6話
まだ暗い早朝からの待ち合わせ。前日から予約していたレンタカーで出発し、湘南まで辿り着くと雲一つない快晴となった今日。朝日を映し出し輝く海面が本当に綺麗で、二人で大はしゃぎしながら伊豆半島の先まで車を走らせた。
午前10時。平和教の聖地に辿り着いた。駐車場に車を停め、そこから300段はあろうか、長い階段を下ると、つつじの花で囲まれた大きな真っ白い本館の前は沢山の人で溢れていた。
平和教の専従者が並んで今日のスケジュールと、祝詞の歌詞が載ったパンフレットを配りながら、優し気に挨拶をしてくれる。何年振りに来たっけここ。知ってる人は見たらないな。
本館内に1000人は収容出来るくらいの大きなホールがあり、祭典はそこで行われる。11時開始だが、中に入ると既に満席で入り口近くで立ち見するしかなかった。
始まるまでの待ち時間、立ち見の信者がどんどん増えていく。すると隣のおばさんが話しかけてきた。
「今日は1年に1度のお祭りだから本当に人が多いわよね。お二人でいらっしゃったの?お若いのにまぁ、とても素晴らしいです。」
どんどん話しかけてくる。苦笑い交じりの返事を繰り返す。困ったなぁ。すると横からあみちゃんが俺の脇腹を肘でつつきながら小さな声で耳打ちしてきた。
「このおばさん、右足になんか黒いもやもやがまとわりついてる。」
たしかにおばさんは右足をかばう様な動きをしているように見える。どういうこと?黒いもやもやって、なんか良くなさそうじゃん。んー、これだけ信仰心が強そうな人なのになぜ。平和教の力では払いきれないのか。
11時丁度、琴の音と共に壇上の幕が開き会場は静まり返った。中央にある祭壇に巫女さんの格好をした女性たちが供物を捧げる。祭典の始まりだ。
「始まったよ!あみちゃん、なんか見える?」
「んとね、お化けの信者さん達は始まった瞬間立ち上がって、みんな拍手し始めたよ。」
「お化けの信者ってどこにいるの!?」
「席にいるよ。全部埋まってる。生きてる人達と重なってるんだよ。」
「光が差してきたーとか、不思議なこと起こってないの?」
「いや、なんも。なんでこんなに盛り上がってるんだろね。」
少しショックだった。祭壇から光が差してきたとか、少しでも神聖そうな現象が起こり始めるのを期待してたから。やっぱり平和教は嘘だったのでは。と思うと少し悲しい。