語り始め
武器商人、その言葉に皆は何を思うかな。
何でいきなりそんなことを、なんて疑問に思わないでくれよ。僕が武器商人だからなんだ。
民間人に武器を売り殺人を、はては紛争を煽るクズ、人の死につけこんで金を儲けようとするクズ、などなど、僕はそんなことを言われた……気がする。
あいにくと僕は記憶力があれでね、クライアントの名前を間違えて半殺しにされたことがあるくらいなんだ。
まあとにかく、武器商人にはそんな感じの悪い印象しか持ってないんじゃないかな。
でも僕としてはその考えは捨ててほしいものだね。
僕の出身の米帝を考えてみようか。
そこら中で銃を売っているあの国で銃を売る奴は犯罪者だと喚いたらどうなるか想像してみよう。
変人扱いされた挙げ句黒い肌した兄ちゃん達にケツの穴をガバガバにされるだけだ。
つまり何が言いたいかというと考え方なんて人種、宗教、国、性別…もっと言えば個人で違うということだ。
君の父親だって本当はロリータ好きの露出狂かもしれないだろ?
いや、例えばの話さ、君の父上を馬鹿にはしていない。ただ君の父上にそういった趣味がないことを証明することはできないだろう?
それと同じように武器商人を神の如く崇める人間達だってこの世にはいるんだな。
この前のクライアントだって喜んでくれたよ。「お前の店なら何でも揃うな。今度は戦闘機でも頼んじゃおうかな」なんて反吐が出そうなジョークと共にね。
そろそろ本題に入ろうか。
結論から言えばとある日本人の少女の面倒を見てやったんだ。
まあ僕にも複雑な事情があってね。
僕の商品は相場よりちょっとばかし安いんだよ。
そのお陰でそれはそれは沢山の組織にご贔屓にして頂いていてね。だから「武器商人」なんだけどさ。
そんな安い商品なのにだ、借金をこさえる奴がいたんだな。
とうとう代金を支払えなくなったゴミ虫が金の代わりに置いてったんだよ。
その子の名前はユミ、齢は……えーっと、うちに来たのが…何年前だ?とにかく僕のところへ来た当時は16くらいだったかな。
ゴミ虫曰く、さっきそこで誘拐してきたからまだ綺麗だとさ。つまり借金の落とし前をつけるためだけにかっさらわれたんだ。可哀想でならないね。
ユミとの最初は大変だったよ。いや変な意味じゃなく、ただ日常を過ごしただけさ。
まあ銃器の名前が覚えられないのは仕方が無いとして、話しかけるたびに怯えられるし、銃を持ちながら近付いたら顔を真っ青にするし、色々大変だったんだ。
ユミの全身に風穴開けてさっさと豚の餌にしてもよかったんだが、それはついにできなかった。
彼女に愛着が湧いた、というのもあったが理由は別にある。
ユミはね、僕にとって希望の光だったんだ。
人は殺して当たり前、そんな世界で這いつくばる僕にとって、だけどね。
肥溜めみたいな町に根を下ろしてしまった僕は未だに普通の世界に憧れてたんだろうな。
普通に働いて、普通に結婚して、そして普通に死ぬ。僕にできないそんなことは彼女にならできるだろ?
つまりね、僕はそんな淡い夢を彼女に重ねていたんだよ。
そんなことをしたところで意味もないし、ただ虚しくなるだけなのも分かっていたさ。
とにかくだ。そんな希望の光は今も、たまにだけど武器商人である僕のところに遊びに来るんだ。あんなに銃を怖がっていた彼女がね。
この場合彼女は取り返しがつかないくらい荒んだのか、それとも一歩成長したのか、そんなことは分からない。父親の考えすら分からないんだから仕方が無いよな。