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あなたのお弁当は何色ですか?

4月21日。

高校に入学してから2週間が過ぎ、新しい環境での生活もようやく慣れてきた。

高校の授業は中学の頃より進度が早くて大変だが、内容はとても面白い。

一人暮らしを始めたこともあり、毎日忙しいが比較的充実した日々を送っていた。

――ある1点を除いて…――


12時35分。

4限の授業が終わり、昼休みになった。

教室で昼食を食べる人もいれば、購買に買いに行って外で食べる人もいる。

僕はというと…部室棟の非常階段前にいた。

入学後に校内を見て回り、見つけたお気に入りの昼食場所である。

この時間帯は人気が無く静かで、春風が心地よいのだ。

今日は3階で食べよう。

そう思い、僕は階段を上り始めた。


3階まで上るといつもは見かけない人影が見えた。

黒髪ロングでメガネを掛けた女子生徒が1人で弁当を食べている。

先客がいたのか。

仕方がない。今日は別の場所で食べようと思い、踵を返したところでいきなり声をかけられた。


「あなたのお弁当は何色ですか?」


一瞬、身体が凍りつくような感覚があった。

「…緑、かな」

僕の高校に入学してから唯一にして最大の懸念点を突かれて動揺してしまった。

今日の僕の自作弁当のメニューは、

(ほうれん草のお浸し、ピーマンとニンジンの炒め物、枝豆、ナスの煮物)

である。

――そう。僕は肉、魚料理が全く作れないのだ。

レシピ通り作ってもなぜか毎回消し炭にしてしまうのである。

それで仕方なくほぼ野菜の緑色の弁当を作っているのだ。

人気のない非常階段で弁当を食べているのは、自分の弁当を他人に見られたくないからである。


黒髪ロングの女子はメガネ越しでもわかるくらい、一度大きく目を開いた。きっと彼女も僕の弁当に驚いているのだろう。

しかし、彼女が発した言葉は想像とは違うものだった。

「あの、あなたのお弁当を見せてくれませんか?」

「え…⁉はい、いいですけど」

彼女のそばまで階段を上り、弁当箱の蓋を開けた。

彼女は僕の野菜弁当をじっと見つめてくる。

「これはあなたが作ったのですか?」

「そうですよ」

「野菜がとっても美味しそうなお弁当ですね」

「え⁉」

今まで悩みの種だった僕の弁当が褒められて、驚きつつも少し嬉しかった。

彼女は顔をゆっくり上げると僕の目を見た。

「あなたになら、私の悩みを相談できる気がします」

彼女は何かを決心したような表情をしている。

5秒ほどぐっと溜めた後、言葉を発した。

「私が作ったお弁当を見て下さいませんか?」

そして自身の弁当をこちらに見せてきた。

中を見て、衝撃的なメニューに一瞬言葉を失った。

(唐揚げ、ミートボール、鯖の味噌煮)

びっくりするほど茶色い。主菜のオンパレードで野菜が全く入っていない。

「私は野菜を使った料理がすごく苦手で…。何度練習しても黒焦げにしてしまうんです。こんなお弁当を皆に見られたくなくて、入学してから色々と人のいない場所を探していたんです」

そう言い終えた彼女はとても寂しそうな顔をしていた。

彼女は自分と同じく弁当のことで深く悩んでいる。

だから、彼女の心の痛みが自分のことのように強く感じられた。

「実は僕も肉や魚を使った料理がすごい苦手なんだ。だから、こんな緑色の野菜弁当しか作れない。僕も…他人に自分の弁当を見られたくなくていつもこの非常階段で食べてるんだ」

「あなたも、そうなんですか。何だか私たち、似ていますね」

――苦手なものは全然違う。けれど似ている。

そんな言葉がすっと心の中に入ってくる感覚があった。


僕達は暫く、自身の弁当を眺めていた。

相変わらず味だけは良い最悪な弁当だ。


再び彼女は、顔を上げて話し始めた。

「私は、栗山めぐみと言います。あなたの名前を教えてくれませんか?」

「僕は石崎大地だ。」

お互いに相手の顔と特徴的な弁当を交互に見ている。

そして栗山さんは今日一の笑顔で微笑みながらこう言った。


「今後ともよろしくお願いしますね」

僕も自然と言葉が出ていた。

「ああ、こちらからもよろしく」


これが僕と栗山さんの初めての出会いである。















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