市街地戦
久しぶりの投稿となりました、まさか2週間もかかるとは思わなかった・・
多少過激な表現がありますので注意してください(禁止事項には触れてないはず、多分・・)
時は恐らく12時を少し過ぎたあたり、沖縄の主要な市街地では陸上防衛隊と中華解放陸軍が激しい攻防を至る所で始めていた。海外戦は東西ともに日本が手中に収め次々に部隊を上陸させている。
「やばっ、戦車だ!全員散開しろ、あと支援要請!」
「また陸上ドローンが来たぞ!一機も逃がすな」
「2名負傷、衛生!」
どこの部隊も似たような状況で戦況は拮抗していた。制圧したと思ったら後ろから撃たれたり、いきなり前や横から出てきて銃撃戦になったりと踏んだり蹴ったり撃ったり撃たれたりともはや360度戦場なのである。何しろ日本の都市は裏道などが複雑に絡まりあっていて両陣営ともゲリラ戦のような状況に陥っていり効率的な制圧が出来ずに戦いが長引かせる要因となっている。
「クソ!これじゃイタチごっこじゃないか少し部隊を下がらせろ、特火と砲火で動きを抑える」上陸後臨時で建てた司令部で報告を聞いた後、更なる負傷者の増加を危惧した結果司令官が命令を下す。
「いいのですか?確実に街が廃墟になりますが・・」一人の参謀が戸惑いながら聞き返す。両連隊ともさっき無事に揚陸し終えたため、攻撃自体はできるが今後のことも考えると損傷は小さい方がいいとの判断による発言だ。
「このままではいたずらに被害を大きくするだけだからな、仕方あるまい・・・、それと敵司令部を制圧に行った部隊から連絡は来ていないのか?早く抑えてくれないと殲滅戦になってしまうぞ」本来なら早々に司令部を抑えて降伏させる手はずだったが運が悪いことに陸軍は海空軍みたいに那覇基地のみに置くことはせずに複数個所に分散していたらしく、指揮系統が生きたままになっていた。
「すでに何箇所か抑えたようですがどれもダミーか小規模なもので指揮系統自体は依然健在のようです。制圧部隊を増やして対処させておりますがまだ掛かると思います」参謀の一人がそう報告する。司令部の外では特火と砲火両部隊が攻撃の準備に取り掛かっていた・・
「隊長、日本の奴らが後退していっています・・、追いかけますか?」兵士の一人からそう話しかけられた隊長の男は訝しい顔をしながらその兵士に聞き返した。
「後退しているだと?なぜ日本の奴らが引くのだ、戦況は奴らの方が有利のはずだろう」自分に言われましても・・、聞き返された兵士も困惑気味に答える。そんな時“ヒュルル~”と何かが落下するような音と同時に部隊の後方300m付近の道路が爆発した。それだけでなく他の所からも次々に着弾音が聞こえて来る。
「総員屋内へたいひー!砲撃が来たぞ!」命令を出すと同時に近くにあったビルへと走り出す。他の部隊も似たような状況で隊長クラスの士官が怒号を上げながら部下に退避を促していた。
「おいおい日本の奴ら正気か!?街中を砲撃なんかしたら自軍の進行にも支障が出るだろうが!」そう言っている間にも砲撃は続けられあたりは土煙がたち、至る所にコンクリ片が飛び散り続けている。破片に当たって負傷した兵士を引きずりながら隊長も命からがら建物内へと避難し終えた。
「被害報告!」「3名負傷、2名不明、5名戦死です!!」兵の一人から報告が上がる。外の視界は既に0に等しく状況が分からない。時々金属が固いものに当たったような音がするが建物の直前に弾着して更に奥に退避せざるをえずそれどころではなかった。
「奴らご丁寧に“外だけ”を砲撃してやがる。これでは動こうにも動けん・・」これほどの砲撃なのに建物にはほとんど弾着せずにその姿を保ち続けている。それが理由で避難したのだがどうやら誘い込まれていたようだ。砲撃が止んだと思い外を確認してみるとそこは長さ1mほどの針で埋め尽くされていて満足に動くこともでき無そうだった。意図してかどうかは知らぬが解放陸軍はその場に張り付けられることになってしまった。
