吸血鬼館の夜-想起-
途中から視点がコロコロ変わって少しだけ見にくいかもしれません
私は一人自分の家のテラスの上で月を眺めながら紅茶を飲んでいる。ワインなどでもよかったがそれで酔ってしまっては本末転倒もいい所だ。だからといってわざわざ咲夜を起して淹れさせるのも主人としてどうかと思った。
あいつなら呼べば起きるだろうし文句ひとつ言わずに作るだろうが…たまには自分でもやってみるものだな。なかなか楽しいものじゃないか。今度あいつにも淹れてやろうか。
そんなことを考えながら月を見上げていると後ろに人の気配がした。そして同時にその人物が誰かまでわかったから私は少し微笑を浮かべながらその人物に話しかけた
「ずいぶん遅かったじゃないかパチェ。手間取ったか?」
「不確定すぎるからね…それより、ホントに大丈夫なのかしらレミィ?」
「ああ。少なくともあの人間に死の運命は出ていないさ…たぶんな」
私はあえて言葉を濁らせた…いや濁らせたはおかしいか、事実あの人間の運命は見えなかった。
運命を操る程度の能力。名前だけ聞けば恐ろしい能力に聞こえるが事実はそんなに恐ろしいものではない。別に運命を変えられるわけではない…ただ運命が見えそして私に会うだけでその運命はほんの少しだけ変わる。それがいい方向か悪い方向かなど私の知った話ではないがな。
「たぶんでよくそんな自信満々に言えるわねレミィは」
「おいおい、どうしたずいぶん心配してるじゃないか。昼の間に惚れでもしたか?」
「馬鹿言わないで頂戴…ただ小悪魔が少し仲良くなったから死んだら面倒なのと一応知り合いになったから寝覚めが悪いだけよ…それにレミィだって死ぬ未来が見えなかったから引き止めたんでしょ?貴女は死んでもかまわない人間ならそもそもこの館になんて入れてないだろうし何より道具みたいに捨てるのはレミィ嫌いじゃない」
パチェは全部わかっているかのように笑う。まぁ全部見透かされているのは間違いないだろうがな。この館では一番……ああ、妹より長い間一緒にいる親友だから。
始めは私は泥棒騒ぎなどどうでもよかった。別に何時ものことだしあの本も私のものじゃない。だが何の気なしにその泥棒が成功するか否かを見たときに見えたのは忌々しい事だが私がフランと緑と黒の変な模様をした…迷彩だったか?の格好をした男にからかわれる運命だった。そこにいたのは私が目指そうとしても手に入れられず色々な者の運命をみても見ることのできない笑顔の妹の姿だった。
「それで?直接会った彼の運命はどんな物だったの?」
「…ノイズがかかって見えなかった」
「は?」
「ものすごい数の運命が入り混じってどこに行くかもわからん…前に一度だけ見たことがあるな……あの死神男のときだ」
今思い出しても胸糞の悪い事件だ。まだ私が100にも満たないときにあった男は生きながらにして死んでいた。そしてとあるときにいきなり怪物になった。周りに死を振りまく死神の様な怪物に…そいつに殺されたものはデッドマン。こっちで言う怨霊付きも当たる化け物に代わっていった。こっちでも同じような化け物が出て鉄の輪と御柱がそれを打ち倒したらしいが…まさかな。私は平和ボケしている二柱を頭の中から追い出し話の続きに入る。
「……それならフランと二人にするのは危険じゃない?」
「かもしれんな…だがそのいくつかの未来のひとつに前にお前に言ったあの忌々しい運命も見えた…だからそれにすがるしかないのさ。本当に姉としても夜の王としてもダメダメだよ私は」
「ダメダメな王なら失敗したときに地底に謝罪するために私に対魔の儀式なんてお願いしたりしないわよ」
「…フン」
