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独立行政法人 勇者サポート協会 異世界総務部の新人研修 ~二日目・田植え~

掲載日:2026/07/11

勇者サポート協会(総務)3話目です

「本日は田植えを行います」

「……総務ですよね?」

「はい。食料自給率と勇者の兵站は総務管轄です」

「兵站……」

 担当者は淡々と資料をめくる。

「また、異世界、特にJapanioから転生または転移された勇者の方々は、米への執着が極めて強く」

「はい」

「白米不足を理由に魔王討伐を放棄し、辺境で稲作を始める事例が後を絶ちませんでした」

「え?」

「そのため現在は、勇者一名につき年間米消費量を見越した作付面積を、協会が確保しております」

「……えぇ」

「なお、過去には『どうしてもコシヒカリが食べたい』という理由で魔王軍と停戦協定を結んだ勇者もおります」


「勇者ぁ!!」


「また、勇者資格を返納し、辺境領主への転身を希望される方も多くて困っているんですよ」

「……領主ですか?」

「はい。スローライフ志望ですね」


 担当者は資料を一枚めくる。


「現在『スローライフ』を名乗る辺境地の約八割は、居酒屋、ラーメン店、温泉旅館、ホームセンター、コンビニが立ち並ぶ状態となっております」

「スローライフとは……」


「夜になりますとネオンが点灯します」

「辺境って何でしたっけ?」


「はい。さらに近年は、ざまぁされる前に家を飛び出した前世記憶持ちの元令嬢・元令息の流入も増えておりまして……」


「え?」

「彼らは非常に優秀です。石鹸、シャンプー、味噌、醤油、マヨネーズ、印刷技術などを次々と開発します」

「文明が進んでる……」

「その結果、辺境の人口増加率は王都を上回りました」


「王都、大丈夫ですか?」

「大丈夫ではありません」


 担当者はまた資料をめくる。


「現在、王都では人材不足が深刻化しております」

「原因は?」

 担当者は即答した。

「ざまぁです」

「そんな一言で済ませる問題なんですか!?」

「王都の貴族社会がブラック企業認定されまして…」


「認定制度あるんですか?」

「離職率が九二%を超えました」

「高っ!」

「そのため現在、王都では悪役令嬢役を演じてくださる方を募集しております」


「募集!?」

「経験不問。未経験歓迎」


「求人広告みたいに言わないでください!」


「まぁ、そんな訳で本日の業務は田植えです。ご経験は?ご実家が農家もしくは町村立小学校卒などが望ましいのですが……」

「町立の小学校ですね。畑と田んぼはありました。小学校5年生が、田植え、稲刈り、脱穀、新米奉納、餅つき大会……

全部、五年生が主催で……農業奴隷になる…あっ頭が!!」

「ほぅ。それはそれは……。因みに、手植えです。文明の利器はございません」

「BBAの腰はガラスでできていますよ?膝は土器です」

「ええ。そのため弊社はイタドリ様から提供頂いた、ハイパーポーションを用意しています。これを飲むと足腰が弱った92歳の方が100キロマラソンを楽に完走できる代物です」

