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日本国世界大戦  作者: 一機当千
本編
44/68

流星となった者たち

2月10日 日本国 月開拓担当特区基地“かぐや”


「本艦、エンジン回転数良好、いつでも出られます」

「了解しました。恐らく第4星団と第21・22支援艦隊が出撃した後になるけど、旗艦「魚」の命令があるまで待機して」

艦長席で書類を確認しながらそう命令する秋山艦長、彼女の隣には偽魂体わかばが覗き込むようにして作戦内容を頭の中に叩き込んでいる。彼女たちが乗っている「若葉」の傍には巡航艦「若狭」と姉妹艦の「松葉」が三角形になるように並んでいた。また、右舷の離れた方には巡航艦「舞鶴」と僚艦として「若草」「若苗」が右斜め前に旗艦「魚」と「萌黄」「若菜」の第2星団の面々が同じように並んで出撃の時を待っている。

「ところで艦長、自分たちはどっちの方に行くことになるのですか?」

乗員の一人がそう質問する。今回の出撃の目的は地球から飛び立った独伊連合宇宙艦隊と遂に動き出した中国宇宙艦隊からの防衛である。独伊に関してはまだ目的がかぐやかどうかは謎ではあるが再三に渡りかぐやで匿っている英仏艦隊の引き渡しを要求してきていたことを鑑みるに可能性としては高いという判断で中国に関しては既にその進路がまっすぐこちらに来ていることから考える必要もない。

「そういえばまだ詳しい編成については教えていなかったわね、第2星団は第3星団及び第23~27支援艦隊と途中で合流する他の支援艦隊と共に独伊連合艦隊を相手にすることになるわ、なにぶん相手も数が多いし恐らく乱戦になるから覚悟しておくように」

乗員の質問に答える秋山艦長、情報機関からの報告によると今回上がった独伊の宇宙艦艇数は確認できただけでも70隻、大半は宇宙艇などの小型艦だが中には今まで見たことのない艦もいるという事でこちらも100隻近い艦を用意したのであった。

「数が多いのは心強いですけど大半が支援艦なのはちょっと・・・あの子たち戦闘能力を持っているとはいえ、後方支援が本分ですし」

そう話したのはわかばだった。支援艦は数こそ多いが支援任務を主目的としている都合上、防御は脆弱であり本当であれば最前線で戦わせるということは避けるべき艦であるがそこにはやむにやまれない理由があった。

「新しい星団を編成したといってもまだまだ数が足りないのだから仕方ないでしょ、それにドックも他の艦の建造で埋まってしまっているから当分新しい宇宙戦闘艦も期待できないし、今あるもので対処するしかないのよ」

そう説明する秋山艦長、現在日本が保有するドックはその大半を海上防衛隊の艦艇用にまわしているほか東南アジア諸国の失った戦力の再編成に協力する関係でほとんどが埋っている。かぐやにもドックはあるがここにはいま英仏の一部艦艇が入っているため使えるようになるのは当分先だろう。そんな風に会話をしているとようやく時間が来たのか管制から出撃を許可する通信が入る。速やかにそれぞれの持ち場につく乗員たち、秋山艦長も艦長席で姿勢を直しながら自分の隣にいるわかばに命ずる。

「わかば、機関本始動、重力アンカー停止、以降の行動は星団旗艦及び星群旗艦の「若狭」に従いなさい」

「了解、機関本始動、アンカー停止、出撃します」

彼女の言葉を合図に突撃艦「若葉」の艦体が静かに浮かび上がる。その後月面から出た「若葉」は僚艦や他の格納庫から出撃した艦たちと共に陣形を整え動き出す。目指すは独伊連合艦隊、距離からして戦闘は4日後となるだろうそんな彼らを基地に残った者たちも手を振りながら見送った。


「よし、野郎ども久しぶりの大物だ、気合入れていくぞ」

宇宙資源収集船「月若丸」の船長、白木 重蔵は自分の船員たちに向かってそう喝を入れた。宇宙資源収集船とは小惑星をはじめとして将来的に隕石になりそうな岩石などを回収する船であり、日本や世界の鉱物資源確保を担う一大産業である。作業をしている「月若丸」の傍には4隻の支援艦が「月若丸」を守るように付近を航行している。現在、この産業は世界の10%、日本の18%もの鉱物資源の需要を占めているがまだまだ危険な仕事であるためもしもの時に備え国の保護下での活動が国際的に定められている。そのため日本では収集船1隻につき3~5隻の支援艦がつくように法律で決められている。とはいえこの産業ほとんど日本の独占状態で他国が参入するまでの間日本の好き勝手させないためにこのようなルールを作り出したと巷では噂になっているようだが・・・

