059
そしてついに卒業式。
桜坂中学の桜はちょうどこの時期に咲き始め、入学式の頃に散り始める。
これで最後の登校だ。
俺はいつも通りの時間に教室に入った。
「武、おはよ!」
「おはよう」
「おはようございます」
御子柴君も花栗さんも九条さんも、珍しく俺より早い。
最終日だからか他のクラスメイトも時間より早い様子だ。
「おはよう」
俺の挨拶もいつも通り。
特に何かを変えることもない。
今日は卒業式に出席し、卒業証書をもらい、必要な証明を取って帰るだけだ。
「ところで、今更なんだが」
「どうした?」
御子柴君が聞いてくる。
「お前、高天原学園に受かったって本当か?」
「本当に今更だな・・・」
まぁ、ね。俺、誰にも言ってなかったし。
香さんも九条さんとはあまり話をしてない様子だった。
「ああ、4月から通う予定だ」
「おお! さくらさんとふたり同時だなんて、本当に快挙だ!!」
「おめでと!!」
御子柴君と花栗さんが手放しで褒めてくれる。
今更すぎてくすぐったいんだが・・・。
「武さん。わたしからも、おめでとうございます」
「九条さんもおめでとう。俺達、同じだけ勉強したんだし」
「・・・はい」
思うところがある、という九条さんの返事。
AR値の件かな。
まぁ、ね。実体を知ってれば「同じ」なんて言えないか。
「あ、もう時間じゃねぇか」
「さくらさん、答辞、読むんだよね」
「そうでした。準備します」
チャイムが鳴り、皆がぞろぞろとアリーナに移動していく。
俺達もその流れに乗って卒業生の入場列に加わった。
◇
校長のありがたいお話があり、卒業証書授与式があり。
その後、在校生からの送辞を受け。
九条さんが卒業生代表の答辞を読んだ。
「先輩から受け継いだ掴み取る力。同輩と育んだ慈しむ心。後輩に託した誇り。
この宝石のような成長の糧を得られた3年間はあっという間でした。
わたしたちは桜坂中学校で培った輝く礎をもとに、この先へ進みます。
どうか、後輩の皆さんもご自身の宝石を見つけてください」
・・・1年生のときの送辞もそうだったんだけどさ。
本当に心の籠もった文面なんだよな。
九条さんってそれを滞りなく読み上げるのも凄いと思うんだ。
俺、こういうの感化されて声が詰まるから駄目なんだよ。
涙もろくて悪かったな!
◇
滞りなく式は終了し、教室に戻る。
クラスメイト達は銘々に別れの挨拶を交わしている。
「これで最後なんだな。3年間、あっという間だったよ」
「武は頑張ってたからな。休む間もなかったろう」
「違いない」
「でも御子柴も花栗さんも頑張ってたからな。お互い様、お疲れ様だ」
「はは、ありがとう」
皆で談笑しているところで。
「・・・諒」
「ああ」
花栗さんが御子柴君に目配せをする。
そいや、ふたりともいつの間にか名前から「さん」付けが抜けてんな。
「武、ちょっといいか」
「おう、どうした」
御子柴君が改まった様子で俺の前に来た。花栗さんを連れて。
「実は俺達、付き合うようになったんだ」
「1番同士になったの!」
「え!? マジで!? おめでとう!!」
ふたりに、はにかみながら紹介された。
寝耳に水だけど本当に良かった!
話を聞くと、俺と仲違いしたあの日からふたりで慰めあったらしい。
それで徐々に一緒になる機会が増えて・・・と。
いや、どう転ぶか分からねぇもんだよな。
怪我の功名とでも言おうか。うんうん良かった!
「九条さんは知ってたの?」
「いえ・・・今、初めて聞きました。おめでとうございます」
九条さんは驚いて目を白黒させている。
ありゃま。ステルスで付き合ってたのね。
そりゃそうか、俺の件で気まずいのに付き合いましたなんて言えるわけない。
そういう意味では悪いことをしてしまった。
「それで・・・俺達さ、やっぱり武やさくらさんのことも好きなんだよ」
「お姉様と武さん・・・ああ、尊いです・・・」
「「・・・」」
さっきまでの流れで良い話で終わってくれよ!
