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魔王なる病  作者: 森田 亮介
プロローグ
3/4

第3話 エルフ少女との約束

「パパ、しっかりして!」




 少女エルフは年配の男性エルフに対してパパと叫んだ。


 ヨウは急いで、年配の男性エルフに近寄って治癒魔法を唱える。




「あなたは?うんん。誰でもいい。パパを助けて!」少女エルフは叫ぶ。




 これが実践で初めての魔法詠唱だった。


 極度の緊張で手が震えた。詠唱もたどたどしく、途切れ途切れになるところを何とか繋げて成功させた。その証に、男性の顔色は赤みが出てきた。傷口も回復して一命を取り留める事が出来た。




「よかった間に合った!」




「君は?いや、魔法が使えるなら娘を助けてやってくれ。頼む!」




「え?あ、はい!」




 年配の男性エルフは回復したばかりで、まだ動けない。


 だから、自分がやるしかないけど、想像もしてなかった。


 まさかまさか、ちょっとした冒険がこんな事になるなんて。




 どうしよう。更に緊張してきた。


 


 ――あ、あれ?




 何だっけ?神語が思い出せない。さっきは出来たのに何で?


 


 あれ?あれ?え~と‥。


 


 駄目だ。頭に血が上って混乱してる。


 頭の中が真っ白だ。何も思い出せない。




 苦しい‥。どうしよう。




 ヨウは勢いに任せて、土魔法の詠唱を試みたが、セリフは噛むし、途切れ途切れで順番は滅茶苦茶。緊張は最高潮に達して顎の震えが止まらない。勿論、魔法は発動しなかった。




「あれ?あれ?何で?」




「駄目か‥」




 ヨウが魔法の発動に失敗した事を察すると、年配の男性エルフは回復したばかりの体で立ち上がり、娘のエルフに加勢に入った。




 魔獣はすばしっこく、壁を使って、変幻自在に襲ってくる。


 このままでは、皆、死んでしまうかもしれない恐怖にヨウは更に動転した。




「落ち着くんだ!君なら出来る!さっき、君は私を助ける事が出来ただろ!君ならやれる!さあ、落ち着いて魔法を唱えるんだ!」年配の男性エルフは魔獣と戦いながらもヨウを励ます。


 


 そうだ、無駄にするな。


 この7年間、来る日も来る日も勉強の毎日だった。


 本当に死にたかった。


 朝起きて、このまま死なないかなって本気で思った。


 実際、窓から飛び降りようともした。


 でも、そんな灰色だった毎日は、今日、2人の親子を助ける為にあったんだ。


 そうだ。そうに違いない!たからやれる。やるんだ!俺なら出来る!


 


 ヨウは、今だ震える口で慎重に魔法を詠唱した。


 詠唱は初心者丸出しで、恥ずかしいくらいたどたどしく遅かった。


 あんなに勉強して、あんなに反復練習して、いざ、実践になると、この程度なのかと自分にガッカリした。悔しいが、母さんの言う通りだった。


 


 『詠唱は滑らかに、途切れることなく、素早く唱える。それが出来ないと、誰かが死ぬ事になる』悔しくって涙が出た。


 


 魔獣達はヨウを含め、3人を囲んで一斉に襲い掛かって来た。


 年配の男性エルフはヨウと娘のエルフを守りながら戦った。


 しかし、娘のエルフは隙をつかれて魔獣にレイピアを咥えられて、武器を奪われてしまった。




「あ、しまった!」




 歯をくいしばり舌打ちするエルフの娘はジリジリと後退した。


 代わりに年配の男性エルフが娘の盾となって前へ出て、チラリと後ろにいるヨウを見た。ヨウは詠唱に集中している為、目を瞑っていた。


 


 本来、エルフであれば精霊を味方につけて反撃出来るものだが、我がステイシア家は、代々魔法も精霊も扱えない。だから、彼にかけるしかない。何とか詠唱が終わるまで、持ち堪えねばと心に誓った。


 しかし、魔獣はヨウの詠唱が終わるのを待ってはくれない。3人の喉元を狙ってジリジリと狭めて来た。目を光らせ唸る魔獣はトドメを刺す為に、同時に襲い掛かって来た。




 ――もう駄目!エルフの娘は死を覚悟した。




 だが、ギリギリ間に合った。


 ヨウの思いに応えてくれた魔法は、地面から尖った土が飛び出して、魔獣達に次々と刺さっていく。




「‥凄い」




 エルフの娘は圧倒的な魔法の力に思わず息を吞んだ。


 仕留め損なった魔獣は少しだけいたが、年配の男性エルフが撃退してくれた。


 それを見て、ヨウはようやく安堵して腰を落とした。




 「ハハ、まだ、手が震えている」




 けど、それでも、俺はやったんだ!ヨシ!ヨシ!


