表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本国世界大戦  作者: 一機当千
本編
41/68

始動、ノゾミ作戦

2月7日 午前8:00 パプアニューギニア進駐中国解放軍本部


現地の朝がどのようなものかは知らぬが清々しい空気のもと兵士や幹部たちが朝食をとっているところに本土から日本軍の進軍を知らせる一報が幹部たちのもとに届いた。

「それで本土は日本艦隊の目的地はどこだと判断しているのだ?」

幹部の一人がそう発言する。

「今のところはやはりフィリピンあたりが濃厚のようですがもうそろそろ偵察衛星から追加報告から来る頃だと思います」

その言葉を裏付けるように会議室に下士官が入室し報告を始める。

「報告します。日本艦隊は現在本基地から2000km付近のグアム近くを航行中戦力は大型艦4隻、中型艦9隻、小型艦10隻以上とのこと進路は現在20ノットでまっすぐこちらへ向かっているとのことです」

「かなりの部隊だな・・・、おまけにこっちが目標かこちらの戦力は?」

「巡洋艦3隻、無人管制艦2隻、駆逐艦10隻、フリーゲート20隻、潜水艦6隻、揚陸艦6隻、補給艦2隻です。航空戦力は揚陸艦にいる96機です。また潜水艦は3隻がソロモン諸島で確認された不審音の調査へ向かっているためいません」

「戦力的にはこちら側が上か・・・、諸君それでだが我々はどうするべきか意見を聞きたい」

司令長官と思われる男が発言し、他の者たちを見渡す。

「こちらに近づかせれば陸上施設に被害を受ける可能性があります。無論こちらから出て行って叩き潰すべきです!!」

「待て、相手には戦艦の生まれ変わりと言われる制圧艦のほか空母もいるのだぞ!こちらも相当の被害を覚悟しなければならない、ここは陸軍と協力して迎撃するべきだ!!」

「戦艦などという時代遅れの産物に我々が遅れをとるものか!!対艦ミサイルの飽和攻撃で海の藻屑としてくれる!それに陸軍は未だに気を抜けない状態である。これ以上手を煩わせるわけにもいかんだろう」

紛糾する会議の中で司令長官は今現在確認できる情報で考える。戦力はこちらが優勢しかし実力は限りなく相手が優勢に近い五分五分、攻め入れば海軍に被害は確実で迎え撃てば陸軍にも被害を受ける可能性、未だに現地住民の対応に追われている中でそれは避けたい。

“戦力の増強は間に合わないか・・、フィリピンの増援を少しでもこちらへまわしてさえいればここまで悩む必要もなかったものを”

苦々しく思い舌打ちをする司令長官、その後二転三転したものの何とか作戦概要をまとめ上げ各々準備に取り掛かった。翌日の朝、港にはすでに海軍艦艇はおらず海鳥が鳴いていた。


「艦隊陣形調整完了しました。以後操艦を偽魂体へ委譲します」

「了解した。ながと」

「操艦受け取った。進路・速度そのまま陣形を維持しつつ各艦警戒を継続させるがよいか?艦長」

“うむ”と艦長が頷いたあと艦橋に沈黙が流れる。

「・・・、・・・・・、なぁながと~腹減ったから飯いかね?」

「頼むからもう少し緊張感というものを持ってくれ・・、艦長」

艦長の言葉に呆れ顔で答えるながと、丁度タイミングよく配食を持った乗員が艦橋へやってきて握り飯を配り始めた。艦長も一つ受け取りながら言葉を返す。

「いや~だってさ、会敵の予測時間までまだ余裕あるし、腹が減っては戦が出来ぬって言葉もあるじゃん?」

「貴様は本当・・、なぜ艦長になれたのかが不思議で困る」

「あっ、ところで乙部隊の方は順調か?」

ひたすら我が道をゆく艦長に再び呆れながらも答える。

「現在予定通りに巡航中だ、落伍者もいないようだし問題ない」

「じゃああとは敵さんの出方次第ってわけか、そっちのほうはどう“レーダーに感有り!中国解放海軍と思われる艦艇多数、距離およそ450kmです!”ちょうど来たようだな」

