艦隊より離脱します」

「イタリア軍A9が味方艦の攻撃によって損傷!火災発生中!」

「日本の突撃艦が艦隊中枢にまで接近中、ミサイルの発射を確認しました!」

 衝撃によって震える船体、喧騒に包まれるCIC、さしずめ嵐の中に放り込まれているような状況とも言える宇宙戦艦「アドルフ・ヒトラー」で独伊連合艦隊の艦隊司令はいま陥っている艦隊の現状に心の中で舌打ちを打っていた。

 不意に日本の艦隊との遭遇を皮切りに四方八方から現れるミサイル群、その対応に追われている隙に接近してきた日本軍の突撃艦隊によって艦隊は現在複数に分断されてしまい混乱を極めていた。

「外中縁部隊は何をやっていた!むざむざ接近を許しおって、急いで迎撃をしろ。中枢に被害を受ければ艦隊が瓦解するぞ!」

 日本に良いようにやられている状況に痺れを切らしたのか艦隊司令が怒号に近い声で命令を出す。

 無論、そんな命令を受けなくても既に艦隊は持てる能力をフル稼働に近い状況で迎撃を行っており「アドルフ・ヒトラー」に搭載されている砲塔が旋回し1隻の突撃艦に照準を合わせようとする。だが、その行動は艦に降りかかるようなビームやレーザーの雨によって妨害され不発に終わる。

「本艦に多数の光学兵器の攻撃を確認、左舷200kmからです。被害は認められず」

「ちっ、また妨害か。ダメージを受けないとはいえこうも執拗にやられるのはやはり目障りだな」

 攻撃をしてきた方に牽制射撃を行う艦内で顔を歪ませながら愚痴をこぼす。

 戦闘が始まってからというものの発射元が分からないミサイルや威力は弱いが絶妙なタイミングで妨害を入れて来る長距離射撃といった妨害を受けながら機動性が段違いな突撃艦を相手しているせいでどうにも戦闘効率が上がらない。

 本来ならこちら側の突撃艦をもってして相手の艦に当たらせるのだが宇宙戦艦にとっては大した威力でない敵の光学兵器も突撃艦クラスとなると無視できず自然とその動きが慎重になってしまい思うように動けていなかった。

「流れは完全に向こうに掴まれたな。このまま戦い続けても埒が明かない。ここは一旦場を変えるとするか、各部隊に通達しろ。それぞれの判断で現宙域を一時離脱、体制を立て直しつつ予備作戦に移行する。以上だ」

 現時点では勝ち目がないと判断したのかあっさりと身を引く事を決めた艦隊司令、残存戦力は30隻近くまで減ってしまっていたが予備作戦に移行できればさほど問題ではないだろう。そう自分に言い聞かせてCICから本部に向けて作戦の変更の旨を伝える通信を入れ始めるのであった。


突撃艦「若葉」CIC


「わかば、現状報告」

 薄暗いCICの艦長席で突撃艦「若葉」艦長の秋山 冬華二等宙佐が隣にいるわかばに向けて短く話しかける。

「敵艦6隻撃沈確実、ほか8隻に被害を与えましたがこちら側も支援艦隊に被害が集中しており優勢とは言えません。むしろ被害だけで見れば大損をしたのはこちらと言った所でしょうか」

「分かっていたこととは言え、流石に民間供与艦には荷が重すぎたわね。それでもここまで場を整えてくれたのだから十二分な働きといったところかしら?」

 わかばの話を聞き苦い顔をしながら秋山艦長がそう嘯く。

 作戦の第一段階が始まってそろそろ1時間は経とうとしている現在、事前に展開したミサイルコンテナと周囲に配置した5個臨時支援艦隊の援護を受けて敵艦隊の懐に入り込んだ「若葉」率いる9隻の突撃艦はそのままゲリラ戦を敢行、10隻を超える敵艦に被害を与えるも防御力が脆弱な支援艦に被害が集中して20隻近くの艦が撃沈もしくは放棄の憂き目にあっていた。

「もう少し数を削りたいところだけど向こうも体制を立て直し始めているしこちら側も被害が蓄積し始めている……この後のことも考えるとここで無理をする事は出来ないわね」

 依然として戦闘が続く中で引き際のタイミングを計る秋山艦長、性能差があるものの日本が戦闘に投入している突撃艦は宇宙戦闘艦のなかで見れば弱い分類である。今こうやって対等にやり合えているのも事前に準備して作り上げたフィールドの効果が大きい。

 だが、それも戦闘が進むにつれて効果が薄れ始めているため、下手に居続ければ被害が拡大する可能性もある。かと言ってあまり早く身を引いてしまうと今度は向こう側の侵攻を早めてしまうのが頭の痛い所である。

「?艦長、敵艦隊部隊ごとに戦域からの離脱を図っております。追撃しますか?」

 考えあぐねている艦長に向けてクルーからそんな報告が告げられてくる。念のためわかばにも確認を取らせたところ確かに戦闘によって5、6隻単位に分裂していた敵艦隊がそれぞれの集団を保ったまま距離を開けようとしていた。艦隊中枢であるはずの宇宙戦艦も同様の動きをしていることから考えても撤退、もしくは後退を行っていると判断しても良いだろう。

「(流石にこちらの用意した環境に引き込まれていることに気付かれたか、そうなると一旦こちらの勢力圏から離れて立て直しを図るはず……)――全艦に通達、敵艦隊の戦域からの離脱を確認後こちらも戦線を下げて態勢を立て直すわよ。手の空いている支援艦隊は先に第二以下の防衛線で各種準備を済ませておくように」

 敵から引いてくれるのであればわざわざ追撃する理由もないのでここはこちら側も足元を固めることに専念することを選ぶ。

 二方面戦を強いられている以上今はとにかくこちら側の被害を出来るだけ抑えつつ時間を稼ぐ。その間にどちらか片方の趨勢が決してくれればもう片方に対しも自然と戦力を投入することが出来るだろう。

「一先ず滑り出しは一応上々と言った所ね。問題はこの後か……忙しくなるわね」

 艦長席で誰に言うのでもなく一人呟く。

 作戦はまだ序盤を迎えたばかり、これから彼女たちは不安定な綱を渡るが如く僅かなミスが命取りとなる戦いを繰り返さなければならないのだ。まさに前途多難ともいうべき現状で生まれた僅かな時間の合間に艦長は短く息を吐き、肩の力を抜いた。

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