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日本国世界大戦  作者: 一機当千
本編
48/68

攻めゆく双璧

2月28日 南西諸島沖上空


きらめく海原が眼下に広がっているのとは反対にその上空では幾つもの飛行機雲と黒煙が描かれていた。

描いたのは無論中華解放軍の無人戦闘機群と日本の沖縄の防空を担う第9航空団に加え第11海母隊2隻に展開された第11、12航空団である。

沖縄を奪還してから日中両国間による航空機の小競り合いが依然として続いていたがいつもなら十機に満たない戦力での戦闘だったのに今回はその数倍の数を中国側が送り込んできた結果、第9航空団だけでは対処しきれないという事で第3作戦に参加するためにタイミングよく沖縄に寄港していた第11海母隊の航空団が支援に駆けつけ奪還作戦以来の航空戦が繰り広げられることになった。

そんな大規模な航空戦に自身の新しい乗機である95式戦闘機「氷花」を操り最後の敵機を打ち落とした早乙女 勝彦一等空尉は最後にレーダーで他の敵機がいない事を確認した後、自身が指揮することになった第11航空団第11航空戦闘隊の被害状況を当機偽魂体であるひょうかに問い合わせていた。

彼の指揮する戦闘隊には彼以外のパイロットはいないがそれでもこれから作戦に参加する手前、被害の有無は気になるところでありすぐに無線を通じて報告がやってくる。どうやら2機を落とされた上に3機が軽い傷を受け比率としては25%の被害と言ったところだ。それでも他の航空隊と比べればまだ低い方なのは幸いと言ったところか。

幸い人的被害はなく失った機体の補充も本土の方から送られてくるという事なので早乙女一尉はそのまま自分の機体を母艦に向かわせる。機体から見下ろした沖縄の港には第11海母隊が所属する第1海母隊群と複数の支援艦隊、第12艦隊や多くの駆逐艦が整然と並んでいた。


「第3作戦であるソウヘキ作戦の参加部隊の準備がつい先ほど完了しました。あとは正式に発動の承認を待つだけになります。総理」

「うむ、了解した。そういう訳ですが皆さんもよろしいですかな?」

東国産大臣の報告を聞き鴉山総理が会議の参加者を見わたして発言する。参加者の態度はそれぞれであったが概ね承認というところだろう。

東大臣に作戦の開始を命じた後、更に追加で報告が上がる。

「実を言うと作戦の都合上、沖縄に一部の部隊を秘密裏に派遣していたのですがそれを境に解放軍による航空戦力での威嚇が頻発しており準備が完了した今日においては大規模な戦闘が勃発しました。本省の見解としてはこちらの情報が向こうに流出している可能性があると考えています」

「情報の流出だと?それでその経路は判明しているのか?」

その話に閣僚の一人が半信半疑な表情で質問する。日本の情報秘匿術は偽魂技術の誕生によりそれ以前とは比べ物にならないほど強化されており今ではスパイ天国ならぬスパイ地獄というほどに変容しているためその実感が湧かないのだろう。とは言えそう言われ出したのもほんの20年前とつい最近なのだが・・・

「現在、各分野の偽魂体と協力して調査しておりますがどれも推測の範疇を超えず不明のままです」

「そうか・・・作戦の方に影響はないのだな?」

東大臣の答えに更に質問を重ねる総理、今までも情報漏えいなどは数多くあり世間を騒がせていたが命のやり取りである戦争ではその漏えいが命取りである。最高司令官としての任も任されている身であるうえ不安は大きい。

「こちらも問い合わせてみましたがどうやら情報の漏えいも踏まえての作戦計画であるようですので現状は何とか制御できる範囲内に押しとどめているとのことです」

「ならいいが・・・」

最後まで不安をぬぐえぬ様子の総理、それでも事態は刻一刻と進んでいく。そして三日後の朝、大空に軌跡を描きながらその作戦は発動された。


3月3日 フィリピン海沖


「全艦載機、発艦はじめ!待ちに待った前線よ、がんがん飛ばしちゃって!!」

海洋母艦「瑞鶴」の偽魂体であるずいかくは自身の艦の格納庫から続々と甲板上に上げられてくる航空機群を見ながら激を飛ばす。

自艦の少し離れた所には2番艦である「翔鶴」が同じように艦載機を飛ばし、その周囲を守るように第25、28駆逐隊の「吹雪」「白雪」「初雪」「深雪」「島風」「初風」「浜風」「磯風」八隻とそれを補完するように第40支援艦隊所属の十隻が展開している。