 ヨウは汗で湿った手を握る。




 エルフの娘も同じく安堵した様で、年配の男性エルフに駆け寄って抱き付いた。




「ゴメンなさい、私を庇ったせいで‥本当にゴメンなさい」




「全くだ。あれほどついて来るなと言ったろ!」




「でも‥」




「あ、すまない。助けてくれたのに礼が遅れて。私はハルバ亜国の騎士団長バン・ステイシアだ。それと、この子は娘のアリアだ。君の名は?」




「あ‥っと、俺はツバキ・ヨウです」




「ほう。ツバキ・ヨウと言うのか。倭国の名だね。ご両親は倭国民かな?それより、本当にありがとう。君が来てくれなかったら、アリアも私も、今頃どうなっていた事か‥。本当にありがとう!実は、今日、魔巣窟の調査の為にやって来たんだがな‥不甲斐ない事にこの有様だ。笑ってくれ。でも、本当にありがとう」




 バンが手を出して来たので、ヨウは緊張しながらも握手を返した。よく見ると、壁に張り付いた赤い結晶石が次々と魔獣の形に変化して大きくなっていく。




「これは?」




「なんだ?知らないで魔巣窟に入って来たのか?」




「と言っても、実は私達も良く解らないの。何処からともなく結晶石が湧いて来て魔獣になるの。本当、魔獣って最悪。害悪そのものよ!」




アリアはしたり顔で説明してくれた。


だが、バンは怒ってアリアの頭にコツンと拳骨を落とした。




「解ってるなら、ついて来るな!」




「だって、早く強くなりたかったんだもん!それで私もパパみたいに騎士団長になるんだから!」




「全く、誰に似たんだか。ああ、すまんな。部下の死体は後で埋葬するとして、とにかく、今はここから出よう」 




 三人は周囲を警戒しながら魔巣窟からやっと出る事が来た。「‥生きてる」ヨウは生を実感して思わず声が漏れた。真っ暗な穴蔵から光の世界へ出たヨウは太陽を見上げた。何だか久しぶりに太陽を浴びた気がした。




 それに、アリアとバン、二人の親子が生きてる。2人を救えたんだ。それが何より嬉しかった。本当に癪だが初めて母に感謝した。




「それじゃあ、私達はここでお別れだ。もし、ハルバ亜国に寄る事があればお礼をさせてくれ。もてなすよ」


 


「いえ。別にお礼なんて‥」




「ハハ、謙虚だな。けど、もらえる物は貰った方がいい時もある」




「はあ。‥って、あれ?あの、え~と、魔巣窟でしたっけ?‥封鎖しなくていいんですか?このままにしておくのは危険じゃあ?」




「ん?‥ああ。今回は調査が目的でね。国王に報告したのち、対応してくれるだろう」




「そうですか。じゃあ、その時はお願いします」




「ああ」




 そう言って、バンとアリアは近くに隠したあった馬に跨またがった。


 かと思ったら、アリアだけ降りてヨウに向かって走ってきた。


 


 その姿にドキッとした。




 魔巣窟の中は暗くてわからなかったけど、凄く可愛い顔だった。




 金髪は太陽の光で黄金色に輝いていた。


 眉毛は長く。目は水晶の様に綺麗だ。


 エルフ特有の尖った耳に、柔らかそうな唇に目が離せなかった。


 体の線は甲冑のせいでわからいけど、きっと細身だろう。




 その彼女がヨウの前に駆け寄って来て、ニッコリ笑うと、そっとヨウの耳元で囁ささやいてきた。




「さっきはカッコ良かったよ!パパの命を救ってくれてありがとう。ハルバ亜国に来たら、また会おうね。じゃあね~!」




 そう言って、アリアは手を振ると、ヨウの前から親子は去ってしまった。


 


 『さっきはカッコ良かったよ。』


 『さっきはカッコ良かったよ。』


 『さっきはカッコ良かったよ。』


 『さっきはカッコ良かったよ。大好き!』


 『さっきはカッコ良かったよ。大好き!ヨウ♡(エコー付き)』




 ヨシ!脳内再生は完璧だ!


 思い出しただけで、耳元が痒くなってきた。




 顔を真っ赤しながら村に帰ると村の入り口では、メメが鬼の形相で腕を組んで待っていた。それを見たヨウはさっきまでの高揚感が吹っ飛んで冷めてしまった。




「どこ行ってたの、心配したのよ!」




「別に‥」




「そう、言えない事してたの!」




「いいだろ別に。俺の勝手だろ!」




「なら、母さんも勝手にするから!明日からハルバ亜国に引っ越すわよ!あそこだったら、上級魔法まで教えてくれる学校があるから、明日からそこに通いなさい。もう、手続きしてるから!わかったわね!」




「――ッ、だからなんで母さんは、何時も何時も、勝手に決めるんだよ!」




「何度も言ってるでしょう!全て貴方の為よ!貴方の未来の幸せの為よ!」




「自分のだろ!押し付けてくるなよ!」




「黙りなさい!もう決めた事だから!」


 


 ヨウは返事をしないでメメの横を横切り、自室に帰ってふて寝した。


 


「なんて勝手な親だ!クソ!」




 ‥――ん?アレ?




 「ハルバ亜国‥って言ったか?」




 ヨウは気持ち悪い笑い声を出してニンマリと笑う。


 

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