「おやっさん、かぐやの管制基地から緊急帰投命令が全収集船に送られています」

小惑星ほどではないが数十mもある遊星の採掘を監督していた白木にそう話しかけたのはまだ若い青年だった、言うまでもないがこの青年は「月若丸」の偽魂体である。

「緊急帰投命令だぁ?また、なんでそんな物騒なものが・・・まぁ、いい規則は規則だ、ちっと逃がす獲物が大きすぎるが仕方ない」

そういいながら船外を見る白木船長、目線の先にはワイヤーで船につながれている遊星があった。見たところまだ半分も収集が終わっていないようだ、塵を集めるような作業が多いこの仕事でここまでの獲物はなかなかないので勿体無いが船員たちの安全のためだ諦めよう、丁度護衛についていた支援艦からも同様の通信が送られてきたためワイヤーの切断を指示する。偽魂体の操作によってすぐさまワイヤーは切断され繋がれていた遊星がゆっくりと船から離れていく、やはり心残りがあるのかみるみる小さくなっていく遊星を収集船に備え付けられていたレーダーで追う白木船長、止めていたエンジンも再起動して帰路へ着こうとしたその時レーダーに捉えていた遊星の反応が船から30㎞付近で忽然と消えた。

レーダーの故障かと思っていた時、遊星が消えたと思われる地点から突如無数の熱線が月若丸たちに降り注ぎ、一隻の支援艦が3本の熱線に貫かれ炎に包まれる。

「おやっさん、「伊157」が!」

船員の一人がそう叫ぶ、見ると残った3隻の支援艦が陣形を組み備え付けられた武装で攻撃を始める。だが、敵の居場所が分からないのだろうその攻撃は虚しく何もない空間を駆け、消えていく、その間にまた一隻の支援艦が熱線に貫かれ爆発する。

「おい、エンジン最大でまわせ!ここに居たら邪魔になるだけじゃなく巻き込まれる」

怒鳴って命令する白木、それに応じるように速度を上げる「月若丸」、レーダーを見ると2隻残っていたはずの支援艦が1隻に減っていた。そして追加で新たな爆発炎が「月若丸」の船体を照らす。最後の支援艦も沈められたようだ、4隻もの支援艦の犠牲でかなりの距離を稼いだ「月若丸」であったがどうやら相手も見逃すつもりはないのだろう、容赦ない熱線や光線の雨に晒される。偽魂体の正確な操船でそれらを掻い潜るが数が多すぎた、1本の光線が「月若丸」のエンジン部分を貫き爆発、船体は中にいた人諸共バラバラになり無限とも思える広大な宇宙に残骸を撒き散らす。その爆発の後に残ったのは痛いほどの静寂とかつては船の一部だった大小様々な残骸、そしてそれを押し除けるようにして進む多数の艦だけだった。


2月12日 月面上30km付近


「艦長、戦闘中の中国艦隊の撤退を確認、追撃しますか」

「いや、追撃はなしだ、こちらも少なからず被害を受けたからな、敵が完全にレーダー外に出たのち俺たちもかぐやに撤退しよう」

艦長から指示を受け突破艦「牡牛」の偽魂体タウラスは同じ艦隊にいる僚艦たちに撤退の旨を通達する。それにしても今回の戦闘、本当に激戦の一言だった、彼我の距離100kmの地点からビームやレーザーの応酬から始まりミサイル、通常砲弾の撃ち合いとお互い全力のぶつかり合いだった。それで相手は戦力の1割を失ったがこちらも突撃艦「秘色」「月白」が大破、支援艦も2隻沈められた挙句、機動機も8機落とされてしまった。

「むしろこの被害で済んだと思った方がいいのかしら・・・」

“なぁーに、一人でぶつくさ呟いているのですか?旗艦様、こっちは撤退準備完了しましたよ、早く次の指示を下さいな”

突然彼女の思考に割って入ってきたのは巡航艦「唐津」の偽魂体だった。艦の方に目を向けると自分の僚艦の「月白」に寄り添うように待機していた。どうやら彼女が「月白」の曳航をするようだ。

