吸血鬼館の夜-狂気-
あの後帰ろうにもバッテリーがなくなり地上走破も考えたが流石に弾丸15発とナイフと手榴弾で夜の幻想郷を歩き回るのは自殺行為だと聞き今夜だけここ紅魔館でお世話になることになった紫苑。戦闘もした上に追跡戦も行いさらになれない場所だから疲れているはずだったのだが
「……」
(全然寝れん)
紫苑はばっちり目が冴えていた。特に理由があるわけではないしましてや枕が変わったから寝られないなんてわけでもない。ただ単になぜか寝られないのだ。
紫苑はそっと自分の胸に手を当てる。最近妙に回数が増えているのだ。あの時々来る謎の痛み…まるでその部分を何かで貫かれたような痛みが。そしてそれは今も来ているズキンズキンと胸や腹、手足とあちらこちらが痛む。しばらく経ち痛みも引いていったがやはり眠気はこなかった。紫苑はちょっと周辺でも走ろうかといつもの迷彩服に着替える。わざわざ着替えたのは一応近くとはいえ外に出るのだ。流石に寝巻きで走ったら風邪を引くからである
と思ったためである。銃や手榴弾などははじめ外すのも考えたがやめた。もし曲がり間違って妖精メイドとかが触って爆発したらしゃれにならないから。
そして外に出ようと思ったものの今日ついたばかりな上にかなり広い館なのだ案の定迷子になった。
「……どこだここ」
同じような廊下がいくつも続き自分がどこにいるのかもわからなくなる。流石に館の中で遭難など笑い話にもならないので部屋に戻って大人しくしようかと思っていたとき。
「♪~♪~」
「…歌い声?」
どこからか歌い声が聞こえてきた。といってもその声はまだ幼い少女のそれでレミリアが威厳とかを投げ捨てて見た目相応のしゃべり方をすれば出るんじゃないかといった感じの声だった。
紫苑は暇だったのもありその声の方向に向かった。たどり着いたのは昼に咲夜に危険だといわれて見るのをやめた階段の前だ。とはいっても昼のように星のような模様と良くわからない文字は浮かんでおらず普通のドアに見えた。
「♪…?誰かいるの?」
歌が止みそのドアの向こうから声が聞こえた。まさか気が疲れるとは思っておらず紫苑は一瞬身構える
「ねぇねぇ!来たなら一緒に遊ぼ!ずっと一人じゃつまんない…」
「……はぁ、わかった。んじゃ今そっち行くから少し待ってろ」
声などを聞き身構えるのも馬鹿らしくなりそれを解く。だが彼とて一応はプロの傭兵だ危険といわれた場所に行くのだから警戒を一切していないわけではない。ナイフを使いやすいようドアのノブを右手で掴み左手は何時でもナイフを引き抜けるようにしてドアを開けた…が
「…おーい、どこだー?」
部屋の中はもぬけの殻だった。そして部屋に入ってドアを閉めた瞬間
「………」
「………」
そのドアの影にいた一人の少女と目が合った。驚かそうとしていたようだがドアを閉めるときに紫苑が振り返ってしまったため目が合ったようだ。
「……わー!!驚いたかー!!!」
「……」
「わわわ!!ごめんごめん!お願いだから無言でドア開けないでつぶれるー!!」
ドアを閉めるとさっきの少女が涙目でひどいよーといいながらその影から出てきた。その少女は金髪で真っ赤な瞳をしていて赤と白の服を着ていた。そしてレミリアのものと良く似た帽子を被っており全体の雰囲気がどことなくレミリアと似ている。が何よりも目を引くのはその背中に生えた羽のような何かだろう。そこには宝石がぶら下がっている。
「ううう、怖かった…」
「さっきの歌、おまえか?」
「うん、そうだよ!人間さん聞こえてたんだ」
「ああ、寝られなくて退屈だったからな。散歩してたら聞こえた」
嘘ではないが迷子になっていてとは言えない。そのためか紫苑が散歩だけ言った
「うーん…もしかして人間さんここに住むことになった外来人さん?ここにこんな時間にいるなんて」