「まぁいいわ、とりあえずこのまま私は監視を続けるから。何かあったら封印を解いて外に彼を出せば良いんでしょ?」
「ああ、そうだ…頼む」
「できる限りね」
そういってパチェは去っていく。また一人個々にとり残された。咲夜をやはり起すべきだったかあいつがいないとすぐに紅茶が冷める。
飲む気を無くし外を見る。そこには真っ赤な満月が昇っていた。
「……」
紫苑はとてもじゃないが近寄れるような状態ではなかった。何とか耐えられているのは個々においてある家具類のおかげだろう。さっきフランが言ったとおり壊れないためこれを盾にして何とか防いでる状態だ。
「アッハハハハハハハハハ!!!」
「ずいぶん楽しそうだなおい」
それでも恐怖は感じる。壊れないといっていてもどのレベルまでなのかは見当が付かない。今もズガンズガンと衝撃音が響き今にも壊れそうな音をひっくり返したテーブルから響いている。
「隠れられたらつまんないじゃん!良いよ。炙り出してあげる【禁忌「クランベリートラップ」】」
フランがカードを取り出しつぶやく。その瞬間攻撃が止み変わりに魔方陣が紫苑を取り囲むようにグルグルと回りだす。そしてそれから弾幕が発射される。全て紫苑を狙ったものだ。
「やっば!」
紫苑が机の後ろから飛び出した瞬間机の正面と裏側が弾幕によって打ち据えられ音を立てて崩壊した。
「あー…スペカは耐えられなかったんだ…まぁ良いや!」
最初は二つだった魔方陣が4つに増えさらに弾幕の濃度を増す。それを何とか紫苑は避け続ける。
スペルカードルール。それに勝つにはいくつかルールがあるがその中で紫苑ができるのはその中でただひとつ。全てを避けきるというものだけである。
さらに紫苑は地上でしか行動できないのもありかなり行動が制限されてしまう。
かわし、跳ね、転がり、弾同士をぶつけ次々消していく。
そして本当に追い詰められるたびに部屋の中にターン!という乾いた音が響き弾が消滅する。そしてその後にはカランカランと金属音が鳴る。
「後13発…もつか?」
「すごいすごい!地上でクランベリートラップを避けきるなんてハジメテダヨ!!」
カードの時間が終了するとその直後には弾幕が降り注いでくる。カードの弾幕に比べれば遥かに薄いがだからこそ不意を撃たれスペルのときに一気に難しく感じるようになる。
このスペルカードじゃないときにも一切油断はできない。紫苑はこの最中にも何とか逃げ出す算段を考えていた。最初は扉を壊すことを考えたがフランで壊せないとなると手持ちの装備ではほぼ不可能だろう。手榴弾なら何とかなるかもしれないがこんな部屋の中で使えば自分も巻き添えになる可能性が高い。一瞬振り返り紫苑はダメ元で鍵の部分に銃を打ち込んだが案の定はじかれた。
「ショットガンでも持ってれば話は別だったんだがな…っとぉ!!!」
「ほらほら!!よそ見してると壊しちゃうよー!!アハハハハハハ!!!!」
ものすごい数の弾幕が張り巡らされ思考が遮断される。残りは12発。さっきのようにスペルカードを出されれば一気に持っていかれる可能性もある。
「次ぎ行くよー!!」
手に持っていたよくわからない何かを構えるとそれがゴウッ!と炎を帯びる。
【禁忌「レーヴァテイン」!!】
ぶぅんとそれを振りぬく。間一髪で避けきったがさっきまで立っていた場所は根こそぎ吹き飛ばされる。
「こりゃ当たったら終わるなだけどな…接近戦にしたのは間違いだぞ!」
紫苑の格闘術の届く位置にフランがいる今なら何とかなるかもしれない。フランを取り押さえようと紫苑は一気に接近した…紫苑は過小評価をしてのだ彼女の力を。
「アハハハ!!キテクレタンダ!!」