「からつさん、少し待っていてください、今私の僚艦が沈められた支援艦の偽魂体の救助を行っているのでそれが終わればすぐ撤退します」

そう答えるタウラス、先の戦闘で沈められた支援艦の内「伊211」の偽魂体の子が運よく艦からの脱出に成功したため、その回収に突撃艦「瑠璃」が向かっていた。その回収も先ほど無事に終わったと連絡があったため、「牡牛」率いる第4星団隷下の艦は晴れてその進路をかぐやへ向ける。

“それにしても偶然とはいえ二方面での作戦でしたが、こっちは勝ててよかったですね、タウラさん、あとは地球方面に言った艦隊ですが予定では2日後でしたっけ?”

そう質問してきたのは「唐津」の姉妹艦の「仙崎」偽魂体のせんざきだった、もう片方で開かれる戦いが気になるらしい、タウラスも同じことを考えていたのか偽魂体の共有システムから向こうの情報を引っ張り出してくる。

「・・・どうやら向こうも無事残りの支援艦隊と合流できたみたいですので何事もなければ予測通りのタイミングで戦闘になりそうですね・・・」

情報を見てそう話すタウラス、情報によると哨戒任務中だった第28~30支援艦隊計30隻と無事合流した後、独伊連合艦隊に向かっているらしく何もなければ2日後に確実に会敵すると報告されている。そんな風に随時更新される情報を流し見していたタウラスであったが宇宙資源収集船と支援艦が行方不明になっている知らせに目が留まった。民間船と支援艦合わせて5隻が緊急帰投命令後、連絡が付かないというものであったが彼女が気になったのは行方がつかめなくなったその場所だ。

「日独伊が会敵予定ポイントから約1万km、近いわね」

そっと呟くタウラス、1万kmが近いといわれると感覚が狂いそうだが、月から地球の距離約38万kmから考えれば目と鼻の先である。ほんの些細な事であったがその些細な事に一抹の不安を感じた彼女だった。


2月14日


「右舷30度の方向、艦影多数確認!独伊連合艦隊と思われる」

「全艦、警戒を厳にせよ、なお、艦隊行動は偽魂体に一任する」

突破艦「魚」のCICで艦長が艦隊に指示を出す。レーダーには300km辺りに多数の光点が映し出されている。数は70、その全てが戦闘艦だとするとかなりの数だ、対するこちらは第2,3星団所属の18隻の戦闘艦と第23~30支援艦隊所属の支援艦80隻合わせて98隻と量的には有利である。

「問題は相手の実力がどの程度なのかというところか・・・」

そう考察する艦長、ドイツ宇宙軍とは演習を通してある程度の実力は推測できるがそれでも未知数なところはある。イタリア軍に関しては情報が全くないため警戒するに越したことはないだろう。

「艦長、相手艦隊から国際周波数を通して通信が入っております」

「内容を教えてくれピスケス」

偽魂体ピスケスから報告を聞きそう答える艦長、このタイミングで通信を入れるという事はまだ相手もこちらとことを構えるつもりはないのだろうか、そんな考えが頭によぎるがすぐに振り払った。よくよく考えたら既に地球でお互いの海上戦力が砲火を交えているのだ、宇宙では別という事は無いだろう。

「了解しました。“日本国宇宙艦隊に告ぐ、速やかに武装を解除し貴国が匿う英仏連合艦隊の残存艦の引き渡しをせよ、要求に従ってくれさえすればこちらも貴国と戦闘するつもりはない、これは最後通告である”以上です。どういたしますか?」

