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日本国世界大戦  作者: 一機当千
本編
53/68

灼熱の豪雨

一度大艦隊での戦闘をやってみたいと思ってました(後悔はしていない、たぶん……)

3月4日フィリピン陥落数時間前 中国


「フィリピンに侵攻してきた日本軍の対処に当たっている駐屯部隊に向かわせた援軍を乗せた輸送艦隊が魚雷攻撃を受け、戦力の15%を失い撤退してきました。これによって今後のフィリピンの援軍は絶望的です……」

 とある会議室の一室で恐ろしさのあまり視線を目の前の資料に落としながら中華解放軍幹部の馬 霊峰中将は抑揚のない声で淡々と報告する。

 自国の前に位置する故にフィリピンの防衛体制は他所以上に力を入れていたにもかかわらずこの状況、自分の命の危険を感じながら静かに席に腰を下ろす。

「状況は事前に聞かされております。それでどうするのですか馬中将、このままフィリピンを落とされれば我が軍は太平洋へ出るための海路を実質全て日本に握られる状態となります。そうなれば残ったインドネシアをはじめとした占領地の維持に支障をきたすのは確実、その対応案について聞いていたはずですが?」

 少し間をおいて劉上将が口を開く。その話し方はいつもと変わらないのに身にまとっているオーラによってとてつもない威圧感を感じる。

「現在、急いで艦隊の再編成と強化を急いでおり準備が出来次第出撃させる予定ですが空軍と陸軍の被害も防衛軍の残党によって無視できない規模になってきており、それでえーと……」

「つまり何の案もないと」

「うっ……」

 どうにかして言葉を繋げる努力をする馬中将に劉上将が一言でバッサリと切り捨てる。

 事実を指摘され馬中将も流石に言葉に詰まる。だが、次第に積み重なる敗北と未だに防衛軍による抵抗が続き混乱が増す国内、こんな状況で何か考えろと言われて出せる者が一体どれほどいるだろうかと泣き言のひとつぐらい言いたくなる。

「まぁ、試験のみでここまでのし上がった若僧には荷が重かったという事だ。劉よ、ここは儂に任せてくれぬかな?妙案がある」

 そんな彼に追い打ちをかけるように話に割り込んできたものが居た。魏中将である。

「妙案――とは少し聞こえが悪いですね。何を考えているのですか?魏中将」

「なに簡単なことよ、ようは日本の奴らの戦力を大幅に削れれば良いのであろう?丁度いいところに獲物が集まってきている。それを潰せばさしもの奴らとてそう簡単に動けなくなるだろう」

 劉上将の問いに魏中将が笑みを浮かべながらそう説明する。どうやら彼はインドネシア付近に囮として展開していた日本の大艦隊に狙いをつけているようである。ちなみに魏中将は劉上将より階級は下なのだが年齢や軍歴的には先輩にあたる。そんな彼がなぜ中将という座にとどまっているというと若干人間性に問題があるからだ。特に作戦立案の際に人的被害を無視して敵の殲滅という目的のみに執着することから解放軍内でもあまりいい噂が聞えない人物である。

 そんな彼が考え出した妙案、何かとてつもない嫌な予感はするが馬中将が何も出来ない状況では他に手段がないため劉上将も仕方なく許可を出す。

 その後、作戦を行うにあたって魏中将は南海艦隊に保有している揚陸艦隊や複数の艦隊及びインドネシアの駐屯部隊の指揮権の移譲を要求してきたので馬に命令して手続きを進めさせる。

「待ってください魏中将、本当にあの日本の艦隊を撃退するおつもりですか!?相手は80隻もの数を要する大艦隊ですよ!真正面からぶつかれば負けるのはこちらの方です!」

 そのまま会議は終わり参加者が退室していく中、馬中将は退室しようとしていた魏中将を呼び止めそう言い放つ。

 囮艦隊の撃破――この案は日本がフィリピン攻略を始めた当初から解放軍の方でも幾度も議論を重ねてきていたが艦隊の規模が大きい事と動かせる戦力が少ない事を加味するとどうしても大被害は免れず諦めるしかなかった。それを魏中将はフィリピンでの戦闘が決着しそうな瀬戸際にやろうとしているのだ。いや、準備の時間を考えれば下手すれば終結している可能性もある。そうなれば増援を送られてくる可能性も有るだろう。はっきり言って無謀という以外の何物でもなかった。

