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第一部

それじゃあユミとの出会いのところから詳しく思い出していこうか。

あの日は馬鹿みたいに暑くて、ジメジメして…そうそう言い忘れてた、僕の本拠地は東南アジアのとある町にあるんだ。

そこで所有するビルの二階でね、個人の顧客向けにガンショップを開いてのんびりと暮らしているんだな。

拍子抜けかもしれないが武器商人だからといって世界各国を飛び回ったりしないよ。

今日日世界中がインターネットとかいう謎テクノロジーで繋がっているんだ。

そんなことをしなくたって僕のところには世界中の武器が集まるし、それにわざわざ世界中を歩き回るなんて面倒じゃないか

僕のいるとある町の名前は…まあとある町でいいか。居場所がバレると厄介だから。

そのとある町がまたあれでね、中華系にロシア系、少々のイタリア系とさらには現地系などなど、たくさんのマフィアが入り乱れて一触即発状態なんだ。

普通の人間じゃ町に入って3秒で死ぬだろうな。

でも「ドンパチやっている町」としては安全な方だよ。

マフィアは敵対するマフィアの拠点を中心に狙うから僕に飛び火することは殆どない。

僕がその町のマフィア全体に平等に武器を売っているというのもあるけど、まあ少なくとも僕にとってその町は「安全で儲けられる町」なんだ。

そんなとある町で元気に接客をしていたとき、黒い袋を肩に担いだ例のゴミ虫が青ざめた顔して現れたんだ。


「なあケビンの旦那、実はいい感じの日本人の女が手に入ったんだ。まだ何も使ってないから綺麗だぞ。頼むからこれで代金のことは、チャラにしてくれないか?」


全く呆れた奴だよな。物々交換なんて一体何千年前の話だ。

ああそうそう、僕はケビンって名前なんだ。もちろん偽名だけど僕は所謂ホワイトだからそれでも通るんだ。

そのゴミ虫…そろそろ名前で呼んでやるか、ヤンが青ざめていた理由は僕の容赦ない取り立てじゃないかな。

前に一回代金を踏み倒そうとしたマフィアの下っ端の両足をブチ抜いてね、もちろんボスの許可はもらってだよ。

そんな実話に尾ひれが付きまくって気がつけば

「ガンショップのケビンはマフィアを容赦無くブチ殺した挙句そのボスと普通に話せるらしい」

という意味わからない逸話が生まれたんだ。ヤンはそれにびびっているんだろうな。

本題に戻ろう。彼が言うには黒い袋の中のブツは女の子だ。

時々もぞもぞ動いてるようだったが抵抗の意思は感じられなかった。エーテルか何かを嗅がされて意識を飛ばされているんだろう。

ヤンはそいつを乱暴に床に置くとそそくさと扉に手をかけて、


「じ、じゃあ、これで頼むよ旦那。エイノの姉御にもよろしくな」


そんなことを言ってさっさと帰りやがったんだ。

ここまでビビられるともはや追う気もしないね。

そうそう、ヤンが口にしたエイノって奴は北欧出身の女性でね、一体前世でどれだけ悪いことをしたのか美人のくせに元傭兵なんだ。

出会いの話はとりあえずとして、彼女は僕の下で主に運び屋として働いてくれている。

僕もたまに彼女と一緒に荷物を受け取りに行くんだけど、必ずと言っていいほどドンパチするね。

彼女は一瞬でも相手が銃をちらつかせると無表情でAK47を振り回すんだ。

そりゃ相手は僕たちの事を知らない命知らずなんだけど、それにしても怖すぎやしないかね。

エイノの姉御は普段はクールなんだが女性関連の話になると性格が豹変するんだ。

なんでも小さい頃姉が売り飛ばされたとかで、そういったことを目の前にすると頭のネジが吹っ飛んでしまう。

だから行きつけの店なんかでもエイノが入ったら女の話が一切聞こえなくなるんだな。

僕が未成年の女の子を受け取ったなんて知ったら……ああ、そんなことを考えているうちに彼女の軍靴の音が聞こえてきたよ。


「ただいま仕事から戻りました………ケビン、そこに落ちてる土嚢は一体」


「こ、これはね、土嚢じゃなくてヤンの奴がこの間の代金代わりに置いてったんだよ」


「そういうことではありません。もぞもぞと動いている中身のことを聞いています」


「答えてもいいんだけどその前にこれはヤンが勝手に置いていったってことをちゃんと理解してくれよ」


「分かりました。では中身を教えてください」


「えーっと……中身の正体バラしても怒らない?」


「内容によります。早くしないとこうですよ」


「分かったから袋に銃を突きつけないで! その中には……えっと、代金の代わりの日本人の女の子が入っているそうです」


「女の子……お前もしかしてッ!」