「ほとんど降伏勧告みたいなものじゃねぇか、こういう場合はどうすればいいんだ?一先ず馬鹿め、とでも言ってやるべきか?」

「無言で撃たれるのでそれは勘弁してください」

艦長の冗談に真顔で返すピスケス、それは置いておき少なくともこれで相手との戦闘は不可避と分かった。とすればやることは一つだ。

「ピスケス、相手艦隊に返信しろ。“要求は断る、寝言は寝て言え”とな、全艦戦闘用意!」

「了解、独伊連合艦隊に告ぐ、要求は断る、寝言は寝て言え、そして一昨日きやがれ!」

「おい待て、何か余計な言葉が聞えたぞ」

「気のせいです」

絶対に気のせいではないと思った艦長だったが周りの様子を見て一先ず置いておくことにした。既に相手艦隊との距離は300kmを切っていた。


「司令、日本の艦隊から返信が来ました。“要求は断る、寝言は寝て言え、そして一昨日きやがれ”とのことです」

「一昨日きやがれとはどういう意味だ?タイムマシンでも作れという事か?」

日本の返信に変なところで困惑する艦隊司令に宇宙戦艦「アドルフ・ヒトラー」の艦長が質問する。

「それでどういたしますか司令?要求を断ってきた場合の行動については艦隊司令に一任されておりますが・・・」

「無論交戦する。戦力的には不利だがある程度削っておかないと後々面倒だしな、例の部隊はしっかりこちらに向かっているな?」

「レーダーに反応は有りませんが恐らく付近で待機していると思われます」

「よし、全艦に通達、進路・速度そのまま各武装装填急げ!砲弾種はビームもしくはレーザーを用意せよ」

「進路・速度そのまま各武装装填用意、了解」

艦隊司令の命令によりそのまま前進を続ける艦隊、相手も受けて立つようでお互いの距離が見る見るうちに縮まっていく。

「敵艦隊との距離200を切りました。既にミサイル、エネルギー兵器の射程内ですが・・・」

「まだだ、まだ撃つなよ、出来るだけ近づくんだ」

そう言う艦隊司令、彼の頭の中ではあの観艦式の戦闘が浮かんでいた。あの時は両艦隊の

距離は150kmだった、その際日本の艦艇は大破の艦こそいたが撃沈されたものはいなかった、そして今は奇襲の形で始まったあの時と違いお互いの姿を捉えての戦闘、当然準備万端で始まるわけだ、難易度は圧倒的にこちらの方が高いだろう。そのことを踏まえて出来るだけ近づいての攻撃を狙う司令、乗員からの報告に注意しつつその時を待つ、そして彼我の距離が130kmを切り・・・

「全艦、砲撃開始!!」

ほとんど叫ぶように命令する。それを皮切りに全艦からビーム、レーザーが撃ちだされる。そしてほぼ同じタイミングで相手からも攻撃が繰り出され、お互いの攻撃が交わり両者に向かって行く。

「S(ドイツでの突撃艦の略称)21、25、27轟沈、S2から5までが大破!」

「次いでイタリア宇宙軍A(イタリアでの突撃艦の略称)2、4、7大破、A6及び8が爆沈!」

「こちらの攻撃はどうなった!!」

「日本艦に多数直撃するも全て装甲により威力が拡散されており被害なし」

「クッ!!ここまで技術に差がつけられているとはな」

報告を聞き歯ぎしりをする艦隊司令、宇宙戦においては戦闘艦の質・量、乗員の練度はさることながら何より基礎技術の高さが求められてくる。何がぶつかるか分からない宇宙空間で生き残るための装甲の強度は勿論、戦闘で受けるビームやレーザーに耐える機能を盛り込むなどその国の技術力が試される。こういう技術は実際に使われなければその本質を見極められないこともあり今回実際に砲火を交えた事により、その実力差がはっきりすることとなった。

「S12が大破!艦隊から落伍します!」

目の前を航行していた一隻の突撃艦に1本の光線が直撃して爆発した後に艦隊から外れていく、少し離れたところでその艦はそのまま沈んでしまった。

「手法を変えるぞ、巡航艦以上の艦は砲撃を集中、突撃艦以下は第2段階の用意!」

こうなることは一応想定していたすぐさま対応に移る艦隊司令だった。


「艦隊第1波攻撃、突撃艦多数の撃沈または損壊を確認、巡航艦以上には大きい効果は認められず、こちらの被害は軽微の模様」

ピスケスがそう報告する。そのあとに行われた第2波攻撃では突撃艦4隻、巡航艦2隻に直撃させ被害を出させる。対する日本はビームの熱を吸収して、レーザーは反射しやすい装甲によって威力を減衰することによりその被害を極限まで減らしていた。ビームやレーザーのエネルギー兵器の類は熱や光を元にしている性質上どうしても威力が安定しないのが欠点であった、初期の頃は出力を上げることでカバーしていたが反面装置の巨大化が問題となった。それで次にとられた方法がエネルギーの凝縮による拡散の防止だった、水の出ているホースの先を指で押さえると水の勢いが強くなるのを想像してもらえるといいだろう、結果的にエネルギーの可視化、弾速の低下などの弊害が出たが急速的に普及するきっかけになり、対抗策の研究も進み今の装甲に応用されている。