報告を受けそう言った艦長は続けて命令を下す。

「総員対空・対水上戦闘用意、進路・速度そのまま各艦陣形を維持しつつこのまま突っ込むぞ!!」

命令後速やかに慌ただしく行動に移る。あらかじめ下準備は終えていたのでそう時間はかからず戦闘態勢へと移った。

「さて、これからが本番だな、気引き締めていくか」

先ほどとは打って変わって真剣な目で作戦に臨まんと自身に喝を入れた艦長だった。


「日本艦隊依然単縦陣を維持したまま我が方へ接近中、彼我の距離300切りました」

「なぜ単縦陣なのだ」

艦隊司令官である男がそう呟く、およそ2時間前に日本艦隊を見つけてから互いに射程範囲に捉えようと20ノットで接近を試みているのだが日本艦隊の陣形に疑問を抱かざるをえない、ミサイル戦の場合各艦にそれぞれ役割を持って挑むために輪形陣などバランスよく展開するのだが今の相手は制圧艦を先頭にまっすぐこちらへ向かっている。おかげで艦隊の全容が未だにつかめずにいるがこれでは1隻に攻撃を集中されて撃破されてしまうのではないのだろうか、敵ではあるが心配してしまう。

「ミサイル有効射程まであとどのくらいかかる?」

艦隊司令の横にいた艦長がそう問いただす。

「両艦隊の速度がこのままだとして30分あれば入ると思われます」

そう答えが返ってくる。両艦隊の平均的なレーダー範囲はおよそ500km、ミサイルの有効射程もそれに準ずるものの有効な距離を考えると自然と距離も近くなる。

「司令長官、ひとつよろしいでしょうか?」

艦長が神妙な面持ちでそう言ってくる。

「なんだ?艦長、手短に頼む」

「はい、日本艦隊の陣容ですが暫定的ではあるもののそのほとんどが制圧艦を中心とした大型艦です。確か偵察衛星には多数の駆逐艦が映っていたはずですが目の前には4隻しか確認できません、ほかの艦はどこにいるのでしょうか」

「うーむ、偵察衛星の間違いではないのか?」

「いくら我が国製とはいえそんなはずはないと思いますが」

艦隊司令の言葉にすかさず反論する艦長、いくら中国でもそんなものをつかうはずないだろう、ないよな?艦隊司令も笑いながら冗談だと告げる。そんなやり取りをしているといつの間にか有効範囲に入ったようで報告をうける。

「おっと、もうそんなに時間がたったか、まぁ、艦長、確かに色々と疑問は残るが軍人は現実主義でなくてはならん、そしていま目の前に敵がいる。これが現実だよ」

“はぁ・・”と艦隊司令の言葉に生返事をする艦長、あらゆるリスクを考え備えるのも軍人ではないのだろうかという言葉は飲み込んだ。

「全艦、対艦戦闘よーい、日本艦隊を返り討ちにしてやれ!」

「了解、全艦対艦戦闘よーい、目標、日本艦隊・・!! 日本艦隊回頭を開始!!逃走する模様!」

「なんだと!?」

突然の逃走行為に戸惑いを隠せない艦隊司令以下皆さん、この後の行動が艦隊の運命を分けることとなることはまだ誰も知らない。


「艦隊の回頭、完了しました」

「了解した。以後命あるまでこの状態を維持しろ」

そう指示した後沈黙が再び包む「長門」艦橋、何しろ敵射程内に余裕で入っている中での回頭&逃走である。みな目が真剣だ。この状況で逃げるのかよと思う方もいるかもしれませんが、ええ、逃げます。逃げさせてもらいます。だってこれ“餌役”なので。