ずいかくたちの艦隊の前後には第12艦隊と瑞鶴型の後継である青鷺型甲式海洋母艦を筆頭に新しく創設された第4海母隊群がそれぞれ護衛の部隊を連れて行動している。

これだけでも大艦隊にも関わらず今回作戦に参加している戦力の半分でしかないのが驚きだ、艦隊から南方に数百km離れた所には更に第10、11艦隊と第1輸送隊群に加えて隷下についた3個駆逐隊、2個潜水隊と5個支援艦隊が第3作戦の目的であるフィリピン救援の部隊全容である。

これほどの戦力を投入するのだから作戦も無事に完了すると思いたいところであるが今回の目標であるフィリピンは中華解放軍が特に防衛能力向上に力を入れていた地である。その戦力も馬鹿にはならず実の所戦況は一進一退と膠着していた。

「敵航空機、次々と上がってきています。第12艦隊及び第11,12航空団の戦闘・支援隊間もなく戦闘開始します」

「第42海母隊に機動戦鬼の発艦要請、第13海母隊は対潜ヘリによる哨戒活動を優先するように伝えて、敵潜を近づけたら大惨事よ」

部隊旗艦らしくずいかくは命令を下す。命令は速やかに遂行されて状況を写すスクリーンに味方の航空機を示す光点が追加される。同時に部隊の前を飛んでいる航空機群からは敵味方それぞれのミサイルの発射を示す線が引かれていき光点に当たっては消えていく。自身の艦載機たちの様子を写し続けるスクリーンをずいかくは目を離さずに見守っていた。


同日 第12艦隊上空


“サンダー1より各隊へ、現在フィリピン諸島上空で敵航空戦力が結集中、数100、各自注意されたし”

後方で周回飛行している85式警戒機「雷光」のレーダーが捉えた敵機の情報が無線を通して早乙女三尉のコックピットに届く、彼の機体の周りには彼と同じ第11航空戦闘隊をはじめとした80機の戦闘機・支援機が少し遅れて飛んできている攻撃隊の護衛の為に飛行していた。

戦力差はさほど離れていないが周辺海域には敵の艦船がいるためあまり先行し過ぎるとそちらのミサイルによって落とされる可能性があるので注意しなくてはならない。

「ナイトリーダーからサンダー1へ、こちらの準備は完了している。そちらの合図で攻撃を開始する」

“サンダー1了解、各リーダーあと2分で射程に入る。入り次第速やかに攻撃を開始せよ”

通信でそう伝えられると同時に「雷光」を通して目標をロックする。早乙女機がターゲットとして振り分けられたのは2機、やけに機動性が高いので恐らく無人機の類であろうと推測する。

考えているうちに射程に入り即座に機体に装備されたAAMを4発撃ち放つ、4発撃ったのは相手の機動性による回避を想定してのことだ。

ミサイルを撃ったらすぐに欺瞞工作をしながら操縦桿を倒して機体を翻す。射程に捉えているのは相手も同じで既にコックピットにはミサイルの接近を知らせるアラーム音が響きまくっている。

回避のために機体を揺らしまくりながら流し目で他の味方の様子を確認する。それぞれの機体が近い状態からの回避なため注意しないと味方同士で激突する危険があるからだが、目まぐるしく変化していく景色の中で彼は回避しきれず落ちていく味方機を何機か確認する。

早乙女が撃たれたミサイルを回避し終えた時には空には撃ち落とされ海へと沈んだ味方の機体が残した黒煙のすじが幾つも見受けられた。「雷光」からの報告では21機もの機体が落とされ2名のパイロットがその命を散らしたが代わりに43機もの敵機を落とすことに成功する。