「間もなく降下予定地点だ、各員装備の再確認をしておけ」街中を飛行する輸送ヘリの中で小隊長が大声で叫ぶ、この部隊は市街地を砲撃するのと同時に敵勢力が複数個所に固まったため、それをつぶすために今移動している最中である。尚、攻撃ヘリも随伴しているのでまだ不幸にも外にいる敵は容赦なく餌食になっていくことになるだろう。
「ついたか・・、よし、全員降下!行くぞ!」少し高めのビルの屋上にヘリが滞空しながらとどまっている間にロープを伝って次々に30名ほどの隊員達が下りていく、下ろす人がいなくなったヘリはその後現場から離れ次の任務へと移っていった。
「副隊長、見たところ電子ロックされているようだが大丈夫なのか?」屋上に設けられている入口が閉じているのをみて隊長が聞く。
「もうそろそろ厚労省経由で警備システムが解除されるはずですので大丈夫かと・・」聞かれた副隊長が答えている間に解除が終わったのか赤く光っていた電子版が緑に変わりロックが解除され扉が開いた。それを確認した隊長も部下に突入の合図を送り内部に音を立てずに進んでいく・・
「偵察ポットを投げろ」屋上から2個ほど階を下ったところでそう短く指示を出す。指示を受けた隊員がすかさず手投げ式の偵察ポットを床に転がした後変形したポットはそのまま奥へと静かに突き進んでいった。
「確かここには60名ほどいるはずだな?」敵の数を確認するために副隊長にそう問いかける。
「はい、警備システムからの情報では75名の敵兵を確認しているとのことですかほとんど1階に集中しているとのことです」小声で返す副隊長、タブレットで偵察ポットからの映像を見てより詳しく状況を調べているようだ。
「75人か、少し多いな・・」こちらの人数は30名程度の為まともにぶつかれば大被害は免れないであろう、また既に突入して10分はたっているはずで下手をすればこちらの存在を感づかれる可能性もある。
「隊長、敵はどうやらまだこちらに気付いていないようですので攻めるなら今が好機かと・・」
「そうか、わかった。ところで閃光手榴弾って持ってきていたかね?」進言してきた副隊長に了解の言葉を伝えたあと、2階まで歩を進めながら隊長は質問した。
「閃光手榴弾ですか?確か何人か持っていたと思いますがどうするのです?」隊長の真意を測りかねて副隊長が聞き返す。
「出来ることなら捕虜としてとらえられた方が敵司令所の場所を知るのに役立つと思ってな、まぁ、そういうことだ」
「はぁ、そういうことでしたか・・、しかしあの戦力差だと難しいのではないでしょうか?」それもそうか・・、副隊長の指摘を受けて考えを改める隊長そうこうしているうちに2階まで降り終わり目的地の目前に到着した。先に放っていた偵察ポットの映像から敵味方の配置を再確認する。敵はまだ1階にとどまっており負傷者の手当てをしながらあたりを警戒していた。天井が吹き抜けになっている関係から2階でもその様子ははっきりと伺える。
「各員、暗視ゴークルを装着後合図あるまで待機、1分後警備システムを介してシャッターと照明が落とされるぞ、いいな?」そう通信を入れたあと各班長から了解と返され通信を切る。そしてそのまま沈黙が続き、1分後シャッターが降りる音と同時に建物内の照らしていた照明が消え周りが闇に包まれる。突然のことで慌ててふためいている様子の中華解放軍に対して“うて”と短い隊長の命令を合図に階下にいる敵兵に向けて銃弾が浴びせられる。銃撃によって敵は更に混乱に陥りわずかな発砲炎を頼りに打ち返すが、そこは防衛隊も一箇所にとどまらず常に動き続けることによって躱している。反対に防衛隊側は暗視ゴークルのおかげで暗闇でも視界はクリアであり一方的な戦闘を繰り広げている。おまけに憎たらしいことに致命傷を与えるところは率先して狙わず足や腕など戦闘能力だけを奪えるところを優先して狙撃してくるせいで中国兵の足元では負傷して倒れている味方によって動きを封じられそこを撃たれるという状態が繰り返され中国兵は無力化されていく・・
それは余りにも突然のこと過ぎて頭が理解しきれなかった。日本軍の砲撃とミサイル攻撃をかわすために入ったビルで立ち往生を余儀なくされ今後の行動について他の隊長と協議していた最中、ビルの入り口がシャッターで閉じられたと思ったら内部を照らしていた照明の明かりまで消え暗闇の世界と化したのだ。周りの兵たちもいきなりのことでざわめいているのが聞こえる。
