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聖女に全てを奪われた私の、リベンジライフ  作者: 瀬尾優梨
♦【2度目】の人生♦

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28 『奥様リフレッシュデー』①

 本日はよく晴れていて、散歩日和だ。


「ささ、奥様。参りましょう!」

「ええ。……ああ、風が気持ちいいわ」

「ここ最近、奥様はずうっとお寝坊でしたものね」


 ルーチェの隣で日傘を差していたフェミアがぼそっと言ったため、ルーチェの頬に熱が集まった。


「わ、私だって頑張って早起きしようとしているわ。でも、せっかく早く起きられそうな日にもエド様が……」

「ふふ、ごちそうさまです。……ああ、テオがいますね」

「そうね。……また後で相談に乗ってちょうだい、フェミア」

「もちろんですよ」


 同じ年頃の二人はふふっと秘密の約束を交わして、門の前で待っているテオのところに向かった。


「おはようございます、奥様! 本日は、街の散策でしたね」

「おはよう、テオ。たまにはぶらぶらと歩きたくて」

「かしこまりました。では中央街までは馬車で向かいますので、どうぞ」


 朝から笑顔のまぶしいテオに手を支えられて、馬車に乗る。フェミアも一緒に乗ったところでドアが閉まり、騎乗したテオたちエドアルド隊の私兵を従えて馬車が動き始めた。


 ルーチェがエドアルドと身も心も結ばれて、半月経った。


 ルーチェの方から思い切って誘ったあの夜から、エドアルドの妻に対する愛情は留まるどころか爆上がりする一方だった。おかげで夜は本来寝る時間のはずなのに朝を迎えたルーチェはくたくたで、日が高く昇るまで寝坊する日が続いていた。


 エドアルドは向こうしばらくは長期遠征の任務がないようで、本城での仕事を終えると真っ直ぐ居城に戻ってきて、妻を愛でることに心血を注ぐ。

 おかげでルーチェは連日寝不足の全身痛で、昨夜とうとうフェミアから「今夜は奥様にはお一人で寝ていただきます!」と同衾禁止令が下ってしまった。


 妻と引き離されて執事にずるずると連行されるエドアルドはなにやら悲しそうに叫んでいたが、正直ルーチェは使用人たちに感謝していた。愛されるのは幸せだし嬉しいが、毎日だとさすがに疲れてしまう。


 ということで昨日の夜から今日の夕方にかけては『奥様リフレッシュデー』ということで、エドアルドを追い出してルーチェがゆっくり過ごせる一日になった。


(朝食の席でのエド様、捨てられた子犬みたいだったわ……)


 普段はルーチェと席を並べて「あーん」をしたり口の端についたパンの欠片をキスで取ったりというべたべたに甘い時間を過ごすのだが、今日は向かい合って座った。

 その間、夫はずっとなにかを言いたそうだったが、ルーチェが「おいしいですね、あなた」と笑顔で言うと、しょぼしょぼとうなずいていた。


 エドアルドは今日、王太子になにか相談しに行くことがあるらしく、朝食の後で別れることになった。

 彼は「せめて、いってらっしゃいのキスだけは……!」と執事や侍女長、フェミアをドン引きさせるほどの剣幕でお願いした。

 あまりにも哀れだったのか、まあそれくらいなら、と許可が下りたためルーチェが頬にキスすると、ほわんと夢見心地で出勤していった。


 ……なんだか、超大型の獣の飼い主になった気分だ。

 普段は愛情深くてお利口なのにたまに自制が効かなくなるのが玉に瑕だが、フェミアたちがとても強いので安心である。


 ルーチェは貴族の奥様なので、普段の買い物は商人が居城に来て売り物を並べるというスタイルだ。

 だから、城下街に何十何百と並ぶ様々な店の前を歩きながら気に入った店にふらりと入ってみるという、町娘のようなウインドウショッピングをしてみたかったのだ。


(ずっと昔、師匠と一緒に暮らしていたときには、近くの町に遊びに行ったりしたわね)