「装甲が上手く機能したようでなによりだ、相手が手を打ってくる前に畳みかけたいところだがいけるか?」

艦長がそう確認をとる。装甲はあくまで被害を減らすものでなくすものではない、いずれは対策をとられるだろう、その前に決着をつけたいのだろうが先手を取られてしまったようだ。1隻の支援艦が爆発して艦隊から落伍する。

「支援艦「伊246」被弾、退艦命令が下された模様」

「次いで「伊231」「伊232」が共に被弾、艦隊から離脱します」

「突撃艦「百群」第1砲塔に被弾するも戦闘に支障はないとのこと」

「なるほど、一点集中攻撃か・・・流石にこれはまずい」

表情を曇らせる艦長、いくら装甲が強靭であっても一箇所に集中されれば抜かれることもある。かなり至難な技であるがそこは流石ドイツ難なくこなしている。

「突撃部隊を突撃させろ!ビーム・レーザー攻撃停止、通常砲弾・ミサイル戦へと移行する!星神を出せ!」

新たな命令を艦長が出す。それに応えるように突撃艦と多数の支援艦が独伊連合艦隊に向けて進路を変える。「若葉」も他の艦と共に突撃し始める。

「敵艦隊エネルギー兵器停止、突撃艦多数こちらに来ます!」

「ミサイル多数飛来、味方艦隊からも掩護射撃来ます!」

「突撃艦「萌黄」から入電、突撃戦に入る我に続け、以上です」

「面舵一杯、発射管開け!浮遊砲台機動!」

「おもーかじーいっぱーい、発射管解放、AC展開完了」

「若葉」CICで次々に処理していくわかば大抵の操作は偽魂体が対処するためCICの者は情報の伝達と目標指定に留まる。

「先駆部隊、間もなく敵部隊と近距離戦に突入、本艦も3分で突入します」

「CCM発射、誘導しっかりしなさい、第1、第2砲塔の弾種換装は?」

「既に完了しています。艦長」

「よし、撃て!!」

そう命令され前部甲板に設けられた120mm多目的連装砲2門が火を噴く、今度は通常砲弾による発砲炎である。装甲以外でビーム・レーザー攻撃を防ぐ方法があるとすればそれは相手に撃たせない状況を作り出すことだ、エネルギー兵器は弾速が低下したとはいえそれでもミサイルと比べればまだまだ早い、それに加えて直線的にしか進まない性質上敵味方入り混じる状況ではほとんど使えないことが殆どである。突撃艦はそういう状況を作り出す事を得意とした艦種であり、いわば艦による白兵戦を行うために存在する。ただ、この戦闘実際にやるには相当大変である。なぜなら・・・

「本艦後方敵艦2、前方1、ミサイル来ます!」

「下舵、高軸半転舵!ミサイルてぇ!」

「若葉」の艦体が回りながら下ったあと2発のミサイルが扇状に後ろの敵艦2隻に撃ちだされる。その機動と攻撃に慌てたのか敵艦はそれぞれ避けようとしてお互いの艦体を打ち付け炎上する。「若葉」に撃たれたミサイルは浮遊砲台によって迎撃された。

「後方2艦炎上、撃沈にはならず、だが戦闘不能と思われる」

「上下方からミサイル!」

「取舵、長軸転舵、回避!」

横に躱し上下から来たミサイルがお互いに激突して難を逃れる。

「「若苗」「群青」「伊298」囲まれています!」

「掩護します。位置は?」

「本艦上方、いや下方?おい転舵止めろ、場所が分からねぇ!!」

「偽魂体管制、わかばやりなさい!」

「了解、全発射管CCM発射」

わかばの操作によりCCMが撃ちだされる。それらは味方3隻を囲んでいた敵艦に直撃したりして場を混乱させる。

「味方艦、包囲突破しました。「伊298」大破の為、戦線離脱します」

「次から次へと・・・本当突撃戦って疲れるわ・・・」

とまぁこんな風に現場が混乱しやすいのである。特に地球と違い上下左右前後の基準が無いため自ずと自艦が基準となり艦隊行動などとれたものじゃない、先ほどのドイツ艦2隻のように最悪激突したりしてしまうこともある、日本はこれを偽魂体によってカバーしているが他の国では至難の技であることは言うまでもない、事実、戦闘による被害より接触による損傷の方が大きい。

