⑳話 レキジョ
通信の復旧はノイジーに任せ、その他業務をするしかない。
軍備警戒態勢はポッパーとフロッグに任せ、俺は日々業務である全体管理を。
今から地球の情報調査部署へ向かう。その部署とは、いわゆる芸術収集だ。
調査部署のリーダー、スイシャ。医療技術に精通しており、よく喋る女性隊員。
彼女の推し芸術は、人間の一生や生き方、主に歴史。酒でも飲んで一旦喋り出すと止まらない、いわゆる歴女。特に日本国の歴史が大好物のようだ。
D「スイシャ、業務はどうだ?」
ス「だめです。情報収集は可能だけど、通信ダウンでガンマ線誘導ができない(涙)。あれができなきゃ、うぅ‥」
Ⅾ「誘導は最低限でしないとサスペンド条約違反だぞ。」
ス「分かってますって。でも…(涙)」
ガンマ線誘導とは、ピンポイントで一人の人間の大脳皮質に直接電波を送り、行動を操作、いや、誘導するもの。
サスペンド条約の2条では【芸術が失われる危機にある場合のみ、ガンマ線誘導の使用を許可。】とある。
過去、日本の代表使用例では、須磨一ノ谷の戦い。源義経の崖降りという突拍子も無い戦略は、当時の調査部が仕組んだもの。
関ケ原の戦いなんて乱立施策だ。
前提は【全て芸術を護る為の場合】とあるが、推しが強過ぎて、やっちまう場合が多々あり。
どのぐらいの誘導かというと、頭の中の天使と悪魔みたいに迷いが出た時、それがガンマ線誘導だ。
この部署は実際、誘導しまくっているのが現実。
まあ、地球の芸術を護るためってのが前提なので、暗黙の了解だが。
Ⅾ「スイシャ、さっきからなんで泣いてんだ?」
ス「うぅ、だって、晋作様を救えないかも(涙)」
Ⅾ「お前、ほんとにそれ必要な人物なのか?」
ス「高杉晋作様は!音楽家で生き方そのものが芸術の塊ですよォ」
Ⅾ「わかったわかった。」
ス「でも、それにしても、なんか変なんですよ。重要人物が世界中で亡くなっているんですよね。抑えていたはずなのに。あと、ダイナマイトや魚雷など、軍事開発が加速化しているんですよね。」
地球上の芸術に関する人物の命が失われている、そして軍事開発が進んでいる?
それは芸術を護る事とは、逆の動きだ。戦争ほど芸術を停滞させ、失う事はない。
Ⅾ「それって今まで抑えていたから、反動的なものじゃないか?」
ス「違うと思います!なんか逆の誘導が効いているような‥」
もし、彼女の言う事がリアルなら、サーフェスかデプスの誰かが逆誘導をしているしかない。
Ⅾ「緊急で会議を行う。ポッパー、フロッグ、ノイジー、スイシャの情報調査部まで至急よろしく。」
直ぐに全員が集まり、ブツブツ文句を言いながらノイジーが最後に着席する。
Ⅾ「よし、これで全員集まったな。まずは、スイシャから軍事開発と重要人物死亡の件を説明してくれ。」
地球で起こっている不可解な動き、魚雷とダイナマイトの発明、芸術重要人物の死亡多発を詳細まで語られる。
詳細まで聞くと軍事開発は、かなり抑止の動きをしていた様だが、堰を切ったかのように動き出している。
重要人物死亡の件も、この半年が急激に多発して増え続けている。
Ⅾ「これが人為的要因なら、サーフェスかデプスか。」
ス「うちでは絶対無いです。約1000人分の日々業務を、私が全て目を通していますから。」
ポ「ヨー、それじゃあ、デプスが原因という事か?」
ス「それしかねぇでしょ。」
Ⅾ「デプスに通信する方法は無いか?」
皆が沈黙の中、無口なフロッグが、
フ「サミュエル・モールスとか。」
ポ「なんじゃそりゃ?」
ノ「モールス信号ですょ。ばか」
Ⅾ「モールス信号か! 流石、発明芸術好きだな!」
これは使える。デプスとの距離が近いこともあり、光で信号を送れば、会話が出来る!
次は ㉑話 モールス