親友からNTR動画の入ったUSBが送られてきたので見ていたら、いつの間にか違う意味での修羅場が何故か発生していて、画面の向こうが地獄です
『あんあん 気持ちいいよー』
なんだ、これは。
とある土曜日。画面の向こうで行われてる行為に目を奪われながら、俺こと初小岩実は驚愕していた。
「これ、路夏だよな……間違いなく……」
俺宛の名前で送られてきたUSBメモリの中にあった、一本の動画。
怪しいなと思いつつパソコンに差して再生してみると、そこには俺の幼馴染にして彼女である、瀬谷路夏の姿があったのだ。
『へへっ、どうだ路夏? 俺のほうが、実のやつよりずっと気持ちいいだろ?』
いや、それだけじゃない。路夏を抱きながら熱烈な口付けを交わす男にも見覚えがある。
宇場津太郎。俺のもうひとりの幼馴染にして、親友であるはずの男が、画面の向こうで俺を蔑みつつ、裸で俺の恋人を抱きしめていた。
『そうだねー、津太郎くんのほうが、気持ちいいかもねー』
『へへっ、そうだろそうだろ! 俺の方がいいに決まってるよなぁ! おい見てるか実? 路夏はお前より、俺のことを選んだみたいだぜぇ!?』
本来なら拒絶しなければいけないはずなのに、路夏は同意していた。
津太郎は嬉しそうに笑うし、俺に対する情など微塵も感じ取ることは出来ない。
俺の恋人はもはや、親友だと思っていた男に陥落しきっている。
それが分かってしまった。同時に理解する。
俺は恋人を寝取られたのだ。それも、長年の親友に。
俺は恋人に裏切られたのだ。長年の幼馴染で、初恋の相手に。
『俺はお前のことが、ずっと嫌いだったんだ。俺の路夏を取りやがってよぉっ! お前から路夏を奪えて清々したぜ! ざまあみやがれ!』
「あ、ああああ……」
全身が震える。絶望が襲いかかる。
これが、これが寝取られ。これが、恋人を奪われるということなのか。
脳が破壊される感覚で、心が壊れそうになる。いや、既に壊れてしまっているのかもしれない。
「うわああああああああああああ!!!!!」
絶叫とともに、俺は椅子から立ち上がる。
もうこれ以上、この動画を見ていることなんて出来ない。
『実ぅっ! よく見ておけ実ぅっ! 俺がお前から路夏の寝取りを完了する瞬間をなぁっ! ああああっ! 実ぅぅぅぅっっっ!!!!!』
「うわああああああああああああ!!!!!」
俺の名前を叫びながらクライマックスを迎えようとしている元親友。
俺の心はこの瞬間、粉々に砕けてしまった。きっともう、二度と立ち直ることは出来ないだろう。
それほど心に深く傷を負っていたのだ。
激しい絶望感に襲われながら、俺は家を飛び出そうと――――
『津太郎くん、さっきからうるさいんだけど。悪いけどどいてくれない?』
したのだが。それより先に、画面の向こうから底冷えする声がした。
『え…………』
『フリーズしないでいいから。早くどいてよ。重いんだからさ』
『え、あ、う、うん』
大きくため息を吐く路夏を見てまずいと悟ったのか、津太郎がいそいそと体位を……もとい、身体の位置を変えて路夏から離れる。
当然プレイも中断されることになるが、もはやそんな空気ではないことは明らかだ。路夏は立ち上がるとだるそうに着替え始めるが、津太郎はただ茫然とその光景を眺めるだけだった。全裸で。
『はぁ……』
『あ、あの。路夏? どうしたんだいきなり? あとちょっとだったんだけど……』
『あとちょっと? そうだね、あとちょっとだったかもね。時間にすると、大体1分くらいかな。早いね、早すぎるちょっとだね。私は全然気持ちよくなかったけどね』
『え』
「え」
路夏が告げた、あまりにも淡泊すぎる言葉に、画面の向こうにいる津太郎と思いがけずハモってしまう。
『なにその反応? もしかして、自分が早いことに気付いてなかったの?』
『え、いや、え? 俺が、俺が早い……? 俺がクィックリー……? う、噓だろ路夏。俺って長く持ってるほうか、むしろ普通くらいなはずだろ!?』