「わかば、突撃戦による両陣営の被害は?」

「本陣、突撃艦「若草」「百群」「紺碧」大破離脱中、支援艦「伊222」から「伊234」まで損傷、一部離脱、「伊278」「伊281」撃沈のほか色々、敵陣、突撃艦10数隻以上損傷及び撃沈、その他小型艦被害多数です」

両者互角の戦いを見せているようだ、やはり支援艦を多数登用したのが被害を大きくしてしまったのだろう、そんな事を考えていると再びわかば・CIC員からの伝達の嵐がやってくる。

「本艦、前下方及び後上方からミサイル接近!」

「左右からも確認しました合計8発来ます!」

「もう、息つく暇もありゃしないわね、上舵、幅軸角転舵、ミサイルは後上方の目標に向けて順次発射!そのあと高軸逆半転、浮遊砲台一斉砲撃」

艦長の複雑な命令を狂いなく実行するわかば、これによりミサイルは全て迎撃、発射してきた艦も2隻沈めた。

「さて、いい加減これで引いてくれないかしら・・・」

既に敵の突撃部隊が半減しているレーダーを見ながら秋山艦長は疲れ気味に呟いた。


「味方突撃部隊、半数が撤退もしくは撃沈!」

「むう、ここまで実力に差が開いているとはやはりあの偽魂体は厄介だな」

「アドルフ・ヒトラー」CICで艦隊司令が言葉を漏らす。最初は70隻いた艦隊も主力の突撃艦を失ったことによりその数を30まで減らしており、今回初めて投入したバイエルン級宇宙空母2隻に載せていた艦載機も日本の機動機の無茶苦茶な機動によって翻弄され次々に落とされてしまった。

「どういたしますか?ここは撤退しても構わないと思いますが・・・」

「まぁ待て艦長、既に作戦の第3段階は始まっている。その時に一気に畳みかける、それまでもう少し耐えよう」

劣勢な状況にもかかわらず艦隊司令は不敵な笑みを浮かべる。その眼はレーダーに映る日本艦隊に向けられていた。


「艦長、突破艦「牡羊」他「若草」「百群」「紺碧」、第27から30支援艦隊が離脱完了、撃沈された艦の乗員もできるだけ回収しました」

「了解した。ところでピスケス相手はまだ撤退しないのか?」

「残念ながら依然戦闘を続ける構えをとっています」

どうしたものかと頭を悩ませる艦長、既に相手はその戦力を半減させているがこちらも大事をとって小破艦などにも離脱を指示していたこともあり、その戦力を60隻弱まで減らしている。このままだと無駄に戦いを長引かせかねない。

「ピスケス、一度相手に降伏勧告を出せ、拒否して来たらこの際一気に片付ける」

「了解、ッッ!!レーダーに新たな反応を確認!本艦直上!!」

「なに!?」

彼女の言葉に驚いた艦長が次に見たのは自艦に突き刺さるミサイルの雨だった・・・


「突破艦「魚」轟沈!後方から新たな敵艦を確認、数30隻、全て突撃艦クラスと思われる」

「なんですって!?」

報告を聞き混乱する秋山艦長、それもそのはず新たに現れた艦隊は後方で陣取っていた味方艦隊の上方50㎞、レーダーの中であるそんなところから現れたという事は考えられるのは一つしかない、そしてそれは今の日本艦隊にとって最悪を意味する。

“まさか、あの観艦式のテロリストの連中とドイツがつながっていた?だとしたらこの状況は・・・”

考えを巡らせている秋山艦長に報告が入る。それはこれから地獄が始まるという事を告げるものであった。

「後方艦隊、巡航艦「若狭」「宮津」大破!「敦賀」撃沈、ほか支援艦12隻レーダーロスト!」

「独伊連合艦隊残存艦、全艦こちらに向けて突撃開始!ビーム・レーザーを始めミサイル多数飛来!」

「突撃艦「若菜」「薄花」「群青」撃沈、支援艦「伊221」「伊241」含む6隻も同じく!」

「艦隊指揮どうなっている!」

「突破艦2隻の不在及び巡航艦も戦闘不能による影響の為、突撃艦「萌黄」に移行しております」

「突撃艦「萌黄」艦尾に被弾!艦隊指揮本艦へ移行しました」

「わかば、全艦に通達、現時刻をもって全軍撤退、可能な限り味方は回収せよ、急いで!」

「了解、ッ!本艦にミサイル多数接近中、上舵、幅軸転舵、回避します!」

わかばの咄嗟の操艦で辛うじて避ける。その後付近にいた「若苗」とそれに曳航されている「萌黄」と合流して離脱をはかる。状況ははっきり言って混乱を極めていて、既に撤退していた艦を除いた全ての艦がこの攻撃に晒され続けている。特に支援艦に対しては執拗に追いかけられまるで狩りをしているかごとく沈められていく、先ほど敵艦4隻に追われていた「伊256」と「伊257」が何本もの光熱線に貫かれて蒸発するように爆沈した。