このまま格闘戦と行きたいところではあるが敵の艦隊も近い事と目的が攻撃隊の護衛であることを踏まえて、ここは一度引いて後は眼下に展開している第12艦隊に任せることになる。対艦攻撃を終えて撤退する攻撃隊を確認した後同じように早乙女も己の母艦へと機体を翻し飛び去って行った。


「味方航空隊、撤退開始しました。他前方に展開中の敵艦隊及び航空隊、我が艦隊に接近中!!」

「対空、対艦戦闘用意、ひぜん、対空目標は護衛部隊に担当させ第12艦隊は対艦攻撃に集中させろ」

「了解しました。艦長」

艦長の指示に従い制圧艦「肥前」の偽魂体が指揮下に置いている艦にそれぞれターゲティングした目標を振り分けていく。

第12艦隊についている2個駆逐隊計7隻から一斉に対空ミサイルが放たれる。57機の目標に対して114発のミサイルが迫っていき次々に目標に直撃していく、その中でも生き残った機体から対艦ミサイルが放たれるがそれも艦隊に近づく前に迎撃していき10分後には空を飛ぶものはいなくなっていた。

だがそれも一時でまた新たなものが飛んできていた。日中両艦隊がそれぞれ対艦ミサイルを撃ち始めていたのだ。その存在をレーダーが次々と捉えてお互いの乗員に伝えていきミサイルの応酬を重ねていく。

「敵ミサイル第1波全弾、第2波第3波合わせて7割撃墜!」

「我が方のミサイルおよそ8割落とされました」

レーダー、砲雷両方から報告が上がる。

「ミサイルの性能差があるとはいえここまで数に開きがあるとやはり決定打に欠けるな・・・」

「はい、統合司令部経由からの情報ですと解放軍はフィリピンに展開させている海上戦力の8割を東北方面、即ち沖縄から出撃した私たちに向けているようです。その為ニューギニア島西部から出撃した第10艦隊などは比較的有利に戦闘を進めていると思われます。それに現在、後方に展開している第11、41海母隊から第2次攻撃のために発艦作業中とのことですので戦力差もその内埋るものかと」

艦長の懸念を払拭するかのようにひぜんが言葉を並べる。それを裏付けるようにスクリーンには味方の航空隊を示す光点が再び現れ敵艦隊へと向かって行く。

「作戦の要である輸送隊群がいる向こうが順調ならいいだろう、今は目の前にいる艦隊を釘付けにすることを優先する。第15、16駆逐隊に対空ミサイル発射命令、航空攻撃を支援するように伝えろ。むざむざ味方の被害を増やさせるな!」

「了解、第15、16駆逐隊統合管制により対空ミサイル発射用意、目標、敵対空ミサイル!」

ひぜんの管制によって再び駆逐艦たちがミサイルの発射炎に包まれる。作戦は次の段階へと移ろうとしていた。


「敵揚陸部隊の接近を確認、距離500!」

「クソ!海軍は何をやっているのだ!むざむざ接近を許しおって」

部下の報告を聞き中華解放陸軍フィリピン駐屯部隊司令官のリョ 閔行ミンハン大校が前線で戦っているであろう海軍連中に向けて文句を言う。

フィリピンを防衛するため彼には今2個師団、約4万名もの兵士の指揮を任されておりうち半数を海岸線から20km離れた所に展開させている。離れた所に置いているのは沖縄でやられた日本の対地制圧を回避する目的もあるがそれとは別に前線付近に陣取らせている無人兵器群の戦闘の邪魔をしない為でもある。

「各部隊には射程に入り次第全力で撃ちまくれと伝達しておけ、撤退や後退は他の部隊と連携しながらすることもな」

「は、はい!ところで海軍の方から交戦中の敵艦隊へのミサイル攻撃の要請が来ているのですが・・・」

「敵に居場所を教えるようなことを要求する奴の戯言など無視しろ!今は可能な限り敵の上陸を長引かせるのが先決だ!」

海軍からの要請を蹴る慮大校、そもそも初めはインドネシアに配備されている艦隊との協力を前提に北東へ大多数の戦力を向かわせたのにどういう訳かその肝心なインドネシアからの増援が来ないという状況、理由を海軍に聞いても隠そうとするばかりで教えてくれないうえにそれで追い詰められているのだからもはや自業自得としか言いようがない。そういう事ならこっちもこっちで自由にやらせてもらうと決断し実行に移すのであった。

