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聖女に全てを奪われた私の、リベンジライフ  作者: 瀬尾優梨
♦【2度目】の人生♦

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2  ルーチェの決意

 現在、ルーチェは十八歳。エドアルドの幼馴染みとして王宮に上がって、八年。

 彼の居城で暮らしながら、回復魔法を使う神官として重用されていた。


 だが先日、遠征の帰りにひどい雨が降り、長時間雨に打たれたことでルーチェは熱を出してしまった。すぐさま城の医務室に運ばれて解熱剤を飲まされたが、ひどい熱でうなされていた。


 それを聞いたエドアルドは公務を終えると、ルーチェの見舞いに行った。そこでルーチェは思いがけず、エドアルドに告白をした。


 エドアルドは驚いたもののルーチェに想いを返しただけでなく、このままもしルーチェが命を落としたらと思うと怖くなり、とっさにプロポーズをした。自分と結婚するということを生きる糧にしてほしいと思ったそうだ。


 ルーチェはプロポーズを受けた後、眠りについた。後は様子見だと医者に言われたエドアルドはすぐさま、ルーチェとの結婚の話を進めるべく動いた。


 ちょうど医務室にルーチェの知り合いである神官も同席していたため、彼を説得――という名の半ば脅しをかけて「ルーチェの同意を取った」と認めさせた。

 アルベール王国では結婚の際に本人直筆のサインが必要だが、保証人がいれば代理によるサインでもよしとされる。その神官が、代理人として立てられたそうだ。


 そうしてエドアルドはすぐさま書類を提出して、ルーチェは爆睡している間にエドアルド・ベルトイアの妻になっていた。


 さらに彼は、居城にルーチェ用の部屋の準備をさせた。もともと彼の寝室の隣は空き部屋だったがいよいよそこが本来の用途である奥様用の部屋として使われることになり、メイドたちは気合いを入れて掃除をして飾り付けた。


 ルーチェは三日間眠ったりうとうとまどろんだりというのを繰り返していたようで、エドアルドは時間があれば見舞いに来て、花束を置いて帰った。あの花束はやはり、エドアルドからルーチェに贈られたものだったのだ。


 ……ということを聞かされたルーチェは、頭を抱えていた。


(つ、つまり、どういうこと!? 私は二年ほどの年月を遡っているの!?)


 熱のせいで意識がもうろうとしていることもあり、ルーチェはここが死後の世界だとずっと思っていた。

 だがどうやら今の時間はルーチェがナザリオの暴力によって死んだ頃より二年ほど昔で、まだマリネッタと知り合うよりも前の時間軸だった。


 だから今のルーチェの顔も体もきれいで、エドアルドも疲れのせいで険悪な表情になったりしていない。国王と王太子との仲が悪いのも昔のとおりだが、まだ居城の周りは平和な空気が漂っていた。


(そういえば十八歳の頃に、雨に打たれて熱を出したわね……)


 今ルーチェが生きているのが【2度目】の世界だとしたときの、【1度目】の人生。そのときも確かに十八歳の頃、熱で運ばれた記憶がある。


(そのときにもエドアルド様がお見舞いに来てくださったけれど、大丈夫だからと帰っていただいた気がするわ……)


 エドアルドが会いに来てくれたのは嬉しいが、彼まで体調を崩してはならない。そう思って見舞いは短時間で終わらせ、すぐに帰ってもらったと記憶している。


 ……【1度目】の人生を夫による暴力で終えたルーチェは、なぜか約二年前の熱で倒れた日に戻っていた。

 そしてエドアルドを帰らせた【1度目】と違い、彼に積年の思いを告白した――


「……うああああっ!」


 医務室に誰もいないのをいいことに、ルーチェは悲鳴を上げて頭を抱え、ベッドの上をごろごろ転がってしまった。


 あのときは死ぬ前の幻覚だと思って赤裸々なことを言ってしまったが、今思えばとんでもないことをぶちまけてしまったと自覚して、恥ずかしさで顔から火が出そうだ。


(でも、まさかそれにエドアルド様も応えてくださるなんて……それだけでなくて、ぷ、プロポーズまで……)


 信じられない。信じられなくて一周回って頭が冷静になり、すん、とルーチェはベッドの上で四つん這いになる姿勢で動きを止めた。


【1度目】のエドアルドもルーチェに優しかったが、彼が選んだのはマリネッタだった。

 彼は婚約者である王太子に冷遇されるマリネッタに同情し、距離が近くなっていった。そして彼は国王や王太子を倒すべく挙兵したが、そこには愛するマリネッタを救いたいという思いも間違いなくあったはずだ。


(今のエドアルド様は、まだマリネッタ様とお会いしていない。ということは、マリネッタ様と会うことでまた恋をされてしまうのでは……?)


 ……ぞっとした。


 ルーチェは、マリネッタが心清らかな女性ではないことを知っている。彼女はルーチェからあらゆるものを奪っただけで飽き足らず、ナザリオを宛てがい悲惨な最期を遂げるように仕向けた。


(あんなの、聖女じゃない。魔女、魔女よ!)


 ぐっと拳を固め、唇を噛みしめる。


 教会では、回復魔力の量によって位階が決まる。大聖堂を取り仕切る大司教が認めることで、聖女、司祭、助祭などといった階級を与えられるのだ。


 ルーチェの恩師でありエドアルドの母親でもあるオルテンシアは、引退する前は司祭だったという。

 だが奔放な性格の彼女は神官としてのおつとめに飽き飽きして教会を出て、西の森にある家で気ままに暮らしていたところ、エドアルドの父であるシルヴィオ王子と知り合い見初められたという。


 そんなオルテンシアに三年間師事したルーチェだが、残念ながら魔力量はそれほどでもなくて位階もただの神官だった。ルーチェからすると聖女であるマリネッタは雲の上の存在なのだが、魔力量さえ高ければ腹黒だろうと性格が悪かろうと聖女になれてしまうようだ。


 マリネッタは、その本性を見事に隠していた。ルーチェの前で暴露したのも、もう命が長くないしそもそもルーチェの言葉なんて誰も信じないと高をくくっていたからなのだろう。


 今回のマリネッタも、変わらずエドアルドに恋をするのだろうか。

 そうして、【1度目】と違いエドアルドの妻となったルーチェをまたしても、排除しようとするのか――


「……させないわ」


 ぎゅっとシーツを握り、ルーチェはつぶやいた。


 なぜ二年前に戻っているのか、これからどうなるのか、不安や疑問は尽きないが、きっとこれこそ神がルーチェに与えた慈悲なのだ。それを無駄にするつもりはない。


 もう、マリネッタに奪われたりはしない。


 好きな人も、友だちも、仕事も――ルーチェが手に入れたものを、全て守る。

 なに一つ、奪わせたりはしない。

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