「いきなりなんだ!?」暗闇で見えない中そう叫ぶ、姿は見えないが他の隊長の者たちも口々に何か言っている。そんな騒ぎの中を“パァーン”と銃声が響き、遅れてどこかで誰かが倒れる音が聞こえる。そしてそこからなし崩しに銃撃戦が始まり至る所で銃声が響き、小銃から噴く火がその周りを少しだけ照らす。
「上だ!上!狙われているぞ、止まらずに動け!」隊長の一人がそう命令をだし、兵士たちが従おうとするが足元は既に動けなくなった者たちが倒れており満足に動くことが出来ない、わずかな発砲炎を頼りに上の階に打ち返してみるが出応えがない、相手も止まらずに動いているのだろう、暗視ゴークルがあればまだマシになるのだろうが運が悪いことに今は手元に置いていなかった。それでも負けずに撃ち続けるが一人、また一人と動きを止められこちら側の銃声が小さくなっていく、そんな絶望の中さらに追い打ちをかけるように上から何かが投げ込まれる。それは“カーン”と甲高い音を立てながら床を跳ねたと同時に眩い閃光と耳をつんざくような音を発し破裂した。そのあまりにも強い光と音によって残っていた兵士たちも銃を手放して耳を塞いでしまった、視覚と聴覚が戻った時には日本軍の者たちに包囲されているところだった。
「おとなしく投降しろ、さすれば命まではとらん」日本軍の隊長と思わしき男が銃口を向けながら中国語で投げかける。周りを見るとこっち側でまだ立っているのは10名まで減っていた、他のものは床に倒れている。状況からして逆転できる可能性は皆無である、そう判断してゆっくり両手を上げながら口を開く。
「わかった、投降しようあと仲間の手当てをお願いしたいのだが構わないかな?」倒れている仲間も足などを撃ち抜かれて動けなくなっていることを確認しそう持ち掛ける。相手も了承したのか日本語で部下たちに指示を出す。指示を受けた者が仲間の手当てを始めたところを見ると願いは聞き入れられたようだ。それを見て安堵した後私は彼らに連れられて階段を上り始めた・・・
沖縄沿岸付近
「第5、第6制圧戦隊、全艦全砲門・・、てぇー!!」
きいの号令に従って沿岸付近で展開していた紀伊型制圧艦全8隻・計32門の300mm連装砲が火を噴く、打ち出された砲弾が次々に陸地に着弾して地面を抉り出していく。
“海岸線付近の砲撃陣営沈黙、内地から多数の飛翔体の接近を確認、数32”
「各駆逐隊に目標振り分け、第17から第20駆逐隊による迎撃、各2発・・、撃ち方はじめ!!」彼女の統合操作により随伴していた駆逐艦群から迎撃ミサイルが放たれる。
“目標消滅、またミサイルの発射地点を特定、攻撃の要有りと判断します”僚艦の尾張の乗員から報告が入る。大型の装備を持ち込ませる時間的余裕を与えずに早期に反撃に移ったつもりであったが思ったより戦闘能力が強化されてしまっている。
「そうですか、わかりました。第19及び第20駆逐隊は統合指揮下から離脱し内地への対地攻撃を開始してください。他の艦はこのまま沿岸部への攻撃を続行します」撃ってきたミサイルの数からして規模はそこまで大きくないと判断しそう告げる。命令された駆逐隊もそれに合わせて移動を開始した。
「それにしても思ったより戦力が均等に配置されていますね、ほとんど向こう側に行ったと考えていたのですけれど」そう言葉を漏らすきい、作戦の概要としては東側から輸送隊群を利用した戦力の投入によって敵戦力を片側に集中させた後反対側から支援艦を利用して増援部隊を上陸、そのまま挟み撃ちにするつもりだったが敵砲兵部隊が残っており足止めをくらう羽目になっていた。そのため現在制圧艦を使って無力化の作業を行っている。
“やっぱ予定より早く来たのが裏目に出たかねぇ~、どう思う?きい”唐突におわりが声を掛けてきた。どうやら予定より早く到着したのが不味かったと思っているようである。