つか、何でにじり寄って来るんだよ!
「じゃ、お前ら! お幸せにな!」
「おふたりともお似合いです!」
「「あ・・・!?」」
九条さん、珍しく気が合うね!?
ふたりに祝福の言葉をプレゼントして、俺と九条さんは教室から脱出したのだった。
◇
・・・よく考えたら。
九条さん、別に俺みたいに同性愛に嫌悪感とか無いんじゃないの?
どうして俺と一緒に脱出したのか。
彼らに対して食指が動いていないせいもあるか。
どちらにせよ一緒に来てしまったのは仕方ない。
俺は卒業証明書が必要なので、俺は昇降口を出て事務棟へと向かった。
九条さんも高天原への入学のため必要になる。行き先は同じだ。
まだ桜の花は咲き始めたばかりだけど見上げればアーチ状になっていた。
祝福のトンネルを歩いていると隣を歩いていた九条さんが足を止めた。
「あの・・・」
「ん?」
振り返ると・・・彼女はおどおどした表情で俺の様子を伺っていた。
「わたし、お隣を歩いても・・・良いでしょうか」
「・・・うん、良いよ」
・・・そうだよな。
先日の友達回復宣言があったとしても。
あの土手の拒絶の言葉が彼女に重くのしかかっていたわけだ。
彼女は俺と同じで受験後から時間があった筈だけど、先日まで話しかけられなかったことからもその重さが窺える。
だから、何度か俺に含むところがあったんだろう。
九条さんは俺の隣まで来ると・・・またその場で立ち止まって声をかけてきた。
「あの・・・」
「ん」
「わたしは・・・武さんが重篤だと耳にしたとき、頭が真っ白になりました」
「うん」
「お隣にいるのがご迷惑だと・・・お困りになると・・・言われていても・・・」
「・・・」
「何度も何度も・・・もう駄目と諦めようとしていても・・・」
「・・・」
「どうしても、あなたへの気持ちを忘れられませんでした」
風が吹いた。
彼女の腰まである銀髪が揺れる。
その銀色の軌跡はとても綺麗だった。
思い詰めた様子でもなく、静かな表情で彼女は続けた。
「あなたが目を覚ましてほしいと・・・何度も何度も祈りました」
銀色の睫毛の下、銀色の瞳から射抜く視線。
あの視線に、俺はまた釘付けにされていた。
「そして・・・あなたが目を覚ましたとき、はっきりとわかったのです」
「・・・」
「わたしはもう、あなたなしではいられない」
その言葉にどきりとした。
心臓が跳ねて背筋がすうとした。
けれど不思議と流される感覚はなかった。
だって・・・レオン主人公で九条さんを攻略した時のセリフだよ、それ。
・・・。
・・・。
・・・。
・・・これさ。
俺、完全攻略してますね。
フラグ折れてなかったどころかエンディングですよ。
まだゲーム始まってないのに。
「その・・・武さんのお隣には、居られないのでしょうか」
「ん・・・」
どうすんだよこれ。
現在進行形でエンディングで好感度MAXだよ。
ここでフラグ折ったらどんなクソゲーだよ。
そもそも折れる気がしねぇ。
緊張で心臓バクバクだ。
告白は嬉しいけど拒絶しねぇとヤバいという葛藤。
どうする俺。
流されたら駄目だ。
考えろ。
今、彼女は俺に近づきたくても近づけない状態だ。
もうすぐ他の主人公たちとも合流するんだ。
この状態のまま維持できれば少しは可能性が拓けるんじゃないのか・・・?
