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日本国世界大戦  作者: 一機当千
本編
43/68

欧州への海道

東南アジアでの作戦が無事達成できた日本であったが、その反面大西洋に展開した部隊はドイツ海軍の妨害によって欧州に近づけずにいた。

「魚雷推進音確認!数8、駆逐艦・支援艦を中心に接近中!」

「各艦個別で対処しろ!」

「了解、各艦個別対応開始します・・・!!敵魚雷浮上して飛行を開始!これ魚雷じゃなくてミサイルです!」

偽魂体の報告と同時にそのミサイルに狙われている艦が対空防御を始める距離が近いこともありすでにCIWSが起動していた。大半は撃ち落としたが1発だけ弾幕を掻い潜りまるで蛇が鎌首を上げるように急上昇したかと思いきや次の瞬間、目標とした支援艦の1隻にむけ子爆弾をばらまく。ばら撒かれた子爆弾はそのまま支援艦の甲板へと落ちていき、爆発の代わりに吸盤のように張り付き次の瞬間・・・

「「伊83」断裂!艦が沈み始めています!!」

なんと張り付いた爆弾が一定の周期で振動し、それに共鳴するように支援艦の艦体にひびが入り裂けたのだ。報告にあった支援艦はすでにその姿を3つに裂かれ静かに沈んでいく。

「偽魂体は脱出したか?」

状況を確認する浦部艦長に相棒であるしなのが答える。

「すでに退艦行動に移っているので状況が落ち着けば救出に向かえると思います」

そう報告したが結局その偽魂体は退艦が間に合わずそのまま自分の艦と運命を共にすることになった。

“こちら黒鷹から信濃へ、哨戒ヘリがドイツ海軍と思われる潜水艦を発見、速やかに撃沈しました”

「信濃から黒鷹へ、了解した。それと全艦に告ぐ現時点を持ち海域から一時後退する。追撃に警戒せよ、以上だ」

そう命令を下す浦部艦長、通信を切ったあと二人だけの艦橋で思いっきり怒鳴る。

「クソ!ドイツの技術者のやつらなんつー兵器を開発しやがる、これでは近づくことすら出来んぞ!!」

「・・・艦長、一先ず艦隊はこのまま北米近くまで後退させてもよろしいのでしょうか?」

浦部艦長が激昂しているのを意も介さずにそう質問してくるしなの、そのおかげか平静を取り戻した浦部が彼女に許可を出す。

「進路はそれでいい、だがアメリカには近づきすぎるなよ、今のあの国は色々と立場が危うい」

そう指示を出した後、今後の活動について話し合う二人、ドイツ海軍と砲火を交えるのは今回で3回目となるがその結果はあんまり芳しくない、1回目ではワンサイドゲームの状態で駆逐艦「冬空」「雨空」を失い、2回目は敵の潜水艦を10隻以上仕留めたが引き換えに巡洋艦「笠置」、支援艦「伊87」を沈められた。そして今回の戦闘・・・、防空を優先し過ぎて対潜艦を黒鷹型のみにしたのが仇となった。

「やはり援軍の要請をするのが最善ですね・・・」

そう発言するしなの、被害も出ているうえこのまま近づけないとなると今後の戦況への影響は必至であり、避けるためにも速やかな排除が必要でそのためには数がいるとの判断からの意見である。

「確かに援軍は必須だが、向こうにそんな余裕があるか?我々を派遣するだけでも苦労していたぞ」

そう懸念する浦部、事実今回の派遣部隊も相当無理をして編成した部隊であるため彼がそう思うのも無理もない、今では他国への派遣も支障もなしに出来るようになった日本であるがそれでもまだ根底には水際防衛の名残が根強く残っており大半の戦力を日本に待機させる傾向がある。大規模な作戦には十分な戦力を投入するよう心掛けているが今回のような事例だと果たして増援の決定をするかどうか、最悪派遣部隊の撤退を命じられる可能性もある。