「ふ、馬よ、おぬしはどうも戦いとは正々堂々とぶつかり合うことを美徳と思っている節がある。それこそがおぬしが敗北を重ねている要因である。戦争とは結局は勝ったものが正義だ。なら、手段など選ぶ必要もない。任せておけ、確かに日本は強い。それはかの国の歴史が証明しているしそれを奴らも誇りと思っている。だが、その誇りこそが奴らの弱点よ、この作戦、この儂が必ず日本の艦隊を撃滅し、退かせて見せよう」

 馬の言葉を受け魏中将がそう言い残してその場を後にした。

 勝つとは言わないのか、残された馬中将は魏中将の言葉に一抹の不安を抱くことしか出来なかった。


3月5日 インドネシア攻略艦隊


「全部隊の補給及び再編成の完了を確認!艦隊、いつでも行けます!」

「よし、全艦機関最大、これよりインドネシア攻略作戦を開始する」

 洋上に浮かぶ巨大な砦と形容するに相応しい制圧艦「大和」の艦橋で艦長兼作戦司令である真田 俊之助一等海佐が偽魂体からの報告を受けそう命令を下す。

 いま彼の下には「大和」を旗艦にした「武蔵」「金剛」「比叡」「川内」「神通」の6隻で編成された第1艦隊をはじめとした4個基幹艦隊と追随する8個駆逐隊に加え、補佐目的で編成された第3海母隊群と第2輸送隊群及び11個支援艦隊にそれらの護衛として2個警備隊を合わせた総勢185隻もの艦艇がその指揮下に入っている。

 初めにこの規模の戦力を指揮しろと命令された時はもう阿保じゃないのかとツッコミを本土に送った真田であったが、それはそれ、これはこれの精神で現在の状況に落ち着いている。

(だからってこの規模は大き過ぎだろう、艦隊の機動性が落ちちまっているぞ)

 艦橋で艦隊を見回しながら心の中でそんな危惧を抱く。

 艦隊の大半が大型艦で占められている関係上、艦同士の間隔も比例して大きくなるせいでその動きは余りにも遅い。前方に布陣した駆逐艦群が既に数十kmの距離を進んでいるにも関わらず中央付近にいる「大和」はまだその位置を数kmしか変えていなかった。後方に関しては全くの不動と言ってもいい。

 それだけならまだ我慢のしようがあるのだが、インドネシアに駐留している解放軍はその海上戦力をミサイル艇やフリーゲートなどの比較的小型で小回りの利く艦種を多量に配備していることがすでに情報機関から伝えられており、事実なら鈍足で自由が利かないこちらの艦隊にとっては深入りされて内側から瓦解させられる危険がある。それを考慮すると200隻近い大艦隊を編成したのは何かの手違いではないのかというほど不利な手段である。

「そもそも最初はスラウェシ島のみの攻略だったはずだろ、なんでいつの間にかカリマンタン、ジャワ、スマトラまで範囲が拡大しているんだよ」

「フィリピン戦時に解放軍が使用した脳利用技術を搭載された兵器群がここにも配備されている可能性が捨てきれない以上、変に戦線を接するよりも一気に攻め入った方が被害も少ないという判断です。中華製の機動戦鬼の存在もありますのでやむを得ない事では?」

 突如変更された作戦要綱に不満をいう真田に対しそばで待機していたやまとが説明口調でなだめる。

 実の所、攻略範囲の拡大された理由は彼女が言ったこと以外にも有る。なんとここ最近の連戦の影響で日本の弾薬・燃料の需要と供給のバランスが崩れ出しているせいで近いうちにいくつかの部隊が機能不全を起こしそうなのだ。

 開戦後に増産体制へと転換した各種軍事企業であったが元々の規模が小さいこともあり思うように増産できないのに対して戦闘では一切の出し惜しみもしない戦いをしているせいであった。かと言ってここで生産が落ち着くまで攻めの手を止めると今度は前線との距離の関係で輸送能力を圧迫しかねず、こうなったら最大戦力を持って叩き潰して戦線の縮小を図ろうと考えた上層部の意向が汲み取られた結果が今回の範囲拡大の最大の理由だ。

