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日本国世界大戦  作者: 一機当千
本編
50/68

イシナキモノ

フィリピン・ミンダナオ島付近


 日本がフィリピン攻略を始めて早9時間、四方を海に囲まれている島の東側から島へ向かっている一団が水しぶきを上げて疾走していた。

「間もなく上陸地点だ、各車両、いつでも重力ブイの切り離しを行えるように準備して置け、敵の第1陣は恐らく無人機となる。もたもたしていると囲まれて食われるからな、気を付けろ」

 一団のリーダーと思われる隊員が搭乗車輌から自分が率いる第7師団隷下第7戦車連隊全車輌に通信を入れる。

 彼らが操る81輌の70式戦車は第1輸送隊群と行動を共にしていた第41支援艦隊の支援艦10隻から直接島へと上陸しようとしていた。このような機動展開を可能としているのは車両の両側に装着された二つの重力ブイである。これは宇宙艦のエンジン開発の際にできた副産物で重力エンジン同様、装着物に疑似的な無重力状態を付与することが出来るものの稼働時間の短さや運用の難しさが相まって戦前はほとんど見向きもされなかったが開戦の影響により陽の目を見た代物である。

 その重力ブイによって1500mもの海上を踏破した第7戦車連隊はそのままフィリピンの地に乗り込み今度は砂を巻き上げながら3輌単位で固まって前進を始めたその時、1輌の戦車が下から貫かれるように起こった爆発で吹き飛び沈黙する。どうやら地雷が仕掛けられていたようだ。

 味方がやられるところを見て停止命令を出す連隊長に第1輸送隊群に置かれた作戦司令部から通信が入る。

「HQ(司令部)から7TR(第7戦車連隊)へ、これより41AF(第41支援艦隊)による対地制圧支援を行う。貴隊は現在地から後方50mまで下がられたし」

 どうやら支援艦が地雷の掃討を受け持ってくれるようだ。

 通信を受けて部隊に命令を出そうとした連隊長だが結果的にその命令は事後報告となった。偽魂体が一律に管制を始めて第7戦車連隊の80輌すべてが一斉に下がり始めたからだ。そしてきっかり50m後退するのを待っていたかのように支援艦隊から放たれたミサイルが彼らの前方に着弾していき地雷が誘爆していき辺りに爆風が立ち込める。

 支援攻撃が終わるのを確認した後もう一度前進を始める。先の攻撃で地雷を掃討し終えたのか地雷による被害は最初の1輌のみで済んだ。だが、今度はどこに隠れていたのか中華解放軍の無人兵器群が次々と姿を現し連隊に襲い掛かる。

 不意打ちに近い形で襲われる連隊だったが速やかに小隊ごとに散開して対処に当たる。小型が多い敵の無人兵器であるにもかかわらず連隊の70式戦車はまるで射的をするかのように次々と砲弾を直撃させ沈黙させていく。それも時速60kmの速度を足が取られやすい砂浜での射撃である。これではまともな勝負になるはずもなく結局中華解放軍が連隊に負わせた被害は中破を8輌出させたのみで終わった。

 そして橋頭堡を確保した日本は間髪入れずに第1輸送隊群及び5個支援艦隊に乗艦していた第7師団の上陸を開始する。上陸している間も解放軍の無人兵器による妨害はあったがどれも各艦から発艦した支援群の戦闘ヘリによって無力化されることとなった。

「隊長、砲火・特火の上陸が完了しました。司令部より第2段階へと移行せよと通達が来ています」

 部下からの報告を聞き無言で頷く連隊長、どうやら上陸は順調に進んでいるようだ。

「よし、了解した。各車に通達、これより第2段階へと移る。各小隊は歩兵隊と協力しつつ島内部へと前進する。視界の悪い状態での戦闘になる。しっかりデータリンクを保ちながら進め、以上!」

 連隊長の言葉を合図に第7戦車連隊の戦車はそのエンジンを大きくふかしながら前へと進み始めた。


フィリピン南方・第10艦隊


 第1輸送隊群主導による第7師団の上陸の最中、第10艦隊及びその下についている第4駆逐隊、第8潜水隊の13隻は護衛対象である上陸部隊から離れ、南に200km下った先に現れた敵艦隊の対処の為、30ノットで航行していた。