「そこは本土の者に任せるしか・・・少なくとも要請しなければ何も始まらないと思いますが?」

“それもそうか・・・”しなのの言葉に頷き本土へ連絡するよう命令する浦部、案の定向こうは検討すると言っただけであったが幸い撤退命令はされなかった。日本からはるか遠く離れたこの地ではまだまだ苦戦を強いられそうだ。


「それで欧州の派遣部隊から増援の要請が来たという事だが国安省としてはどうするつもりなのかね?」

会議の最中そう鴉山総理が質問する。東南アジア戦線での最初の作戦が無事完了して次の作戦の準備を始めようとした矢先、欧州の部隊の苦戦による援軍要請が来たためその影響について気になっている様子である。

「国安省としては派遣部隊に撤退命令を出しても良いのですがそれでは戦後の国際信用に悪影響を及ぼしかねないので援軍の派遣の方向で進めていくつもりです。幸い新型駆逐艦の建造が一段落したため出来ない事ではありませんので」

東大臣がそう説明する。開戦の影響で吹雪型をはじめとする新型艦はその配備計画を大幅に変更されることとなり既に各型4番艦までが配備、8番艦までが艤装中、12番艦までが建造中となっている。

「素人の私が口を挟むことではないかもしれないが増援部隊に新造艦が複数いるが練度的には大丈夫なのか?」

手元の資料を眺めながらそう話す総理、追加の派遣部隊は夕空・夕霧型が中心となっているがその中にまだ配備されて1週間も経っていない新造艦も含まれている。恐らく習熟訓練もまともにできていないだろう、総理が懸念するのも無理はない。

「常識的にいえば愚策中の愚策ですが偽魂体は人間とは比べようのないほどの速度で学習することが出来るほか、他の偽魂体からノウハウをそっくりそのまま複製することも可能ですので問題はないと判断しております」

東大臣がそう補足する。ここでも偽魂体の能力が遺憾なく発揮されているようだ、それぞれが一つのスーパーコンピュータ並の解析能力を有している存在なためこのぐらいは造作もないのだろうし、航空機など一体で複数を管轄する偽魂体なら本人とその担当機があればいくら落とされようとも練度が極端に落ちることはないため、高度な技能が必要とされてくる現代の軍事組織にとっては脅威以外の何物ではないだろう。

「そういう事なら私からいう事はもうない、だがくれぐれも気を付けてくれたまえ、正直言って今の日本の戦闘範囲は質・量ともに強化されているとはいえあの大戦よりも酷く広い、1回でも大きな傷を受ければそのまま瓦解する危険もある」

「了解しました。我々も慢心せず常に全力を尽くして事態に臨むつもりでいきます」

総理の言葉にそう答える東大臣、会議も無事終了し退室する。この後細かい調整を行い次の行動の準備が始まる。そして欧州でも新たに行動を起こした国があった。


ドイツ・ベルリン


「首相、各戦況の報告書が届きました。お目通しをお願いします」

「うむ、了解した」

補佐官から書類を受け取り読み進めるアドル首相、内容のほとんどは陸軍からの報告であったが、一部海軍から大西洋での日本軍との戦闘に関するものもあった。

「陸軍の方はしっかりと命令を追行しているようだな、そして海軍・・・まさか日本が一番先に介入してくるとは想定外だったが何とか防げているようでなによりだ。今後もよろしく頼むぞ、我々の目的を達成するには少しでも長く欧州を孤立させる必要があるからな」

報告書を読み終えそう評する首相、現状は彼の考え通りに動いているようだ。

「承知しました。国防省の方にもそう伝えておきます。しかし良かったのですか?他国に侵攻した後そのまま本国へと撤退を繰り返させておりますがこれでは戦い損だと思うのですが・・・」

そう問う補佐官、戦端を開いてからのドイツの行動は周辺各国への電撃侵攻により相手国の政治中枢の施設などを破壊した後、これまたかなりの速さで撤退を繰り返している。相手国からしたら占領自体はされてはいないのでいいが行政施設をはじめとした機能を消失しているうえに繰り返し再侵攻が行われるせいで国内は無政府状態となっているのが現状である。