「流石にそれはないとは思いたいですがこう余計な手間が掛かるのはあまり好ましくはないですね・・」別に障害を排除すること自体には抵抗はないのだが、それだと当然犠牲者の数も大きくなるため出来ることなら避けたかった。
“まぁ、こればっかりは仕方がないさ、っと、どうやら片付いたみたいだな支援艦隊を上陸させるぜ”いつの間にか海岸線付近の敵が静かになっていたため速やかに支援艦隊から増援部隊を上陸させ始める、予定より少し遅れた上陸であった。
「この様子ではまだまだ時間がかかりそうですね・・・」そう呟くきい、外では雨がポツポツと降り始めていた・・
沖縄で降り始めた雨は強くもなくしかし決して弱くもない勢いを保ち続けており、沖縄の森の木々の葉を濡らしている。
「敵兵は見えているだけでも10名、装甲車もある。建物内にもいるだろうし状況は絶望的もいいところね・・」少し小高い丘から解放軍の司令部の一つとして使われている建物を見下ろしながらそう白瀬 美海隊員は呟いた。撤退戦の時に自分の落ち度により乗機を撃墜され森林地帯に不時着したのち今現在まで身を潜めていたのである。
「隊長たちみんな無事かな・・、一人で助けに行っても死に行くようなものだしどうしよう・・」不時着後無事に機体から脱出して近くにあったこの市街地に向かったところ、そこには解放軍兵に捕まった隊長や香たちがいた、街のど真ん中に墜ちたのが災いして逃げる暇もなく捕えられてしまったようだった。助け出したかったがそんな無謀なことが出来るはずもなくこっそり後を追って今こうして敵の動向を探るのが精いっぱいの行動だった。
“どうにかして味方と連絡が取れればいいけど機体の通信機は死んでいるし、かといって照明弾を打ち上げるわけにもいかないよね・・”頭の中で思考を張り巡らすがどうにも有効な手段が思いつかない、機動戦鬼で強襲する案も最初はあったが機体が応急処置でどうにかできるようなものでもなく、やむなく機密保護の為に破壊処理をして放棄した。
いくら考えても埒が明かないので一旦潜伏している場所に戻り食べ物を口にいれることにする。機体に乗せていた戦闘食の袋を開けつつも頭の中は仲間の救出についてでいっぱいであった。
「戦闘食もこれで最後か・・、良案もでないし手詰まり感が半端ないわね、奪還作戦が間に合ったおかげで何とかなりそうでもあるけど・・」不時着後食料は現地調達を心掛けていた(機動戦鬼のパイロットは一通りのサバイバル訓練を受けている)おかげで今日まで温存出来てきたがそれも限界のようだ、もし奪還作戦の開始がもう少し後だったら最悪動けなくなって捕まっていたかもしれない。そんなことを考えながら戦闘食を食べ終えもう一度偵察に戻ろうと立ち上がろうとしたとき、ほんのかすかにだが足音が聞えた。それも一つではなく何人もの足音が気配を消しながら近づいてきているのだ。すぐに物陰に身を隠す白瀬隊員、敵に発見されたと思い息を潜める。相手の姿は見えないが集団は散開し辺りを捜索し始めた。その内の一人がこちらに近づいてくる音がしたので彼女もナイフを片手に身構え、そして・・わずかに姿を取られた瞬間飛びかかった。相手も不意を突かれてそのまま押し倒される。彼女もすかさず相手が立ち上がる前に馬乗りになりナイフを振り上げ突き刺そうとするが・・
「わわ、ちょっ、ちょっとタンマ!」唐突にその突き刺そうとした人間から日本語が発せられる。白瀬隊員も振り下ろそうとしたナイフの手を止め相手を観察する。迷彩服に日の丸のワッペン、手には国産の89式小銃改・・・陸上防衛隊の隊員だった。
「し、失礼しました」慌てて離れる白瀬隊員、声を聞きつけたのか他の隊員たちも集まってきた。
「第44歩兵連隊、小隊長の黒瀬 山戸三尉です。そちらは?」立ち上がりそう敬礼しながら名乗った男性は白瀬隊員に向かって質問する。
「那覇機動戦鬼警備小隊所属の白瀬です。乗機が大破・不時着したためこの場所にて潜伏・偵察を行っていた次第であります」同じく敬礼しながら返す白瀬、支援群に所属している者は階級というものがない(便宜上隊長、班長などは存在するが)ため名前だけを名乗る。
「白瀬隊員、早速で悪いのですがこの付近で敵の司令部のありそうな場所をご存知有りませんか?」