「ながと、乙部隊の方は大丈夫か?」

「ああ、もう少しで予定のポイントにつくとのことだ」

「そうかそれなら後は相手が“食いつく”のを待つだけだな」

何やら思わせぶりな言葉を言う艦長、そのにやけ顔にながとも“フッ”と声が漏れる。

「!! 敵艦隊増速しつつ対艦ミサイルを発射!着弾までおよそ8分!!」

CICでレーダー員が叫ぶ。

「全艦、対空戦闘!!及び制圧艦以下支援艦艇を除く全艦は停止しつつ対空防御を続けろ!」

そう命令をしている間にもミサイルの応酬は繰り返され、すでに50発をゆうに超える対艦ミサイルを撃ち落としている。敵艦隊は無人艇を多数引き連れているせいか同時に来る数が多いようだ。

「ながと!!」

「大丈夫だ、艦長“もうすでに到着している”」

このままだと遅かれ早かれ被弾を許すと考えた艦長が彼女に声を投げかける。それに素早く答えるながと、ほぼ同時にスクリーンに映し出されている敵艦隊の3時の方向からいくつもの飛翔体の反応が現れた。


「艦隊、3時の方向から高速飛翔体複数確認、ミサイルです!!距離およそ500km、着弾まで15分!」

「前方の艦隊からも多数の対艦ミサイルの発射を確認、着弾まで5分」

「なんで!?」

日本の予想外な二方向攻撃に驚き誰かが素っ頓狂な声を上げる。まだ、前方から来るのは分かる。だが横から来ているミサイルは一体何だ、一体どこから撃ってきた?

「何をしている!ボサッとしていないで早く迎撃しろ!!」

動かない乗員を叱咤しながら艦隊司令が命令する。すぐさま迎撃ミサイルが放たれ、艦隊から近い前方のミサイルに迷わず向かって行く。

「迎撃ミサイル順調に飛翔中、着弾まであと・・?敵ミサイル増速しつつ一部軌道を変更!こちらの迎撃ミサイルへの直撃コースです!」

オペレーターがそう叫ぶ。スクリーンをみると一部のミサイルが艦から飛んでいるミサイルに向けて曲がって行っているのが分かる。そして、そのまま直撃して・・・

「迎撃ミサイル全弾落されました!!」

「ちょっとまて!どうやれば二倍もの数を撃ち落とせるのだ!?」

「恐らく日本の0型弾頭と思われます」

そんなやり取りをしている間にミサイルは着弾1分前まで近づいており近接防御用の装備が次々に作動し始める。幸い防御をとれた艦艇の大多数は無事すんだものの・・

「無人艇群に多数の被害!フリーゲート「張強」「方家屯」が撃沈です」

「くそ!!」

報告を聞き苦虫を噛み潰したような顔をする艦隊司令、個艦防御能力を持たない無人艇を沈められた影響で攻撃力の減少は避けられない、そこに追い打ちをかけるように報告が上がる。

「3時方向の敵ミサイル半数を撃ち落としたものの依然接近中、5分切りました!」

「前方艦隊、再びミサイルを発射!着弾までおよそ5分!」

「!! 魚雷推進音を多数確認、さらに後方からもミサイルです。数21!」

「各艦なんでもいい、取れる手段は全てとれ!!!」

まさかの三方向同時攻撃に艦隊防衛は諦めたのかそう命令をする艦隊司令、その命令通りに次々に防御手段をとる。中には無人艇を盾にする艦もいるほどだ。

「揚陸艦「長白山01」、「02」、格納庫に被弾、艦載機に被害!」

「無人艇、6艇を残し全て撃沈、駆逐艦「皇姑」「鉄西」「法庫」「金州」大破、フリーゲート「四方台」「朱家房」「長灘」が被弾です・・」

「本艦にミサイル接近!三方向からです!」

「総員、衝撃に備えろ!!」

艦長がそう叫び、暫くして艦が大きく揺れる。来ていたミサイルのどれかの直撃を許してしまったようだ。

“こちら機関科、本艦機関を敵ミサイルが貫通、火災発生中!”

