髪を切った理由
「あ、髪切ってる! どうしたんだよ。あんなに短いのは嫌だって言ってたくせに」
何も知らずにそういうあんたに、何ていってやろうかと思った。
「どうだ! 短い髪も似合うだろ」
「似合うけどさ。あんなに切らないって言ってたくせに」
「これから暑くなるしいいの」
結局出てきた言葉はそんな言葉で。
バカみたいに強がる。
「これから暑くなるって、これから冬になるんだけどな」
「私はこの冬は毎日走るって決めたから暑くなるの」
「さっすが陸上部」
走る理由は、走っていると何も考えなくてすむから。
走るぐらいで心が温まるのなら、私はどこまでも走り続けるだろう。
「でもさー、いきなりばっさり髪切るなんて失恋したみたいだよな」
「……別に」
今、私はどんな顔をしているんだろう。
「え、図星? 光希すげー怖い顔」
「……バカみたい」
「え?」
どんな顔をしているかは、目の前にいる蓮が教えてくれた。
怖い顔らしい。
バカみたい、と呟いた声は届いていなかったらしい。
よかった。
「私が失恋することより、蓮に彼女ができたことの方が不思議でしょ」
「失礼な奴!」
「いいんじゃない? 理恵はいい奴だと思うよ」
「俺にお似合いで?」
そうだね、蓮と理恵はお似合いだよ。
前から知ってた。
昔からの仲良しである理恵は私に蓮が好きだとすぐ伝えてきた。
そのすぐ後、蓮が理恵を好きだと私に伝えてきた。
早く告白して付き合えばよかったのに。
なかなか2人とも行動を見せず、付き合い始めたのは昨日。
「光希も彼氏つくれよ。俺がいい奴紹介してやろうか」
「……なら」
「は?」
「なんでもない」
“それなら蓮がいい”
そんなバカなことは私には言えない。
「今日、おまえ変だぞ。本当に失恋か?」
「だったら何? 私が失恋したからって蓮がどうにかしてくれるのわけ?」
やばい。そう思った時にはもう遅かった。
蓮は目を開いている。口も見事にあいている。
「まじだったんだ」
「まじだからほっといて。私もう行くから」
ここまで言っても気づかない。私なんて興味がないんだろう。
でも、この気持ちを知られるのも困るからいいのかもしれない。
「光希!」
これ以上いたら、余計なことを言いそうだからこの場から去ろう。
そう思って、歩き出すと蓮からの叫び声。
名前を呼ばれることさえもうれしい。好きになってからはそんなことまで思えたものだ。
「俺、おまえ振るような奴、バカだと思うぜ!」
蓮。
私は、あんたが好きだよ。
蓮。
その一言忘れないよ。
蓮。
ありがとう。
まだ、時間はかかるだろうけど。
短くなった髪が、元の長さに戻るまでには
あんたたちが幸せになることを心の底から想えるようになりたい。
タイトルが思いつかなかったためすごください。
今日、学校に行くと友達が長かった髪を切っていた。
理由を聞くと「友達に短いの見たいって言われたから」と、その子らしい答えだったけどもw
そこから思いついたお話。