「ここを少し下ったところに比較的規模のでかい拠点があります。可能性があるとしたらそこでしょう」
手短に状況を伝え合う二人、白瀬から戦力、捕虜になった仲間のことを伝えられた黒瀬小隊長は通信員に支援要請を送らせた後、彼女の先導の元件の場所に部下と共に向かう。
「クロセタイチョウ、建物内ノ生体反応ハオヨソ30名デス、アトハ外二イルノデ全部ノヨウデス」小隊に所属している機械兵から建物内の様子を伝えられる黒瀬、報告からして司令部の一つということは確かだが大元かどうかは微妙なところだ。
「隊長、本部から増援はもう少し時間が掛かるとのことです」
「うーん・・、あんまり長居すると危険だしなぁ、制圧できるのなら制圧した方がいいのだが」外にいる敵は約15名これだけなら倒せないこともないが建物内の敵のことも考えると正面からは衝突したくない。
「仕方ないN-32は33と34と一緒に敵の目を惹きつけてくれ、そのうちに中を制圧する」
「ソレハ我々ニ囮ニナッテ斃サレロトデモ言ウツモリデスカ?隊長」指示を受けた機械兵の一人が目を細めながら質問する。
「模擬戦で戦車4両を破壊したお前らがそれを言うのかい・・」ついツッコンでしまう黒瀬隊長、ツッコまれた機械兵も笑いながら“冗談デスヨ”と返し他の機械兵と共に任務を果たしに部隊を離れた。
「おい、そっちでは異常はないか?」
「おう、異常なしだ、問題ない」
遠くで響く銃声に耳を傾けながら一人の解放軍兵士が答える。少し離れればすぐ戦場なのに兵士のいる場所はまだ静けさを保っていた。
「しっかし、司令部はまだ戦うつもりなのかねぇ、このまま続けてもいたずらに犠牲を出すだけだろうに」
上官が建物内にあるであろう司令部のほうを見ながらそうボヤいた、未だに抗戦を続けようとすることに不満があるようだ。
「ですが劣勢ではありますが状況はほぼ拮抗しているようですよ、このまま耐えれば本土から援軍が来るのではないでしょうか?」
兵士の一人がそう問いかけるが上官の表情は変わらない、その時前方から飛んできたロケット弾によって警戒に当たっていた戦闘車が1両爆発し、続けて銃弾が飛んでくる。
「敵襲!!動ける奴は俺について来い、迎撃するぞ!」
無線機に叫びながら敵のいるはずの方へ駆け出す上官に続いて何人もの兵士が走り出していく、外に居た者のほかに中で待機していた者も一緒に出ていく様子を見ていた者たちがいることも知らずに離れていくのであった。
「外にいたやつは全員、中のものも半分が行ったか、陽動としては上出来じゃないか」
機械兵たちが見張りと戦闘をしているころ残ったものは音を立てずに建物に侵入し司令部のある部屋を探していた。ここが司令部の大元だということは先ほどの見張りの会話からも確認できたので慎重に行動する。
「隊長、1階であと残っているのはここだけです」
隊員の一人が小声でそう伝えられ身構え直し部屋の中の様子に聞き耳を立てる。中では何やら言い争いをしている様子であったが、何を言っているのかまでは分からなかったが人数は外にでた15名と侵入後に排除した7名を除いて多くて8名ほどだろう、一度呼吸を整え短く“突入”と命令し扉が蹴り飛ばされた・・
「司令長官、これ以上の戦闘は無意味です。各部隊に投降の許可を出しましょう!」
「折角奪った領域をむざむざ奪い返されろと言うのか貴様は!犠牲となった者たちを無駄にしないためにここは援軍が到着するまで徹底抗戦を続けるべきだ」
参謀の一人と司令長官が激しく言い争っている。抗戦か降伏かで意見が分かれてしまっているようだ。
「援軍が来るまでと言いますが、その援軍は一体いつ来るのですか?まったくくる気配がないじゃないですか!こっちはすでに目と鼻の先まで敵が来ているのですよ。そのことを理解しておられか!」
「そんなことはすでに承知している!だがここで降伏すれば俺はともかく貴様も無事では済まんぞ、それでもいいのか!」
