表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

最強守護神ふくシリーズ

拾った黒猫が最強の守護神でした ~布団を奪うくせに国まで救います~

作者: モカ
掲載日:2026/05/12

雨は、三日止まなかった。


 城壁の外では魔獣が吼え、人は灯りを消して眠るしかない夜が続いている。


 そんな中、王都の片隅にある古びた長屋では――。


「……おい、どいてくれ」


 黒猫が、鍋の前から動かなかった。


 青年はため息をつく。


 名前はユキト。職業、荷運び。剣も魔法も使えない、どこにでもいる貧民街の住人だった。


「お前なぁ……今夜の飯、これしかないんだぞ」


「にゃぁ」


 黒猫は返事をするように鳴くと、尻尾をゆらりと揺らした。


 琥珀色の目。


 妙に賢そうな顔。


 そして、胸元にぽつりと白い毛。


 半年前、雨の日に拾った猫だった。


「ほんと、福でも呼びそうな顔してるよな」


 そう言って、ユキトは笑った。


「今日からお前、“ふく”な」


「にゃ」


 まるで納得したように、猫は短く鳴いた。


 その瞬間だった。


 ――ドゴォン!!!


 外壁が揺れた。


 悲鳴。


 兵士たちの怒号。


「魔獣だ!! 第三区画が破られた!!」


 ユキトは立ち上がる。


 だが次の瞬間、窓を突き破って巨大な“腕”が入ってきた。


 黒い毛。


 腐臭。


 異様に長い爪。


 人喰い魔獣グールベア


 普通の人間なら、一撃で胴を裂かれる。


「……っ!」


 死ぬ。


 そう思った瞬間。


 目の前の黒猫が、すっと前に出た。


「にゃ」


 軽い鳴き声。


 直後――。


 世界が、止まった。


 いや、違う。


 止まったのは、“魔獣だけ”だった。


 グールベアの巨体が空中で静止し、次の瞬間、音もなく崩れ落ちる。


 肉も骨も、砂みたいに砕け散った。


「……は?」


 ユキトは呆然とする。


 黒猫はゆっくり振り返り、当然のような顔で前足を舐めた。


 その時。


 頭の中に、声が響いた。


『世話になっておるな』


「今しゃべった!?」


『うるさいの。耳が痛い』


 ユキトは固まる。


 部屋には自分しかいない。


 黒猫以外。


『察しが悪いの』


 猫が、ため息みたいに「にゃあ」と鳴いた。


『我だ』


「……………………ふく?」


『うむ』


 窓の外で雷が走る。


 その光の中、黒猫の影が巨大化した。


 天井を埋めるほどの漆黒の神獣。


 黄金の瞳。


 幾重にも広がる尾。


 空気が震え、世界そのものが跪くような威圧。


『我が名は――ふく』


「いや絶対もっと神々しい名前あっただろ!?」


『昔はあった』


 ふくは、ふんと鼻を鳴らす。


『だが、おぬしがくれた名の方が気に入った』


 そして小さく目を細めた。


『福を呼ぶ。良い名だ』


 古代文字のような紋様が宙に浮かぶ。


『千年前、神々の戦争を終わらせた“守護神”である』


「……………………」


『ちなみに、ちゅ〜るが好きだ』


「台無しだよ!!!」


 ◇


 その日から、ユキトの日常は壊れた。


 王国最強騎士団が家に来る。


 聖女が高級猫缶を献上しに来る。


 魔王軍が「その猫を引き渡せ」と襲撃してくる。


 だが、ふくは全部こう言うだけだった。


『断る。今、昼寝中だ』


 そして敵軍が消し飛ぶ。


 誰も勝てない。


 なぜなら、その猫は――世界最強の守護神だから。


 でも。


「お前、なんで俺なんかに懐いたんだ?」


 ある夜、ユキトが聞くと。


 ふくは月明かりの窓辺で目を細めた。


『雨の日に、震えていた我に傘を差した』


『それだけで十分だ』


 最強の守護神は、小さく喉を鳴らす。


『……人は、案外悪くない』


 その瞬間。


 王都全域に、警鐘が鳴り響いた。


 空が裂ける。


 現れたのは、神話級災害指定――《白銀竜アルヴァディア》。


 王国が百年恐れた存在。


 人類では絶対に勝てない終焉。


 誰もが絶望する中。


 ふくは、ユキトの膝からぴょんと飛び降りた。


『少し行ってくる』


「いや待て、その辺の散歩みたいに言うな」


『すぐ終わる』


 次の瞬間。


 夜空を埋め尽くす漆黒の神威。


 世界最強の守護神が、静かに牙を剥いた。


 ――そして人類は知る。


 最強の存在は、王でも勇者でもなく。


 一匹の“ふく”に守られていたのだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