だが慮大校はこの時一つ勘違いしていた。海軍は理由を隠そうとしていたわけではない、むしろその海軍自身も理由が分からなかったのである。

その原因であるインドネシアでもまた日本による作戦の余波が及んでいたからだ。


インドネシア バンダ海


今この海域には第8艦隊を筆頭に第3海母隊群、4個駆逐隊に5個支援艦隊合わせた総勢76隻が陣取っていた。

艦隊からおよそ600km西に行くと中華解放軍がインドネシアでの最前線としているスラウェシ島があり海を隔てて両軍がにらみ合っている状況である。

そしてこの状況ゆえにインドネシアにいた解放軍艦隊は動くに動けなかったのである。インドネシアに居る中華解放軍艦隊はその拠点をスラウェシ島、カリマンタン島、ジャワ島においておりフィリピンへの増援はカリマンタン島から向かわせる計画だったがそこにこの大艦隊である。

地形の関係から中型艦程度しか配備していないスラウェシ島の艦隊では防げるわけないためやむを得ず艦隊を動かさずに待機させているのだ。それに加えどういう訳か通信もできない状況に陥っていて完全に動きを封じられてしまっている。そしてこの状況は日本が望んでいた最も理想に近いものであった。

「だからって囮の為にここまで大戦力を普通遊ばせておくかしら?」

乗機である0式機動戦鬼「烈」のコックピットでレーダーをいじりながら白瀬隊員が一人呟く、現在彼女は艦隊上空を飛行しながら対空警戒の任務中であった。

今回の作戦で命じられたのはあくまで敵戦力の釘付けであり制圧は出来ると思ったらやれというぐらいでそこまで重要視されていない。

そんな訳で航空優勢を図りつつ相手の動きを注視しているわけだが同然ながら相手もわざわざ仕掛けてくるという事は中々してこないので割と暇な状況、北へ1000km離れた所で戦闘が行われていることを考えると少し申し訳ない気持ちにもなる。

“白瀬隊員、大丈夫?異常はないかしら?”

機体の補給をするために母艦に戻っていた佐川隊長が作業を終え彼女の下へと戻ってきてそう質問する。よく見ると装備も第二仕様から第三仕様である烈士式に替えられていた。

「あ、隊長戻ってきていたのですか?何か異常があれば前方に展開している他の部隊から連絡があると思いますのでそれまで待機していられても良かったのに」

“あらあら、そう?まぁ確かにこんな大部隊相手に余裕のない状況で戦闘を仕掛けるなんて普通は避けたいわよねぇ・・・”

「そのおかげで私達完全に遊兵になっちゃっていますよ、ここまで大きな部隊を編成する必要はなかったと思うんですけど」

白瀬が飛んでいるときから思っていた疑問をぶつける。今回の任務は敵のフィリピンへの増援の妨害だが、作戦が終わればこの部隊がそのまま攻略部隊へと鞍替えされるのでその準備も兼ねていると佐川隊長が彼女の疑問に答えるように説明する。

“まぁ攻略時には多少の増援はあるかもしれないけどね・・・それより白瀬ちゃん、出撃前の休暇での黒瀬三尉とのデートどうだった?進展でもあったかしら?”

唐突に佐川隊長が意地の悪そうな声で話を180度変えてきたため白瀬が何も飲んでいないのにもかかわらず咽る。

「に、任務中ですよ、隊長!!そ、それに山戸さんとはたまたま市街地で出会ってそのまま一緒にいただけでデートでもなんでもありません!」

慌てて釈明する彼女とそれを面白そうに聞いている隊長の下に突如アラームと共に通信が入る。どうやら敵が痺れを切らして動き出したようだった。

“あら、まさか打って出るなんて意外ね、白瀬隊員、装備の方は烈火式だけど平気?もし不安なら一度戻っても・・・”

