血の宇宙観艦式〈三〉
日露が反撃を始めます。
日露共同作戦開始15分前 突撃艦「若葉」艦橋
「マジかよ・・」
「嘘・・」
余りにも突然の出来事に言葉を失う、冬華も手で口を押えながら見ている。
艦長室で観艦式の様子を見ている最中謎の艦隊を発見との報を受け、急いで艦橋にきた直後突撃艦「薄紅」のエンジンが攻撃を受け爆発したのだった・・
「カメラ急いでまわして、OK? こちら国際観艦式に来ている新垣です。今私の後ろでは信じられない光景が繰り広げられています!!突如謎の宇宙艦隊が観艦式に参加していた艦艇に攻撃を行っているのです!先ほど日本の艦が攻撃により沈んで行きました!!」艦橋にいたレポーターが興奮気味に今の状況をスタジオに伝えている。いくつか事実とは違うところもあるがこんな状況だ仕方ない。
「あっ!!今イギリスの艦でしょうか?大きな爆発をしながら沈んでいきます!!彼らは何故攻撃をしてくるのでしょうか?真相はまだ謎につつまれ・・きゃっ!!」
突然「若葉」が大きく揺れる。“本艦、エンジン付近をビームが通過!!本艦に異常はありません!!”CICから報告がはいるどうやらこの艦も攻撃の目標に入っているようだ。
「迎撃及び回避行動を行いなさい!!わかば!浮遊砲台の展開を許可します。何としてでも全部避けなさい!!」冬華が命令を下す。
「はい、全武装安全装置解除!!AC(Active Cannon:浮遊砲台の略)1番~12番まで起動!自立防衛行動開始!」若葉に搭載されている全武装が動き始め弾幕を張る。
“AC3,8が迎撃射撃開始、敵ミサイル4発破壊!次いでAC9~12防御防壁展開、ビーム攻撃無力化成功!!”そのような報告がされてくる反面厄介な報告も流れて来る。
“艦長、「松葉」が集中砲火されております。援護の要ありと判断します。”
「わかば、ACをいくつか送れる?」
「敵の攻撃が激しくて難しいです・・、これ以上起動できるACの数も増やせませんし・・」
そこをなんとかしなさいよ、と冬華がいうがわかばもこれが限界だと答える。
「あ~、わかばちゃんその浮遊砲台だっけ?どうすれば起動数増やせる?」口を挟むのもまずいかと思ったが質問する。それに対して彼女も答える「本来これってミサイルや砲撃と一緒に使うものではないのでその二つの管制をやめれば6つくらいなら増やせますけど、それをやったら先ず被弾します・・」
「じゃあ逆に言い換えればそれをやれば可能なのかな?」そう確認をとる。えぇ、その通りですが・・、と彼女が答えたのですぐさま後ろで事態を見守っていたゆうだちに話しかける。「そういうことらしいができるか?」
「ちょっと、私のシステムと違いがあるけど出来ると思う・・」彼女が答える。
「わかった冬華、わかばのシステムの一部管制をゆうだちに移譲してくれ、頼む」
本気?そう質問されるが本気だということを示すと彼女はわかばに命令する。
「さて、ゆうだち守りは冬華たちに任せるとしてこっちは攻撃に専念しよう、裏ワザを使ういいな?」彼女に確認を取り指揮を始める。
“本艦にミサイル接近中、数3。弾着まであと40秒”
「発射管開け、CCM(宙対宙誘導弾)発射!数4!“一発外せ!”」命令した直後艦首の発射管から4発のCCMが発射され、敵ミサイルに飛んでいくそして一番先に飛んでいたミサイルが目標に近づくが・・目標をすり抜け外れる。その後遅れてきたミサイルによって敵ミサイルそのものは全弾落されるが、外れたミサイルは敵ミサイルが来た方向即ち敵艦に向かって突っ込んでいきそのまま直撃し、敵艦はミサイルの炎に飲まれ沈んでいく・・
“敵艦1隻に我が艦のミサイルが誤射・・・、撃沈です”
“「松葉」敵の攻撃範囲を脱出、そのまま離脱します”
「わかりました。本艦も現宙域を離脱しますこれ以上の戦闘は危険と判断しました」本当のところ第1星団と一緒に敵艦隊の殲滅をしたかったのだが、現在「若葉」には一般人も乗艦しているため無理はできないとの判断である。とはいえこの時点で5隻もの敵艦を“誤射”によって沈めているので相当な戦果なのだが・・・
「あとは任せますよ、皆さん・・」そんな思いを残しながら「若葉」は進路を変え離脱した。
日露共同作戦開始5分前 宇宙戦艦「ハワイ」
“敵のビーム攻撃、艦後方に直撃するもリフレクターにより被害軽微”
“ミサイル全弾破壊を確認”
“宇宙戦艦「クイーン・エリザベス」轟沈!「ビスマルク」エンジン部分に被弾離脱します!”
