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日本国世界大戦  作者: 一機当千
本編
39/68

裏と闇と影

1月30日 中国・北京


「えーと・・馬中将申し訳ないがもう一度説明をしてくれないか、なんか色々と理解しがたい言葉が出てきた気がするのですが・・」

書類から目を離し目の前にいる人物に問いかける劉上将、書類には「海軍艦艇の脱走に関しての報告」と書かれていた。

「はい、まず巡洋艦「回」の逃走時に海軍レーダーのシステムダウン及び報告の遅れについてですがどちらも機材の配線の切断によるものだと判明しました。また、配線の切断面にはネズミの歯型が残っており調査委員会はこれをネズミの仕業と判断するとのことです。また、追跡に向かわせた無人艇の破損についてですがスクリュー部分になんらかの生物の組織片がついていたことから海洋生物との接触による推進力の喪失が濃厚とのことです」

「えっ、じゃあなんですか君たちはネズミにレーダーと通信機器を破壊された挙句、魚に小型とは言え軍用艦艇を機能不全にされたということですか?君たち一体、動物たちに何しちゃったの?これ完全に恨まれているよね。てか、これに似たようなこと依然も報告で聞きましたよ?」

頭の容量がオーバーしたのか質問をぶつけまくる上将、中将も“えぇ、まぁそういうことになります”と苦笑いするしかない、軍部が政府を掌握して以降防衛軍によるゲリラ戦や人民のデモなどが起こり続けていると同時になぜか野生動物による解放軍への被害が増加しており頭をひねる状況となっているのがいまの中国の内情である。

「まぁ、一日で基地の周りが樹海になったり戦闘機がバートストライクして落っこちたりと不可解な出来事がよくおきますけどそれは置いといてその艦に主席が乗っていたというのは確かですか?中将」

謎現象(他にパンダが基地から弾薬を盗んだり、イノシシが防衛軍との戦闘中に突進してきて解放軍兵士を吹き飛ばしたりと起きたことは分かるがなぜ起きたのかが分からないという事象が多発している)についての話題は終えて次の話を始める上将、それを受け中将が話し始める。

「主席の乗艦の件に関してはほぼ間違いないそうです。複数の監視カメラで姿を捉えているうえに「回」の艦長はあの張 徳因の父親と判明したことから疑う余地もないそうです」

「そうですか、彼を国外に逃がしてしまったのはいたいですねぇ、余計な事を仕掛けてこなければいいのですが・・、こちらの件は諜報組織とサイバー部隊に対応させておきますので中将は東南アジアに駐留している部隊の増強と体制の確立をお願いしますよ、日本みたいに奪われ返されるのはもう御免ですからね」

そう指示をだし中将を退室させた執務室で背を椅子にもたれ掛らせながら上を仰ぐ上将、自身の立てた計画の進展が芳しくない事を危惧しながら次に打つ一手を考える。

「まぁ、いまはそれよりも・・・」

机に山積みにされた書類の山を見つめながらため息をつく、軍部の掌握に集中しすぎて事務系の役員を味方につけるのを忘れたことに後悔しながら執務に取り掛かった。


時を同じくして中国・郊外のある地域では多くの人が街中を行き来しており、活気溢れる光景を出していたが一つ裏道へずれると廃墟が立ち並びところどころ焼けた跡が残り静まり返っていた。ここは防衛軍・解放軍双方が銃火を交え、住民は巻き込まれるか事前に逃げるかして捨てられた住宅街の一つだった。

「国内外所構わずに戦ってひどい有様ね・・、この国は滅亡願望でもあるのかしら」

人っ子一人いない廃墟の街で声が響く、そこにはフードを深く被り顔を隠した子供ぐらいの子が一人歩いていた。性別は顔が隠れて分からないが声からして女の子だろう、その子は周りを注意深く警戒しながら廃墟の一つに足を踏み入れる。