「まぁ、ともかく戦闘が起こる前にもう一度内容を確認しておきたい。やまと、頼めるか?」

「了解しました。まず、今回の目標ですが大区分で上げればスラウェシ、ジャワ、カリマンタン、スマトラ4島、いわばインドネシア全域を目標としています――」

 真田艦長の命令を受けてやまとが説明を始める。

 今回の作戦は端的にいえば殴り込み戦法だ。まず、基幹艦隊1個に2個駆逐隊をつけた戦隊を4個作りそれぞれが各目標に進撃、そのまま敵海上戦力を減少させ道を開く。

 そしてその開いた道を進みながら支援艦艇に搭載された5個航空団が空の守りと攻めを受け持ちつつそのまま陸上部隊を上陸させ鎮圧する。

 言葉で言うだけなら簡単そうだが実際は敵の猛反撃に対応しながら幾つもの艦隊、師団を途切れなく指揮をしなければならないのだ。偽魂体による補佐があるとはいえこのあたりの人材不足は早く解決してほしいものである。

「にしても、この作戦だと敵に横腹を見せる形で突っ切る形になるが大丈夫なのか?」

 作戦内容の復習もほどほどにしつつ真田艦長がそう疑問を呈す。

「それを防ぐために今回無理を言って駆逐艦たちの全VLSにSMを積み込ませたんです。これを中途半端な戦力で叩こうとすれば返り討ち必至です」

 真田の疑問にやまとがそう答える。彼女が言った通り今回作戦に参加している8個駆逐隊計32隻の駆逐艦の搭載している前後部80セルのVLSには全て1セル6発搭載できる小型汎用誘導弾(SM)を装填してある。

 32隻分の80セル全てに6発ずつ……実に15360発もの地獄のような物量を敵にぶつけることになるのだから、やられる身としては勘弁してくれと誰でも言う事だろう。

(おかげで本土に待機中の駆逐隊にまわすミサイルが足りなくなってしまいましたけど……)

 心の中で密かに呟くやまと、作戦前の情報整理のために偽魂体の統合システムで本土に居る艦艇の偽魂体の子らが自分たちの載せるべき弾薬が無くなったことに対する不満や不安を伝えていたことを知っていたからこその言葉だった。

(この作戦が終われば幾分かは楽になるのでしょうけど果たして向こうが簡単に落とさせてくれるか)

 そのまま意識はこれから始まる作戦の方に向く、敵地で活動している情報機関からは現地の部隊がいくつか不審な行動を取っているとの知らせがあるため油断は出来ない。

 思考を続けるやまとであったがその考察は一本の通信によって中断させられることとなる。前衛の駆逐艦部隊が戦闘を開始したのだ。

“こちらCIC、前衛部隊が敵の小型艦艇を察知、攻撃を開始しました。また、敵ミサイル陸海空三方から大量に接近中!”

「すぐにCICに向かう。その前に中衛部隊に連絡、全艦各種ミサイル発射せよ」

 報告を受けて真田艦長が短く命令をする。すぐにやまと以下各艦の偽魂体が自分たちの権限の範囲内において搭載されているミサイルを惜しみなく乱れ撃ちし始める。

 無論、「大和」含む中央より後方に居る艦は敵の撃ったミサイルを察知できていないがそこは駆逐艦群と繋げた共有システムを用いて座標はばっちり把握している。

 次々に撃ち放たれるミサイルの大群、その様はまさに突発的に起きる豪雨のようであった。その火薬と金属で形作られた雨によって一体どれほどの破壊がもたらされ、どれだけの命を奪う事になるのか、CICに行く前に艦橋でその光景を見てそんなことを考えた真田艦長であったが今はただ任務をこなす事に集中するべきと気を引き締めなおし艦橋を後にする。

 いまここに史上まれにみる物量戦が行われようとしていた。そしてその結末がどのようになるのかなど誰も知る由もなかった。

なんかかなり破天荒な描写がありますが仕様です(ツッコミは受け付けます。てかツッコミ待ち?)。

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