「ホントに??」


 宗教法人 健康せいかつ

 御神体 オオイタドリ

 御利益 腰痛・膝痛・筋肉痛・肩こり・疲労回復

 標語 「健康は、信じることから」


「完全に通販番組じゃないですか!」


「九十二歳の被験者が『王都・魔王城マラソン』を完走しております」

「被験者って言いました!? その九十二歳って、エルフの青年とか転移チートで若返ったとかじゃないんですか?」


「いえ」

 担当者は資料を一枚めくる。

「Japanio沖縄県出身、島袋八重さんです」

「普通のおばあちゃん!」

「『まだまだ若いもんには負けない』とエントリーされまして──」


 担当者の指が止まる。


「……失礼しました」

「え?」

「完走ではありませんでした」

「ほら!」

「総合優勝でした」

「強っ!!」


 担当者は何事もなかったように続ける。


「後期高齢者部門、青壮年部門を制しております」


「青壮年部門まで!?」


「はい。本人のコメントです」

 担当者は資料を読み上げる。


「去年まで足・腰・膝の痛みで起き上がれない日々が続き、もう召される日も近いと諦めておりました。

しかし、イタドリ様と出会って人生が変わりました。

今では毎朝、魔王城の外周を十周走り、週末はドラゴン登山を楽しんでおります。

本当に感謝しかありません。※効果には個人差があります。」


「通販番組じゃないですか!」

「個人の感想です」

「あぁ、もう!言いにくいなぁ」

「なお、宗教法人 健康せいかつ様は毎年弊社へハイパーポーションを三万本寄贈してくださっております」

「寄付なんだ……」

「ここだけの話、節税対策も兼ねております」

「急に生々しい!」


「はい。それではこちらの田植え用の制服に着替えてください」

「貫頭衣じゃん、しかも麻の腰紐付き」

「ご存知でしたか?」

「ええ。小学校で着ました。そう、ちょうど…田植え…」

「大丈夫ですか?」

「はい。なんか思い出しそうになると頭痛が」

「無理はしないでください。では、苗とスライムシューズです」

「スライムシューズって急に異世界だな。品種はコシヒカリだけですか?」

「今日は古代米を植えて頂き様子を見て、明日以降コシヒカリになります」


「古代米は、古代農法を再現するため歌いながら植えていただきます」


「承知しました。これだけ揃ったら昔の歌を思い出しました」

 そう言うと中田は独特な音程の節を歌い始めた。


 おおなかのこだーいじん。

 なーかよく、くらしてるー。

 おひーさんが、しずーめば。

 ひーのかみさん、あらわれる。

 こだーいじんの、つどーいが、

 いま、ここに、よみがえるー


 すると急に地面から泥だらけの古代人が「にょきっ」と生えてくる。


「中田さん!それは、失われた秘術。古代人召喚詠法ですよ。いや、凄い!!ネクロマンサーの素質もあるとは…」

 担当者が急に恵比寿顔になる


 人型に落ち着いた、古代人の集団から一人が前に出てくる。


「ヤァ、イマティタチ。コノ、ツァトパ、ワンガ、オポナカ、ムラナリ…。ゴユルリトミティユキタマピヨ」


 担当者は彼らの言葉を聞き取れない。

「中田さん、なんですって?」

「たぶんですが、やあ、君たち。この里は我がオポナカ村です。ごゆっくり見ていってください。だと…」

「流石です」

「いえ、これは郷土資料館の弥生時代後期の人々が話ていた言葉として、資料にありました。だから私じゃなくても……」

「いいえ、今までの異世界から召喚された方にこの秘術を覚えていらっしゃる人はいませんでした。誇りに思っていいですよ」

「ありがとうございます」

 否定され続けた人生で漸く肯定された気がした。

「古代米の方は古代人の方々が終わらせてくれました」

「え!もう?」

 何事も無かったように古代人達は土に還った


「予定より三時間早く終了しました。これは定時終了ペースですよ!いいですね!!」

 担当者は急にウキウキとした表情に変わる。

「早っ!」

「古代米に関してはこれで収穫まで問題ないでしょう。雑草、虫、病気、水問題に関して彼らが協力すると文献に書いてありました。ただ、水問題の場合は早急に対処しなければ村同士の争いになり、紛争に発展しますのでご注意下さい」

「そうなの!?」

「明日は引き続きコシヒカリの田植えです。が、手植えになるか文明の利器が使えるかは中田さん、あなた次第です。文明の最先端、kombiniが使えるかどうかはあなたを守護するJA妖精の召喚と親和性にかかっています」


「JA妖精ですか?」

 担当者は真顔で頷く。

「正式名称は Japan Agricultural Fairy です」

「そこは英語なんだ……」

「個体差はありますが、稀に農協のおばちゃんの姿で現れます」

「妖精とは…?」

「ご安心ください。全員、JA○○と書かれたジャンパーを着ていますので判別できます」

「そこだけ親切!」

「では着替えて本日の日報を提出してください」

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