脇汗。
読んで頂きありがとです。
ごろごろにゃー。
絵梨花は11時からのクライアントを
待ちながら
チョコレート菓子を食べたり、
スマホで
頭のいい経営者のYouTubeを観たり
AIが人間を支配する
世の中…などのYouTubeの
世界に浸っていたのでした。
朝の事が有りますから、
チョコレート菓子が
ザクザク進み、
ショート動画も
サクサク指をスクロールしていると
内線の電話が鳴り
前田さんから、
11時のクライアントが来れないと
電話があったとの事を受け、
暇になった絵梨花は
部屋の中の換気扇を急速にして
ネイルを塗り始めたのでした。
絵梨花はデスクの引き出しには
お菓子専用の引き出しの段。
ネイル専用の引き出しの段。
頭が痛くなった時用に頭痛薬と
オカルト雑誌の入った
頭の中を楽にしてくれる段。
真剣な
交際をしてもいないのにゼクシィの段。
などなど、こんな暇な時用のデスク
となっていたのですが、
もちろんデスクの上にはノートパソコンと
クライアントが
心落ち付く様な可愛らしい置物と小さな
多肉植物が置いてあります。
誰から貰ったかわからないスノードームも
クライアントが腰を掛ける椅子の横には、
スピリチュアル系の観葉植物。
それからほんのり明かりが付く
岩塩をくり抜いて中に電球の入ったこれまた
スピリチュアル系の間接照明。
絵梨花の後ろの壁には、
池にいる鴨が、何匹が描かれた
飾る為の高そうな絨毯。
そんな立派な心理室で、
しょーもないYouTubeのショート動画や
絵梨花の心労を和らげてくれる
バカらしいオカルト雑誌を観たりしながら
チョコレート菓子をザクザク食べるのが、
絵梨花のストレス対応だったのでした。
絵梨花のストレスは皆様の想像通りなのです。
何万円かしそうな壁掛け時計の針が
12時10分を回ると、
絵梨花は心理室の扉を開け
受付室に前田さん以外
居ないのを確認すると
「最高の時間だったよ前田さん。
これだから固定給はいいね!」
「そうですね!」
「道花は?」
「まだクライアントさんが
いらっしゃいます」
と小声で前田さんが言うのでした。
絵梨花はペロっと舌を出し
へつらうのでした。
「弁当届いた?」
「はい、先ほど届きました。」
「ここも換気扇つけといて。」
「はい。分かりました。」
「急速で。」
「はい。分かりました。」
「弁当どこ?」
「お部屋にお持ちします!」
「じゃ、部屋に置いといて。
タバコ吸ってくる。」
「あの…」
「なに?」
「朝、社長から電話あったって
話ししたじゃないですか。」
「思い出した?内容。」
「はい…。」
「なに」
「それが…社長が……」
「うん、社長がなに?」
「クライアントからタバコの匂いがすると
苦情がきてるからエチケットを
絵梨花さんにする様にと…。」
「めんどくさーい。」
「でー今朝私、
絵梨花さん用のマウスオッシュと
振りかけるフレグランスを買ってきたので
使って下さい。」
「だから今日、遅れたの?」
「はい…。」
「ありがとね。助かるよ。」
「でーマウスオッシュって何味?
何の匂い?レモン?」
「いえ、ピーチです。」
「わかってるね〜さすがだよ!
私、レモン嫌いでね。ありがとう。
お疲れ様。じゃ、弁当と一緒に置いといて。
弁当の横にはフレグランス置かないでね。」
「いやー…。」
「なに」
「タバコを吸いに行く時に…
一緒にフレグランスと…
エチケット持って行かないと…
意味が無いのかなと…。」
「…そうね~。」
「はい…すいません。」
「社長が言うなら仕方ないか、固定給だし、」
「それとこれとは…」
「そうだね〜。分かってる大人げないね。
でも今からタバコ吸ってエチケットして
ピーチ味でしょ?
