第一章 アルゴフィリア
世の中にはさまざまな趣味、嗜好をもった人がいる。
読書、映画鑑賞、音楽鑑賞あるいは歌うこと演奏することが好きな人たち。
飛行機が好き、鉄道が好き、船が好き、そういった人たちの中に蒐集家と呼ばれる人種がいます。
集めるのは昆虫や植物の標本、絵画など学術的なものから玩具、フィギュア、石ころにいたるまでさまざま。
世間的に価値の認められている物はともかく、本人以外(とくに家族)にはほとんどゴミといってさしつかえなかったりもする。
さて、かくいう私にも一風変わった趣味がある。
苦痛の蒐集だ。
足の小指をタンスの角にぶつけたときのうずくまる痛み、突き指、打ち身、切り傷など日常生活で発生するアクシデントから交通事故、火災、地震など非日常的な怪我の痛み。
そして頭痛、胃痛、腰痛など病的な痛みまでこの世に存在するありとあらゆる苦痛を集め、体験するのが無上の喜びなのだ。
苦痛こそ生であるとさえ思っている。
サディズム、マゾヒズムに通じるところがあるがマゾヒストかと問われれば首をひねって否定するところがこのアルゴフィリアの歪んだところかもしれない。
問題は世間の理解を得られないことではなく、白眼視されることである。
変態、異常性欲者どころか犯罪者扱いをされかねないジャンルなのだ。
したがって好事家たちは蒐集物を秘匿し一般公開するなど不可能であった。
しかし同好の士というものはひそかに苦痛を持ち寄り自慢しあうのがこれまた趣味の楽しみ方としては健全であった。
蒐集の苦労を語り苦痛の薀蓄を披瀝する場を欲した我々はこっそりペインクラブを結成した。




