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日本国世界大戦  作者: 一機当千
本編
40/68

先遣隊

今回は短めですが投稿します。

2月5日 パナマ運河


大西洋と太平洋の架け橋となるここには今いつもなら場違いな艦船が複数隻大西洋へと行くために時を待っていた。

“欧州戦線派遣艦隊第1部隊”

制圧艦「信濃」を筆頭に高雄型巡洋艦2隻、球磨型巡洋艦4隻、夕立型、夕空型駆逐艦10隻、黒鷹型海洋母艦2隻、支援艦10隻のこの艦隊は欧州戦への介入のために編成された部隊でその目的はドイツによって掌握されている空宙優勢の切り崩しである。そのことは防空を得意とする艦種が多いことからも伺える。

「しなの、そろそろ予定の時刻だが準備の方は大丈夫か?」

そう話したのは「信濃」艦長兼欧州戦線艦隊司令官の浦部 康弘一等海佐だった。

「はい、ついでに各艦に燃料の補給も支援艦から受けさせておきましたのでいつでもOKですよ、しかし、ただでさえ余裕のない戦力をこんな遠くの地まで送り込んでしまって本当に平気なのでしょうか・・、そろそろ東南アジア戦線でも作戦の開始を計画しているころでしたよね?」

浦部の質問に答えながら疑問を呈した偽魂体しなのである。

「とはいえすでに月のほうで欧州部隊を受け入れてしまった以上こっちは放置というわけにもいかないからな、上層部の方もかなり無理をしたらしい」

「だからと言って副長以下の乗員を別艦隊に異動はやりすぎではないのでしょうか?支援群の艦なんか偽魂体だけになっていますし」

今回の欧州への部隊派遣にあたり日本側は戦力の分散を可能な限り抑えるために現在欧州で脅威となっている宙対地攻撃の対処を目的とした編成にしたほか、乗員の確保として艦長以外は本派遣部隊に参加させていない、これによって残った乗員は今後配備される新造艦に配属することで量的な戦力向上を狙えてかつ質も維持することが出来た。とはいえ相対的に偽魂体や個々の負担が増えるうえに成果が表れるのにはもうしばらく時間が掛かるだろう。

「まっ、文句を言ってもどうにもならんがな、おっとそろそろ時間か・・・、艦隊行動の指揮は任せたぞ、しなの」

「了解しました。全艦衝突に気を付けつつ管制の指示に従い大西洋へと移動を開始せよ」

その言葉と同時に信濃の巨体が静かに動き出し始めていった。


地球の約7割を占める海、その中で一番の大きさを誇る太平洋の深海を音も立てずに進む船団が居た。

「間もなく待ち伏せ予定ポイントです。艦長」

「うむ、僚艦はしっかりついて来ているか?副長」

「偽魂体を通して各隊旗艦の「雷鯨」、「春鯨」から問題ないと報告が来ています。僚艦の「黒鯨」、「青鯨」も同じです」

報告を聞き静かに頷く艦長、そのまま立ち上がり海図を広げてある机の前に歩き出す。潜航中のため正確な場所は分からないが恐らくパプアニューギニアから1500km付近で最大深度の600m(深度計には1200mの目盛りがあるが気にしない)辺りを進んでいるのは日本の潜水艦群であった。この9隻は近く発動される東南アジアでの作戦のために先だって出撃した部隊であり、その役目は偵察と攪乱である。

「付近に敵艦はいないか?はくげい」

「今の所は一隻も確認できません、フィリピンの近くにはウヨウヨいたのに静かなものです」

艦長の質問にヘッドホンを着けた少女が答える。

「そうか・・、ここらへんで充電と換気をしておいた方がいいだろう。各艦に旗艦は浮上し充電及び換気作業、僚艦は潜航したままスノーケルによる充電を行わせろ」

潜水行動をしてまだ3日と可能潜水期間1か月から見ればまだまだ余裕はあるが若干湿度が高くなっている。時間があるなら今のうちにリフレッシュしておいた方が士気も維持できるだろう、これが偽魂体だけならそんな配慮も特に気にしなくてもいいのだが、そう思いちらりと副長の復唱にヨーソローと答える少女をみる艦長、その声と同時に船体が傾き浮上し始めた。ほんと一体どういうメカニズムで操っているのだか偽脳波による相互送受信行動とか授業で習ったがさっぱり分からん、この前はくげいに聞いてみたが「わざわざ自分の身体動かすのにこれをこうしてとか考えながら動くんですか?」と真顔で言われてしまった。そうこうしているうちに浮上し終わったようではくげいが作業を始める。折角なので自分は副長と一緒に外の新鮮な空気を吸わせてもらおうと艦外へと出る。付近には同じように3つの黒い物体が浮上していた。ん?3つ?もう一度数えてみるが確かに周囲には3つの黒い物体が見える。本艦を入れれば4つだ今回の作戦で人が乗艦しているのは3隻でどう考えても1つ多いのである。

