仔猫はどこに(他人まかせ?)
ヤバい、ヤバい、仔猫が迷子になってしまった。俺のミスだ!昨日の内に保健所に連絡しておけば良かったんだ。くそっ!俺の責任だ。落ち着け!まずは冷静になろう。深呼吸をして、スマホを手に持ちながら部屋を出てそのままリビングへ直行する。ソファーに座って電話帳アプリを開き検索画面を開く。
さあ、覚悟を決めて番号をタップしようと思ったら着信音が鳴った。
♪~♪~♪~
相手を確認するまでもない。
俺は電話に出ると同時に叫ぶように声を出す。
俺のテンションとは真逆の声色で。《もしもしぃ~☆》 何だよそのハイテンションは、いつも思うけど本当にウザイよな。
お前のテンションに付き合ってたら俺のテンションが下がるわ! まあいいや、早速本題に入ろう。
《えぇー、ちょっと待って下さいね!今、準備しますから!》 はぁ~~~、相変わらずうるさい奴だな。
準備とか言ってる間にもう切ってもいいかな? いいよね、いいだろう!よし、切ろう! 《もしもし、もしもし、聞こえますか?》 聞こえてるわボケェ!! 切るタイミングを失ったじゃねぇか! もう切る気力すら無くなったわ。
それにしても準備とは何の準備をしていたんだろうか? まさか俺の家に来ようとしてたわけじゃないよな!? そんな事されたらマジで困るんだけど! だってアイツの家に行くと絶対絡まれるじゃん! 絶対に面倒臭い事になる予感しかしないもん! 《あっ、もしもし!》 やっと電話に出たか、遅いぞ! お前のせいで無駄に時間を食ってしまったじゃないか! 《あのぉ~、私の声ちゃんと届いてますかぁ?》 ああ、ちゃんと聞こえている。
お前の声を聞くだけでストレスゲージが急上昇するぜ! 早く用件だけ言ってくれ。
俺がイラついているのを感じ取ったのか、急に静かになったな。
よし、このまま黙っていてくれ。そして帰れ。
《もしもしぃ~》 来たぁ~~~~~~~~!!! このタイミングで来るか普通!? コイツわざとやってんじゃないだろうな? 電話の向こう側でニヤついてたりしないよな? 《もしもしぃ~》 また言った!しかも3回目だし! これは絶対何か企んでいるに違いない。
仕方がない、覚悟を決めよう。
電話越しでも伝わるほど嬉しそうだな。
どうせロクでもない事を考えているんだろう。
《お久しぶりですぅ~☆》 誰だよお前!? 気持ち悪いからその喋り方止めろよ!俺が嫌がっているのを知っていながら何でそんな口調なんだ? やっぱり確信犯だな、間違いない! 《えっへっへぇ~☆ 実はですね、私ぃ~今、貴方のお家に向かっているんですよぉ~☆》 何だと!?どういうつもりだ?お前の目的は一体何なんだよ! 俺に迷惑をかける為に来たっていうなら許さないからな! 《うふふ、それは着いてからのお楽しみですよぉ~☆》 ふざけるな! さっきから言っているように俺は忙しいんだよ! それに今日はバイトもあるしな。
だからもう切るぞ! 《あっ、ちょっと待ってください!》 なんだよ、まだ何かあるのか? 《いえね、先程、私の知り合いから聞いた話なんですけどね》 さっきからなんなんだよ! 俺は急いでるって言ってるだろ! それにさっきからその話し方がすげームカつくんだけど! 《いいから聞いて下さいよぉ~!》 わかったからその言い方を止めてくれないか? なんか腹立つから。
《わかりましたよぉ~、それでね、その人が言うには最近、この辺りに不審者が出没しているらしいんですよぉ~》 はあ?それがどうかしたのか? 《その人によるとですね、何でも若い女性を狙って襲ってくるとかなんとか》 おい、それってまさかとは思うけど、俺の事じゃないよな? 俺は男だぞ!いくらなんでも有り得ないだろ! 《はいぃ~? 何を言ってるんですかぁ? 私が言ってるのは男性ではなく女性の方ですよぉ~》……マジか? そっちだったのか。
良かったー、俺じゃなくて本当によかった。
って、全然良くないわ!! よりにもよってどうして女を狙うんだよ! 意味がわかんねぇよ! それにしても何でそんな事を知っているんだ? コイツの知り合いか? 《うふふ、知りたいですかぁ~?》 別に知らなくてもいいわ! どうせろくな奴じゃないだろうしな! 《えぇ~、そんな事言わずに教えてくださいよぉ~》 お前なぁ、いい加減にしろよ! そんな事はどうでもいいから早く用件を言えよ! 《まあまあ、そんなに焦らないで下さいよぉ~》 お前のせいだろうが! こっちは色々と大変なんだよ! 《あらぁ~、そうなんですかぁ~? 大変ですねぇ~》 お前にだけは言われたくないわ! 《はいぃ~? 私ぃ~、佐々木っちの為にこうしてわざわざ出向いてあげているんですよぉ~》 余計なお世話だよ! 頼んでないし、お前の助けなんて必要ないから! 大体な、俺がいつ助けて欲しいと言った? 勝手に決めるなよ! 《うふふ、強がっちゃってぇ~、本当は困っているんじゃないですかぁ~?》…….. 確かに困ってはいる。
だけど、それとこれとは別問題だ。
それに、お前に借りを作るくらいなら、俺はまだ迷わずに死を選ぶぜ。
《うふふ、そう言いながら、きっと私に頼ることになると思いますよぉ~☆》 うっせえ!ならさっさと来い!今すぐだ! 《はいぃ~☆》 ったく、こんな事になるなら最初から呼べば良かったな。
それにしても何であの時あんなにムキになったんだろう? 自分でもよくわからない、ただ白濱カレンの事は少しだけ気になっている。
でもそれは恋愛感情とは違う気がする。
多分あれだ、ちょっとした反抗期みたいなものだ。
うん、そういう事にしておこう、面倒だしな。
それにしても遅いな、アイツは一体何をしているんだ? まさか、道に迷ってるんじゃないだろうな? 仕方がない、迎えに行ってやるか。
『ピンポーン』
ん?誰だ?この時間に? インターホンに出るか。
『あっ、こんばんわぁ~☆ 佐々木っち居ますぅ~?』
やっぱりお前だったのか! しかも相変わらずだな! 声デカいし、語尾伸ばしてるし、何でそんなに元気なんだ? とりあえず玄関を開けるか。
ガチャリ。
「おい!白濱、お前何してんだよ!」
「うふふ、来ちゃいましたぁ~☆」
「いや、何で来たんだよ!来るなって言っただろ?」
「えぇ~、だって暇だったんですもん!それにぃ~、私、佐々木っちの為なら例え火の中水の中でも駆けつけますよぉ~☆」
「いらんわ!って言うかなんで俺の家知ってんだよ!?」
「学校の事務局で、聞いたら教えてくれましたよぉ~☆」
学校の職員め!個人情報だぞ!それにしても何でコイツはこんなにハイテンションなんだ?
「はぁ、まあいいわ、それより聞きたい事が有るんだ仔猫探すの手伝ってくれないか? 頼むよ、こっち来ていきなりこんなお願いして悪いとは思うんだけどさ。」
「うふふ、わかりましたよぉ~、私に任せてくださいねぇ~☆」