「消火作業を急げ、爆発させるなよ」

「本艦の電源喪失、システムがダウンしています」

「旗艦を本艦から「門巴メンパ」へ移行させろ・・」

沈んだ艦は少ないが相応の被害を受けて対応に追われる中国艦隊、魚雷も来たということは潜水艦もいるはずでそれが後方からだというとずっとつけられていた可能性がある。つくづく自軍の対潜能力の低さを実感させられる事となった。


「制圧艦「長門」より入電、敵艦隊に多数の被害与えるも未だ健在、第2次攻撃の要有り速やかに準備せよ、以上です」

「了解した。ゆうだち、駆逐艦全艦にLMの発射用意、「長門」からの目標座標に基づき発射だ」

「了解、全艦LM発射用意、「長門」からの座標情報に基づき軌道を再計算・・・、全艦てぇ!」

ゆうだちの合図により駆逐艦から新たにLMが放たれ白い線を描きながら飛んでいく、それにしてもよく間に合ったものだと広瀬 勇士艦長はCICの艦長席で思っていた。「夕立」率いる乙部隊はグアムまで甲部隊と行動を共にした後、パリキールをかすめるように大回りして中国艦隊の真横に位置するように移動した後、敵のレーダー範囲外からの長距離射撃を行ったのだ。その移動距離およそ1800km、常時40ノットで移動しなければほぼ間に合わない計算になる。

「まさか本当に間に合わせるとはねぇ、技研の奴らいったいどんなエンジンを乗っけたのやら」

実際のところ建造は日本企業が行ったので技研はさして関係はないのだが、最大35ノットと言われていたものが40ノットを一日中出し続けても平気なあたり色々凄い事には変わりない。

「LM、間もなく本艦レーダー範囲外へ出ます。「長門」レーダー捕えました。管制制御引き渡します」

報告の後レーダーからミサイルを示す光点が消える。レーダー範囲外へ出たのだろう、こうなれば後は向こう側に任せるしかない。

「さて、出来ることならこれで終わってほしいものだな・・・」

スクリーンを見ながら結果を待つ広瀬艦長はそっと呟いた。


中国艦隊から後方20km地点の海中内で聞き耳を立てていたはくげいが艦長に報告を始める。

「圧潰音を確認、数一、中国潜水艦です」

「これで三つか、これで艦隊についている相手の潜水艦はいなくなったはずだな?」

「はい、そうなります。先手を打たれた時はどうなるかと思いましたが何とかなりましたね」

「こくげい達大丈夫かなぁ・・・」

一時的に役目を終えた艦内ではくげいはふとソロモン諸島で別行動をしている二隻の僚艦たちに思いを馳せていた。そのソロモン諸島では海中で静かな戦闘が繰り広げられている最中だった。

「ソナー、何か捉えたか?」

中国解放軍所属潜水艦「定征12号」の艦長が海中の音に聞き耳を立てている下士官に質問する。現在、本艦は僚艦の定征級潜水艦の2隻と共にソロモン諸島で確認された不審音の調査に来ている所である。

「いいえ、まだ何も、海流が乱れているのか所々若干のノイズが聞えますがそれだけです」

「ふむ・・ポイントはここで間違っていないはずだよな?」

「はい、ここ近辺の海域のはずですが」

元々哨戒用の無人艇からの情報であやふやなものではあったが誤作動を起こしたとは思えない、そんな風に考えていると何かを見つけたのかソナー員が小声で報告してくる。

「前方30㎞あたりで微かにですが機関音を確認、現在解析中・・・でました。日本海軍の大鯨型潜水艦です」

「やはり日本の潜水艦が紛れ込んでいたか・・魚雷戦用意!