「いえ、大丈夫です。機動性に劣る烈火式と言っても「天命」よりは上ですのでこのままで十分行けます」

佐川隊長の提案を断り各装備のチェックを始めている白瀬隊員、今回彼女の「烈」が装備しているのは火力を重視した第一仕様の烈火式で内訳は100mm機関砲1門と50mm機関銃2丁にそれぞれの予備弾倉が3つずつ、他に5000mm長刀が2振りと内装型短刀が10振りにミサイルパックを背負っていてこれに防御用の複合素材型装甲シールドを加えたものとなっている。

そう言う事で佐川隊長と共に現場へと急行すると既にそこでは味方の機動戦鬼と敵の航空機が戦闘を繰り広げていた。

今回の敵はその大半が有人機らしく無人機ほど無茶な機動は取らないにせよ人というプログラムでは動かない者が操る故にその動きは無人機より予測しづらい、対してこちらは旧式となりつつある「天命」や「命」などであり最新鋭の「烈」は白瀬達を加えても8機しかいない。

白瀬達もすぐに戦闘に加わる。特に白瀬の烈火式の「烈」はその継戦能力の高さが大きなアドバンテージとなり手数の差で敵を圧倒し始める。

戦闘に参加してから5分後8機目の敵機を落とした彼女は敵機に追われていた「命」の援護にまわって敵機にミサイルを撃ち込んだあとその機体に合流するとどうやら有人機だったようで無線越しでお礼を言われた。

“す、すまない。助かった”

「左脚と右腕に被弾、スラスターも出力が下がっているわね、今のうちに撤退しなさい。わかった?」

よく見ると所々損傷が見られたので撤退するように指示して再び戦闘に戻ろうとすると機体に備えられているセンサーが何かを捉えたのを確認して反射的に機体を右に旋回させる。次の瞬間彼女が元いた場所を赤い熱線が通り過ぎていき、そのまま後方に撤退中だったさっきの機体を貫いた次の瞬間には爆風に飲み込まれバラバラとなった残骸が海へと落下していく。

「2、20km離れた先からのビーム攻撃!?ここ大気圏内よ?どんな化け物よ」

白瀬が驚いた様子でそのビームを撃ってきた奴を探し始める。少ししてレーダーが新たな敵を8機捉えるがその機動が少しおかしい、高速で直進していると思ったらそのままの勢いで垂直に上昇するという航空機では無理な機動をしていたのだ。

敵がその形が分かる距離まで近づいてきてその姿を捉えると同時に一瞬白瀬は自分の眼を疑った。機体の横には2本の腕、航空機のエンジンがあるべき後方には脚のような何かに加えて頭を模したものがついた完全な人型をしていた。

「き、機動戦鬼!?なんで中華解放軍が持っているのよ!・・・まさか!!」

心なしか日本が保有する「命」と似たような意匠をしているその機体を見て彼女の頭の中であることを思い出す。沖縄の奪還作戦が終わって少しした頃、沖縄で復旧作業に関わっていた支援群の同期から撃墜されたはずの岩瀬隊長、香や鈴の機体が見つからないことを聞いたのだ、彼女達と同じように落とされた白瀬を含む他の機動戦鬼は程度に差はあれども何かしらの形で回収されているのにも関わらずその三人の機体だけはネジの一本すら見つからないのだという。

彼女たちが落ちた所は市街地でありおまけにその時は解放軍の兵士たちが周りを固めていた。もしその機体を敵が本土へと輸送して分析していたとしたら?恐らく今の中国なら完全ではないにせよそれなりのものは造れるはずである。

そんな仮説が頭によぎり少しずつ支配していく、もしそうならあの時三人が落とされる原因をつくった白瀬がこの事態を招いたともいえる。そしてすでにその犠牲者が先ほど出た。

「・・・てよ」

無線を開かずに白瀬が一人呟くがその声は震えているのかかすれてよく聞こえない。そして次の瞬間・・・

「私の前から・・・消えてよ!!今すぐ!!」

殆ど絶叫に近い声を上げて錯乱気味の彼女は機体を黒く塗装された敵の機動戦鬼に向けて加速させていた。

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