『一分が普通とか、本気で言ってる? そんなわけないから。実のほうがずっと長く持ったよ。具体的にはタイ〇ニックの上映時間くらい長かったかな』
『な……!』
『長すぎるからてっきり私に問題があるんじゃないかと思ってたけど、津太郎くんとしてみた感じ、問題があったのは実のほうだったみたいだからそこは安心したけどね』
またもため息をつく路夏だったが、俺の心臓もさっきまでとは違う意味でドギマギしている。
え、俺ってそんなに長かったの? むしろ普通か、ちょっと短いぐらいだと思ってたんだけど……。
『お、俺が負けていた? 実に? そ、そんな馬鹿な……』
『あとさぁ。さっきから実の名前叫びすぎ。津太郎くんてホモなの? なんで目の前にいる私を無視して、実の名前呼んでたの?』
『え、ろ、路夏?』
『目の前で気持ちよさそうに男の名前を呼んでる人を見ている私の気持ち、考えたことある? あるわけないよね。あったらしないもんね、あんなこと。ハッキリ言って凄く気持ち悪かったし、屈辱的だったんだけど。おかげで一気に冷めちゃったんだけど、この空気どうしてくれるの? それとも私が悪いのかな? ねぇ?』
『え、え?』
『頑張って演技してみたけどさぁ。無理だよ、あれは無理。キツすぎ。最悪。最低って言葉じゃ足りないし、ハッキリ言って死んで欲しい』
『え、演技? 死ん、え?』
『ねぇ答えてよ。私が悪いの? 違うよね。私、悪くないよね? 気持ち悪いのは津太郎くんで、私は普通だよね? そうだよねぇっ!?』
オロオロする津太郎とは対象に、凄い剣幕で路夏は迫る。
表情はまさにガチギレ真っ最中といった感じだ。それに圧された津太郎は涙目になりながら、「そうです……」と小さく頷くことしか出来なかった。
寝取られから一転、喧嘩にまで発展するとは誰が予想出来ようか。さっきまでとは違う意味で、見ているのが辛すぎる。
『へぇ、悪いって自覚あるんだ』
『はい、俺が全部悪かったです。だから……』
『じゃあ謝ってよ』
『え』
「え」
これまた予想の外から来た言葉に、またしても俺と津太郎の声がハモる。
『早くてごめんなさいって。実の名前叫んでごめんなさいって。あとキモくて私のことを萎えさせてごめんなさいって。土下座して、そう謝ってよ。出来るよね?』
『え、あの……』
『で・き・る・よ・ね!』
またしても路夏から繰り出される凄まじい圧。
既にこの場の上限関係は決しており、これに逆らうことはまず出来ない。
全裸で路夏の前に移動し、土下座の体勢を取る津太郎は既に半泣きだったが、それで許すような路夏ではない。
『ほら、早くして。早く言って。こっちは待ってるんだから』
『は、早くて、ごめんなさい。路夏の目の前で実の名前叫んで、ごめんなさい。あとキモくて路夏のことを萎えさせて、本当にごめんなさい……う、ううう……』
土下座をしながら路夏に謝る津太郎に、もはや男としての尊厳など微塵もなかった。
哀れという言葉がここまで似合う光景もそうはない。
無言で路夏は写真を撮り「今度やったらこれ拡散するから」という怖すぎる宣告をしていたが、もはやそれさえ津太郎は気に掛けることは出来ないようだ。
『く、くうぅぅ……』
『はぁ……ていうかさ、なんでこのホテルなの?』
『え?』
『え?じゃないよ。さっきからそればっかりだよね、津太郎くんさ。ここって近所のホテルじゃん。それも、30分2000円くらいのやっすいとこ』
『え、あ、うん。そうだけど……』
『そこを一時間で取ったよね? その時点で悪い予感はしてたよ。今日デートだっていうからおめかししてきたのに、駅前に着いたらすぐここに連れ込まれたんだもん。普通さ、もうちょっとなにかあるよね? まだお昼前だよ? ご飯食べるとか、ヤる以前にやることあるじゃん。服も気合入れてきたのに、褒めてさえくれなかったよね?』
『う、それは……』
『どんだけヤりたかったの? 津太郎くんはお猿さんなのかな? 私の身体にしか興味ないの? そういうの、普通に引くよ? 分かってる? クズだよクズ。ホント最低』
『…………』