発射管1番2番装填」

「了解、発射管1番2番魚雷装填」

「味方艦から魚雷発射音!数2」

先を越されて内心舌打ちをする艦長、発射を一時やめ事態の進行を見守る。

「味方魚雷、順調に接近中敵艦未だ動かず」

動かない敵艦を不審に思う艦長、あの日本の潜水艦が魚雷の接近に気付かないはずがないと思いつつもそのまま魚雷が直撃し、爆発の衝撃で艦がわずかに揺れる。

「魚雷の直撃を確認しました」

「やけにあっけないな・・・」

「!!後方から魚雷推進音確認!2来ます」

ソナーの報告と同時にくぐもった爆発音が聞こえ、艦が振動する。状況的に本艦に直撃したわけではないようだ。

「爆発音2つ確認、および圧潰音を一つ味方艦の模様・・」

「どっちがやられた!」

「方向からして13号と思われます」

「撃ってきたやつの探査を急げ」

味方艦の撃沈によってすでに自分たちが相手のテリトリーの中に入ってしまっていることを認識しつつ、生き残るために動き始めるのであった。


「圧潰音を確認、一隻撃沈よ、あおくじら」

“うし!中国の奴らには悪いがたいしたことねぇな”

「油断しないの、まだ2隻残っているわよ」

妹のあおくじらを窘めながら再びソナーのヘッドフォンを耳につけるこくげい、相手も息を潜めたようで海中は再び静寂に包まれる。

「やっぱし、こちらの出方をうかがいにかかりましたか・・・あおくじら、さっきの奴をもう一度行います。タイミングを外さないでちょうだい」

“わぁーてるよ、姉貴こそしっかりアシストしてくれよ”

誰に言っているのかしらと考えながら機器の操作を始めるこくげい、その後いくつもの機関音が海中に響き出した。

「・・・・・・・見つけた。そっちから見て左舷11時の方向、仰角5度12㎞地点に注排水音を確認」

“了解っと、発射管3番4番解放、魚雷発射!”

その声から少ししてあおくじらが発射したと思われる魚雷の推進音が聞こえだす。中国潜水艦が来る前に彼女の発射管には全て魚雷の装填を終えていたため後は発射管を開くだけだった。おかげで相手のソナーにも発射するまでの音を聞かせずに攻撃を行えているのだ。

「敵潜水艦魚雷発射を確認、7番デコイに直進中・・こっちの魚雷にはまだ気づいていないようね・・・」

そこまで言って沈黙するこくげい、その後彼女の耳が爆発音を捉える。一つは相手の撃った魚雷ので、もう一つはあおくじらが撃ったものである。

「更に1隻の撃沈を確認、これであと1隻・・」

そう話す彼女だったが恐らくその最後の1隻が一番厄介な相手となるだろうと彼女の勘がそう感じていた。


「「定征14号」がやられました・・・」

「ちっ、だから慌てるなと言ったのに・・」

そう「定征12号」艦長が言葉を漏らしたがお互いの連絡手段がない潜水艦でそれは土台無理な話でもある。

「しかし、艦長先ほどの奴は機関音のほかに電磁反応もありました。1隻は撃沈したのではないのでしょうか?」

「アホいえ、あんなもの罠に決まっているだろう、おいこの辺の海図を出してくれ」

士官の言葉を否定した艦長がそう命令し、海図を見ながら説明しだした。

「いいか、僚艦どもが狙った箇所がここ、他にも機関音が確認された場所と電磁反応が確認できた箇所を合わせると何か気づかないか?」

「?いえ、なにも、しいて言えば沿岸部に集中していることでしょうか?」

「お前ら海軍軍人ならば海戦の歴史ぐらい勉強しておけ、いいかこのポイントの大半が前の大戦で戦没した艦艇のあるところと合致しているのだ、恐らく奴らは戦没艦をデコイとしているだけでなく隠れ蓑としている可能性がある」

そう熱弁する艦長であったが他の者たちは釈然としないようである。その戦没艦というものは第2次世界大戦の時の日本軍とアメリカ軍のものだろう、はっきり言って中国には関係ない事柄でもあるため知らない者のほうが多かったようだ。