 レーダーの反応から艦種は全て小型艦と分かっているが何しろ100隻をゆうに超える大艦隊のせいで下手に近づければいらぬ被害を出しかねないという判断の下、たまたま近かった第10艦隊とその従属部隊が迎撃を受け持つこととなった。

「敵艦隊、40ノットで依然北上中!」

「すでに射程に入っているはずなのにまだ近づいてくるか……まぁいい、全艦、対艦攻撃用意、弾種SSM-2」

 「駿河」艦橋で報告を聞いた艦隊司令長官が攻撃命令を出す。すぐにデータリンクを通じてそれぞれの艦が狙いを定める。

 そして50秒後、照準を付け終わった艦から次々と対艦ミサイルが轟音と共に空中に打ちあがり、そのまま海を這うように敵艦隊へと向かって行く。

「SSM-2着弾まであと30秒――?」

「どうした?」

 隣でミサイルの状況を確認していた偽魂体の戸惑った様子に司令が質問する。着弾まではまだほんの少し時間があることから迎撃の一つくらいなら予想はつくがそれにしては反応がおかしい。

「いえ、それが対艦ミサイル敵艦隊20km先で全弾反応消失……なのですが、敵艦隊が迎撃ミサイルを撃った反応が無いのです」

 司令に問われて恐る恐る彼女が答える。迎撃自体は普通の事だがミサイルを撃った反応が無いというのは確かにおかしい。反応が無いのなら恐らく敵はミサイルを撃たずに迎撃したことになるがそうなると手段は砲による射撃のみという事になる。だが、そうなるとわざわざ砲撃のみで迎撃する理由が見つからない。

 話を聞いて敵の意図を探る司令であったがその思考はCICからの通信によって遮られた。

“本艦後部甲板に被弾多数!!現在、小火災が発生中!”

「レーダー何をやっていた!敵の攻撃手段は分かっているのか」

 CICからの連絡を受けて司令が怒鳴る。

 40000tもの巨艦故に受けた被害は微々たるものであったがそれでも何も察知できずに一方的な攻撃を受けたのだから怒鳴るのも仕方がない。だが、司令の言葉を受けて返ってきた言葉は不明の一言のみ、すぐに調べるように命令しようとしたところに今度は艦前方で起きた爆発と共に偽魂体からの報告が届けられる。

「前部甲板に連続した小爆発、第1砲塔1門が損傷!落下物の形状から砲弾と思われます!」

「誘導砲弾でも使ったのか!?だが、なぜそんなものを……」

 艦橋で飛び交う報告の嵐の中で司令が一人呟く。

 両艦隊の距離はおよそ150kmと砲弾の種類によっては当たらない距離ではない。しかし、やはり長距離戦の主役はミサイルであり、仮に砲弾が使われるとしても補助的な運用が主体である。一昔前まで存在したミサイルを積んでない艦船ならまだ砲弾の使用も理解できるが今ではミサイル技術の発展によってやろう思えば漁船にすら強力なミサイルを詰める時代にそんなものを用意するとは思えない。

「いえ、着弾直前まで誘導電波の類は確認できなかったので通常砲弾だと思います。また、敵艦からも射撃レーダーの照射もありませんでした。そのせいで敵の攻撃の予兆を察知できずに砲撃を受けてしまったのですが――恐らく探査レーダーによる位置データのみで射撃を行ったと考えられます」

「おいまて、それではなんだ?敵はこちらの位置情報のみで無誘導の砲弾を直撃させたというのか?そんな無茶苦茶な芸当など――」

 不可能、とは言わなかった。なぜならその無茶苦茶な芸当を実際にやって見せる存在が傍にいるのだから、だがそれゆえにそんなことはありえないという結論に至ってしまう。

 どうにか相手の意図を探ろうとするがすぐにそんな些細な事は気にすることが出来なくなる。敵艦隊によって撃ちだされた砲弾が雨あられとなって第10艦隊に降り注ぎ始めたのだ。そしてその全てが直撃してくるので慌てて回避行動に移る。