普通より遥かに力があったとしても、俺のほうが早い。そう思っていたのだろう。紫苑は驚いた表情のまま剣に打たれ吹き飛んでいく。
運がよかったのはここでスペルの効果が切れたことだろう。お陰で紫苑は命拾いをした。さらに幸運なのは最初の一撃により少しだけ扉の横に隙間が生まれたことだろう。確かに人が通るには狭いがものなら通ることができる。外から爆破すればここから逃げ出せる。
紫苑はそれに気が付きはじかれるように動き出した。勝てない相手といつまでも勝負するわけにも行かないし何より場所が悪すぎる。紫苑が逃げ出そうとしたとき後ろからボソッと聞こえた。
「…嘘つき」
「っ!!」
その一言の瞬間。紫苑の体は後ろから殴られたように吹き飛ばされ壁にたたきつけられた。肺の空気が全て外に出され意識が飛びかける。頭も打ったのかうまく動けない様だ。
「ハハ、ハ……こりゃやべぇな」
そんな紫苑を殴りつけたフランは俯いたままポツポツとつぶやいている。
「……遊んでくれるって言ってくれたじゃん。うれしかったのに…そうやって皆皆…私から逃げて…また一人ぼっち…嫌だ…もう嫌だ…でも逃げるんだよね。イマニゲヨウトシタモンネ」
フランの姿が4つに分裂したように紫苑には見えた…否その通り分裂したのだ。
禁忌・フォーオブアカインド
彼女の使うスペルカードのひとつ。だが今回は宣言をしていない。つまりあそびではない…本気の殺し合いのときの発動なのだ。
「「「「もう良いよ…壊れちゃえ」」」」」
4人のフランから一斉に弾が発射される。そんな光景を見ながら紫苑は昔のことを思い出す。ずっと忘れていた遠い記憶…
○○は無様に黒い髪の少女が…霞が目の前で殴りつけられているのを見ているしかできなかった。なんでもないような帰り道だった。ただ少し遅くなってちょっとだけ近道をしようとしただけ。そこにいたのは一人の男…鉄パイプを持ってふらふらとしていた。やばいと思って逃げようとしたけど…間に合わなかった。○○と霞姉さんは追いつかれて紫苑が殴られてその所為で足を止めてしまった霞が追いつかれ撲られていた…そのときにしようとしていたことは助けようとしたわけではない…○○は……違う
俺は。あそこで逃げようとした。自分を助けてくれた人を見殺しにして助かろうとしていた。
だけど結局身体が動かなくてその後に人が来るまでそのまま姿を見ているしかできなかったんだ…やっと思い出せた。
スゥッと気分が晴れるような心地よさと同時に自分の中に耐えられないような罪悪感がこみ上げる。倒れた視界のままフランを見るその姿は…さっきまでのように悪魔のようには見えねぇな悲しんでる女の子じゃねぇか。血を口から流しながらもほんの少しだけ笑う。もしここにいるのが俺じゃなくて霞姉さんならどうするかな…決まってるよなそんなの。
あの人が死んだ日、俺があの人の代わりとして無意識のうちにあの人の真似をしちまって同じような考え方になってたからわかる。
「「「「もう良いよ…壊れちゃえ」」」」
弾幕が俺に殺到するそれは少し前よりだいぶ遅く感じた…。
「…バーカそんな簡単に壊れるかよ」
銃を引き抜き弾幕を打ち抜く銃撃音が5回響き隙間が生まれる。そこに横になった体制から一気に立ち上がり飛び込む
「まだまだ終わっちゃいねぇよ…ほら、遊ぼうぜフラン?」
残りは8発…上等。それだけあれば十分だ。俺はフランを見据え不敵に笑ってやる。フランは一瞬の驚いたような顔をした後…楽しそうに笑っていた。その横では…偽者のフランが銃弾に撃たれ倒れていきながら消滅していく
さぁ、反撃開始だ!!
なんか長くなってしまいましたがフラン編はもう少しだけ続きます。あと少しお付き合いくださいorz