「やぁ、リンリン随分と早いね、約束の時間までまだ30分あるよ」

少女がとある一室に足を踏み入れると中から男の子の声がするが、部屋には見る限り少女一人しかいない、少女があたりを見渡して少し考えた後日本語で話し始める。

「道がすいていたからね、あと姿を見せてくれないかしらネズ?あなた小さいから見つけにくいのよ」

「あはは、ごめんごめんあまりこっちで人に会うことはないからつい忘れていたよ」

その声がしたと同時に部屋にネズミが現れる数にしておよそ10匹、その中で一番大きな個体が瓦礫の山の上に飛びのり少女と向き合うがそれでも少女を見上げる格好となり残念そうな顔をする。

「さて随分と久しぶりだね、共産党本部の建物に君の核を憑依させて以来だからかれこれ10年ぶりかな?」

「昔話はいいから要件を言ってくれない?こっちも暇じゃないのよ、何しろ街を離れる人が多くて情報処理が大変なんだから」

自分を見上げているネズミに対してぶっきらぼうに答える少女、ネズミの方は“そう・・”と悲しげな様子だがそれも一瞬のことですぐに本題に入る。

「そうだね、まず何から説明しよっか・・、逃亡していた主席が日本に来たことかな?まぁ、それで総理が会談したらしいのだけれど、結果的に中国本土への介入を約束させられてしまったらしい」

「主席ってあの王 周来のこと?たしか防衛軍に合流させて解放軍とぶつかりあってもらう予定じゃなかったかしら?なんで日本に連れてきているの?馬鹿なの?死ぬの?てか潰してあげよっか?」

ネズミの説明に対して質問と毒舌をぶつけまくる少女、そんなことはお構いなしにネズミが話を続ける。

「潰すのは勘弁してぇ、まぁ、それで約束したのはいいのだけれど防衛隊に中国国内までかまける余裕がなくってね、本来日本国内で活動するのが目的だから仕方ないけど・・・、そこで君たち“土地神式偽魂体”の出番というわけだ。悪いけど防衛軍と解放軍との戦闘で防衛軍が有利になるように動いてくれないかな?もちろん僕たち“魂奉たままつり式偽魂体”も協力させてもらうけど、どうかな?」

「どうせ後々命令が来るんでしょ?平気よ、ちゃんと従ってあげるから、それより動物の不審行動ってあなたたちの仕業だったの?上将がヒステリー起こしかけていたわよ、あと私達土地神式は基本傍観することしかできないから行動面に関してはあなたたちや“付喪神式”の子にさせてよ」

「あはは、そっか、それじゃああとは頼んだよ、僕はまだほかの土地神式の子達にも伝えなくちゃいけないからそろそろ行かせてもらうね」

そういった後部屋にいたネズミの群れが姿を隠し静かになる。静かになった部屋を少女は足音を立てず出ていきその姿を消した。


薄暗い廊下を走りながら私は部屋の扉を次々に開けながら何かを探す。そして突き当りにある部屋の前へと立ちドアノブに手をかける。

“開けちゃダメ、また後悔する”

頭のなかで考えるが体は言うことをきかずに扉を開き中へと足を踏み入れる。中には3体の死体が捨てられていた。

“あぁ、また、この夢”

死体を見て私はそれが自分の親友と上司の成れの果てと悟ると同時にこれが夢だと理解する。だが体は未だに自由にならず膝をつき動かない。

“なんで・・、この光景ばっかりでるの・・”

ただ目の前にある死体から目をそらすことが出来ず、自分の心が抉られる感覚を感じながらこの夢の続きを思い出そうとするが頭に靄がかかり思考がはっきりしない。その時目の前の死体が動いた気がして意識を向ける。次の瞬間には目の前に親友たちの死体が迫っており自分の体にまとまり付いてくる。

