第二話
(コンコンッ)
ミスティは頬を紅潮させたまま応接間をノックした。すると数秒して扉が少し空き、見知った顔のメイドが姿を現した。
「ミスティ様!?一体何をしているのですか!」
ーえっ?
私は専属のメイドのラバの焦った顔を見て、やっと冷静になってきた。
ーあら?あらあら?もしかして私、何も考えずに国賓の方がいらっしゃるところに突っ走ってきてしまったのでは?
本来であれば王女と言えども、正式に面会の申し出を行い、日時を決めたうえで場を設けるのがマナーである。
ミスティが真っ青になりオロオロしていると、部屋の中から穏やかな女性の声が聞こえてきた。
「ふふっ、構わないよ。こちらへいらっしゃい」
相手が怒っていない事に安堵しつつ、そう言われたからには挨拶をしない訳にはいかないので、ミスティは覚悟を決める。
ー昔読んだ本に”女は度胸”と書いてありました。今が実践の時です!
緊張しながら部屋に入ると、奥の赤いソファにゆったりと足を組み座る若い女性がいた。濃い紫色のシンプルなドレスを着こなし、ソファから流れる程の長い銀髪を無造作に揺らしている。一見派手な顔立ちにも関わらず、その表情は柔らかで、周囲を優しく照らす月のような印象であった。
「お初にお目にかかります。バーミリオン国第二王女、ミスティ・ヴェルデグリ・バーミリオンと申します。お約束もなく押し掛けたご無礼をお許しください」
流石王女なだけあり完璧な礼を見せる。
「・・・まぁ、ミスティ、ミスティね!美しく育ったわね。あら、ごめんなさい。素敵なご挨拶をどうもありがとう。私は魔女カラレス、あなたが小さい頃に一度会ったことがあるのよ」
こんなに小さかったのに、っと目の前のローテーブルの辺りで手をひらひらしている。
「さぁせっかくだからお座りになって、今のあなたの話を聞かせてちょうだい。好きなことや苦手なもの、やってみたいことや不安なことでも何でもいいわ」
ー魔女様って随分と気さくな方なのね・・・。何だか久しぶりに会った親戚に見えてきた・・・いけないわミスティ、大事なお客様を叔母様みたいだなんて!
「そ、そうですわね、好きなことは甘いものを食べたり、庭園を散歩したり・・・苦手なのは高いところでしょうか。やってみたいことは、乗馬です!他国では女性も乗馬を嗜むと聞きましたの!」
カラレスは終始優しい笑顔で、静かに話を聞いている。カラレスの相槌が上手いもので、気が付いたらミスティは紅茶が冷める直前まで、最近の流行から兄の愚痴まであれやこれと話していた。
2杯目の紅茶がなくなった頃、静かに部屋をノックされる音が聞こえ、ラバが扉を開けると執事のペルシャが遠目に見えた。
「カラレス様、昼食会のご用意ができました。よろしければご案内いたします。」
ラバが振り返り魔女に言う。
ーそういえばお父様が食事を用意するよう言っていたわね。
その後ミスティもカラレスに一緒にどうかと誘われ、共に昼食会へと参加することになった。