「敵弾の飛来を目視で確認!「氷雨」「大雨」炎上中!」

“「吾妻」後部甲板に被害!「利根」「筑摩」共に戦闘能力喪失!」

「迎撃は出来んのか!!」

 艦橋、CIC両方から報告がくるせいで混乱している中、誰にも負けないように司令が大声で叫ぶ。こうしている間にも艦隊は依然として鉛の雨に晒されているためこれでも周りの者に聞こえているのか怪しい。

 ミサイル程の威力は無いため「駿河」などの制圧艦はまだ大きな傷を受けていないが何しろ降ってくる量が恐ろしいほど多い。そのため駆逐艦をはじめとした小型艦の被害が大きくなり始めているにも関わらず防御行動をとらない事への苛立ちが募っていく。

“目標が小さい影響なのかレーダーで補足してもノイズとして処理されているらしく迎撃が取れません”

 司令の声に呼応するようにCICから返事がくる。どうやら迎撃しようにも迎撃が行えない状況に陥っているようだ。

 確かに偽魂体からの報告では降ってくる砲弾の大きさは最大で120mm、全長では1mにも届かない。この大きさを捉えるのはかなり至難の技であり、それ以前に艦隊による砲撃戦など1世紀近くなかったこの世界では仮に捉えたとしても今回のようにノイズとして処理されるのが関の山である。

 もし今降ってきている弾種が誘導砲弾であったら発せられた電波を探知して対処できたかもしれない。だが、残念な事に今艦隊を襲っているのは何の変哲の無い普通の砲弾である。そのおかげで動き回れば回避することはできるが敵も数の暴力によってその穴を補っている。無論、こちらも攻撃を続けてはいるがその数の多さに押され始めていた。

「何とかならないか?するが」

「現在、レーダーシステムを改変中ですが、もうしばらく時間が掛かります。完了まで約10分!」

 何か策がないかと傍で控えていた彼女に聞いてみるとどうやらすでに対処に当たっているようだが、果たして間に合うかどうか……すでに艦隊は駆逐艦が3隻、巡洋艦2隻と潜水艦1隻がその戦闘能力を奪われ今ではただ逃げるだけの鋼鉄の船と化している。

 艦隊が動けなくなるのが先かそれともこちらの対応が間に合うか、勝負の行方はその結果に委ねられていた。そして、北方でも常識はずれな襲撃者によって大きな混乱に陥っていた。


フィリピン海上空


南方で第10艦隊が戦闘をしていた時、北方に展開していた第12艦隊をはじめとした部隊もまた、突如襲撃してきた敵の対処に追われていた。

「くそ、何だ!あの戦闘機は!?マッハ6は出ているぞ!」

 上空を縦横無尽に機動させている機体の中で早乙女三尉は突然現れた解放軍の新型機と思われる敵機に翻弄されながらも何とか平静を保っていた。

 通信では艦隊・航空隊共に混乱しているのか回線が複数混ざってしまい最早通信の態をなしていなかった。普通なら通信回線は偽魂体によって混線しないように対策されているはずなのだがそれがなされていないという事は偽魂体も混乱しているのだろう、この事実だけで今の状況がどれだけ異常なのかが察することが出来る。

 それもそのはずで今早乙女達を襲っている敵機、余りにも速すぎるのだ。混乱している通信から辛うじて得た情報では平均でマッハ6、中にはマッハ6.9を叩き出しているものも確認したらしい。更にその驚異的な速さを維持しながら曲芸飛行張りの機動を見せているせいで見る見るうちに日本の航空機が食われていく。

「ナイトリーダーからサンダー2、敵機が速すぎて照準がつけられない。そちらで誘導できないか?」

 敵機を撃とうにも照準そのものがつけられないので後方で支援している警戒機にダメもとで連絡を入れてみる。混線しているせいでしばらく間が空いたが何とか届いたようで雑音を混じらせながら返答が返ってくる。

“サンダー2からナイト――ダーへ、こちらも補足し――しているが――すぎて、補足が間に合わ――――”