「そこのところは問題ない、イタリアともお互い了承していることだ。それに今回の戦いは他国を支配することが目的ではないからない、今は周辺国に恐怖を与え続けることこそが重要なのだ」

そう話すアドル首相、どうやらこの欧州の戦いドイツ・イタリアは少し違う観点から見ているようだ。少しずつ追い詰められていく欧州各国にドイツの次なる一手が打たれるのはそう遠くないだろう。


日本国 月開拓担当特区基地“かぐや” 第3格納庫


かぐやでも突出した格納量を誇るここにアメリカの宇宙戦艦「ハワイ」はその巨体を鎮座させていた。あの観艦式での戦闘の傷も今ではすっかり癒えており再び戦いの場へ出るのを今か今かと待っている「ハワイ」の艦内では抗議の声が響いていた。

「まだ国防省から出撃の命令は来ないのですか!?艦長!!」

アラン副長がハリソン艦長に向かってそう叫ぶ、彼の後ろにはほかの佐官もおり皆、艦長に口々に話している。

「アラン副長、それに他の者も落ち着き給え、皆の気持ちもわかるが国防省からは変わらず待機の命令しか来ていない。理由は前に言った通りだ」

「既に3個艦隊を編成できる艦艇が居ながらまだ戦力不足と言うのですか!」

佐官の一人がそう話す。今、かぐやに居るアメリカ軍の艦艇は「ハワイ」だけではなく、ハワイ級の2,3番艦である「アラスカ」「メイン」のほかフレッチャー級突撃艦が数十隻派遣されており日本の星団で表すと6個星団規模となる。また、近いうちにハワイ級4番艦「フロリダ」率いる4個目の艦隊も送られてくる予定である。

「ともかくこの話はもう終わりだ。不満はあるだろうが命令である以上我々は従わなければならない、わかったら速やかに自分たちの業務へ戻れ!」

そう命令して他の者たちを退かせるハリソン艦長、一人になった艦長室で机の引き出しにしまってある書類を取り出す。少し考えてからその書類を細切れにして機密処理をした後部屋をでる。丁度昼時だ、昼食をとるために艦を出てかぐやの共同食堂へと向かった。

「あ・・・」

食堂の一角で席に着いていたハリソンにある人物が近づいてくる。

「・・・こんにちは」

「おぉ、わかばさん、あなたも昼食ですかな?秋山艦長はいかがなされましたか?」

突撃艦「若葉」の偽魂体わかばであった。ひと際目立つゴスロリ姿にポニーテールにした若葉色の髪が彼女の動きに合わせて揺れる。

「艦長ならほかの人と会議中です。私が居ても邪魔になるので昼食を食べに・・・席、ご一緒してもよろしいでしょうか?」

ハリソンの質問に答え、そう聞き返すわかば、時間的に混みあってきたためどうぞと言い促す。丁度向かい合うように彼女が席に座る。

「・・・何かあったのですか?」

唐突にわかばが紅茶を飲んでいるハリソンにそう問いかける。急だったため彼も“どうしてそう思うのかい?”と質問に質問で答えてしまう。

「最近はアメリカの皆さんはご自分の艦内で食事をとることが多かったですし、こちらに来るときはハリソン艦長いつもアランさんとご一緒でした。それにハリソン艦長、紅茶よりコーヒー派でしたよね?」

「これは驚いたな・・・流石偽魂体と言うべきか、人を良く見ている」

彼女の答えに驚き、素直に誉めるハリソン艦長、恐らく誤魔化そうとしても無駄だろうと判断し、先ほどのやり取りを彼女に説明する。一通りの説明が終わった後少し考えてから再びわかばが口を開く。

「つまりいつまでも待機命令しか来ない上にその理由に納得できない皆さんがしびれを切らしたという事でいいのですか?」

「そういうことになってしまうかな、私も彼らを責めるつもりはないのだ、だが、命令である以上従うのが軍人だ。たとえそれが納得できないものであってもね、わかってはいるのだが・・・」