“ア・・、ウっ、あっ・・・」

彼女達の皮膚は想像を絶するほど冷たくパイロットスーツで隔てていても突き刺さるように体の中にまで伝わってくる。その冷たさで体の意志が自分に戻るが今度は親友達自身によって体は拘束され成すがままとなる。

「や、め・・・」

何やら死体がボソボソと声にならない声を呟いていたが聞き取ることはできない、だが彼女はそれを自分に向けられた呪詛の言葉とこの時感じた。いつの間にか自身と親友を隔てていたスーツが消え、その冷たさが直に伝わってくる。まるで自分の身体の中に入ってこようとしているようだった。その冷たさに自分の心臓が動きを止めようとしていることを感じながら彼女の視界が暗くなっていき・・・

「ッ!!!!カっ、ハ・・・・」

そこで白瀬 美海は眼が覚め体を跳ね起こす。心臓は早鐘のように脈打っており恐ろしいほどの寒気を感じているのに体は汗で全身グッショリと濡れている。

「また、悪夢・・」

頭を抱え嗚咽を漏らす彼女、暫くして汗で濡れた体を洗い流そうと寝床からその身を出し浴室へ向かった。悪夢を見るたびに汗で濡れた寝間着を脱ぐのが嫌になって何もつけずにそのまま寝るようになったのはいつからだろうかと考えながらシャワーから出される温水を浴び続けている白瀬、鏡に映った自分の顔はクマが出来てひどい有様だ。あの作戦、正確には香たちが死んだ日以降白瀬は寝るたびにあの惨状の夢を見るようになり軽い精神異常に陥りかけていた。それでも機動戦鬼のパイロットを続けられているのは彼女の精神の強さと言うべきかどうかは分からない。

「わたしにどうしろっていうのよ・・・」

シャワーで濡れた身体をまともに拭かずにそのまま布団へ身体を投げ出す白瀬、頭の中では色々なことがぐちゃぐちゃになって重く感じ意識も朦朧としている。この様子ならそうかからず再び眠りにつけるだろうと考えそのまま瞳を閉じたもののそう簡単にはいかず結局陽が昇るまで目は覚めたままで彼女は寝不足と戦いながらその日の訓練を乗り切った。乗機が大破し廃棄処分となった今現在新型機への機種変更のためにここ松島基地で日々訓練に励んでいる。

「あの・・、白瀬隊員大丈夫ですか?何かすごく眠そうな顔をしていますけど・・」

眠気で頭が重い白瀬に整備士の作業服を着た女性が話しかけてくる。

「あぁ、花恋隊員、うん、大丈夫よ。少し仮眠すればマシになるとは思うから私の機体の整備よろしくね」

笑顔でそう答える白瀬に対し話しかけ来た女性、田所 花恋隊員は心配そうな表情で白瀬を見つめる。彼女とはここ松島基地で出会いよく会話をする仲となった人で彼女自身は機動戦鬼のパイロットを志望していたようだが適正の関係で支援群の整備員として働いている。

「整備の事でしたら任せてください、けど本当に大丈夫ですか?一応昼食の時間には起こしに行きますけど早目に帰った方がいいんじゃ・・・」

「平気平気、ただちょっと最近夜眠れてないだけだから、それじゃあまたあとでね」

そういって足早に去っていく彼女を田所隊員は見送った後自分の役目を果たしに行った。


「それで整備長ったらひどいんですよ、私にはパイロットより整備員の方がお似合いだって言ってくるんですから、普通本人前にして堂々と言いますか無神経にも程があるとは思いませんか?白瀬隊員!」

昼食の席で愚痴をもらす田所隊員を“アハハ・・”と苦笑いしながら見つめる白瀬、仮眠室で仮眠しているところを起こしてもらいそのまま昼食を一緒にしているわけだが、さっきからこんな感じで押され気味の白瀬であった。

