2人で夕食作り 【後編】
4月27日。土曜日の午後。
支度を整えると時間に遅れないよう、早めに家を出た。
天気は穏やかで、もうほとんど花が散ってしまった街路樹の桜が風で揺れていた。
「石崎くん、今日はよろしくお願いします」
待ち合わせ場所のショッピングモールの入口で栗山さんがそう挨拶すると、僕も自然と笑顔になった。
「こちらこそ。どんな料理になるか楽しみだよ」
僕たちはまず、モール内のスーパーに向かった。
カートを押しながら、互いのリストを見せ合う。
ちなみに今日の献立は(チキン南蛮、きんぴらごぼう、ご飯、みそ汁)である。
栗山さんは鶏肉やご飯、調味料を丁寧にカゴに入れ、僕はみそや根菜類、ゴボウ、ニンジンなど、野菜や味噌汁の材料を揃える。
「石崎くんやっぱり野菜選ぶの上手ですね」
「いや、僕はいつも野菜弁当作ってるからね。栗山さんだって、いい鶏肉選んでたじゃないか」
スーパーの中で互いに笑い合いながら、材料を選ぶ時間も楽しかった。買い物を終えると、重い買い物袋を持って栗山さんの住むアパートに向かった。
ちなみに夕食会場は栗山さんから提案してくれた。正直、「僕の家はどうか」なんて自分の口からは言えなかったので助かった。
しばらく歩くと、栗山さんの部屋があるというアパートが見えてきた。あれ……?
ちょっと待ってほしい。ここは僕が住んでいるアパートじゃないか。
さらに驚いたことに、栗山さんの部屋は僕の部屋の三つ隣だった。
驚きでしばらく言葉が出なかったが、栗山さんにもこの事を話すことにした。
「こんな近くだったなんて……偶然ですね」
「本当だね。これからは、もっと気軽に会えそうだ」
この事実に喜んでいる自分がいた。
台所に入り、僕たちは役割を分ける。
栗山さんはご飯を炊き、鶏肉を下味に漬け込みチキン南蛮を作る。僕はみそ汁ときんぴらごぼうを担当することになった。
栗山さんは手際よく鶏肉を切り、片栗粉をまぶす。油を鍋に注ぎ、火をつけて温め始めた。
そして鶏肉を揚げ始める。
「160℃くらいでゆっくり揚げると、外はカリッと中はジューシーになるんです」
解説をしている栗山さんはとても楽しそうだ。
僕もゴボウとニンジンとピーマンを細く切り、フライパンで炒め始める。それから醤油とみりんを加えた。
「いい香り……。ご飯と一緒に食べると絶対美味しい予感がします。」
「ありがとう。もう少し待ってて」
焦げ付かないよう手際よくヘラを回し続けた。
みそ汁を作るときも、僕は丁寧に出汁をとり、具材を加えて火加減を調整した。栗山さんは横で味見をして、時折「うん、美味しい!」と笑顔を見せてくれた。。
時間が経つにつれて、部屋は料理の香りに満ちていった。
そして…ついに完成した。
テーブルに並べられたのは、香ばしいチキン南蛮、きんぴらごぼう、ご飯、みそ汁。彩りも味も、互いの得意分野が生きた、理想的な夕食になっていた。
「いただきます」
互いに笑顔を交わし、箸を手に取る。
まずはチキン南蛮を口に運ぶ。衣はカリッとしていて、鶏肉はジューシー。甘酢のタレが絶妙に絡み、ご飯が進む。
「うん……最高だよ。やっぱり栗山さんの料理はすごい」
「よかった……石崎くんのきんぴらごぼうとみそ汁もとっても美味しいです。優しい味で落ち着きます」
僕はきんぴらごぼうを一口口に入れると、ニンジンとゴボウの甘さ、香ばしさが広がり、自然と笑みがこぼれる。上手く作れて良かった。
食事を進めるうちに、会話も自然と弾む。学校でのこと、趣味、時折お互いの料理のコツを教え合いながら、食卓には穏やかで暖かい空気が満ちていった。
食べ終わり、片付けを終えた後、栗山さんが小さく呟いた。
「石崎くん、今度はお互いに苦手な料理を教え合いませんか?」
「いいね、それならお互いにもっと料理が上手くなれるし」
「楽しみ……石崎くんなら、恥ずかしくないです」
またこのような機会の約束ができたことに、僕は静かに胸を躍らせた。
窓の外はもうすっかり暗くなっている。
食事に夢中になっていたが、僕は忘れていたカーテンを閉めた。
二人で作った初めての夕食は、ただの食事以上のものとして食卓に並び、2人の思い出として心に刻まれたのだった。