「そんなわけじゃねぇよ。ただ仕事が長引いてな。俺は紫苑、早い話が何でも屋やってる地底の人間だ」
「へぇ、そうなんだ。私はフランドール・スカーレットだよ!」
「スカーレット?」
昼に会ったここの主レミリアと同じ苗字。もちろん紫苑が思いついたのは彼女の姉妹のどちらかの可能性である。だがそれれならばなぜ危険といわれた場所にいるのかわからなかった。
「…その様子じゃ聞いてない…というか聞いてるわけないか。私はレミリアお姉さまの妹だよ」
紫苑の様子を感じ取ったのか少し寂しそうにシュンとした様子でフランは答える。さっき言っていた”ずっと一人だとつまらない”の言葉。きっとわけがあってここに閉じ込められていたのだろう。
紫苑ははぁと軽くため息をつくと頭の上に手を軽く置く
「!」
「っと悪い脅かしたか」
その瞬間フランはビクッとなったが紫苑が手を軽く動かすと撫でられていたとわかり大人しくなった。
「ま、俺も流石に徹夜するわけにもいかねぇし少しだけな」
「えー!それじゃあ少ししかないじゃん!」
「明日の昼遊んでやるよ。外で鬼ごっこでもするか?」
「わー!……紫苑それわざと言ってる?」
「……そういえば吸血鬼だったなお前」
吸血鬼。色々と強い生き物だ。人間では到底追いつけない速度や力を持ち不老不死。そして体を霧や蝙蝠に変えることができる。だが弱点も多くにんにくや日光。銀に十字などちょっとしたことで大きなダメージを受けてしまう。
「ま、それは明日に考えようぜ。お前も言ったが少ししかないしよ」
「あ!そうだね!えっと…何しよう?弾幕ごっこ?」
「部屋ぶっ壊すつもりかお前は!!」
確かに部屋は広く天井も高い。やろうと思えば弾幕ごっこもできるだろうスペースはある。何故かこの一部屋で過ごせるだけのスペースが存在するのだから家そのそのものが一部屋になったような印象を受ける。流石にトイレやお風呂は別の部屋につながっているようだが。
そこで紫苑は妙な点に気がついた。何故か人形の類が全て…壊れている。穴が開いたものばらばらになったものちぎられたようなもの…本当に様々だ。
「…部屋は壊れないよ?」
「え?いやだって現に」
「うん…部屋は壊れない…だって…だって」
カタカタとフランが震えてるのを紫苑は感じた
「何回もなんかいもナンカイモコワソウトシタケド壊れなくていつもいツも何時もイツモ目が眼がめがメが……ああああああああああ!!!!」
「フラン!?おい!!」
「いやぁ!!!!」
フランが手を前に突き出す。吸血鬼には普通でも人間には一撃必殺の力を秘めている。紫苑はそれを回避したが直後にその手から弾幕が飛び出した
それを回避したがフランに近づくことはできなかった
「いつもイツモ!!私は一人でメにみらレテ!!495年も!!!……あぁ…あんな所にもメがある……アッハハハハハ!!!壊しチャオ。全部全部ゼンブ!!」
「ありゃ正気じゃねぇよな」
ふと扉を見る。昼のように昼のように星のような模様と良くわからない文字が浮かび上がっている。それはおそらく彼女が不安定になったときに発動する結界の役割を持っていたのだと思えた。つまり今紫苑は閉じ込められた。
正面には完全に正気を失ったフラン…吸血鬼、腰にはジャスト15発入った銃と手榴弾。そしてナイフ紫苑はふぅとため息を吐く。
あの時と同じじゃないか。
そう紫苑がこちらに来る前と同じ危機的状況。しかも相手は知り合いの妹つまり殺せないのだ
「しょうがねぇな…遊んでやるよ。弾幕ごっこでな」
「アハハハハハハ!!ハヤクコワレナイデネ!!」
フランが一斉に弾幕を放ち戦いは始まった。
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