『だんまり? 黙っていたら許されると思ってる? まぁいいや。言い訳されたらイラッとくるし。もっと色々言いたいことはあるし、最悪だったけどヤること自体はいいよ? でもさぁ、なんで近所なの? もしかしたら、実に見られちゃうかもしれないじゃん。そこらへん考えなかったの?』
『え?』
『だから、え?じゃないって。こんな動画撮るくらいなんだから、送るつもりだったんでしょ? なのにその前に見られたら、計画全部オジャンになるんじゃない? まさかそんなことも考えてなかったの? ホントに?』
合意の上だと思っていた寝取られ動画撮影に、寝取られた幼馴染から怒涛のツッコミが繰り出される。
これを俺は、一体どんな感情で見ていればいいんだろうか。とっくに濡れ場は終わっているのに、俺の背中は冷や汗で濡れ濡れだ。居たたまれないことこの上ない。
『え、いや。だって。家だとママがいるし……』
『いるしじゃないから。それ言い訳になってないし。はぁ、もういいや。話は変わるけど、大学生の彼氏と付き合ってる友達がこの前ネ〇ミーシーに連れてってもらったんだって話、昨日津太郎くんにしたよね?』
『あ、ああ』
『ホテルにも泊まったって自慢された話も。羨ましかったとも言ったよね。覚えてる?』
『う、うん。覚えてる。確かにされたな……』
『なら、なんでこのホテルなの?』
『え、なんでって……』
路夏が何を言いたいのか察しがつかなかったのだろう。
口ごもる津太郎を見て、路夏の眉がつり上がる。
『ホラ、早く答えて。なんとなくとか言わないよね』
『あ、あの。その……安かった、から……?』
『はあああああああああああああああああ!!??』
津太郎の言葉に、路夏がキレた。
『なに!? 安かったから!? は!? 私なら安いホテルで済ませても問題ないって、津太郎くんはそう思ってたんだ!? はあああああああ!?』
『お、落ち着けって路夏! そんなんじゃなくて……』
『じゃあなによ!? 他に理由あるの!? 安かったからって、たった今津太郎言ったよね!? ねぇ!!??』
路夏はキレにキレていた。
ガチギレだ。もうマジでブチギレている。画面の向こうで起こっていた出来事だというのに、この続きを見るのが本気で怖いし恐ろしい。
『いい、ました……』
『ホラやっぱり!? なんで言い訳なんかしたの!? 男らしくないんだけど!? あーもう最悪! あのこともやっぱり分かってなかったってことじゃん!』
『あ、あのことって、一体なにを……』
『だからさぁ! ホテルに決まってんじゃん! 泊まりの! 普通、あんな話されたら察するよね!? 「よし、それなら俺は路夏をもっといいホテルに連れてってやるぞ!」って、男の子なら思うものじゃない!?』
『え、え!?』
『だから、え!?じゃないって言ってるでしょ!? そういうところがダメなんだよ! 馬鹿じゃないの!?』
『だってそんな。単なる話のネタだと思ってたのに、察してなんて言われても……』
『なに!? 私から言えば良かったとか言いたいの!? それじゃ、私が催促してるみたいじゃん! そんな性格悪くないのに、私のことをどう思ってるのよ! 察しが悪い津太郎くんが悪いんじゃない! 違う!?』
いや、違うって言われても。性格が悪いのはその通りだと思うが……。
だが、口には出せない。人には時として、正論であっても口にしてはならない場面というものが存在するのだ。
『ご、ごめんって。てかさ、そもそも俺の小遣いじゃ、そんないいホテルなんて……』
『なら、なにか売ればいいじゃない! ホラ、そこで撮影しているスマホとかさぁっ!?』
言いながら、路夏がこちらに向かって手を伸ばしてくる。
それを見て津太郎は慌てる。
『ちょっ、待てよ!? それこの前買い替えたばかりなんだって!』
『なによ!? スマホを買い替えるお金はあったんじゃない! なんでホテル代ケチったの!?』
『いや、それはだって。買い替えたから節約したくて……バイトして頑張って買ったやつだから、それだけは……』