「けど花恋ちゃん、なんで機動戦鬼のパイロットになろうとしたの?この仕事結構人使い荒いわよ」

「そりゃあ、ずっと憧れていましたからねぇ民間用でも良かったのですけどやっぱり本場でやっていきたいなと思って志願したんですけどまさか適正が必要なんて思いませんでした。ですからある意味自分にとって白瀬隊員は目標みたいなものですよ」

テーブルに突っ伏しながら話す彼女に“そんなできた人間じゃないわよ、わたし・・”と白瀬が話すが彼女の耳には届かなかった。そのまま午後の訓練の準備をするために席を離れた。

次に彼女と顔を合わせたのは訓練を終え宿舎へ帰るために基地から出ようとした時だった。どうやら彼女も丁度帰るところだったらしくそのまま一緒に戻ることにした。

「それにしても基地の周りの人また増えていますね」

そう言った彼女の視線は基地の周りのフェンス付近にたむろしている人々に向けられていた。垂れ幕やらカメラなどそれぞれ持っているものは違うがここ松島基地が目的なのは一目瞭然だ。

「どうせ平和団体とかでしょ、カメラを持っているのは報道関係者かミリオタの類かしらあとは・・、うん、わかんない」

流し見しながら答える白瀬、日本が本格的に開戦した日を境にそれまで瀕死状態でなりを潜めていた平和団体が息を吹き返したようで沖縄・九州地方を除いた基地周辺などで似たような光景が日常茶飯事となっている今日この頃、正直言ってその言葉は戦争を吹っかけてきた相手に言えよとも思わなくもない、もっともあんなのに影響されるほど今の日本人は純粋ではないので滑稽でもある。今頃松島基地の土地神式の偽魂体が情報収集して公安辺りと共有している頃かしら?情報ごちそうさまです、はい。

“・・??”集団の横を通り過ぎる時ふと白瀬はコートを着込み帽子とマスク、サングラスで顔を隠している男性を見つけた。見るからに怪しさ全開であるそいつは白瀬の視線に気づくとそそくさと傍にいた集団に紛れ姿を消す。絶対怪しいだろあれ、気づくとスーツを着た強面な男たちが後を追っていくのを確認できた。恐らく公安かその類の人だろうか?そんなことを考えながら歩を進めた白瀬達だった。


日本の街のとある一角に気配を殺し周囲を警戒している一団がいた。

「松島基地に向かわせた者が一名行方をつかめない」

「恐らく日本の奴らに捕まったのだろう、我々も注意しなければならない今の日本はどこも奴らの監視下だ。この会話ももしかしたらばれている可能性もある」

「作戦の実行については大丈夫か?」

「だいじょうぶだ、問題ない」

明らかに大丈夫ではない発言が出たがそれは置いとき、会話からして日本と敵対していると分かるその集団は話を進めていく。

「では本国から受けた作戦の実行は予定どおりに行うということで各員準備のほうは抜かりなくな、以上解散」

日本で不穏な影が動き出していた。それから数日後、事件は起こった。

「白瀬隊員、機体の調子はどうでしたか?一応隊員の癖に合わせてプログラムを調整してもらったのですが・・」

訓練を終え機体をハンガーに収容して降りた白瀬隊員に田所隊員が話しかける。

「うん、大丈夫よ、花恋隊員まだ少し機動行動中のモジュール換装に慣れないけどそのほかは完璧、流石ね」

「まぁ、任された以上しっかり務めは果たしますよ。しかし、すっかり暗くなっちゃいましたねぇ、この後の整備が終わるころには21時過ぎちゃいますね」

整備に取り掛かりながらそう話す田所隊員、言葉とは裏腹に嫌そうな感じはなくむしろやる気満々で作業している。整備士になったことを不服だと言っているが仕事自体には誇りを持っていることが伺える。