 ブツリ、と不愉快な音と共に通信が途切れる。

 理由は考えたくもなかったが警戒機を介して繋がっていたデータリンクが途切れた所を見ると撃墜されたのだろう。

 すぐに別系統のリンクが接続されるが先ほどと比べて精度は幾分か下がっていた。だが、嘆いている暇もなくいつの間にか後ろに迫っていた敵機に気付いて慌てて機体を左に傾けて回避する。

 敵機はそのまま通り過ぎていき別の機体を狙おうとしていたが幸運にもその際に早乙女の照準に入ってきた。

 すかさずミサイルを放ち撃墜を狙うがミサイルは敵機が少し旋回しただけでその目標を見失い、ただグルグルと周りを飛び回る事となる。

「うん、分かっていた。ミサイルより敵機の方が早いなんて事は――って、うおっと!」

 予測されていた結果を改めて確認した早乙女、これで今の日本には対抗手段がない事がはっきりしてしまった。

 その事実にどうしたものかと頭を悩ませていたその刹那、早乙女の機体に向けて光の筋が襲い掛かる。どうやら再び狙われていたようだ。

 寸での所で躱せたため直撃こそはしなかったが主翼部分に被弾を許したようで翼から黒煙が噴き出していた。

 母艦へと戻ろうと一瞬考えたがすぐに機体がもたない事に気づき、緊急脱出装置を作動させて早乙女の身体は上空へと放り出される。着水するまでの間、早乙女は操縦者を失い墜ちていく自分の機体を何とも言えない気持ちで見届けていた。


「味方航空隊、損耗率3割を超えました。これ以上の戦闘は危険です!」

「今ここで航空優勢を取られるわけにはいきません、もう少し堪えるように伝えてください。第12艦隊、第15・16駆逐隊は対空射撃を強化!ミサイルは役に立ちません、ビーム系統の攻撃をばら撒いて対処を行ってください」

 味方の航空隊が苦戦している中で第12艦隊の旗艦「肥前」の艦橋で偽魂体ひぜんがそう指示する。

 指示を出している間も彼女は艦の両舷に装備された30mm多目的連装砲20基40門を使って上空を恐ろしい速度で飛び回っている敵機に向けて射撃を行っていた。だが、その狙いはほとんど適当でまぐれ当たりを期待してただひたすらに撃ちまくっているだけであった。

「敵機の総数、予測でいいから分からないの?」

“あなたが分からないのにこっちが分かるわけが無いでしょうが!今レーダーに捉えている数でなら7機ですけど”

 CICから文句を言われるが言い返している暇もないので黙殺する。

 敵はどうやらミサイル類を装備していないのか直接的な攻撃はしてこないものの厄介な事に自身を犠牲にして体当たりをしてくるため、呑気に構えているわけにもいかなかった。

“「雲空」が敵機を1機撃墜!「山空」「島空」が敵機と激突、大破炎上中!”

「とにかくひたすら撃ち続けて!特に海面付近を飛行している敵機は体当たりを仕掛けてくる可能性が高いから優先的にばら撒きなさい!!」

 対抗手段が思いつかずひたすら力技でねじ伏せようとする。もう艦隊行動など意味をなさない状況でなお、ひぜんは艦隊旗艦として役目を全うしようとしていた。


フィリピン南方・第10艦隊


「全砲門、第4斉射――てぇー!!」

 するがの声を合図に制圧艦「駿河」「近江」巡洋艦「吾妻」「浅間」の持つ12門の砲から勢いよく砲弾が撃ちだされる。

 撃たれた砲弾はそのまま80km先に居る敵艦隊に向かって飛んでいき殺人的な破壊力を持って艦隊に降り注ぐ、かれこれ既に4回もの砲撃を行い敵の大半を沈黙させたがそこに至るまでに受けた被害は尋常ではなかった。

 まず、巡洋艦「利根」「筑摩」が戦闘能力を喪失するほどの被害を受け離脱、駆逐艦「小雨」「大雨」が敵の砲撃が集中して沈没、「氷雨」も大破判定を受けた。ほか、潜水していた潜水艦「幸鯨」が流れ弾に見舞われて船体に亀裂が入りそのまま沈んでしまった。