お互い一歩も引かずに口論を繰り広げる。かれこれ2時間もこんな感じで時間だけが無情にも過ぎていく、このままでは平行線のままだと判断したのか長官が一時休憩を切り出した途端部屋の扉が破られ何人もの人が入り込んでくる。護衛に当たっていたものが銃を構えるも一瞬のうちに額を撃ち抜かれ、長官含め幹部たちは何もできず包囲される。
「日本国陸上防衛隊だ、速やかに降伏しろ少なくとも命の安全は保障する」
隊長と思われる男が拙い中国語でそう勧告する。こちらで残っているのは5名、護衛の3名はすでに絶命している。対する相手は部屋に入ってきたものだけでも8名、外にもまだ残しているはずだ。
「わかりましたこうふ・「参謀長官待ちたまえ」」
参謀が言葉を発するのを止める司令長官、止められた参謀が驚きの顔で司令長官に言葉をぶつける。
「長官、この状況でもまだ降伏しないつもりですか!」
「参謀長官、その言葉を伝えるのは上官の私であって君ではない、そのことは分かるな?それに降伏する前に戦闘中の部隊に武装解除の令を伝えなければいかんしな」
そういって机に設置されている通信機へ向かい最後の命令を下す司令長官、日本軍兵も止めずにその様子を見ている。そして、命令し終えた長官が戻ってきた。
「理解が早くて助かりましたな、よし、彼らを連行してくれ、くれぐれも丁重に扱え・・「ちょっと、待ちなさい!」」
隊長が部下に命令して連行しようとした矢先、部屋に入ってきたものがいた。他の日本陸軍とは違い、やけに体のラインが強調された格好だなとこの時司令長官は思った。
「あんたたち何人かこちらの生存者を捕えているわよね?今すぐどこに監禁しているのか教えなさい!」
そう声を荒らげながら詰め寄ってきたのは白瀬隊員であった。自分の仲間の居場所を聞き出そうとしているようだ、その手は司令長官の胸ぐらをつかみ慌てて周りの隊員が止めに入る。
「生存者?悪いがここにはすでに生存者はいないし、他の所の生存者はすでに助け出されているのではないのか?」
「は?嘘つくんじゃないわよ!香たちがここに連れ込まれたあとずっと見張っていたけれど他の者はともかく香たちは一度も見ていないわよ!」
「いや、そうは言っても確かに捕虜は全員別の場所に移送したはず、そのはずだよな?上尉?」
そういいながら参謀の隣に立っていた男性を見ながら問いかける長官、捕虜の管理は彼に一任していたので長官自身もよく知らないのだ。だが、聞かれた上尉は下を見つめ黙っている、“上尉、何を黙っている?”長官も不審に思ったのかもう一度聞き返すとゆっくりだが上尉が言葉を紡ぎ出す。
「はい、確かに“生きている”捕虜に関しては他所へ全員輸送しましたのでここには捕えている日本の“生存者”は一人もいません・・」
「ふざけるじゃないわよ!!」
声を震わせながら答える上尉、その言葉の意味を理解したのかどうかは知らないが怒鳴りながら部屋を飛び出す。
「白瀬隊員!副隊長、あとは頼む二人ほど俺について来てくれ、彼女を追いかける」
そういいながら後を追いかける黒瀬隊長、女性隊員と機械兵を1人ずつ連れて走り出していった。
「上尉、貴様!どういうつもりだ!捕虜に手出しはするなとあれほど言ったはずだぞ!!」
そう怒鳴りつける長官、自分の部下が行ったことについて察しがついたのか激しく責め立てる。怒鳴りつけられた上尉は身をすくませながら言葉を返す。
「ヒッ・・、ですが長官あんな格好をしていておまけに美人だったら、長官のような妻帯者はともかく私のような独身貴族としては少しくらいいい思いをしたいと思うのが普通じゃないですか・・、それに先にオカシタのは部下たちで私は悪くはありませんよ!」
余りにも言い訳じみたその言葉が長官の逆鱗に触れたのか“上尉、貴様!”と怒鳴り腰のホルスターから拳銃を引き抜こうとするがそこで日本軍の副隊長に止められる。
「申し訳ありませんが長官、あなた方の身はすでに我々の下に置かれております。あとはこちらで対処させてもらいますのでそれをお渡しくださいますかな?」
「・・・・、部下が取り返しのつかない過ちを犯してしまったようだ、誠に申し訳ない後のことは貴官に任せましょう・・」