「訓練が長引いちゃったからねぇ、ごめんね巻き込んで」

白瀬の言葉に“お気になさらなく~”と返す田所隊員、整備用のロボットに指示を出しながら自身もコックピット内でプログラム関係の整備に取り掛かっている。

「あ~そうだ、白瀬隊員この後良かったら一緒にご飯食べに行きませんか?同僚から美味しいレストランを教えてもらったんですよ」

「あら、いいわね。それじゃあ折角だ・・“ズズゥゥン・・”何?!」

食事の誘いを受けようとしたところに突然くぐもった爆発音が響き、間をおかずにサイレンがけたたましく鳴り響く、ハンガーで作業していた者たちも手を止めお互いに顔を見合わせる。

「花恋隊員、コックピットのサバイバルキットからナイフを取って頂戴、状況を確認しに行くわ」

「へ?拳銃じゃなくてナイフですか?」

状況を飲み込み切れていない田所隊員に“そっちの方が使い慣れているのよ”といった後、ナイフを受け取った白瀬はシャッターの影から外の様子をうかがう、所々小さな火が燃えている。その火に照らされて人影が確認できた、おまけに銃を持っているらしく発砲炎が見える。

“なんかやばそうな雰囲気ね・・”

シャッターから離れ中へ戻りながら彼女はそんな予感を感じていた。


“目標 Aアルファが司令部へ接近中、第1班は至急向かってください、Bブラボー及びCチャーリーが航空機格納庫に向かっています。第4,5班が対処してください、第2,3班は機動戦鬼格納庫に向かったDデルタEエコーの対処をお願いします”

“了解”

警備隊に一通りの指揮を出し、松島基地に所属している偽魂体は深くため息をついた後今一度状況を確認するために目をつぶる。敵は25名うち4人はすでに無力化、突然の事態にしては上々である。

「その前に一体どうやってここまで接近したのよ、ここ一帯私の管轄下のはずなのだけれど・・」

そんな疑問が頭の中で浮かぶ。この偽魂体は土地神式なので自身の担当する領域のことなら人の数に車の台数や個々のナンバー、畑の作物の状況など手に取るようにわかる。武器を持っている集団なんかいれば速攻で気づくはずなのに見逃したどころか攻撃を許してしまった。

「う~考えれば考えるだけ頭痛くなってきた・・、今はこの状況を早く終わらせよ」

そうして意識を再び自身の領域に広げる。次に浮かんできた映像はとある格納庫で銃撃戦が繰り広げられているものだった。


“キィィン!!”

甲高い音を立て跳ね返った銃弾が近くに当たって驚いた田所 花恋は短い悲鳴を上げて身を潜める。少し離れた場所ではさっきまで一緒に作業をしていた同僚たちが斃れている。

「花恋隊員、ビビってないで早く撃つ!じゃないとあなたが撃たれるわよ!」

機体を盾にしながら拳銃で応戦している白瀬隊員から叱咤され慌てて持っている小銃を構える。

「え、えっと弾倉を確認して、安全装置を解除してから・・「危ない!!」きゃ!」

普段銃を撃つことがないのでもたついている彼女を白瀬が思いっきり引き寄せる。間髪入れずにさっきいた場所に銃弾が撃ち込まれたのを見て田所は青ざめる。反対に白瀬の方は撃ってきたと思われる相手に向けて銃撃を加える。相手はそのまま倒れ動かなくなった。

「花恋隊員、大丈夫?」

「は、はい、大丈夫です。助かりました」

白瀬の問いかけにそう答えるがどうやら腰を抜かしてしまったようだ、立ち上がろうとしている足が震えている。そういえば彼女、入群してまだ日が浅かったけいきなり実戦に放り込まれたものだし仕方ないかと思いながら立ち上がらせた白瀬だったがその背後から敵が一人飛び出し銃口を向ける。寸でのところで拳銃で撃ち銃を落とさせるが相手はそのまま突っ込んできた。面倒なことにナイフを持っているうえにこっちも弾切れですかさずナイフを構え接近戦に持ち込まれる。ついでに中国語で何か怒鳴っていたけど今翻訳機つけていないのよ、日本語でお願いします。いや、言いやがれし。

