奇襲〈一〉
小笠原諸島沖20海里付近 駆逐艦「夕立」
横須賀から出港した第1駆逐隊は目的である国籍不明の艦隊の発見のために現在15ノットで航行していた。
「レーダー何かとらえたか?」
“いえ、なにもありません。ソナーも感なしです。”
「そうか」
そう言って通信を切った後に、俺は艦橋から周りの海を見渡す。夕立のレーダーは新技術の導入により半径約750㎞をほこり世界屈指の性能を有している。その夕立でも見つけられないのだから、艦隊の存在自体が怪しくなってくる。
「鯨かなにかを見間違えたとかじゃないのでしょうか?」
そう秋山副長が疑問を呈するがすかさず否定する。
「いや、それはないだろう。少なくとも目撃情報だけでも哨戒機をはじめ複数あがっているし、そのすべてが見間違えることの方が難しい。とはいえ、確かにここまでなにも見つからないとなるとお手上げだが。」
「そうですね・・」
そんな会話をしていると突然スピーカーから“ゆう~し~すごく暇なんだけど、どーにかなんないのー!!!”と少女の声が艦橋内に響きわたる。恐らくいや絶対にCICからの通信だろうと考えていると、すぐさまCICから“広瀬艦長、お姫様が癇癪起こし始めました。お願いですから何とかしてください!!”との連絡が入る。
はぁ~とため息をはきながら俺はCICにいるその癇癪を起しているお姫様にむかって、「暇って言ったってまだ2時間もたってねぇぞ、もう少し我慢しろ≪ゆうだち≫!!」と怒鳴りつけた。
“え~そういったって、ずっと座っているの疲れちゃったよ~”と心なしか悲痛な声が返ってくる。
「まったくじゃあ艦橋に来て操艦しろ、それならいいだろ。」と半ば投げやりに言うと、“本当!!わかったすぐそっちにいくー!!”といったのちに通信が切れ、その10秒後に文字どうりの意味(比喩ではない)で艦橋に少女が突入してきた。10秒でどうやって移動したんだよと疑問に思うかもしれないが、聞くな俺が知りたい。とまぁそれは置いておいて、この突入してきた黒髪ロングで両眼が深紅色の白いセーラー服を着た(ちなみにスカートは黒のチェック柄)少女こそ、さっきCICで癇癪を起していたお姫様であり、この駆逐艦夕立の偽魂体である。名はこの艦と同じゆうだちと呼ばれている。
偽魂体というのは2050年日本が開発した偽魂技術という新技術でつくられた存在であり、簡単に説明すると対象の物体に魂を宿らせる技術である。今現在の日本では、日本国防衛隊の所属する車輌や艦船、航空機をはじめ信号機や電車などのインフラ設備にまで利用されている技術である。この技術艦船を例にあげるとシステムのすべてを管理・操作が可能であるため、究極的な省人化が達成されることとなった。夕立の乗員数がたったの50名(最大200名)だということからもそのすごさがわかるだろう、尤も欠点もあるがそれはまた今度の機会に話そう。
「それで、一体いつまでここで探し物をすればいいわけ、ゆうだち早く勇士とお祭りに行きたいのにー」そう言いながらふてくされているゆうだち、まことに忙しい子である。
「あのなぁ、任務中に私情を持ち込むなよ、それに残念ながら本土に戻るのは明後日だよ」
「そんなぁー」今度は涙目になりながら叫んで、今にも泣き出しそうである。そもそも出港前にその旨は話しておいたはずなのだが、寝てたなこいつ。
「まぁまぁ、ゆうだちちゃんもお祭りはまた今度行きましょう。あっ今日お風呂一緒にはいろっか」とフォローを入れる秋山副長、こういう時女性がいてくれると本当に助かる。
「う~じゃあそうする~勇士も今度ちゃんとお祭りに連れてってねぇ~」「ああ、約束する。」そんな会話をつづけていると急にゆうだちが真剣な眼差しになり、「なにかいる。本艦3時の方向」と発し艦橋にいる全員が各々の持ち場で動き出す。
「艦長、夕霧から入電です。」「つなげ」「了解」そう発したのち夕霧との通信がつながり、交信をはじめる。
“こちら駆逐艦夕霧艦長の笹部です。こっちの姫様が3時の方向300㎞深度200m地点で潜水中の艦船群を確認したとのことです。擬態装甲を展開しており、発見が遅れました。すみません。”
“こちら駆逐艦夕立艦長の広瀬です。対象の詳細な情報はわかりませんか?」
そう質問を返すと今度は少女の声が返ってきて、"こんにちは、ゆうぎりです。対象の数は12で全長250m級が二つ確認できました。ほかはそれ以下だと思います。“
「250m・・潜水艦にしては大きすぎますね」そうつぶやく秋山副長、確かに今現在世界最大の潜水艦でも200mであり、250mなど聞いたこともなかった。もっとも潜水艦に限ればの話だが。
「あ~秋山副長今ちょうどいやな予想がついたのだが。」
「あら奇遇ですね私もです。」
西暦2050年この年は日本が戦後初めて憲法を改正し、当時日本を守っていた自衛隊が憲法で正式に防衛力と認められ、その名を日本国防衛隊と改めて陸上・海上・航空そして最後に「宇宙」の四つの組織を持つことなった年でもある。
「潜水中の艦船群急速浮上! 上空300mまで上昇しました。対象中華人民宇宙軍所属の戦闘艦です!!」
そう、人類はこの時代自分たちの領域は宇宙までのばしていた。そして、宇宙という厳しい環境に耐えるための技術も有することになったのであった。