休むことなくCICからの報告が響く艦橋でハリソン艦長は必死に指揮を執っていた。先ほど本艦が敵を1隻大破させたものの未だに数的劣勢は変わらず苦しい戦いが続いている。
「クソ!リフレクターがあるとはいえこうも立て続けにビームを喰らい続けると危険だぞ」
「てか、なんで日本艦が攻撃してくるんだよ」「バカよく見ろ、ありゃ日本艦のデットコピーだろうが」そんな感じで艦橋内でも怒声が飛び交っているものの何とかこの「ハワイ」は戦闘を続けられていた。今の時代艦船による攻撃手段は砲弾やミサイルだけではなくビームやレーザーも主流となってきている。この「ハワイ」には究極冷却システムが装甲に搭載されていることもあってビーム攻撃には耐性があるものの、対抗手段を持たない艦船にとっては真に厳しい時代になった。事実、その手段を持たないイギリスやフランス、大韓朝鮮帝国や中国の艦は早々に爆沈するか離脱を余儀なくされる事となっている・・・
「今近くにいる艦はなんだ?少しでも連携して戦わないと全滅するぞ!!」そう叫ぶとアラン副長も叫ぶように「現在、目視で確認できる艦は日本の「銀朱」と「撫子」のみです!他は遠くで戦っているか、撃沈されました!!」と報告する。
「その2隻は今どうしている?連絡がとれるなら今すぐ取れ!!」CICに確認を取らせるとすぐに“現在、本艦の前後に展開し、浮遊砲台による防御体制を取っています。反撃をしようにも攻撃が激しすぎてできない状況です”と返ってきたがその直後本艦の前から衝撃が襲ってくる。
“「銀朱」被弾!!艦首が吹っ飛びました。このままだと本艦に衝突します!!”
「回避!!」本艦めがけて飛んでくる銀朱の艦首を避けるために「ハワイ」がその巨体を横に傾ける。すんでの所で躱すことが出来るもののその刹那、“本艦、艦底に向かってミサイル接近中!!”と叫び声が艦橋に響く。
まずい、報告を聞いて瞬時に悟る。宇宙艦とはいえ船の底は弱い部分の一つであり、エンジンに被弾すれば最悪撃沈もありうる。
ここまでか・・、誰もがそう思い衝撃に備えるが一向にその衝撃は来ない、不思議に思っているとCICから驚くべき報告が入る。
“「撫子」本艦とミサイルの間に入り損傷!浮遊砲台で防御したもののエンジンに被害!”なんと撫子が自身を使って庇ったのである。浮遊砲台で直前に破壊はしたものの被害は免れなかったらしくエンジンから火を出しながら落ちていく、幸い撃沈は避けたが月面に艦体を強く打ち付けながら不時着した姿が確認できる。
そんな撫子の自己犠牲もあってなんとか態勢を戻したハワイだが、そこに再びミサイルが襲う、“ミサイル再び接近!迎撃ミサイル残弾0!迎撃できません!”「どこでもいい!近くの敵に砲撃しろ!1隻でも多く倒す!」迎撃が出来ないと分かりそう命令をする。直後ハワイの前方甲板につけられた2基の30cm連装砲からレーザー光線が打ち出され、近くにいた敵艦3隻の艦体を貫いた瞬間、ハワイにもミサイルが直撃し第2砲塔が吹き飛ぶ。
“第1、第2砲塔被弾!ともに使用不能これ以上の戦闘続行は不可能です・・”
“ドイツ、宇宙戦艦「アドルフ・ヒトラー」接近、本艦の曳航を開始する模様・・」
「このあたりが限界か・・」そう呟きながら離脱を開始する、ふと見ると残存している艦艇が集結していたが、その数は既に半分にも満たなかった・・・
11月22日 午後3時50分 日露連合宇宙艦隊
“各艦陣形展開し終わりました。現在彼我の距離およそ120㎞”
“宇宙母艦「蒼龍」「飛龍」機動機の発艦を開始、また「伊31」「伊32」からも機動戦鬼が発進、「蒼龍」「飛龍」の護衛をしています。”
現在、艦隊は「蒼龍」「飛龍」「伊31」「伊32」「Верный・響」の5隻を敵攻撃範囲外に置き、残った9隻(先ほど巡航艦「博多」及び突撃艦「珊瑚」が曳航を終え戻ってきた)で、それぞれ、右翼艦隊「別府」「紅」「緋」・中央艦隊「水瓶」「シゾポリ」「珊瑚」・左翼艦隊「博多」「ペンデラクリヤ」「メセンヴリーヤ」の三艦隊を編成していた。
