エイプリルフール
4月1日、いわゆるエイプリルフールの日だ。
手野町市立高等学校2年生の井野嶽幌と、その双子の姉である桜が、考古学者の両親が相変わらずいない家の中で、ご飯を作っていた。
両親は二人とも高名な考古学者で、年の10分の9は海外にいるため、家にいることが珍しいほどだ。
そのため、一切の家事は、二人で行うことになるのだが、主にしているのは幌の方で、料理が壊滅的に下手な桜の為に、一人でお昼を作っているのだ。
今日は、まだ春休みだが、部活がある日になっている。
「それで、お父さんたちは?」
桜がネギをきざんでいる幌に聞いた。
「今日はアフリカに行ってるそうだよ。こまかくは聞いてないけど」
「アフリカかぁ。遠いなぁ」
「今に始まったことじゃないけどね」
つけっぱなしのテレビは、今日が4月1日であることを言い続けていた。
「そういや、今日はエイプリルフールの日なんだね」
桜が、制服を準備しながら言った。
「年に一度だけ、嘘が許される日。でも、俺に嘘なんかついたら…」
包丁をもった幌の目が、不気味にきらめく。
「嘘をつくとするなら誰だろうなあ。分かりやすいウソなら良いけど」
「あんまり人を困らせるようなことをするなよ。後々尾を引く事もあるからな」
「分かってるって」
ネギを刻み終わり、タッパーに詰め冷蔵庫にしまっている。
「幌は高校は?」
「行くよ。先に行ってて」
「分かった」
桜に言うと、着替え終わった桜がカバンをもって、先に高校へと向かった。
幌が学校につくと、すぐに幌を見つけた友人の永嶋山門が紙切れをもってきた。
「今日は料理部があるって聞いてな」
「どうしたんだ」
「ほら見てみろ、宝くじに当たったんだよ」
「それはおめでとう」
幌は見もせずに言った。
「おいおい、ちゃんと見ないのか。ほらほら」
「今日はエイプリルフールだろ。嘘だって」
舌打ちをしたような気がしたが、幌は無視することにした。
「それで、山門はコンピューター部だろ。今日はあるのか」
「ああ、要らないパソコンがあるっていうんで、それをバラシに来たんだ」
「なるほどな」
そこに来るのは琴子だ。
「あれ、先輩はどないしたんや」
「今は準備室に入ってて、材料を取っているよ。新入生が来るからね」
「そっか、それもしないとな」
忘れていたように山門が言った。
「忘れてたんかい。急がへんとあかんで」
琴子が言った。
「そうするよ。鈴にも伝えておかないとね」
鈴は、山門の恋人だ。
同じコンピューター部に所属している。
山門が出ていった料理部の部室で、近くの椅子に座って幌に聞いた。
「そういや、エイプリルフールって、なんや」
「日本語や中国語だと、四月馬鹿とか万愚節っていったりするね。フランス語だとPoisson d'avril、つまり、四月の魚っていう名前だね。諸説あるんだけど、昔のヨーロッパは3月25日を新年として、4月1日までお祭りをしていたそうなんだ。でも、1564年、当時のフランス国王のシャルル9世が1月1日を新年とすると発表したんだ。それに反発した日ちびとが4月1日を嘘の新年として馬鹿騒ぎを始めたっていう説。ちなみに、これには続きがあるんだ。この新年の馬鹿騒ぎをしていたのを片っ端から逮捕、処刑し、そのことを忘れないようにするため、毎年するようになったって言うことだね」
[作者注:以上はWikipediaエイプリルフールのページを参考しました。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%A4%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%BC%E3%83%AB]
「悲しい歴史やな…」
「あくまでも仮説だからね。本当のことは、誰も知らないんだ。もしかしたら、子供がいたずらで考え出したものかもね」
幌はそう言って、琴子に言うと、新入生が来た時用の料理を作る準備をした。