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聖女に全てを奪われた私の、リベンジライフ  作者: 瀬尾優梨
♦【2度目】の人生♦

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22 聖女の思惑②

 目的地に到着すると素早くテントが張られ、簡易拠点の設営が進められる。


「奥様、今回は救護テントをどのようにしましょうか」


 フェミアに尋ねられたため、そうだった、とルーチェは考え込む。


 現在、この軍には衛生兵が二人いる。これまでだったら救護テントにルーチェと護衛のテオが待機し、負傷者が運び込まれるという構図だった。


(今回も、護衛をそばに置いた上でマリネッタ様と同じテントで待機する? いや、軍としての効率を考えるなら私たちは別々の場所にいた方がいいわよね……)


「東と西に、一つずつテントを張ってちょうだい」

「かしこまりました」


 ルーチェの指示を受けて、テントが張られた。ひとまず魔物の出現位置に近い西側のテントにルーチェとテオ、フェミアが入り、マリネッタには東側に待機してもらうことにした。


「今回の魔物は、爆竹で追い込んでから一網打尽にする予定だ。さほどの負傷者は出ないだろう」


 軍装姿のエドアルドはそう言って、ルーチェの額にちゅっとキスをした。


「では、行ってくる。ルーチェも無理せず――」

「……ああ、エドアルド様! こちらにいらっしゃったのですね!」


 夫婦の甘い時間に、マリネッタが入ってきた。

 彼女の持ち場はここから正反対の東側救護テントなのに、わざわざブリジッタたちを引き連れてまで戦線近くまで来ているようだ。


「マリネッタ様、もうすぐ戦闘が始まりますので、持ち場でお待ちください」


 いらっとしつつもルーチェが言うと、マリネッタはなぜかはっと息を呑み、悲しげに目を伏せた。


「……ごめんなさい。エドアルド様が戦陣に立たれると聞いたので、ご挨拶ができればと思って……」


 肩を震わせて悲しげに言うマリネッタの向こうに、ブリジッタたちの姿が見える。彼女らはルーチェと視線が合うと、ふん、とばかりに顔を背けた。

 案の定、馬車で一緒に過ごすうちにすっかりマリネッタに入れ込んでしまったようだ。


(【1度目】でも、あっさりマリネッタ様に鞍替えしていたものね……)


 あの根も葉もない噂を流したのが誰なのかはわからないが、ブリジッタたちはルーチェの言葉を信じる素振りを見せながらもマリネッタの陣営に加わっていた。あのときの裏切りを、忘れてはいない。


 ルーチェもブリジッタたちの方を見ないようにしていると、ルーチェとの抱擁を解いたエドアルドが肩をすくめた。


「……ルーチェの言うとおりです。見送りに来てくださるのはありがたいのですが、安全な場所にお戻りください」

「エドアルド様。やはりわたくしも、こちらのテントにおります。体を張って戦う皆様のそばにいることこそ、衛生兵としての使命だと思うのです」


 マリネッタが熱を込めて言う背景で、ブリジッタたちがそうだそうだとうなずいているようだ。

 だが、今回はエドアルドも引かなかった。


「それでは話が違います。あなたの身になにかあれば、私は王太子殿下に申し開きができません。あなたはあくまでも、ルーチェが負傷した際に助太刀に入っていただくために同行いただいたのです」

「ですが、エドアルド様! マリネッタ様は、エドアルド様が寵愛される奥様を思ってくださっているのです!」


 マリネッタのための援護射撃らしくブリジッタが申し出るが、いよいよエドアルドは不機嫌を隠そうともせずに彼女らをにらみつけた。


「……ルーチェの強さは、俺が一番よくわかっている。これ以上、俺の采配に文句でもあるか? 不満があるなら、下がれ。王都に帰ってくれても構わない」

「そ、そんな……」

「いいのですよ、ブリジッタ。……お手数をおかけして申し訳ございませんでした、エドアルド様。救護テントに戻ります」


 これ以上粘るとエドアルドを怒らせると気づいたようで、マリネッタはしおらしく言ってテントを出た。彼女の後を、「マリネッタ様!」「気を落とされないでください!」と励ますブリジッタたちが続く。


(……とんだ茶番だわ)


 エドアルドの関心を引くためなら戦闘の足手まといになるのも厭わなそうなマリネッタたちに呆れながらも、ルーチェはとんっとエドアルドの背中を叩いた。


「……では、いってらっしゃいませ」

「ああ、行ってくる」


 改めて別れの挨拶をして、エドアルドはマントを翻して出ていった。

 彼と入れ違いに、夫婦の時間を邪魔するまいとテントから離れていたテオとフェミアが戻ってくる。


「……あの、奥様。なにかありましたか?」

「旦那様が、少し険しいお顔をされていたようで……」

「なんでも……いえ、一応報告だけしておくわ」


 護衛と侍女である二人には、知っておいてもらいたいし警戒も怠らないでほしい。

 そういうことで先ほどの顛末を教えると、二人とも「なんですか、それ!?」と憤慨していた。


「旦那様と奥様の別れの場面に水を差すだけでなく、旦那様の出立を遅らせるなんて!」

「大聖堂の認める聖女とのことですが、さすがにわがままが過ぎますね。それに、王太子殿下という婚約者がいる身で、そんなはしたないことを……」


 テオもフェミアも恋愛関連にはかなり潔癖な質なので、エドアルドに明らかな色目を使うマリネッタをひどく軽蔑しているようだ。


(今回の遠征にマリネッタ様がついてくることに関して、王太子殿下の許可も下りている。でもそれはマリネッタ様の自由を許しているというより、関心がないからなのかもしれないわね……)


 つまり、この時点でもう王太子とマリネッタの間には愛情のひとかけらもないのだ。

 王太子はエドアルドを毛嫌いしているようだから、そんな従弟の遠征に自分の婚約者がついていくなんて普通なら反対するだろうが、あっさり許しが降りたそうだ。


(たとえ王太子殿下が改心してよい国王になったとしても、その伴侶としてマリネッタ様は据えない方がいいわね……)


 大聖堂と王家を繋ぐための婚姻らしいから、もし大聖堂に王妃としてもっとふさわしい女性がいるのならそちらに代えた方がいいのではないか。

 ルーチェのような平民の司祭は身分的に難しくとも、高位貴族出身の女性司祭なら可能性はあるのではないだろうか。


(少なくとも、遠征中はおとなしくしてほしいわ。エド様の邪魔だけはしないでほしい……)


 ルーチェはそう考えながら、ため息を吐き出した。

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