「さて、そういうことだ。恐らくこれまでに、そしてこれから聞こえて来る音は全て偽物だと考えて動かなくてはならない、そこでひとつ博打を打とうと考えているのだが乗ってみるか?」

そう話す艦長であったがその言葉とは裏腹に顔は拒否など認めないと暗に言っており、他の乗員は有無を言わさずに巻き込まれることとなった。


「完全に黙っちゃったわね、これは時間が掛かりそう・・・」

“ここにきてとんだ強敵に出くわしたって感じだな、燃えるぜ”

そう会話をしながら敵の動きを探るこくげいとあおくじらであったが敵もかなりの実力なのだろう、先ほどから全くと言っていいほど気配をみせない。

「ここまで相手の反応がある中で動かずに耐え続けるってかなり凄いわよ」

海中にはこくげいが設置した音紋型機雷から発せられる偽の大鯨型潜水艦の機関音が響いている。これが戦没艦の傍にあることで一種のデコイのような役目を果たすと同時にわずかにだがアクティブソナーも打ち続けているので内部に入ったものは瞬く間にその姿を晒すこととなる。実際にさっきの2隻は偽の音に反応してこちらに居場所を教えてしまい沈められていった。

“けど、気配を消しているということは動いていないっていることだろ?それならいずれ音紋型機雷のアクティブソナーでとらえるのじゃねぇの、どのみち時間の問題だろ”

そう話すあおくじらとどうも煮え切らないこくげいの二人の耳に突如“カーン”と甲高い音が届く、距離からして二人がいるところからおよそ東に30㎞離れたところであった。

「アクティブソナーを確認!下手したらこっちの居場所ばれたかも」

“うんな、アホな潜伏予想地点から大きく外れてやがるぞ、どうやって移動したし”

慌てる二人の下に新たな音が届く、魚雷の推進音だ。

「魚雷推進音2つ確認・・・あおくじらそっち行っているわよ!!:

“クソ!欺瞞は間に合わねぇ、発射管解放5番6番魚雷発射!”

即座に反応したあおくじらが装填済みだった2本の魚雷を放ち攻撃を防ぐ、丁度10km地点で迎撃に成功するも再び敵の居場所を見失う。

“姉貴、相手はこっちの作戦に気付いているようだぜ”

「そのようね、危険は冒したくはなかったけれどこちらも動かざるを得ないか・・・」

その言葉を合図に自分たちの築いた要塞の中から動き始めた2隻、自分たちが誘い出されたことを悔しく思いながらもこれ以上はやらせないと覚悟を決めた瞬間であった。


「魚雷2発とも防がれました」

「うまく意表をついたと思ったがそう簡単にはいかぬか」

「再び機関音を多数確認、今度は移動している物もあります艦長!」

「うまくおびき寄せられたようだな、発射管1番から3番に再装填今度は全部魚雷だ!」

素早く艦長が指示を出し次の攻撃準備を進める「定征12号」、更にソナーからこちらに向かっている反応は2つという報告が上がり敵の陣容が判明する。

「1隻ずつ確実に行こう、発射管1番2番開け、目標左舷10時の敵艦、魚雷発射!」

命令後2発の魚雷が発射される。今回狙った艦は「黒鯨」だった。向こうもすかさず欺瞞と対抗の魚雷を放ってくる。

「魚雷接近!数3!」

「マスカー出せ!急速潜航」

「マスカー了解、急速潜航!」

気泡の鎧を纏った船体が傾き深度計の数値が下がっていく、深度が浅いこの海域で避けきれるかどうか不安だったが何とかよけることに成功する。

「ふう、もう1隻はどこ行った?」

「わかりません、先ほどの艦はそのまま後進していますが・・!!本艦右舷方向から機関音及び魚雷急速接近中!!」

先ほどの攻防の間に回り込まれてしまったのか、真横から攻撃にさらされる距離もすでに近く詰みの状態だ。

「回頭急げ、3番魚雷撃て!!」

その声と共に魚雷が1発撃ちだされる。そのあとに艦が大きな衝撃に襲われる。

「艦内浸水発生!」

「ダメコン急げー」

「間に合いません!!」

“ここまでか・・・だが、ただではやられんせめて1隻でも道連れとしてやろう”