口の中。
でー、南蛮漬け食べたら、
美味しくないじゃん。ね?」
「…そうですね…。」
「とりあえず、さーっと
タバコ吸ってくるから弁当と
エチケット置いといて。」
「はい。分かりました。」
「前田さん、弁当食べるの?」
「はい。食べます。」
「楽しみだねー。弁当。」
「あのー」
「なーに」
「絵梨花さんってお菓子沢山食べてるでしょ?」
「だからなに?」
「よく太らないな〜って。」
「ヨガ教室に通ってますので。」
「ヨガっていいんですね。」
「うん。じゃタバコ行ってくるね。」
そういうとスタスタと階段を下り
灰皿の所にむかったのですが、
そこに、
すらーと背筋が伸びた白いフォーマルな
シャツを着た男性が空を見あげながら
立ってタバコを吸っていたのでした。
オーラがあるというか
遠目からでも垢抜けてるというか
アイロンをきっちり掛けたシャツ
だというのが分かるくらいでした。
絵梨花は一瞬でいい男と思ったのでした。
その時にまさにその時にその男性が
こちらを見たのでした。
思わず絵梨花は視線を落としながら
歩いて灰皿の方に向かい、
その男性と少し距離をとり
タバコに火をつけたのでした。
絵梨花はその男性に見惚れ
その男性はまた、空を見あげながら
タバコを吸っていたのでした。
その男性からは
甘くフルーティーで女性ものでも無い
男性ものでも無い中性的な香水の匂い
がしたのでした。
それにタバコの渋いバニラの匂いと
そのフルーティーな香水とで
気がつくと絵梨花は
その男性の首すじに目がいき
白い陶器の様な肌の首すじに
ホクロがあり、
絵梨花の目はそのまま
腕に行きシャツの上からでも分かる
しなやかな筋肉の盛り上がりに
目を奪われるのでした。
その男性のシャツも
独特で柄に小さな半分に割れた
ハートや半分に割れてないハートや
所どころにリンゴや
自転車の小さなマークが着いてるシャツで
絵梨花の目はその小さな柄の入ったシャツ
からまた腕の盛り上がった筋肉、
そして
首すじのホクロで目が止まったのです。
絵梨花は慌ててタバコに集中していたの
ですが、もう1度顔を見たくなり、
その人が向いてる方向をみながら
首を後に撚ってからだを回転させて
顔をみようとすると
その人がすぅーっとこちらを見て
「いつもここでタバコを吸ってるんですか?」
と聞いて来たのです。
はっとした絵梨花は思わず
「時々、吸ってます。」
と答えたのでした。
するとその人は
「今、時間有りますか?」
と低く割りと小さな声なのですが
通る声というか、かといって
イケイケでもなく、ほんのばかり
控え目な声で話してきたのです。
絵梨花は
「仕事のランチタイムで…」
「じゃあ、時間ありますね。」
じゃあ時間有りますねとは、だいぶ、不躾
過ぎる言葉なハズなのに、
どこか、一歩ひいた控えめなトーンに
聞こえてしまうのでした。
「時間有りますけど、どうしてですか?」
「唐突にすみません。
僕、星座が双子座なのですが
今日の朝のテレビ番組の占いで、
1位だったんですよ」
「はー。」
「でー、良かったら今から
ここの蕎麦屋で一緒に
お食事出来ないかと思ってですね。」
「そうですか。
お誘いして頂き有り難いのですが
正直、今、はっとしてしまって…、」
「そうですよね、急に声かけてしまって
大変失礼しました。」
「いえいえ。」
「失礼じゃなかったですか」
そういうとその人は白い歯を見せながら
爽やかに微笑んでいて。タバコを灰皿の中に
すっと入れたのでした。
「今の時代にお互いに紙巻きタバコですね。
気が合いますね。」
「そうですね。
紙巻きタバコだと肩身狭いですよね。」
「そうですよね。それでは失礼します。
急に話しかけてすみませんでした。」
「いえいえ。」
絵梨花は脇汗を久しぶりにかいたのでした。
次回もご期待くださいにゃー。