「アメリカ軍の介入するタイミングがこの戦いの大勢が決した時という政府の決定に耐えられないと・・・」

戦慄、何気ない彼女の言葉だった、だがそれはアメリカ軍、特に上位の者しか知らされていない事だ。先ほど自分も艦長室でそのことを書いてある書類を処理したばかりであるためその驚きは大きい。

「あっ、気にしないでください、ただ、かぐやさんがそう言っていたのでそうなのかなぁと思っただけですから」

驚く彼をみて慌てたのか言葉を付け足すわかば、かぐやさんというのは恐らくこの基地の偽魂体であろう、話には聞いていたが実際に見たことはないため存在を証明されるのは始めてだ。

「君たちは、いや、日本政府はこのことについてどうするつもりなのかね?」

「?日本政府はこのことは知りませんよ、流石に国に与える影響が大きすぎるので偽魂体間での共有のみに留めております」

恐る恐る聞くハリソンにそうわかばが答える。だが、その言葉にある種の疑問をハリソンは抱いた。

「分からないな、私の記憶違いでなければ君たちは行動原理の一つに国家への服従が盛り込まれているはずだ、今君が言ったことはある意味それを破る行為のはずだが?」

「少しお互いの認識に齟齬があるようですね、確かに私達には国家への服従なるものが仕込まれております。ですが正確には国家・国民の安寧と幸福の追求に対する服従です。今回の場合はこれには当たらず、むしろ悪影響を与えかねない代物でしたので規制しただけです」

わかばがそう説明するがますます分からなくなる。確かに知るという事は時に知った者を傷つけることもある。知らぬが仏という言葉があるくらいだ、情報の取り扱いというものは細心の注意をはからなければならない、だが知らなかった故に大きな傷を受ける可能性だってある。今回のそれにはその可能性だって含まれている。

「すでにそのことについては私たちの方でもシュミレーションを重ねてきました。その結果を鑑みての今回の判断です。それに・・・」

一度言葉を切りすっかり冷めてしまったお茶を飲み一息入れる。

「それを防ぎ回避するために私たちが創り出されたのですよ?この程度で狼狽えるほど今の日本は脆くありません」

はっきり宣言するわかば、その言葉にハリソンも黙るしかなかった。二人の間を沈黙が支配していたその時、サイレンが鳴り出したと思ったら日本の佐官クラスの隊員たちが慌ただしくやってくる。他にも偽魂体と思われる者たちが走っているのも確認できた。

「わかば、ここにいたのね」

「あっ、艦長、会議は終わったのですか?」

二人の下にやってきた秋山艦長がわかばにただならぬ様子で話しかける。

「ええ、ついさっきね、それより急いで艦に戻るわよ、出撃命令がでた」

「出撃ですか?また、唐突ですね・・・っと、偽魂体の共有システムの方でも更新されました。3個星団と7個支援艦隊も出すのですか?また、随分と沢山・・・え!?」

額に指をあてて話していたわかばが驚いたように声を上げる。一人事態が読み込めないハリソン艦長が耐えきれず質問する。

「失礼だが秋山艦長、一体何が起きたのかね?随分と慌てているようだが・・・」

「ハリソン艦長、えーと、その・・・」

「ドイツ宇宙軍の艦艇が地球から多数上がってくるのをこちらの情報機関が察知しました。中にはイタリア軍が含まれているとも・・・、それと中国の月基地からも多数の艦がこちらに進軍していると報告が来ています」

どう説明したものかと迷っている秋山艦長の代わりにわかばが答える。先ほどまでは見た目相応の可愛らしさがあったが今では一変して近寄る者を斬るような雰囲気を纏っている。

その雰囲気に押されて動けなくなったハリソンをおいて二人は自分の艦へと戻っていった。気づくとさっきまで賑やかだった食堂も今では静まり返っていた・・・

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