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聖女に全てを奪われた私の、リベンジライフ  作者: 瀬尾優梨
♦【2度目】の人生♦

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24 愛する人のために①

 ルーチェは東側救護テントに入ってそばにはテオについてもらい、フェミアには杖を捜しに行ってもらった。

 だが戦いが終わり負傷者の治療が全て終わる時間になっても杖は見つからず、ルーチェはきりきり痛む胸を抱えてエドアルドのもとに行くしかなかった。


「エド様……」


 西側救護テントの方に向かったルーチェは、息を呑んだ。


 テントの前に、エドアルドとマリネッタがいる。マリネッタが頬を赤くしてなにか報告しているのを、エドアルドが真剣な様子で聞いている。


 ――その姿が、【1度目】で見た光景と重なる。


「っ……」

「奥様!?」

「ルーチェ?」


 フェミアの声にすぐさま反応したエドアルドがこちらを見て、ふらついていたルーチェに駆け寄ると素早く抱き寄せてくれた。


「大丈夫か、体調が悪いのか!?」

「エド様……」

「エドアルド様。報告の続きなのですが……」


 エドアルドの背後にマリネッタがやってきたが、エドアルドは秀麗な顔をしかめて視線だけを後ろの方にやった。


「……だいたいのことはわかったので、もう大丈夫です。マリネッタ様も、テントでお休みください」

「でしたら、わたくしが奥様の付き添いをします。エドアルド様は、戦後処理もあるでしょうし……」

「それは部下たちに任せるから、大丈夫です。……さあ、行こう、ルーチェ」


 エドアルドは素っ気なく言うと、ひょいと一息のうちにルーチェを抱え上げた。

 いきなり両脚が宙に浮いたためルーチェが悲鳴を上げてエドアルドの首にしがみつくと、彼はほっとしたような息を吐き出した。


「ああ、そうしてくれると抱えやすい。……フェミア、ルーチェを休ませるための準備を。テオは、このままついてこい」

「はい!」

「かしこまりました!」


 背後でまだマリネッタがなにか言っているがエドアルドは耳を貸さず、ルーチェを抱えてすたすたと拠点を歩きだした。


(エド様……)