「ちょっと艦長!外に出るのでしたら一言言って「なぁはくげい、浮上している艦が多いのだが何かあったのか?」

艦長の質問に言葉を遮られて不服ながらも彼女が答える。

「それでしたら多分潜水艦じゃないですよ、多分魂奉式の子だと思います」

その言葉を受けもう一度よく見ると確かに2つはよく知る潜水艦の形をしているが一番遠くにいるものはどちらかというと生物に近い形をしている。それはゆっくりとこちらに近づいてきてその輪郭がはっきりしてきたどうやら鯨のようだ。

「魂奉式ってあんな大きいものまでいるのか?初めて知ったぞ、てか都市伝説じゃなかったのか・・・」

目の前で泳いでいるそれを見ながらそう話す。正直言って作り物と言われなければ本物と見分けがつかない、それほどまでに精巧な作りだ。

「どうやらこっちに報告があるようなのでちょっとあっちに行って聞いてきますね」

本艦の近くで静止したそれを見てはくげいが話す。

「わかった。すぐボートを出すから少し待っていろ、っておい!」

艦長の言葉を聞かずにはくげいがその身を海に投げる。大きな水しぶきをあげて彼女の身体が沈む、少しして水面に顔を出した彼女はそのまま鯨の下へと泳いでいった。

「まったくほんとう勘弁してくれよ、副長すまないがあいつの着替え予備あるか調べといてくれ」

頭を抱えながら副長にそう話す艦長、当の本人は鯨の上で何やら頷いているが口は動いてないので偽魂体特有の意思疎通方法で会話しているようだ。それで話すのならわざわざ飛び込まなくてもいいだろうに、大きなため息をしながら艦内へと戻る艦長であった。


「それではくげい、向こうは一体何の用だった?」

充電と換気を終え再び潜航した後に艦長が質問する。まだ水気を含んだ髪を拭きながら(幸い替えの服だけなら有った。)はくげいが答える。

「それなら作戦予定海域の中国解放軍の戦力状況を教えに来たようですよ、すでに本国には伝達済みなのでついでのようでしたが」

そのまま報告を続けるはくげい、話によるとパプアニューギニアに存在している戦力は小型艦20隻、中型艦15隻、大型艦8隻のようで潜水艦は6隻のようだ。このほか陸上戦力は1500名程度、航空戦力も多くはないが確認されている。

「海上戦力はそれぞれピスマーク海・ソロモン海に展開、陸上戦力は思ったより少ないがこれ正確なのか?」

「陸上戦力はあくまで人員の数で実際はUGVなどが主力であり、その1500名はほとんど指揮官みたいです。あと航空戦力はほとんど揚陸艦に搭載されていて陸にはありません」

彼女の言葉に頷きながら地図を見る艦長、隣では副長も思案顔である。

「航空戦力はまだしも潜水艦が厄介ですね、下手をすればこちらの目的を達成する前に邪魔が入りますよ、艦長」

副長がそう話しかける。潜水艦は全てソロモン海に付近にいるようだが作戦の都合上こちらもソロモン海を通らなくてはいけない、出来るものなら事前に片付けておきたいところだ。

「どうにかして事前に遠くにおびき出せないものですかねぇ、作戦が終われば哨戒機を使えますし」

「おびき出すか・・・」

副長の呟きに反応する艦長だったが再び黙りこくり考え始めてしまった。


横須賀


時を同じくしてここ横須賀では静かな海中と違い年末の大掃除のような慌ただしさを醸し出していた。

「LM、MM、SSMは駆逐艦に優先して装填してくれ!SMとSGM、SAMは制圧艦から頼むぞ」

「艦載機はこれで全部か?良ければ弾薬の搬入を始めるぞ!」

「燃料の補給がまだじゃねぇか!急げ!」

至る所で人が走りながら作業する様子を艦橋から覗きながら広瀬 勇士二等海佐はひとり作戦の概要を頭に叩き込んでいた。この作戦地味に駆逐戦隊の働きが重要で色々な意味で緊張している。