長官も思い直したのかそのまま拳銃を彼に預け、外へ連れられて行く、他の者も後につづくが上尉だけ雑に扱われることになったのは間違いないだろう・・
「香、鈴・・、安奈隊長!どこにいるのですか、返事してください!」
そう叫びながら部屋を一つ一つ虱潰しに探している白瀬隊員、まだ残党がいる可能性も否めないため7mm拳銃を手に握りしめながら自分の仲間たちの姿を必死に探す。あの幹部の話を聞き、信じたくない一心で飛び出した後まだ捜索していない2階に行ったのだが幹部の言葉が頭に残り不安な気持ちが心を占めていき最悪な状況を頭で思い浮かんでは振り払うことを繰り返している。そうこうしているうちに最後の部屋にたどり着き、ドアノブに手をかけるが開くことに戸惑ってしまう、かすかにする異臭のせいか頭の中でしきりに“アケルナ”と警告が発せられているのだ。その警告を振り払い突入し銃を構える彼女、その次の瞬間には持っていた銃を手からすべり落とし膝を床についていた。
「香・・、鈴・・、安奈隊長・・、うそ・・・」
そこには見知った仲間が確かにいた、否、かつて仲間だったものが打ち捨てられていた、彼女たちの目は見開かれていて瞳に光はすでに宿ってなく、髪も荒れており手足が壊れた人形のような格好で香が床に倒れていて鈴は隊長の上に仰向けで丁度十の字になるように重なり合った状態で放置されていた。本来パイロットスーツで隠されていなければならない肌の色が薄暗い部屋の中で怪しく光で照らされる、その肢体は痣や傷だらけでそれだけでも彼女たちがどんな目にあったのかは容易に想像できる。間に合わなかった・・、変わり果てた彼女たちをみて白瀬隊員の心の中は自責の念で満たされていき、耐えきれなくなったのか激しい吐き気を催したあと自分の膝と付近の床に腹に合ったものをぶちまける。
「白瀬隊員、どこですか!いたら返事を・・、っとここに居ましたか白瀬隊員、さがしま、うっ、これは・・ひどいな、おーいお前らこっちに来てくれ」
彼女を追ってきた黒瀬隊長が彼女の姿を捉え部屋に入ってきた直後中の惨劇を見て顔をしかめながら、連れてきた部下を呼び寄せる。すぐに一緒についてきた二人の隊員が駆けつけて来る。
「隊長、速すぎです・・」
「機械兵ノワタシヨリモ速イトハマッタクノ想定外ノ出来事デス・・」
「あぁ、なんか済まねえな、それよりも二人で彼女達のことを頼みたいのだが、いいか?」
そういって部屋の中をさしながら頼む黒瀬、頼まれた二人も状況を察したのか顔をしかめる。
「あれは・・、わかりました。これ以上女性として辱められないように丁重に扱わせてもらいます」
「機械ノワタシデモ嫌悪感ヲ抱カセルトハ・・、隊長ハ彼女ノ介抱デモシテイテクダサイ。私達二人デ対処シテオキマス」
“頼んだ”そういったのち二人が部屋の中に入っていった後彼は床に座り込んでいる白瀬隊員に声を掛ける。会話をしている最中ですらしきりに吐いているとこから見るに相当こたえているようだ。
「白瀬隊員、一先ずここは彼女たちに任せて一度外に出ましょう、今はあなたの方が精神的にも危険だ」
彼的には優しく話しかけたつもりだった言葉も耳に届いてないのか反応がない、仕方ないので彼女に肩を貸し立ち上がらせる。外に連れ出している途中で副隊長に出くわす。
「あ、隊長ここでしたか、どうでしたか?っと、聞かずともという感じですね・・・」
質問してきた副隊長に向かって静かに首を振る黒瀬隊長、隣には茫然自失となって肩を貸されている白瀬隊員がいることからも結果がうかがいしれる。
「余りにもひどい有様だったよ、副隊長、恐らく女性隊員が見たら正気を失いかねないほどだ」
「そうですか、ところで隊長、彼女を連れて来るのはいいのですが引きずらずに背負うとかできなかったのですか?足が擦り切れてしまっていますよ・・、あと、先ほど司令部からの連絡で解放軍全ての武装解除を確認したそうです」
そう報告する副隊長、聞いた黒瀬隊長も本来なら喜びたいことではあったがあんなものを目の当たりにしたせいで後味が悪い、それでも一つの作戦が終わったことに安堵するとともに日中問わず犠牲になった者たちに哀悼の念を持たずにはいられなかった。