『なら、またバイトすればいいじゃない! それとも、私のためにはバイト出来ないって言うの!?』
『い、いやそんなことはないって! 落ち着けよ!』
『これで落ち着けるわけないじゃん! 安いホテルで、スマホ以下って言われて! どう落ち着けっていうのよ! あーもおおおおおおおおおおお!!!』
俺はさっきから、一体なにを見せられているんだろうか……。
甲高い声で叫ぶ路夏を見ながら、ふと思う。女の子の嫉妬は、ヒステリーは怖いと。
違う意味の修羅場を、俺は今目の当たりにしていた。
『わ、分かった! とりあえずこれからネ〇ミーシーに行こう! 金は俺が持つから! な!』
『そんな当たり前のことで許されると思う!? ホテル! ホテルも予約して! 高いところで、写真映えもするところがいい! それで許してあげるからさ!』
『で、でもさホテルって一泊だけだろ? それで何万も使うなんて、正直もったいない……』
『はぁっ!? なにそれ!? 最悪!!! 全っ然分かってない! こういうのはもったいないじゃないの! お金なんかより気持ちでしょ!? やっぱり津太郎くんは、私のことなんかどうだっていいんだ! そうなんだ!』
『ち、違うって! だから……』
『もういい! 帰る! 幻滅した! もう二度と連絡しないで! 津太郎くんの誘いに乗った私が馬鹿だった!』
キレながら立ち上がり、出ていく支度を始める路夏。
オロオロしっぱなしの津太郎(全裸)。
地獄とは、あるいはこんな光景なのかもしれない。
その場にいないはずなのに、死にたくなるような空気が痛いほど伝わってくる。
『ま、待ってくれ路夏! 話を、話を聞いてくれ!』
『うるさい! この甲斐性なし! 独りで自分を慰めながら死ね!』
『ぐふっ! 待ってくれ路夏! 捨てないでぇっ!』
追いすがる全裸の津太郎を蹴飛ばすと、恐ろしい捨て台詞を残し、路夏は部屋を出て行った。
しばらく床で茫然としていた津太郎だったが、やがてのそのそとベッドに戻ると、大きな身体を丸め、うずくまる。
『うううぅぅぅ……畜生、ちくしょう……』
……みじめだ。みじめという言葉が、これほどまでに当てはまる光景を俺は知らない。
『実、俺、そんなに間違ってたかな、みのるぅ……』
いや、俺に言われても。そもそもなんでこの動画送って来たんだよ……。
まさに泣き言を漏らす津太郎だったが、俺から言えるのはそもそも親友の彼女を寝取り、動画撮影までしようとしたこと自体が間違っているとしか……。
ある意味ざまぁと言える状況になったのかもしれないが、俺はなんもしてないどころかただ見ているだけだし、これっぽっちも嬉しくない。
プルルルル
『!?』
その時だった。急に大きな音が鳴り出したのだ。
津太郎と俺の身体がびくりとするも、鳴っていたのはホテルの電話だ。
慌てて津太郎はベッドから降りて応答する。
『え、あ、はい。時間ですか。えっと、その……30分だけ、延長いいですか……着替えと、あとシャワー浴びたいんで。はい……』
チラリと全裸の自分を見て応える津太郎。
その背中が、ひどくもの悲しい。
とても俺と同い年と思えないその哀愁に満ちた背中を悲しい気持ちで見ていたところで画面は暗転。そのままぷつりと動画は終わった。
「……寝取られって、誰も幸せにならないんだな……」
寝取りに失敗したやつは、特に。
真っ暗になった画面に映る疲れた顔をした自分を見つめながら、俺はそう呟くのだった。
ちなみに後日。
「ねぇ実。私、ちょっとお高いホテルに泊まってみたいんだけどいいかな? 実なら、私のお願い聞いてくれるよね?」
「 」
俺の親友と寝取られ動画撮影までしていたというのに、なにもなかったかのように俺の彼女として振る舞い要求までしてきた路夏に女の怖さを見て、トラウマになりかけたのだが、それはまた別の話である。
リハビリがてらに書きました
女の子って怖い
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