「エイノ、一回落ち着こうか。いくら22口径だからってゼロ距離で頭を撃ち抜かれたら人は死ぬんだぜ」


そんな一悶着のせいか実にベストなタイミングで黒い土嚢が激しく動き出したんだ。

エイノは僕に銃口を向けたまま袋の入り口を開けて中身を引き摺り出した。

袋の中身はたしかに女の子だった。

黒くて長い髪をぼさぼさにして体をよじって袋から這い出てきたんだ。

比べるのは悪いがエイノより肌のハリとか良いんだ。

それにしてもヤンのアホは何故こんな目立つ奴を誘拐してきたのか理解に苦しむ。

日本の若人が東南アジアに来るなんてどう考えても修学旅行じゃないか。

頭に拳銃こさえながらそんなことを考えていると日本人の猿ぐつわがエイノによって外された。


「エ、エクスキューズミー? 私の英語通じていますか?」


驚いたよ、彼女は日本人のくせに流暢に英語を喋り出したんだ。

そんな彼女の語学力に敬意を評して僕が質問に答えてあげたんだ。


「勿論通じているよ。とても丁寧な英語をどうもありがとう」


僕の対応が紳士的だったから、ではなく誘拐という恐怖体験の後に突然優しくされたから負の感情で固められた彼女の顔が少しだけ緩んだ。


「ああ良かった。それで、ここは何処なんでしょうか?」


「ここは東南アジアの田舎町だ」


「そうですか…あ、あの」


「まあ落ち着け。君の言わんとすることは分かる。だが僕達もイマイチ状況が把握できていなくてね。とりあえず何処で攫われたんだ?」


「はあ、ベンタイン市場を歩いてたらいきなり顔にハンカチを当てられて…気づいたらここに」


「ベンタインっていうとベトナムのホーチミンか、結構遠いね。それでそれはいつの話だ?」


「えっと、修学旅行の最終日だから…7月23日のお昼頃です」


7月23日か、それは昨日じゃないか。

しかも最終日ときた。今からすぐに帰して何事もなかったかのようにするのも不可能。

こりゃ日本でそうとうな話題になってるだろうな。

同じことをエイノも思ったのか僕の横でおもいっきりため息をついていたよ。

そんな僕らの表情が気になったのか、今度はどんどん泣きそうな顔になっていったんだ。


「それで…私、これからどうなるんですか?」


「まあそう焦るな。端的に言えば君は僕達に売り飛ばされたんだ」


僕の口から出た言葉に彼女の童顔があからさまに強張っていく。彼女はこの時点でようやく現実を理解したんだな。


「ヤンっていうバカが僕たちにかなりの借金をしていてね。その代金の代わりに君は誘拐されたというか…」


「じゃあ、私は、この後、殺される…」


「いやいや、そんなことしたら僕の頭が吹き飛ぶよ。だけど、なんというか、その…君はしばらく日本に帰れない」


「そんな…一体何でですか?」


「あの国は海外で起きた邦人の事件にうるさいだろ。今頃君の話題で持ちきりだろう。そんな中ここに君がいたって分かったらどうなると思う?」


その質問に彼女はフリーズした。彼女は世間知らずならぬ世界知らずなんだろうな。

誘拐された日本人がここにいるなんて分かったらこの町が一瞬で変わってしまうだろ。

見かねたエイノが彼女の代わりに答える。


「ここの浄化作戦が決行されるきっかけになるかもしれないの。そうしたら私達の住む場所がなくなってしまう」


「浄化作戦って…ここはそんなに危ない場所なんですか?」


「ええ、ここはマフィアが日夜ゲームを楽しんでいるような場所よ。この部屋を見渡せば分かると思うけど」


エイノにそんな言葉で彼女は目を横にやり、そしてアニメの登場人物のように目を見開いたんだ。


「あ、あれって、銃、ですよね」


「弾は入ってないから安心して。ここは私達のお店なの」


「お店、ってことは、あの、あなた達、武器屋さん、ですか?」


彼女は腰を抜かしたらしく、手を使ってズルズルと後ろへ下がっていく。

そういえば日本にはガンショップがないんだな、そんなことをぼんやりと考えていたよ。


「だから大丈夫だって。僕達は君を売り飛ばしたりもしないし殺しもしないさ、なあエイノ」


「ええ、ほとぼりが冷めた後必ず日本に帰します」


エイノはそう言うとビビる彼女に手を伸ばす。エイノは一般人には優しいんだ。

女の子は怯えながらも彼女の手を掴んだ。

エイノはそんな彼女に優しく笑いかける。


「私はエイノ。あなたの名前は?」


「私は、クルスユミです」


「クルスユミね。えーっと、どこまでが名前かしら」


「どこまで、ではなくユミが名前です」


「そう、ユミね。少しの間辛抱してもらうけどよろしくね」

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