「駆逐艦16隻でこれをやれとか上も無茶いうぜ、まったく」

「なにが無茶なの?勇士」

広瀬の呟きに返事が返ってくる。突然のことで広瀬も驚くがすぐその声の主を見つける。

「あぁ、ゆうだちか、体の整備検査大丈夫だったか?」

「そっちは大丈夫、あとで艦の補給後調整しなくちゃいけないけど、それより顔が受験前の学生みたいになっていたけどどうしたの?」

「いやな、今回参加する作戦なんだが、地味に駆逐艦に無茶な行動をさせるみたいで大丈夫なのか不安になってな」

「ん~、作戦の概要なら私も見たけど別に変なところはなかったと思うよ、こっちの性能からみても十分可能の範疇だったし」

まじか・・、と驚く広瀬だったが当の本人が心配していないようだし本当なのだろうと思うことにした。

「ところで秋山副長はどうした?確か一緒だったと思ったが」

「副長だったら別の偽魂体の検査手伝っているよ、多分しばらく戻ってこない」

「またか・・、まぁ今は特に仕事もないからいいがあいつも本当によく偽魂体に付き合わされるな、なんで防衛隊に入ったのやら」

そんな会話をしている中でも作戦の準備は着実に進んでいく横須賀だった。そして政府の方も最終調整に入るところであった。


「今回の作戦以降“ノゾミ作戦”の参加部隊は以下の通りとなります」

官邸で国安省の官僚がはなし、参加者は書類に目を通す。


“ノゾミ作戦参加部隊”

甲部隊

制圧艦「長門」「陸奥」

巡洋艦「金剛」「比叡」「川内」「神通」

駆逐艦「朧」「曙」「潮」「霙」

海洋母艦「瑞鶴」「翔鶴」「黒鷹」「白鷹」

輸送艦「下北」「知床」「津軽」

第4歩兵連隊、第2特火連隊

第11航空団、第12航空団、第21哨戒飛行団、第21輸送飛行団


乙部隊

駆逐艦「夕立」「夕潮」「夕空」「夕霧」

   「時雨」「朝潮」「晴空」「朝霧」

   「村雨」「秋潮」「秋空」「山霧」

   「春雨」「春潮」「春空」「海霧」


丙部隊

潜水艦「白鯨」「黒鯨」「青鯨」

   「雷鯨」「雪鯨」「岩鯨」

   「春鯨」「花鯨」「冬鯨」


かなりの大部隊である。排水量でも甲部隊だけで30万tはゆうに超えるだろう。

「このうち丙部隊はすでに出撃をしており、待機しております。あとは甲乙両部隊の出撃が済み次第作戦を開始する予定です」

統合幕僚長が説明を付け足す。

「作戦の実行はよろしいのですがなぜ目標がパプアニューギニアなのです?シーレーンの確保を考えればフィリピンあたりだとおもうのですが・・」

閣僚の一人がそう質問した。これに対しては海上幕僚長が答える。

「まさにそのシーレーンの確保のためです。今現在残念ですがアフリカへと向かう航路は例のことで重要性が下がっております。また、オーストラリア・ニュージーランド両国にはまだ中国解放軍の手は届いていません。なのでここを抑えて両国との航路を確保することで資源確保の問題の緩和を目指します。また補給線の問題で近くから抑えていくとどうしても伸びてしまい負担が大きくなってしまいます。なら、逆に遠くから抑えていき順次縮小をはかりながら戦力の集中を図るわけです。幸い我が国には補給能力を持った支援艦が大量に存在しますので短期であれば補給線の維持が可能となります」

説明を終え席に座る海上幕僚長、確かに今の日本に長大な補給線を維持し続ける力はない、それなら補給線を短くしながら戦おうというある意味逆転の発想である。また、昔と違い相手が悪かっただけで東南アジアの国々もそれ相応の力を持っており、日本が居続ける必要もない。

「一先ず作戦の概要は分かった。それでだが成功率はどのくらいなのかね?リスクの高い作戦を許すほどこちらも余裕はないぞ」

一通りの説明を聞き鴉山総理が口を開く、それに対して東大臣が言葉を返す。

「シュミレーションの結果ではかなり高い成功率が出ましたが、実際の所何が起こるかはその時にならなければわかりません。五分五分と考えてもらえればよろしいかと」

「そこまで下がってしまうのか、ますます戦争というものの難しさを実感してしまうな」

そう感想をいう総理であったがここでためらってしまえば更に不利になってしまうだろう、今は隊員たちを信じて送り出すしかないと判断して本作戦の最終決定を下すのであった。


そして日本の中国解放軍に対する本格的な反攻作戦が開始された。

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