「……ごめんなさい、エド様。私、役に立てないどころか足手まといになって……」

「おおよそのことは、マリネッタ様から聞いている。杖をなくしたのならば、仕方がない」

「エドアルド様! 杖の件は、私の責任で……」

「おまえがそのような失態をするとは思っていない、テオ。後で話を聞くから、落ち着け」


 エドアルドは幼馴染みにはきはきと……だが優しさを込めた声音で言い、ルーチェを抱えたまま休憩用のテントに入った。


 ここはエドアルドとルーチェ用の大きなテントで、テオは入り口で待機した。

 エドアルドは簡易ベッドにルーチェを下ろし、その場に跪いて靴まで脱がしてくれた。


「だめです、エド様。それくらいは自分で……」

「たまには妻の世話を焼かせてくれ。……ほら、横になって」


 エドアルドが優しく言ってルーチェを寝かせてすぐ、フェミアが水と果物を持ってきた。


「食べなさい。顔色が悪い」

「……はい」


 エドアルドに促されて、ルーチェはちびちび水を啜り栄養たっぷりの果実をかじった。


「……それで? なぜか君が泥まみれになっており、杖をなくしたということは聞いたが」

「はい、そのことですが……」


 ルーチェがぽつぽつと自分が実際に体験したこと、そしてテントの様子から推測したことを述べると、エドアルドの眉間に深い皺が寄った。


「……そうだろうとは思っていたが、何者かによる度を超えた嫌がらせだな。あろうことか、戦闘のまっただ中でそのような幼稚なことをするなど……見過ごすことはできない」

「……」

「ルーチェ、君が気に病むことではないし……俺は、テオやフェミアを罰するつもりもない。必ず、犯人を見つけ出してみせる」

「できるのですか?」

「ああ。少し、フェミアの手を借りることになるが」


 そう言ってから、エドアルドは「いや、借りるのは『手』ではないか……」とつぶやいて立ち上がった。


「まずは、ゆっくり休んでくれ。戦後処理と報告書の作成は、俺一人で十分できる」

「でもあなたも、休まなければ……」

「今回は作戦がうまく進んだから、ほとんど体力は消耗していない。……消耗していなくて、助かった。おかげで、俺の妻を貶めた者を追い詰めじっくり罰せるからな」


 エドアルドは唇の端をにやりと吊り上げて笑い、そして身をかがめてルーチェの頬にキスをした。


「だから、安心して休んでいてくれ。杖のことも……気にしなくていい」

「……はい。ありがとうございます、エド様」


 言いたいことはたくさんあるが、今はエドアルドの厚意に甘えるのがいいだろう。


 エドアルドはルーチェがおとなしく応じたので安心したようで、一度頭を撫でてから体を起こし、テントを出ていった。














 ルーチェは自分でも思っていた以上に疲れていたようで、エドアルドが出ていってからこんこんと眠り、目が覚めたのは夜になってからだった。


「夜!?」

「あっ、お目覚めですか、奥様」


 ランプの明かりのみが灯るテントで飛び起きると、入り口の方からテオの声がした。


「申し訳ありません、フェミアは今席を外しており……俺が入ってもいいでしょうか?」

「もちろんよ。どうぞ、テオ」


 子どもの頃からの仲のテオに対して、警戒なんてする必要はない。

 一度自分の身なりを確認してからルーチェが促すと、テントの垂れ幕を捲ってテオが入ってきた。


「体調はいかがですか?」

「おかげさまで、かなりすっきりしたわ。……エド様は?」

「その件ですが。……エドアルド様が、奥様を泥まみれにした犯人を見つけたそうです」


 ルーチェにぬるめの水を渡しながらテオが言うので、ルーチェは彼の手からコップを受け取り損ねそうになった。


「わかったの!?」

「はい、フェミアの手……ではなくて、鼻を借りたと聞いています」

「鼻?」

「その続きは、俺が説明しよう」


 テントの入り口から声がして、ぬっと大きな影が入ってきた。


「エド様!」

「元気になったようで、なによりだ。……戻ってくるのが遅くなり、すまない」


 ルーチェの隣の寝台に腰を下ろしたエドアルドが言うので、ルーチェは何度も首を横に振った。


「とんでもないです! エド様こそ、お疲れなのに……」

「妻のことだ、自分の疲れなんて後回しに決まっている」


 それより、とエドアルドはルーチェの髪を撫でながら本題に切り込んだ。


「君に泥をぶつけた犯人は、使用人のテーアとザイラだった。正確に言うと、泥団子を作ったのがザイラ、ルーチェとフェミアが真下を通過した木の上から投げつけたのがテーアだった」


 やはりそうだったか、と落胆のような納得のような気持ちでルーチェが黙ると、エドアルドは淡々と続けた。


「犯人の探し方は、単純と言えば単純。犯行時間に拠点にいた者を順に呼び出し、俺とフェミアの前で両手を差し出させる。それだけだ」


 エドアルドの言葉に、ルーチェはあっと声を上げた。


「もしかして、臭いで……?」

「それと、爪の隙間の確認だ。泥団子を作るとき、手袋をしていたとしても臭いを完全に拭うのは難しいし、爪の間に入り込んだ泥はなかなか落ちない。まあ、フェミアが臭いを嗅ぐまでもなく、両手を出せと言った瞬間に例の二人は明らかに挙動不審になったから、その時点で黒だとわかったがな」


 それから、とエドアルドは続ける。


「ルーチェの杖を盗んだのは、ブリジッタだった。テーアとザイラを脅したら、あっさり仲間の情報を売った。やり方は、ルーチェが想像したとおり。あいつらは三人で固まって移動することが多いから、監視役と実行犯とで役割分担をしていたそうだ」


 なんとも、余計なところでチームプレーを見せつけてくれたものである。


「それで、三人は……?」

「三人とも、犯行の詳細な理由については述べなかった。それに、盗んだ杖は崖の方に投げたようで……探すのが大変だった」


 そこで、テントにフェミアが入ってきた。彼女はルーチェを見ると安心したように微笑み、手に持っていたものを差し出してきた。


「私の杖……!」

「旦那様が見つけられました。汚れがひどかったので、私の方でできるだけきれいにしております」


 フェミアが差し出した杖を、ルーチェは恐る恐る受け取った。

 間違いない、この手触り、この重さは、ルーチェがオルテンシアからもらった愛用の杖だ。


(よかった……!)

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