 馬車の窓から活気に溢れる城下街の街並みを見ながら、ルーチェは思い出す。


 ルーチェがオルテンシアに引き取られて彼女と一緒に森の奥の家で暮らしていたのは、一年ほどのことだった。

 オルテンシアは元神官として近くの町の人の治療をしたり摘んだ薬草を売ったりして暮らしており、ルーチェを連れて町に遊びに行くこともあった。


 あの頃のルーチェはまさか、慎ましく暮らす自由人な師匠が王子様の奥方なんて思いもしなかった。それどころか、「いずれ息子を紹介するわ」と言われるまで、彼女が既婚子持ちであることも知らなかったくらいだった。


 やがて馬車は、街の中央にある宿の裏手で停まった。


「では奥様、こちらでお召し替えを」

「ええ」


 ルーチェ一行はそこで地上に降り、特別に用意されていた宿の部屋でそれぞれ質素な服に着替えた。

 ルーチェとフェミアは町娘ふうのエプロンドレス姿になり、テオ含む護衛たちも一般男性に溶け込むような服に袖を通す。


 ルーチェ・ベルトイアとして街を歩けば、ウインドウショッピングなんて到底叶わなくなる。だから全員服装を変えることで、一般市民として溶け込むことにしたのだ。


 姿をやつしても、テオたちは帯剣している。さすがに刃の幅が広い騎士剣は持てないが、ショートソードくらいなら護身のために持ち歩く人もいるので目立つことはないだろう。


 相変わらずフェミアはルーチェのために日傘を差しているが、今の二人だとせいぜい街の商家のお嬢さんとそのお付きくらいにしか見えないだろう。

 二人のすぐそばに控えるテオは気さくなお兄さんという感じで、他の護衛には少し離れたところをついてきてもらっている。


「いいですね、こういうの、お忍びって感じで!」

「皆には迷惑をかけて、ごめんなさい。でも、こういうのがやっぱり気が楽だわ」

「奥様の幸せが、私たちの幸せです。ですので迷惑だなんて、全く思っておりませんよ」


 フェミアがそう言うしテオも「そうですよ!」と言うので、ルーチェは微笑んだ。


「ありがとう。……ねえ、見て! あれ、お菓子のお店かしら?」

「そのようですね。見てみますか?」

「ええ!」


 その後ルーチェはしばらく、街を歩いて様々な店に顔を出してみた。やはりというか、ルーチェが現れてもベルトイア夫人だと見抜く者はおらず、ちょっと裕福な家の若奥様程度に扱ってくれるのがありがたかった。


「ねえ、テオ。あれはなにの店?」


 お菓子の店でティータイムを過ごし、雑貨屋などをぶらぶら見た後でルーチェは、なにやらものものしい雰囲気の店を見つけた。


「剣が飾っているようだけれど……武器屋とは違う気がするわ」

「ああ、あれは武具の打ち直しをする工房ですね」


 テオはそう言って、ほら、と店の前の看板を示した。


「あの看板の絵は砥石台といって、大昔に刃物を磨く際に使ったものをかたどっているのです。刃こぼれした刃などをここで打ち直してもらうので、俺たち騎士はもちろん傭兵や一般市民も定期的に訪れるのですよ」

「まあ、そうなのね……わっ!」

「奥様!」


 しげしげと看板を見上げていたら、いきなり店のドアが開いた。外開きのため、勢いよく開いたドアがぼうっと立っていたルーチェに当たりそうになり慌ててテオが前に出た。

 そのためルーチェとドアの衝突は避けられたが、テオは店から出てきた人とぶつかってしまった。


 テオと肩がぶつかったのは、頭にフードを被った人物だった。

 背丈と体格からしておそらく男性だろうが、フードのせいで顔が全く見えない。革の鎧を着ており腰のベルトから剣を提げているので、剣を打ち直してもらったばかりの傭兵かなにかだろう。

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