「艦長、「若苗」から画像通信が入っています。回線つなぎます」

“わかばねぇ、「萌黄」を連れての離脱は危険すぎる。もえぎねぇ達をこっちに移して逃げよう”

回線がつながったとたんそんな言葉が入ってくるスクリーンに映し出されている姿がわかばと同じゴスロリ姿なところから相手が偽魂体な事は明白である。

「わかなえ、むしろこの状況でもえぎ姉さんたちを移すほうが危ないわ、何とかならない?」

“そうはいっても既に支援艦の奴らなんかほとんど残ってないよ、いずれうちらも狙われるそんな時に荷物を持って逃げられると思うのかい?”

「わかりました。とにかくやるなら急いでやりましょう「若葉」「若苗」両艦にそれぞれ移させます。それでいいわね?わかば」

「艦長がそう言うのなら・・・」

そう言ったあと速やかに「萌黄」の乗員の移動が開始される。だがそんな彼女達にも容赦なく敵の攻撃が降りかかる。

「我が方に向かってミサイル多数接近中!」

「移乗を急がせて、わかば浮遊砲台全機稼働!盾にしてでも守りなさい」

“わかばねぇ、こっちは移乗完了したそっちの迎撃を援護・・「ダメ!直上に敵艦そっちをねらっているわ、すぐ回避!」なっ!”

わかばがそう忠告するが遅かった。2本の光線が「若苗」の艦体を貫きそのまま「若苗」は炎に包まれる。

「わかなえちゃん!!」

「移乗まだ終わらないのか!こっちも撃たれるわよ!」

秋山艦長が叫ぶのと同時に新たな光線が「若葉」に向かって降りかかる。すぐ回避行動に移ったがそれが不味かった、「萌黄」との連結が外れてしまいその光線に撃ち抜かれて撃沈してしまった。丁度乗員の移乗が終わるのと同時だったがその爆風により負傷者が出てしまう。

「機関最大!急いで現宙域から離脱、他の艦にも自艦の離脱を優先するように通達」

「了解、しかし、敵艦が多く進路が確保できません」

「クッ!!」

逼迫する状況に顔を歪ませる秋山艦長、何隻か味方が離脱に成功しているようだが本艦は丁度戦場の真ん中に位置していた。正直言ってこの状況で離脱するのは困難を極めるだろう、敵の攻撃を掻い潜り、時には攻撃を加えて離脱をはかる「若葉」だったが次第に敵の数に追い詰められていく、何とかいい手はないかと考え続けている秋山艦長の耳に信じ難い報告が届く。

「後方の敵艦2隻が大破、レーダーに新たな反応、これは・・・英仏所属艦艇です!」

なんとかぐやで匿っていた英仏の艦艇が援護に来てくれたのだ、両国の艦艇がありったけのミサイルを戦場にぶち込んだことによって独伊の艦艇に混乱が生じる。

「今のうちに離脱するわよ。まだいる味方艦に通達、我に続け」

僅かな隙であったがその隙を逃す秋山艦長ではなかった、素早く艦隊に指揮をだし残存艦を引き連れて離脱に成功する。離脱を確認したのか英仏の艦艇も足早に進路を変更して撤退する。後には独伊の艦艇と乱入者しか残っていなかった。

「負けたか・・・」

かぐやへの帰路の途中、秋山艦長はそっと呟くわかばは負傷者の手当てにいっておりいまはいない、戦闘艦の喪失に独伊の進出阻止の失敗、結果としては散々である。生き残った艦も大なり小なり被害を受けた、今後宇宙での大規模な活動を日本が行うのは厳しくなるだろう、最悪本土とのつながりが断たれ孤立しかねない状況に陥ってしまった。後にバレンタイン宙戦と呼ばれるこの戦いは日本の逆転負けという結果を後世に残すこととなった。

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