沈みゆく艦内で艦長は死ぬ最後まで魚雷で狙った相手の方を睨み続けていた。


「魚雷の直撃を確認っと、あとはあの魚雷を処理するだけだな」

“本当、ギリギリの戦闘でしたね、相手がどう移動したのかまだ謎ですけど”

迫りくる魚雷を防ぐための魚雷を撃ち、艦を潜航させるあおくじらに姉のこくげいが話しかける。

「ああ、それなら回り込んだ時に気付いたんだけどさ、多分海流に乗って移動したんじゃねぇかな」

“海流ですか?”

聞き返すこくげい、海流を使った移動というのは燃料の節約を兼ねて海上防衛隊など船乗りなら考える手段だが、それはあくまで自分たちがよく知っている海域での裏ワザ的なものだ。それをよく知らない場所で使おうなどと思いもしなかったのだろう、まさに賭けのようなものだ。

「で、あちらは見事賭けに勝った上にこっちに一泡吹かせたわけだ。敵ながら天晴だぜ、まぁ、最後はあたしらが勝ったけどな、おっと爆発音1、迎撃成功だな」

そう話しながらノビをするあおくじら、ずっと気を張り詰めていたので体がバキバキである。帰ったら姉貴にでもマッサージでもしてもらおうかと考えたその刹那、“ゴゥン・・”と鈍い音がしたと同時に艦が大きく揺れる。とっさのことで踏ん張れず壁に体を打ち付ける。

「なん、だ・・艦に被弾?なんで・・」

“あおくじら、すぐそこから離れなさい、低速で接近してくる浮遊物があるわ!”

意識が飛びかけた彼女にこくげいの声が届く、姉の声に反応して動こうとするが艦は動かない、どうやらスクリューがやられたようだ。

「接近中の浮遊物の解析・・・中国の機雷?一体いつ仕掛けられたやつだ・・?」

何とか立ち上がり解析結果を確認するあおくじら、接近している物体は2つどっちも機雷だとすれば間違いなく沈む。

“なるほど、敵さんこっちが本命ってわけか・・”

心の中で呟く彼女、相手の真意を理解したのか顔に笑みが浮かぶ。恐らく海流を使って移動しているさなか機雷を仕掛けたのだろうこの型はたしか発射管一つで3個放出できたはずだ。

「まさか、わたしが回り込むって予測していたのかい?最後に撃った魚雷は足止めを狙ってか潜らせて機雷に近づかせるのか目的かな?まぁ、なんにしても素晴らしい軍人魂なことで・・・」

システムもやられ撃つ手段がない中、自身に刻一刻と迫る死のカウントダウンを待ちながら彼女は話し続ける。死の恐怖を和らげるためか、単純に相手に敬意を払った結果なのかはすでに彼女自身も分からなくなっていた。

「・・・・わたしを沈めたその功績、素直に誉めてやろうあの世で待っていろよ・・すぐ駆けつけて褒美に殴りつけてやるよ・・・」

最後の瞬間、彼女は先に旅たった自分を沈めた顔も知らぬ戦士たちに称賛の言葉を投げつけていった。そして彼女が今回の戦闘で唯一の喪失艦と決定づけた瞬間だった。


海戦が終わったあとの戦闘は何事もなく順調に進んでいった。敵勢力が無人機を多量していることを知っていたため、事前に管制基地を航空機、対地ミサイルで潰しまくったあと、陸上戦力を海・空から投入し、司令部を真っ先に制圧したことも遠因となったのだろう、陸戦の戦死者は日中合わせても500名を切り中国兵のほとんどは捕虜として確保することに成功した。かくして日本はオーストラリア・ニュージーランドとの航路を確保し、本格的な友好国への援軍、中国からの奪還のための足掛かりを手に入れたこととなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