「俺はさ。前にも話したとおり自分のやるべきことがあるんだ」
「はい」
「たぶん・・・高天原の他の誰とも交わらない道だと思ってる」
「・・・」
九条さんの表情が曇った。
けれど、諦めないという強い意志が視線から伝わる。
・・・結構、苦しい理屈だ。
俺の具現化能力がゴミだという仮定に基づいた話だ。
まぁ、仮に俺の能力が有用だったとしても主人公同士でつるんでくれてれば問題ない。
最後の攻略のとき俺はオマケでくっついていけば良い訳だし。
イレギュラーにはある程度、腹を括るしかない。
よし・・・。
「きっと、九条さんには構ってあげられない」
「・・・」
あの時みたいにその瞳が動揺することはない。
俺の心は動揺しまくりだ。
「・・・それでも」
「・・・」
「それでも隣を歩くというなら、俺はもう止めないよ」
「・・・!」
「一緒に行こうか」
俺のその、妥協の産物だという言葉に。
彼女は銀色の目を大きく見開き・・・その瞳を潤ませ、破顔した。
「はい・・・・・・はい!!」
◇
証明書を取った後はそれぞれ部活へ顔を出すため九条さんとはここで別れた。
俺はリア研に向かった。
「あ~、先輩来たよ。卒業おめでと~」
「先輩、おめでとうございます」
「おお、ありがと!」
入室すると、小鳥遊さんと工藤さんに開口一番にお祝いをされた。
素直に嬉しい。
「これで最後かぁ~。先輩、毎日教えに来てよ~」
「それ、卒業してないよね、俺」
「いいじゃん。ずっといっしょにいられるし~」
「響ちゃん、駄目だって。先輩困らせちゃ」
お、コギャル工藤さんを、オドオド系の小鳥遊さんが止めた。
いつの間にか名前呼びになってるし・・・そりゃ、あんだけ一緒にいりゃ親しくもなるか。
「はは。良いんだよ、そんだけ慕って貰えてれば嬉しいよ」
「お! 先輩、あたしらで嬉しいって思ってくれんだ~」
「そりゃ、可愛い後輩達だからな」
「お~、そんじゃ皆で仲良くなろうぜ~」
「ん?」
そう言って・・・工藤さんは妖しい笑顔を浮かべながら俺に近付いて、腰に手を回してきた。
「おい、仲良くって・・・」
「あれ~? 先輩、ウブなのぉ?」
「そういう意味じゃないだろ」
「・・・先輩、ほんとに気付いてなかったんですか?」
「え?」
今度は後ろから、小鳥遊さんが同じように手を回してきた。
こっちも妖しい笑顔なんだが。
「ちょ、ちょっと・・・」
結構な至近距離。
女の子の匂いがするし・・・何より逃げられない。
「おい、あんましからかうなよ・・・」
「あ? あたしら本気だぜぇ~」
「そうですよ。AR値まで知ってるのに」
ぎゃああぁぁ!! そうだった!!
やっぱりアレ、タブーじゃねえか!!
イタイケな秘密を知ってしまったって状態かよ・・・。
つか、お前らどこで好感度上がってたんだよ!?
全く心当たりがねぇぞ!?
「ほら~、後輩に囲まれてうれし~だろ?」
「ほら、先輩! 仲良くしましょ」
「ちょ、おま・・・」
顔近づけてくんな!!
待て待て待て!!
ああー!?
そんなピンチの折。
誰も来ないはずの部室の扉ががらがらと開かれた。
「こんにちは~」
「!? 飯塚先輩!?」
「あれ、お取り込み中? 京極君、やっぱり春が来たんだね!」
「違うから!!」
まさかの飯塚先輩の登場だった。
小鳥遊さんも工藤さんも、さすがにイレギュラーに驚いて俺を解放してくれた。
あ、危なかった・・・。
「ふう。・・・で、先輩。どうしてここに?」
「え? だって、京極君の卒業をお祝いするためだよ。卒業、おめでとう!」
「ああ・・・ありがとう。マジで・・・そのためだけにわざわざ来てくれたのか」
「うん。だってあれだけ一緒に頑張ったんだから。お見送りもしたいよ」
良い先輩だ・・・。じんとしてしまった。
だが・・・。
「大せんぱ~い。あたしらの邪魔しないでよ~」
「そ、そうです。私達、先輩に想いを伝えてるところなのに」
「あれ、京極君。やっぱり春だよ?」
「だから違うっての!!」
このふたりも諦めない。
結局、俺はたまに顔を出すという約束を取り付けられてどうにかふたりを宥めた。
でもさぁ・・・顔を出したら今日を再現されるんじゃね?
どうしたもんかなぁ。
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