「また、一方的に攻撃されたら困る、各艦発射管開けCCM発射!砲撃は彼我100㎞になるまで待て」直後に艦隊からCCMが合わせて62発放たれ敵艦隊に飛んでいく、当然迎撃行動をとられるがそれでも何発かはあたり敵が爆発四散する。
“CCM12発直撃を確認4隻撃沈です”
“敵、ミサイル発射を確認!右翼艦隊3発・左翼艦隊6発・中央艦隊5発うち本艦には3発来ています”
「各艦迎撃しろ!」敵の数に対してミサイル数が少ないがあれだけ大量に撃っていたのだ、恐らく弾薬が残り少ないのだろう、もっともそれはこちらもいえることだが・・
“!!?、右翼艦隊巡航艦「別府」右舷に被弾!及び左翼艦隊突撃艦「ペンデラクリヤ」「メセンヴリーヤ」ともに艦首に直撃!「メセンヴリーヤ」沈みます”
爆発する味方艦を見ながら本艦も迎撃ミサイルを放つ、一人でも多く脱出していればいいが・・
「機動機の攻撃はまだか?もう到着しているはずだろう!!」こちらも負けじと攻撃を続けているが、いかんせん数が足りない先ほど右翼で「紅」が被弾し「緋」と衝突してともに落ちていった・・
“来ました!敵艦隊の左右上下から各10機ずつ接近中!対艦攻撃開始しました”直後敵艦の反応が更に5隻消える。
“彼我の距離100をきりました!”「砲撃開始!!」そう発し、「水瓶」に搭載されている40cm連装砲から白い熱線が放たれる。最大出力での攻撃だ、攻撃を受けた艦は爆発する前に溶解して消滅する。
“敵艦3隻撃沈!機動機部隊さらに2隻撃沈、「博多」「シゾポリ」ともに2隻撃沈!”
“「珊瑚」被弾するも1隻撃破、敵の反応消えました”
「何とか勝ったか・・」報告を聞きそんな事を言ったが勝利の喜びは無い、どちらかというと生き延びた実感の方が大きい。「艦長、安心している暇はないですよ、すぐに生存者の救出を始めましょう」そう副長が言葉をかけ再び気を引き締める。今回の襲撃で少なくない艦が沈み、乗っていた乗員が宇宙空間へ放り出されている可能性があった。
「速やかに救出作業を始めろ、あと敵艦隊の方にも救出部隊を向かわせてくれ」
分かりました、そう返事をして副長が指揮を執るために離れる。
今回の襲撃の被害状況をまとめると悲惨の一言である、まず撃沈した艦だけでもイギリス艦「プリンス・オブ・ウェールズ」「クイーン・エリザベス」フランス艦「アルザス」中国艦「上海」「雲南」大韓朝鮮帝国艦「世宗大王」ロシア艦「ピラート」「メネラーイ」「メセンヴリーヤ」日本艦「伊33」の10隻が沈み、損傷した艦はフランス艦「ロレーヌ」中国艦「甘粛」ドイツ艦「ビスマルク」アメリカ艦「ハワイ」ロシア艦「アンドロマーハ」「カリプソー」「ペンデラクリナ」日本艦「別府」「紅」「緋」「薄紅」「銀朱」「撫子」「珊瑚」「松葉」の15隻で合計25隻に上り、無傷の艦の方が少ない状況である。またこのほかに敵艦隊に対艦攻撃をしていた80式機動機「星神」が3機落とされ16機損傷している。
無傷な艦の内「水瓶」「博多」「シゾポリ」「伊31」「伊32」の5隻は沈んだ艦の近くで救出作業を行ったものの、元々乗員数が少ないことを加味しても救助できた者の数は少なかった(「若葉」「伊34」「伊35」「蒼龍」「飛龍」は損傷した艦の曳航作業に当たっていた)。さらに襲撃してきた艦隊の生存者の捜索も同時に行ったが0という結果となり、多くの死者が出たと推測される。
また、この事件の報を受けて地球では国際会議が急遽執り行われることになるが、この時は誰もこれが大きな戦いの始まりに過ぎないとは一部の国を除き予想もしなかった・・・
書いといてなんですが実際問題日露が協力することなんてあるんでしょうかねぇ




