第一話
世界3大王国としてウィスタリア、シャルトリューズと肩を並べる、バーミリオン王国はここ数十年、平和そのものといえる国であった。
そんなある日のこと、雲一つない青空に暖かい気候、小鳥がさえずる昼下がり、バーミリオン城は普段であれば昼食後の眠気と闘いながらのんびり仕事をする、そんな光景が広がっているはずであった。
が、今日に限り、なぜか王城内は大パニック状態である。
第2王女のミスティは茫然とその光景を眺めていた。
「ね、ねぇちょっと、一体何事なのかしら」
近くを慌ただしく通り過ぎようとしたメイドの1人を呼び止める。
メイドは話しかけられて初めて、そこに王女がいたことに気が付き慌てて礼をする。
「姫様!く、詳しくはわかりませんが、我が国の国賓が来たので大至急もてなしの用意をしろ、との王命が出されております」
ー王命?それってお父様が出す指示の中で最も強い命令権じゃなかったかしら?実際に発令されたのを聞いたことなどないのだけれど・・・
事実、ここ数十年で王命が出された例は他になかった。
ミスティは首を傾げつつ、淑女として窘められない範囲の中では最速の早歩きで父の執務室へと向かう。執務室に近づいていくと、父である王の大声が聞こえてきた。
「・・・ダイニングルームには国花である赤いバラをふんだんに飾れ!食事の用意はできたのか!?いいか、好みが分からないから肉と魚両方用意するんだぞ!」
どうやら昼食の用意をさせているらしい。
ーあら?お父様って先ほどもう昼食を摂られたのでは・・・?
「おいペルシャ、魔女様はどうされている?」
「現在応接間にお通しし、紅茶とスイーツを召し上がっております。」
ーちなみにペルシャは我が家の執事ですの。本名はペルシアン、呼びにくいので皆ペルシャと呼んでいます。初老の紳士で、例えどんなことが起ころうとも(例えば姉さまが誰にも相談せず急にパーティー中に公開プロポーズをした時も)常に冷静に穏やかに対処できる(いや、その時は5秒くらい動きが止まっていたかも?)というくらいにはスーパーな執事で、っとそんなことはどうでもよいのです。
それより魔女様と言いましたか?もしかして、あの?
幼少期よりお父様やお母さまから何度も聞かされた話です。魔女様は世界中を旅し、各国を回っているのだとか。
王国から集落、人間とは決して関わらないエルフや魔族とも親交があり、魔女様にしか使えない魔法を自在に操り、急に現れては何処へと消えていく不思議なお方。
実は私が幼い頃、一度お会いしたことがあるそうなのですが、残念ながら全く記憶に無いのですよね・・・
ミスティはただワクワクドキドキに後押しされ、応接間へと足を向けた。