「くっ、重い・・、でも!」

相手の斬撃を避けたところに拳を見舞われてよろけるが負けずにこちらも蹴りを頭部目掛けて繰り出す。腕で防がれるが相手もよろけ間合いを取りお互いナイフを構えなおす。ほぼ同時に相手に突っ込み切り合い始める。お互いの衣服が切れるが皮膚には届かず互角の戦いだ。

「つっ・・、格闘戦なんざこっちの専門外なのよ、とっとと諦めなさい!」

五手目の攻撃を繰り出す。相手もナイフで防ぐがその衝撃で刃の根元にひびが入り折れた。流石刀鍛冶直々の装備、格が違った。“もらった”そう思い踏み込む白瀬だったが相手の方が上手だったらしくうまくいなされ床に叩きつけられてしまった。その後すかさず相手が腰から新たなナイフを抜き取り乗りかかってきた。

「ちょっ、これヤバいかも」

自分の首に迫ってきたナイフを抑えながら言う白瀬、鍛えているとはいえ女性と男性では女性の白瀬の方が不利である。じりじりと彼女の首にナイフの切っ先が迫りもう少しで触れるというところで突然乾いた音が響いたあと男が横に吹き飛ぶ。何事かと思い周りを見渡す白瀬、目にうつったのは銃をこちらに構え肩で息をしている田所隊員だった。

「花恋隊員・・、ありがとう助かったわ、一先ず一旦銃をはなしましょうか」

ようやく格納庫に警備隊が到着して残った敵を無力化していくのを確認してから白瀬はそっと彼女に声を掛ける。半ば放心状態の彼女から銃を受け取った白瀬はそのまま彼女を静かに見つめる。

「私、人を撃ったんですね・・・」

「・・・そうね」

「撃たれた人、死んだんですよね・・」

「・・そうよ」

「私・・、人を・・殺したんですよね・・・」

「・・・・」

何も言わずに抱きしめる白瀬、肌を通して彼女が震えているのを感じ取る。そのまま白瀬は言葉を紡ぎ始める。

「確かにあなたは人を殺したわ、けど今は戦争なの人が死なない戦争なんてないわ、私だってもう何人も殺し死なせてしまった。けどね、あなたは確かに人を一人殺したそれと同時に人を私の命を助けてくれた。一人殺して一人助けたプラスマイナス0よ、納得できないだろうけど今はそれでけじめをつけなさい、後悔は戦争が終わった後で沢山できるから・・」

詭弁ともいえる言葉をかけることしか出来ない自分を苦く思いながら白瀬は彼女にそう言い聞かせる。まだショックを受けている彼女だったがさっきよりは震えが収まっていた。あとはカウンセリングに任せるしかないだろうと思い連れ出そうとしたところを“危ない!”と叫び彼女に突き飛ばされる。次の瞬間“パァン”と短い発砲音と共に花恋隊員が左頭部から血を吹き出しながら倒れる。近くにいた警備員が彼女を撃ったと思われる敵に銃撃を加える。そいつは白瀬隊員が拳銃で倒したと思っていた奴だった。警備員の発砲を受けそいつは今度こそ完全に動かなくなった。

「花恋隊員!!」

名前を呼びながら駆け寄り彼女を抱きかかえる白瀬、だが彼女はぐったりとしたままでその瞳に光はすでに宿っていなかった。即死である。

「嘘でしょ、なんで!」

どこで間違えた、彼女を連れ出そうしたから?撃って倒した相手をちゃんと確認しなかったから?いやそもそも私と出会ってしまったから?頭の中で次々に浮かんでは消える思いに涙を流しながら考えを巡らすが答えなど分かるはずもなかった。その日以降彼女の悪夢には新しい住民が一人現れるようになったと後に彼女は後に話している。

ちなみに「リンリン」は漢字に直すと「零零」となります。

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