 ここまで大きな被害を受けた第10艦隊であったが結局のところ敵の攻撃を防ぐことはとうとう出来なかった。

 レーダーシステムを改変して捉えることは可能になったがミサイルと砲弾では数もコストも差があり過ぎて迎撃らしい迎撃は行えなかった。

 どうにかして次の手を考えていた第10艦隊の面々であったがそこで敵の砲よりもはるかに巨大で強力な砲を自分たちが持っていることを思い出す。

 なんせ、今回の主要任務は護衛ぐらいだったので砲の使用という考えがすっかり抜け落ちていた。このことに気付いた偽魂体達はそんな簡単な事を思いつかなかったことに悔しがりつつもすぐに行動に取り掛かった。

 積み込んでいた砲弾種が対地用であったため効果は減少すると思われていたがそれでも巨大な砲弾が直撃すれば装甲のない現代艦にとっては関係なかった。

 そして今に至るわけだが……

“第5斉射、敵艦8隻に直撃しこれを撃沈、ほか6隻余りが余波により沈黙”

“敵の砲撃止まっています”

「砲撃停止」

 CICからの報告を聞き事態の推移を見守っていた艦隊司令長官が命令を出す。命令は速やかに実行され艦隊に静寂が訪れる。

「レーダー、敵の動きに変化は?」

“残存している18隻全て撤退の様子はありません、ですが一部の艦が漂流しているのか不規則な蛇行をしております”

 司令の質問に対してCICからすぐに返答が返ってくる。いつの間にか100隻を超えていた敵艦はその数を18隻にまで減らしていた。まぁ、200mm以上もの砲弾をまともに受け続けていたのだから当然の結果ではある。

「全艦、警戒をしつつ待機せよ、今のうちに被害の確認を済ませといてくれ」

“了解――あ、敵艦の1隻が蛇行しながら本艦に接近中、武装は……全損しております”

 唐突にそんな話が入ってくる。件の艦は「駿河」左舷より30kmと割と近いところまで接近していた。偽魂体から更に詳細な報告が入り大きさは凡そ100mで武装は前部甲板に砲が1門のみとかなり単純な構造である。ついでに生体反応が無いかと調べさせたところそれらしい反応は無かった。

「あれ、鹵獲した方がいいか?」

 散々自分たちを苦しめてきた敵が無残な姿を晒しながら近づいてくるのを見て司令が一人呟く、かなり小さく呟いたつもりであったが傍にいた偽魂体には届いたらしく少し間が空いてから声が返ってくる。

「脅威になりそうなものは確認できませんので命令とあらば実行しますがいかがなされますか?」

「するが、悪いが何人か連れて調べに行ってくれ、あの砲撃の仕組みがどうも気になる」

「了解しました。ではすぐに向かいます」

 司令の命令に短く答えた後、彼女は遠隔操作で内火艇を下ろしそのまま漂流している敵艦に向かっていた。


――そして20分後

“こちらするが!応答を願います!”

 向こうからの報告を待っている間、静かになっていた艦橋に突如慌てた様子のするがの声が響き渡る。

“こちらCIC、するが何があった?報告せよ”

 艦橋で待機していた司令より早くCICから反応があった。声からして艦長だとは思うが長年の付き合いである相棒の様子にその声には少し戸惑いがあった。

“あ、艦長、それが……一先ず映像を送ります。話はそのあとで”

“了解した。おい、映像届いたか?”

“はい、今さっき来ました。画面に映します”

“……なっ!?”

「おい、こっちを置いて話を進めるな、何があった」

 しばらくやり取りを見ていた司令が痺れを切らして話に割り込む、様子からしてただならぬことが起こっていそうだが艦橋ではその様子は分からない。

“申し訳ございません、おい、この映像向こうでも映してくれ”

“はっ!直ちに”

 そんな短い会話がCICで行われた後、艦橋にも件の映像が映し出される。

そしてその映像を見た誰もが言葉を失い絶句していた。溶液が満たされたカプセルに浮かぶ何本もの電極が刺さった人間の脳の映像はそれほどまでの威力を持っていた――

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