46話
それは、夢の中から始まった。
瓦礫に埋もれた、あの伊豆のトンネル。最近毎晩この夢をみる。目が覚めても、胸のざわつきは消えない。いや、それどころか、日に日に濃くなっていった。
「・・・あそこに、行かないといけない気がする」
おかしいと、自分でも思った。けれど、頭の奥で「確かめろ」と声がする。何かある、まだ助かる方法がある、そんな言葉を信じたかった。
もし、本当に呪われているのなら、何か解決の糸口があるかもしれない。このまま怯えて死を待つなんてまっぴらだ。
篠田は、もう一度だけトンネルに行ってみようと決めた。今度は一人で。ビデオカメラと、最低限の荷物を持って。
山道の空気は、あの日よりも重く湿っていた。
トンネル前のバリケードは、変わらず無言で通行を拒んでいる。けれども篠田の足は、止まることなく、自然と柵の隙間をすり抜けていた。
喉が渇き、冷や汗が背中をつたう。カメラはすでに回しっぱなしだ。撮れていれば、何かが写っているかもしれない。解決の糸口になるかもしれない証拠を遺すために。
頭の中に響いているお経の声が、奥へ進むに連れどんどんと大きくなっていく。瓦礫の隙間の先、闇の奥にいる何かが、ユキの内側へ這い込もうとしていた。その圧に耐えきれず、足がもつれて転ぶ。
「・・・っ、嫌だっ!!帰りたいっ!!」
つぶやいた瞬間、ユキは立ち上がり、トンネルを背に全速力で走っていた。
山道を、どれだけ走ったかわからない。足はがくがく震え、息は絶え絶え。けれど、篠田は気づくと自宅にたどり着くことができていた。
でも、もう、だめだ。
確信があった。このままでは、近いうちに自分はあそこへ連れていかれる。もう抗えない。普通に生きていくなんて、もう無理だ。
部屋に戻り放心する中、ふと携帯を手に取っていた。
指が勝手に通話ボタンを押していた。けれど応答はない。留守番電話につながる。
「ミホ? あのさ、突然だけど・・・元気してる?」
自分でもよくわからない言葉が口をついて出る。
「この間の旅行、楽しかったよね。・・・また、行けたらいいね。」
言い終えた瞬間、涙が止まらなくなった。
言いたいことはそれじゃない。助けてって言いたかった・・・。でも、言えなかった。
ミホ。
唯一、同じものが“見える”友人。唯一自分を信じてくれた親友。怖がらせたくなかった。巻き込みたくなかった。
でも、どうせ自分はもう助からないのならせめてミホにだけは、伝えたかった。
そう、思っていた。
しかし、それは彼女自身の意志だけではなかった・・・。背中を押すものがある。見えない糸が、心の奥から動画を届けろと囁いていた。
篠田の目が一瞬焦点を失い、指が不自然な動きで床をガサゴソと何かを探し、ビデオカメラに手を伸ばした・・・。
数時間後。
夜の住宅街に、篠田の影がひとつ。ミホの家のポストに、そっとSDカードを滑り込ませる。
その後、彼女を見た者はいない。




